ホルモン屋徒然草~珍しホルブロだ

新米ホルモン屋の親爺の日々。ホルモンのこと、店の出来事、周辺の自然や話題。

キムチの特殊事情

2007-05-03 08:45:56 | 第1紀 をかしら屋
写真はキムチを仕込んでいるところ。
小さい店の小さい厨房であれもこれも全て手作りするのは無理なこと。
キムチも最初は地元のわりとまじめな漬物屋から卸していただいていた。
焼肉屋でキムチは必需品であり、店の顔の一つとなる。
東京の韓国食材商社から仕入れていた時期もある。
もちろん最初から自家製にしたかったのだが、やがて自家製にせざるを得なくなった。

盛岡は在日の方々が焼肉屋をはじめ、盛岡冷麺を中心にした特殊な焼肉文化を築きあげた。
ここで他の地方とは全く違った焼肉屋の利用形態が生まれた。

盛岡人は焼肉屋に入っても肉を焼かないことが多い。
焼肉屋で焼肉をしない。
冷麺を食いに焼肉屋へ行くのである。
昼飯も、飲んだ後の最後の一杯にも。
盛岡人には当然でも、他県の方には奇異に見えるに違いない。

そこで、キムチ、カクテキを食すのは、単品より圧倒的に冷麺の辛みとしての使われ方が多いのである。
そして、盛岡人として無事に「冷麺党」になると、冷麺は「別辛」。「特辛」「激辛」でもいいのだが、「別辛」にして小鉢のカクテキをぶっかける。
さらに、「辛み足りないよ」といって追加のカクテキ、又はその辛い汁を頼むのが通であるかのようだ。真っ赤に燃えた冷麺の椀が、「俺は冷麺一級だ」と冷麺党員の誇りを示すようである。

従って、当店でも仕入のキムチ・カクテキでは原価もあわないし、この「冷麺党」のリクエストに応えるべき「辛み汁」が絶対的に不足していたのだ。
これでは盛岡では「焼肉屋」を名乗れない。

探しました。「辛み汁の多いカクテキ」、「冷麺用の中身の無い汁だけのキムチ」。
これがありそうで無いんですよね。
あるいは、それなりのものがあっても味があわなかったり、仕入条件があわなかったり。

という事で、間もなく自家製と相成りました。
キムチもカクテキも。

作るのはうちの女性陣。ご苦労さまです。仕込みの漬け汁の唐がらしをあわせる時のあの強烈な匂い。カプサイシンが宙を舞い目にきます。ニンニクの匂いが手につきとれません。なかなかの重労働です。

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最初の会社でチルド食品の開発担当をしていたころ。常温のチューブ製品ではできない、日本一の市販ワサビをチルド(冷蔵温度帯)流通の特性を生かして作ろうと、その頃は瓶詰めだった工場のワサビ製造ラインを見に行きました。
これが、大変。ワサビの茎と根を分け、粉砕して作るのですが、ここを担当する方は防塵服に大きなゴーグルをかけます。ワサビが粉砕される時に微粉が舞うわけですがこの刺激が過激です。まともに吸うと倒れるといいますし、目は涙目、鼻はぐすぐすとなるわけです。
ワサビの辛み成分は「アリルイソチオシアネート」というらしいですが、カプサイシンとはまたちがう鋭い爽やかな辛みですね。
この「日本一の市販ワサビ」の開発。そのうち詳しく書くこともあると思いますが、このすかすか繊維をチューブに充填するという技術(充填は空気で送りますからすかすかの繊維質のものを送るのは困難。ねりわさびがやけに油っぽいのはこの繊維の隙間を油で埋めているからですね。もちろん辛み成分や香りを油に抽出することもありますが)を確保するために相当な苦労をかけて開発を終えたのですが、残念ながら市販までこぎ着けませんでした。商品性やマーケティング調査、技術、コスト面ではなく、全く会社の都合・考えたか・思惑のなす技で。
残念で、悲しくて、悔しかったですね。

話はキムチからワサビに飛びましたが、今日はこれまで。

PS:このワサビの試作。当然のように何度も何度も研究所に依頼して試作を評価しながらすすめるのですが。いくらプロでもワサビだけで味を確認することはできません。醤油へのとけかた、食材とのマッチングなど、実際の食シーンにあわせた試食が必要です。
しかし・・・。最初は鯛とはいわないでもマグロやイカ、ハマチなどで試食していたんですが、弱小部門でしたので研究所の経費も詰まり、何回目からは蒲鉾やキュウリに試材が変わってきました。
そして、最後の役員試食には精一杯無理をして立派な刺し盛りを用意したんですがね。満足顔は刺身に向けたものだったのかな。
「いや~。いい商品を試作したね~、きみ。ご苦労さん。この技術だけは買うよ。」

PS2:こうして間もなくチルド部門は閉鎖。既定路線だったようです。
聞くところによると、最近、再度立ち上げたようです。
冷蔵温度帯流通は製造工程や商品の品質自体も常温ではできない優れた特性を持ちます。これからの流通の変化を予測しないこの時の決断は、会社やブランドの可能性を阻害したものでした。
常温で食品を流通させるということは、乾かしたり、燻したり、塩濃度をあげたり、酸や甘味を加えたりという古典的な手法のほかに、加圧したり加熱したり保存料を加えたりと、食品の持つ特徴や味、物性、テクスチャーなどを殺しがちです。
食品会社としてはその製品をいい状態で生活者に引き渡す事が大事ですから、いろいろな可能性を排除せず、絶え間ない研究が必要ですね。
ちょっとグチでした。