ほのぼのとしています/見上げる山と空がほのぼのの競争をしています/と思ったらこちらでは谷川の岩が流れる水とほのぼのの競争をしています/と思ったらこんどは蝉トンボと揚羽蝶がならんでやっぱりほのぼのの競争をしています/今日はおかしな日です/競争なんかする必要はないはずなのに/なあんだ/そうだったのか/分かりましたよ/木菟(みみずく)が一言高らかに宣言したからでした、これは/なんと宣言したんですか/こう宣言したんです/「四郎五郎峠の母さん狐が死にそうです」/「これを治す薬はたった一つ」/「たくさんの意思たちの精一杯のほのぼのを見せて上げることです」/そこでそれを聞いた山がまず反応をしたわけです/するとそれを見た空が続いて反応したというわけです/そうやってほのぼのの波紋が広がっていきました/谷川の岩戸そこを流れる水も黙っていられなかったのです/蝉トンボも揚羽蝶も仲間に加わりました/四郎五郎峠の母さん狐は/木菟の言う通りになりました/ほのぼのという薬を腹一杯飲むことになったのです/で、どうなったのですか/母さん狐は死なないですんだのですか/いいえ/母さん狐は死にました/たしかに死にましたが/みんなの造り上げたほのぼの世界で生き返ったのです/死ぬということは同時にまた生きることだ/ということが母さん狐に納得されたので/山も空も谷川の岩も水も/蝉トンボも揚羽蝶も/ほのぼのとすることがどんなに偉大であるかが分かったのです/
これは谺から聞いたお話ですが/それを宣言した木菟の功績が大きい/とわたしなんかは思います/