霜が降りている。畑を踏むとザックザック霜柱が鳴る。隣家の屋根が凍り付いている。手指が悴(かじか)む。12月30日の朝。やっと光が射し初めてきた。朝ご飯はピザ。パン焼き器で焼いてから頂いた。味噌汁。入っていた大根がとろりとした。京都から昨夜遅く帰省した娘の土産の、茄子漬けに箸が向かった。予定していた餅搗きは明日へ延期になった。今日こそベランダの片付け、外の掃き掃除をするつもりだ。
霜が降りている。畑を踏むとザックザック霜柱が鳴る。隣家の屋根が凍り付いている。手指が悴(かじか)む。12月30日の朝。やっと光が射し初めてきた。朝ご飯はピザ。パン焼き器で焼いてから頂いた。味噌汁。入っていた大根がとろりとした。京都から昨夜遅く帰省した娘の土産の、茄子漬けに箸が向かった。予定していた餅搗きは明日へ延期になった。今日こそベランダの片付け、外の掃き掃除をするつもりだ。
冷えてきたぞ。真夜中の3時半。12月30日になっている。柱時計の針の進む音。カチカチカチカチ。夜中の針が時を刻んでいる。おいらはそれを聞いている。己の残り時間が刻まれているとも知らず。冷えてきたぞ。鼻水が垂れてきたぞ。布団を引っ被って、膝小僧を抱いて、さ、もう一度、生まれたての赤ん坊になって、熟睡の海の底を眠ろう。老爺71歳。まだ他愛ない、すととんとんの軽いおいらでいる。
狡いよなあ。悪賢いなあ。あくどいなあ。夕食に海鼠を喰ったその同じ口で今度は念仏かあ。ナーモアーミダーンブかあ。お助けくださいお助けくださいかあ。己ひとりを助けてもらうためのお念仏の中にほんとうに仏様はおいでになるのかなあ。居辛いだろうなあ。
夕食に海鼠をうまいうまいと言って喰った人間は、その後熱い湯に浸かり、湯舟の中で念仏を唱えだした。ぶつぶつぶつぶつ。ナーモアーミダーンブ。ナーモアーミダーンブ。ナーモアーミダーンブ。ありがたやありがたや。今日を無事に生きられたとも言った。しみじみしみじみ言った。今日を生きられなかった海鼠がこの人間のはらわたの中で、念仏というものを聞かされた。湯舟であたたまって顔を真っ赤にした。それから湯冷めしないうちにと言いながら布団に潜り込んだ。
夕食に海鼠を食べた。
なまこは海のネズミ。海の底に這いつくばっていたのを人間に見つかって、人間の住む家の食卓にまで連れてこられたって訳である。遠い旅をしてきて、そこで、切り刻まれた。摺りおろした大根と酸っぱい酢と塩辛い醤油にまぶされ、人間の真っ赤な口の中に抛りこまれた。歯でごりごり噛み砕かれて、それから喉元から深い滝壷まで呑み込まれた。そういうことになる。この最後の人間は酒好きで、酒をちびりちびり飲んでは海鼠を箸に掴む。そしてその度に、うまい、こいつはうまいと感嘆の声を挙げた。