知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈(大合議)

2012-02-12 21:02:42 | 特許法70条
事件番号 平成22(ネ)10043 判決要旨はここ
事件名 特許権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日 平成24年01月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 飯村敏明、塩月秀平、滝澤孝臣、東海林保

(2) 特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の確定について
ア 特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の確定について,法70条は,その第1項で「特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない」とし,その第2項で「前項の場合においては,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする」などと定めている。したがって,特許権侵害を理由とする差止請求又は損害賠償請求が提起された場合にその基礎となる特許発明の技術的範囲を確定するに当たっては,「特許請求の範囲」記載の文言を基準とすべきである。

 特許請求の範囲に記載される文言は,特許発明の技術的範囲を具体的に画しているものと解すべきであり,仮に,これを否定し,特許請求の範囲として記載されている特定の「文言」が発明の技術的範囲を限定する意味を有しないなどと解釈することになると,特許公報に記載された「特許請求の範囲」の記載に従って行動した第三者の信頼を損ねかねないこととなり,法的安定性を害する結果となる。

 そうすると,本件のように「物の発明」に係る特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている場合,当該発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって,特許請求の範囲に記載された当該製造方法を超えて,他の製造方法を含むものとして解釈・確定されることは許されないのが原則である。

 もっとも,本件のような「物の発明」の場合,特許請求の範囲は,物の構造又は特性により記載され特定されることが望ましいが,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときには,発明を奨励し産業の発達に寄与することを目的とした法1条等の趣旨に照らして,その物の製造方法によって物を特定することも許され,法36条6項2号にも反しないと解される。そして,そのような事情が存在する場合には,その技術的範囲は,特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても,製造方法は物を特定する目的で記載されたものとして,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと解釈され,確定されることとなる。

イ ところで,物の発明において,特許請求の範囲に製造方法が記載されている場合,このような形式のクレームは,広く「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」と称されることもある。前記アで述べた観点に照らすならば,上記プロダクト・バイ・プロセス・クレームには,「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するため,製造方法によりこれを行っているとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)と,「物の製造方法が付加して記載されている場合において,当該発明の対象となる物を,その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するとはいえないとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)の2種類があることになるから,これを区別して検討を加えることとする。そして,前記アによれば,真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,同方法により製造される物と同一の物」と解釈されるのに対し,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物」に限定されると解釈されることになる。

 また,特許権侵害訴訟における立証責任の分配という観点からいうと,物の発明に係る特許請求の範囲に,製造方法が記載されている場合,その記載は文言どおりに解釈するのが原則であるから,真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当すると主張する者において「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難である」ことについての立証を負担すべきであり,もしその立証を尽くすことができないときは,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームであるものとして,発明の技術的範囲を特許請求の範囲の文言に記載されたとおりに解釈・確定するのが相当である。
・・・

2 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものかについて
 法104条の3は,「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において,当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,特許権者又は専用実施権者は,相手方に対しその権利を行使することができない。」と規定するが,法104条の3に係る抗弁の成否を判断する前提となる発明の要旨は,上記特許無効審判請求手続において特許庁(審判体)が把握すべき請求項の具体的内容と同様に認定されるべきである。
・・・
 上記の観点から本件を検討するに,本件特許には,上記○1にいう不可能又は困難であるとの事情の存在が認められないことは前述のとおりであるから,特許無効審判請求における発明の要旨の認定に際しても,特許請求の範囲に記載されたとおりの製造方法により製造された物として,その手続を進めるべきものと解され,法104条の3に係る抗弁においても同様に解すべきである。

<筆者注>
並行する審決取消訴訟はここ。プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈について同趣旨を判示。
特許法180条の2の規定に基づき求められた特許庁長官の意見において特許庁の審査基準が解説(得られる結論はさておき、解釈は本判決と異なる。)されている。(判決第40頁~第61頁)
(変更履歴付き(第64頁に痕跡あり。)のファイルがPDFに変換されているためか、判決の字が小さくやや読みにくい。)

大合議判示と特許庁基準の比較はここ

標章にまつわる事情に商標権行使の目的を併せ考慮して商標権の行使を権利の濫用とした事例

2012-02-12 19:33:56 | 商標法
事件番号 平成22(ワ)32483
事件名 商標権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年01月26日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

3 争点4(原告の本件商標権の行使が権利の濫用に当たり許されないか)について
 被告標章4及び5について,被告に法32条1項の先使用権が認められないことは,上記2説示のとおりである。
 しかしながら,
(1) 社会通念上同一の標章と認められる「KAMUI」の標章をゴルフクラブ及びその関連用品であるキャディバッグへ使用することについては,上記2のとおり,被告に法32条1項の先使用権が認められ,また,上記2(1)の認定事実によれば,
(2) 原告と被告は,カムイクラフトの共同事業を解消した後は,原告は「KAMUITOUR」(カムイツアー),「ASIRI」(アシリ),被告は「KAMUIPRO」(カムイプロ),「TYPHOONPRO」(タイフーンプロ),「KAMUI」(カムイ)の名称でそれぞれゴルフクラブを販売し,日本国内では互いの名称について異議を述べたことは認められないこと,
(3) 被告が卑弥呼からCAMUI商標について使用許諾を得て,平成12年ころから被告のゴルフクラブに「KAMUI」の標章を使用し始め,被告のゴルフクラブに被告標章1,3等の「KAMUI」単独の標章を付すようになったこと,
(4) 原告は,被告が「KAMUI」単独の標章を使用していることをその使用開始から程なくして認識していたものの,本件商標が登録されるまで,その使用について特段異議を述べることはなかったこと,
(5) 原告は,本件商標が登録されるまで,日本国内で製造・販売するゴルフクラブに「KAMUI」単独の標章を使用することはなかったこと,
(6) 雑誌等においても,原告のゴルフクラブを「カムイ」のゴルフクラブとして扱うものは平成9年から平成11年までのものがほとんどで,「KAMUI」や「カムイ」の単独の表記が原告の標章として浸透していなかったこと
が認められる。
 そして,・・・総合すれば,原告が被告による「KAMUI」単独の標章の使用の事実を知りながら,あえて卑弥呼のCAMUI商標の取消審判を得た上で,本件商標を登録し,被告に対し本件商標権を行使したのは,韓国で被告が原告の「KAMUITOUR」の商標を付したゴルフクラブの取扱いの中止を各販売店に要請したことに報復する目的があったためであることが認められる。

 上記(1)ないし(6)の事情に原告の本件商標権の行使の目的を併せて考慮すれば,原告が被告に対し,本件商標(KAMUI)と類似すると認められる被告標章4(「KAMUI TyphoonPro」の標章)及び5(「KAMUI」と「PRO」から成る二段表記の標章)をゴルフクラブに使用する行為について,本件商標権を行使することは,正当な権利行使とは認められず,権利の濫用として認められないというべきである。

判決中の特許請求の範囲の用語の明細書を参酌した解釈と文言解釈との対比

2012-02-12 11:23:49 | 特許法70条
事件番号 平成23(ネ)10013
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年01月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

・【請求項1】
カードリーダで読取られた座席指定券の券情報或いは券売機等で発券された座席指定券の発券情報等を管理する管理センターに備えられるホストコンピュータと,該ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管理地に備えられる端末機とから成る,指定座席を管理する座席管理システムであって,
 前記ホストコンピュータが,前記券情報と前記発券情報とを入力する入力手段と,該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報を作成する作成手段と,・・・前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,
 前記端末機が,・・・前記座席表示情報を表示する表示手段と,
を備えて成ることを特徴とする座席管理システム。
 ・・・
イ 発明の詳細な説明
 ・・・
(2) 上記記載によれば,本件各特許発明は,「券情報」と「発券情報」という2種類の情報を地上の管理センターから受ける場合,伝送される情報が2種になるために通信回線の負担が1種の場合に比べて2倍になってしまうとともに端末機の記憶容量と処理速度も2倍になってしまうという従来技術の問題点を課題として,これを解決すべく,管理センターに備えられるホストコンピュータにおいて,「券情報」及び「発券情報」に基づき,かつ,「座席管理地の座席レイアウト」に基づいて,1つの表示情報である「座席表示情報」を作成し,これをホストコンピュータから座席管理地に備えられる端末機に伝送し,当該端末機が,これを入力して,その表示手段(ディスプレイ等)において表示するという構成を採用することによって,前記ホストコンピュータから前記端末機へ伝送する情報量が半減され,通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度等を軽減するとともに,端末機のコストダウンが図られ,本発明のシステムの構築を容易にするという効果を達成した発明であると認めることができる。
 したがって,本件各特許発明の「座席表示情報」とは,ホストコンピューターにおいて,「券情報」,「発券情報」及び「指定座席のレイアウト」といった個々の情報を1つの情報に統合することによって,これを端末機に送信すれば,端末機において他の情報と照合する等の格別の処理を要することなく座席の利用状況を表示し,目視することができる情報と認めるのが相当である。
・・・

 控訴人は,原判決が「他方で,本件明細書には,端末機において,座席表示情報とそれ以外の他の情報とを処理することにより,座席のレイアウトに基づいて座席の利用状況を表示して,各指定座席の利用状況を目視することができるものとすることに関する記載はない」と説示されていることを理由として,このような認定は,本件明細書の記載のみに基づき行われているものであって,本件各特許発明の特許請求の範囲の記載に基づかない実施例限定解釈であって不当である旨主張する。

 しかし,本件各特許発明の1-B及び1-C並びに2-B①及び2-Cには,それぞれ「該ホストコンピューターが・・・」「・・・前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報を作成する・・・」と記載されているのであって,その文言解釈上,「座席表示情報」は,端末機に送信される以前に,ホストコンピューターにおいて「券情報」,「発券情報」及び「指定座席のレイアウト」に基づいて表示される1つの情報として統合処理される情報であると解釈するのが相当であるから,本件各特許発明が「端末機において,座席表示情報とそれ以外の他の情報とを処理することにより,座席のレイアウトに基づいて座席の利用状況を表示」するものでないことは,特許請求の範囲の文言上明らかである。

商標法53条の2所定の「当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」

2012-02-12 10:50:54 | 商標法
事件番号 平成23(行ケ)10194
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 被告は,世界貿易機関の加盟国である台湾において,別紙のとおりの構成からなる被告商標を有する。
 本件商標の指定商品は,被告商標の指定商品に含まれるから,被告商標の指定商品と同一又は類似の商品と認められ,本件商標と被告商標は,本件商標を付した商品と被告商標を付した商品との間で,商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあり,両商標は類似する商標である。
 原告ないし原告代表者が,本件商標の登録出願の日前1年以内に,被告ないし被告との間で日本における輸入代理店契約を締結している者から,日本における独占販売権を付与されていたわけでいないものの,原告及び原告代表者と被告との間には,継続的な取引により慣行が形成され,原告及び原告代表者は,日本国内における被告の商品の販売体系に組み込まれるような関係にあった者とみることができるから,商標法53条の2所定の「当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に該当する
 本件商標の登録出願は,被告の承諾を得ないで本件商標の登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者と同等の地位にあった商標権者によってされた。
・・・

 原告は,本件商標出願をした「正当理由」に係る事情として,「本件商標の価値を高めるため,宣伝活動を行い,多額の宣伝広告費用を投じて,これにより,日本国内における本件商標の価値が高まったこと」のみを挙げている。証拠(・・・)及び弁論の全趣旨によれば,・・・,原告がその費用として負担した金額,規模及び上記宣伝広告活動によって,本件商標が,上記ゴルフボールを表示するものとして,商標の価値を高めた事実は認定できない。
 そうすると,原告は,日本における輸入代理店契約を締結している者から,日本における独占販売権を付与されていたわけではなく,原告及び原告代表者が,被告との間で,継続的な取引を続けていたとの事実があるにすぎないこと等の諸事実を総合すると,本件商標登録は,「正当な理由がないのに,その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないで」されたものであると認定するのが相当である。

無関係な事項が記載された審決

2012-02-12 10:27:29 | Weblog
事件番号 平成23(行ケ)10143
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

カ なお,この点について,原告は,本件審決において,本件とは無関係な事項が記載されていることをもって,本件審決の引用発明の認定が誤りである旨主張するところ,確かに,当該記載は,原告が指摘するとおり,本件とは無関係な事項に係る記載であるものというほかなく,このような事項が3行にもわたって記載されたまま本件審決がされたことは,理解し難いところである。被告も,本件とは無関係な記載が錯誤によって紛れ込んだ誤記であるなどと主張して,これを自認している。

 しかしながら,それが誤記であったとしても,当事者にとっては,審判合議体の審理判断に疑義をはさませるのに十分であって,そのような誤記が抹消されないまま,審判合議体の最終判断として本件審決が告知されていることに,審理判断の杜撰さを指摘されても止むを得ないのであって,本件とは無関係な記載が錯誤により紛れ込んでしまったなどという主張が許されるものではない

 もっとも,本件においては,当該記載が本件審決の引用発明の認定それ自体に用いられなかったことは,本件審決の判断内容からしても明らかである。本件訴訟において,本件審決を取り消した上で,改めて引用例に記載された発明の認定から審判をやり直すまでの必要はなく,原告の主張は,これを採用するには至らないというべきである。

商号の表示が商標の使用とされた事例

2012-02-08 22:18:39 | 商標法
事件番号 平成23(行ケ)10281
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 甲4裏面下部には,「事例紹介」と題して「三菱地所リアルエステートサービス様の事例」として,同社のインターネットによる広告用ホームページの設計,作成,運用及びその結果分析を実施している旨を示す図解が記載されている。

 ・・甲6は,・・・三菱地所リアルエステートサービス株式会社宛てに作成された,・・・書面であり,その1丁に標準文字で「株式会社NTTデータ」との記載があるものである・・・。
 そして,甲6に付記された校正案を反映した同社のホームページ画面が存在すること(甲7)及び当該画面のうち甲6の2丁及び3丁に対応する部分が前記の甲4裏面の図解にも掲載されているから,甲4は,補助参加人による本件役務に関する広告であるといえる。

(4) さらに,甲4の体裁,その裏面に「掲載内容は2008年8月現在のものです。」との記載があること及び平成20年7月3日に制作が発注されて(甲8)同年8月22日にその業務の完了が確認されている(甲9)ことから,補助参加人は,そのころ,本件役務に関する広告(甲4)に本件商標と社会通念上同一と認められる「NTTデータ」との記載を付して日本国内において頒布したものと認められる(甲10)。

(6) 以上に対して,原告は,補助参加人による「NTTデータ」との標章の前記使用が本件商標を本件役務について使用したものではなく,役務提供の主体である補助参加人の商号の使用であるにすぎない旨を主張する。

 しかしながら,甲4は,いずれも本件役務の提供に関して,その主体である補助参加人の商号を一部英文字で表示しているものであるが,当該表示が本件商標と社会通念上同一のものである以上,いずれも本件役務の提供に当たり本件商標を使用したものとみることができるというべきである
 したがって,原告の上記主張は,採用できない。

著作権の存続期間が満了したと誤信していたことに過失を認めた事例

2012-02-08 21:48:34 | 著作権法
事件番号 平成22(受)1884 判決本文はここ
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年01月17日
裁判所名 最高裁判所第三小法廷  
裁判長裁判官 那須弘平
裁判官 田原睦夫,岡部喜代子,大谷剛彦,寺田逸郎



(7) 被上告人は,旧法の下において興行された映画の著作物(以下「旧法下の映画」という。)の著作権の存続期間については,次のアないしウの考え方に基づき,本件各映画の著作権の存続期間は,公開から50年が経過した平成12年又は平成14年に満了したと誤信していたから,本件行為について過失があったとはいえない旨主張する。
 ア 旧法下の映画については,著作権の存続期間について一律に旧法6条が適用される。
 イ 本件各映画は,団体名義で興行された映画であるから,著作権の存続期間については,旧法6条の適用のある団体名義の著作物に当たる。
 ウ 本件各映画は,いわゆる職務著作(以下,単に「職務著作」という。)として,実際に創作活動をした本件各監督ではなく,映画製作者である上告人又は新東宝が原始的に著作権を取得し,著作権の存続期間については,旧法6条が適用される。

3 原審は,要旨,次のとおり判断して,上告人の損害賠償請求を棄却した。
 旧法下の映画については,映画を製作した団体が著作者になり得るのか,どのような要件があれば団体も著作者になり得るのかをめぐって,学説は分かれ,指導的な裁判例もなく,本件各監督が著作者の一人であったといえるか否かも考え方が分かれ得るところである。このような場合に,結果的に著作者の判定を誤り,著作権の存続期間が満了したと誤信したとしても,被上告人に過失があったとして損害賠償責任を問うべきではない

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 旧法下の映画の著作者については,その全体的形成に創作的に寄与した者が誰であるかを基準として判断すべきであるところ最高裁平成20年(受)第889号同21年10月8日第一小法廷判決裁判集民事232号25頁),一般に,監督を担当する者は,映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与し得る者であり,本件各監督について,本件各映画の全体的形成に創作的に寄与したことを疑わせる事情はなく,かえって,本件各映画の冒頭部分やポスターにおいて,監督として個別に表示されたり,その氏名を付して監督作品と表示されたりしていることからすれば,本件各映画に相当程度創作的に寄与したと認識され得る状況にあったということができる。

 他方,被上告人が,旧法下の映画の著作権の存続期間に関し,上記の2(7)アないしウの考え方を採ったことに相当な理由があるとは認められないことは次のとおりである

 すなわち,独創性を有する旧法下の映画の著作権の存続期間については,旧法3条~6条,9条の規定が適用される(旧法22条ノ3)ところ,旧法3条は,著作者が自然人であることを前提として,当該著作者の死亡の時点を基準にその著作物の著作権の存続期間を定めるとしているのである。旧法3条が著作者の死亡の時点を基準に著作物の著作権の存続期間を定めることを想定している以上,映画の著作物について,一律に旧法6条が適用されるとして,興行の時点を基準にその著作物の著作権の存続期間が定まるとの解釈を採ることは困難であり,上記のような解釈を示す公的見解,有力な学説,裁判例があったこともうかがわれない。
 また,団体名義で興行された映画は,自然人が著作者である旨が実名をもって表示されているか否かを問うことなく,全て団体の著作名義をもって公表された著作物として,旧法6条が適用されるとする見解についても同様である。最高裁平成19年(受)第1105号同年12月18日第三小法廷判決民集61巻9号3460頁は,自然人が著作者である旨がその実名をもって表示されたことを前提とするものではなく,上記判断を左右するものではない。
 そして,旧法下の映画について,職務著作となる場合があり得るとしても,これが,原則として職務著作となることや,映画製作者の名義で興行したものは当然に職務著作となることを定めた規定はなく,その旨を示す公的見解等があったこともうかがわれない。加えて,被上告人は,本件各映画が職務著作であることを基礎付ける具体的事実を主張しておらず,本件各映画が職務著作であると判断する相当な根拠に基づいて本件行為に及んだものでないことが明らかである。

 そうすると,被上告人は,本件行為の時点において,本件各映画の著作権の存続期間について,少なくとも本件各監督が著作者の一人であるとして旧法3条が適用されることを認識し得たというべきであり,そうであれば,本件各監督の死亡した時期などの必要な調査を行うことによって,本件各映画の著作権が存続していたことも認識し得たというべきである。
 以上の事情からすれば,被上告人が本件各映画の著作権の存続期間が満了したと誤信していたとしても,本件行為について被上告人に少なくとも過失があったというほかはない。

原審:平成21(ネ)10050

新規事項の追加を指摘した最後の拒絶理由、法17条の2第4項4号の規定の趣旨

2012-02-05 22:55:50 | 特許法17条の2
事件番号 平成23(行ケ)10133
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

 しかし,法17条の2第4項2号の文言によれば,最後の拒絶理由通知に対する手続補正により特許請求の範囲が補正された場合に,上記手続補正が法17条の2第4項2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するか否かは,上記手続補正による補正前の請求項に係る発明と上記手続補正による補正後の請求項の記載とを対比して判断されることは明らかであるし,最後の拒絶理由通知に対する手続補正の直前にされた手続補正(以下「直前の手続補正」という。)が法17条の2第3項の規定に違反し,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内にない事項が記載されている場合に,この直前の手続補正により補正された請求項に係る発明を,最後の拒絶理由通知に対する手続補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするか否かの判断の基礎にしてはならないとの規定は存在しない
 ・・・
 ・・・そして,法49条1号の規定により,最初の拒絶理由通知に対してされた特許請求の範囲の補正が法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないときは,出願の拒絶理由となる。 そうすると,甲6補正のように,最初の拒絶理由通知に対してされた特許請求の範囲の補正が法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないときは,法159条1項で準用する法53条1項に規定する「決定をもつてその補正を却下しなければならない」場合には該当せず,法159条2項で準用する法50条に規定する「拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない」場合に該当することになる。
 以上によれば,甲6補正は却下されないから,甲6補正により補正された請求項1に係る発明を補正前の請求項1に係る発明とし,これを基礎(基準)として,本件補正による補正後の請求項1に係る発明を対比して本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするか否かを判断した審決の判断手法に誤りはなく,原告の上記主張は採用することができない。

ウ 原告は,本件補正は法17条の2第4項4号に規定する「明りようでない記載の釈明」とは異なるが,最後の拒絶理由で指摘された「拒絶理由で示す事項についてする」補正でもあるので,これを認めることとしなければ出願人は拒絶理由に対応することが困難であり,かつ,これを認めないとすると発明の保護の観点からも適切でないから,例え「最後の拒絶理由に基づく補正」であっても,上記「明りようでない記載の釈明」と同様に,その補正が認められるべきである旨主張する。

 しかし,法17条の2第4項4号の規定は,最後の拒絶理由通知に対する手続補正で,明りょうでない記載の釈明を目的とする補正を認めることとしたものであるが,これを無制限に認めると迅速な審査の妨げとなることから,「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項」についてするものに制限しており,この規定における「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項」とは,軽微な補正により是正できる程度の明細書又は特許請求の範囲の記載不備と解される
 これに対し,本件の場合,平成22年11月25日付けの最後の拒絶理由通知(甲8)に係る拒絶の理由に示す事項は,甲6補正が法17条の2第3項の規定する新規事項の追加の禁止に違反するというものであるから,本件補正が明りょうでない記載の釈明を目的としたものに該当するものと認められないことは当然であり,法17条の2第3項の規定に違反するという重大な瑕疵に当たる場合に,法17条の2第4項4号の規定と同様に運用しなければならない必要性も認められない

「特許請求の範囲の限定的減縮」を目的としないとされた事例

2012-02-05 22:39:07 | 特許法17条の2
事件番号 平成23(行ケ)10133
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

 そこで,甲6補正発明と本願補正発明とを対比すると,甲6補正発明では,通信機能の停止を維持しながら「時計機能」,「電話帳機能」,「マイクによる音声を電気信号に変換する機能」及び「スピーカによる電気信号を音声に変換する機能」を含む複数の機能それぞれを選択可能としているのに対し,本願補正発明では,通信機能の停止を維持しながら,上記「複数の機能」のうち「時計機能」及び「電話帳機能」のみをそれぞれ選択可能としたものであるから,本件補正により,通信機能の停止を維持しながら選択可能な機能の一部が削除されていると認められる。そして,その結果,本願補正発明では,「時計機能」及び「電話帳機能」以外の機能について,どの機能を通信機能の停止を維持しながら選択可能とするかは任意の事項とされることに補正されたといえる。
 そうすると,本件補正により,直列的に記載された発明特定事項の一部が削除され,特許請求の範囲の請求項1の記載が拡張されていることは明らかであるから,本件補正は特許請求の範囲を減縮するものとはいえず,「特許請求の範囲の限定的減縮」を目的とするものに該当するとは認められない
 また,本件補正は,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とするものにも該当しないことは明らかである。

 以上によれば,本件補正について,「平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。」とした審決の判断に誤りはない。

「物」の発明における方法の特定

2012-02-05 22:22:34 | 特許法29条1項3号
事件番号 平成23(行ケ)10053
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

第4 取消事由に関する被告の反論
1 取消事由1に対し
 「物」の発明であるポリマーの発明において,重合方法の相違によって生産されるポリマーが相違するのであれば,かかる重合方法の相違を相違点として認定すべきであるが,そうでない限り重合方法の相違を相違点として認定する必要はない
・・・

第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の認定の誤り)について
 原告は,本願発明のフルオロエラストマーは刊行物1発明におけるような従来の懸濁重合法とは異なる特定の方法で初めて得られるものであって,重合方法の相違も本願発明と刊行物1発明の相違点となるべきである等と主張する。

 確かに,本願発明の特許請求の範囲には,水性エマルション(エマルジョン)中で重合する旨が記載されているが,フッ素樹脂に関する一般的な文献である・・・中に・・・との記載があることに照らせば,VDF系フッ素樹脂をラジカル重合の方法で製造する場合においては,・・・乳化重合法(・・・。)も・・・懸濁重合法(・・・。)も,ともに当業者が採用する周知の方法であるということができる。また,乳化重合法も懸濁重合法も,重合開始剤の分解に基づいて目的となるラジカル重合反応を生じさせる点には変わりがなく,ポリマーの生成過程も同一の過程が想定され,乳化重合方法と懸濁重合法のいずれを採用するかによって異なる化学構造のポリマーが生成することは想定されていない(・・・)。一般的には,両重合方法は得ようとするポリマーの分子量,反応のさせやすさ,反応時の安全性や生成するポリマーの純度等を勘案して適宜選択されるものにすぎないものである。

 そして,後記2のとおり,VDF(CH2CF2)をその化学構造のうちに含む刊行物1発明のフルオロエラストマーと本願発明のフルオロエラストマーとでその化学構造に違いがあるとはいえないから,両者の重合方法の相違が本願発明と刊行物1発明の相違点になるものではない。したがって,本願発明と刊行物1発明の相違点の認定に誤りはない。

周知技術の適用の際に他の周知技術の知見を得つつ適用した事例

2012-02-05 21:47:30 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10144
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

(1) ・・・,エレベータ,クレーン等の巻上機に用いる巻上用のワイヤロープを,0.3mm程度の太さの鋼ワイヤで構成することは,周知技術(周知技術4)であると認められる。
 ・・・すなわち,エレベータ,クレーン等の巻上機に用いる巻上用のワイヤロープを0.3mm程度の太さの鋼ワイヤで構成することは周知技術4であると認められ,鋼ワイヤの太さの平均が「0.1mm以上かつ0.2mm以下」であるワイヤロープを構成することは,ありふれた周知技術5であると認められる。

 そうすると,一般に,周知技術を採用することは,当業者であれば必要に応じて適宜なし得るものであるから,引用文献記載の発明に周知技術4を適用することは単なる設計上の事項にすぎないものである。そして,その際,前記のとおり,エレベータの巻上ロープの太さを低減しようとすることが周知の技術的課題1と認められることからすれば,さらに太さを低減するために,その構成要素である素線やストランドの構成と合わせて素線の太さを細くすることも選択肢となることはその機序に照らして容易に認められるから,素線について,より細い径を選択することも設計上可能であるというべきである。
 すなわち,鋼ワイヤの太さの平均が「0.1mm以上かつ0.2mm以下」であるワイヤロープ自体がエレベータ用であるか否かはともかくとして,これは普通に使用されるワイヤロープの構成材料であるから(周知技術5),引用文献記載の発明に周知技術4を適用する際に,かかる周知技術5の知見を得て,そのワイヤロープの鋼ワイヤの太さの平均を「0.1mm以上かつ0.2mm以下」に設定することは当業者であれば容易に想到し得たものというべきである。

 また,引用文献記載の発明に周知技術4を適用する際に,かかる周知技術5の知見を加えて,そのワイヤロープの鋼ワイヤの太さの平均を「0.1mm以上かつ0.2mm以下」に設定することを妨げる事情は見当たらない。むしろ,本願明細書の段落【0012】には,平均のワイヤ太さが,「0.4mm以下」,「0.3mm,または0.2mm以下」,「0.15~0.25mmの範囲」又は「約0.1mm」というような幅のある任意の値を選択することができることが記載されており,選択し得る値には,周知技術4の鋼ワイヤの太さも含まれることになるのであるから,補正発明が,鋼ワイヤの太さの平均が「0.1mm以上かつ0.2mm以下」であるワイヤロープという構成を採用したことに格別の技術的意義を認めることはできない。

 よって,相違点2は,引用文献記載の発明に周知技術4を適用する際に,周知技術5を考慮して当業者が適宜設定し得る事項でしかなく,また,その効果も,格別の意義を呈するようなものではないというべきである。相違点2は,当業者が容易に想到することができたことと認められ,同旨の判断をした審決に誤りはない。

自明の課題と顕著な効果の不存在から設計事項を認定した事例

2012-02-05 20:36:16 | 特許法29条の2
事件番号 平成23(行ケ)10109
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 そうすると,先願発明においては,本願発明における「巻上機」の重量がどの程度であるのかが具体的に示されていないものの,乙3(乙4)や乙5と同じエレベータの技術分野に属するものであるから,前記の一般的な技術的課題は,自明の課題として内在しており,かかる一般的な技術的課題に基づいて,定格荷重との関係において駆動モータを軽量化するという課題が存在するものと認められる。

 ここで,本願発明における「巻上機は,その重量は最高でもエレベータの定格荷重の重量の1/5である」ことの技術的意義について検討するに,本願明細書(甲4~6,9,12)に,本願発明において,「巻上機は,その重量は最高でもエレベータの定格荷重の重量の1/5である」とする構成を採用することによる格別顕著な作用について根拠となる記載は見当たらず,むしろ,その構成に関する記載としては,「巻上機及び支持装置の重量」は「定格荷重」のそれぞれ約1/5,約1/6,約1/8,約1/10あるいは,「巻上機の重量」は「定格荷重」のそれぞれ約1/7,約1/10というような適宜の重量をとり得ることが示されており,また,「巻上機の重量」が「定格荷重」の1/5であることは直接示されておらず,また,それが1/5を超えることにより作用効果に顕著な差異が生じることも示されていない

 そうすると,本願発明における「巻上機は,その重量は最高でもエレベータの定格荷重の重量の1/5である」とする構成は,その重量が低ければ低いほど好ましいという意味でしかなく,また,当該重量が1/5を超えてはならないというものでもないとみるのが自然であり,そこに格別技術的意義は見出せない
 そして,前記のとおり,先願発明においても,一般的な技術的課題に基づいて,定格荷重との関係において駆動モータを軽量化するという課題が存在するものと認められるのであるから,本願発明のように格別技術的意義の存在しない「巻上機の重量」を「定格荷重」の最高でも1/5とすることを選択することは,単なる設計上の事項でしかないというべきである。

「商品及び役務の区分」と、商品又は役務の類似の範囲

2012-02-05 20:07:37 | 商標法
事件番号 平成23(ネ)10056
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年01月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

(2) 被告各役務は,本件指定役務である「各戸に対する広告物の配布,広告」と同一又は類似の役務であるといえるか(争点1-1)
 ・・・
ア 本件指定役務である「各戸に対する広告物の配布,広告」の意義について
(ア) 「配布」とは,ひろくくばること(・・・),広く行き渡るように配ること(・・・)である。したがって,「各戸に対する広告物の配布」とは,広告物を広く行き渡るように家々に配ることを意味する。
なお,「配達」とは,くばりとどけること(・・・),家々に配り届けること(甲27)である。
(イ) 「広告」とは,商品,役務(サービス),情報等をその提供者を明示して,第三者に告知し,その入手,使用等を勧誘する活動をいう(当事者間に争いがない)。

イ ・・・したがって,被告役務1の配達の対象が広告物であるときは,被告役務1は,利用者が指定した荷受人の住所又は居所に広告物を配達する,すなわち,広告物を配り届ける役務である
 これに対して,本件指定役務の「各戸に対する広告物の配布」とは,広告物を広く行き渡るように家々に配ることを意味するから,配達の対象が広告物であるときの被告役務1とは,「広告物を配る」という点において共通し,両役務は類似する関係にあるといえる。さらに,被告役務1の利用者が,多数の家々に広告物を配る際に被告役務1を利用すると,被告役務1は,広告物を広く家々に配り届ける役務となる。このような場合において,本件指定役務と被告役務1とは,ほぼ同一の内容となる。
 以上検討したところによれば,被告役務1の配達の対象が広告物である場合には,被告役務1と本件指定役務の「各戸に対する広告物の配布」とは,少なくとも類似の関係にある
といえる。
・・・
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,配布と配達は本質的に異なる概念であり,「商品及び役務の区分」でも,配布と配達は,第35類と第39類で異なる役務として扱われている旨主張する。
 しかし,そもそも配布と配達は類語の関係にあり(甲27,28,乙35),また,「商品及び役務の区分」は,商品又は役務の類似の範囲を定めるものではない(法6条3項)から,被告が主張する第35類と第39類の関係が,直ちに本件指定役務である「各戸に対する広告物の配布」と被告各役務が類似するか否かの判断に影響を及ぼすものではない。そして,被告各役務の具体的内容と本件指定役務の「各戸に対する広告物の配布」の意義から両役務の類似性について検討すると,上記ウで説示したとおりとなる。
(イ) また,被告は,被告各役務は,荷物の運送役務であり,本件指定役務である「各戸に対する広告物の配布,広告」とは類似しない旨主張する。
 しかし,上記イ,ウで説示したとおり,被告自身,広告物が被告各役務の対象となることを宣伝しており,被告各役務において配達の対象が広告物である場合には,被告各役務と本件指定役務の「各戸に対する広告物の配布」とは少なくとも類似する関係にあるから,被告の上記主張は失当である

(3) 本件商標と被告各標章は同一又は類似の商標であるか(争点1-2)
ア 本件商標と被告標章1について
 本件商標は,標準文字の「ゆうメール」であり,被告標章1は,「ゆうメール」という標章であって,外観,称呼,観念において同一であるから,両者は,同一の商標である。
イ 本件商標と被告標章2について
 本件商標は,標準文字の「ゆうメール」であり,被告標章2は,「配達地域指定ゆうメール」という標章である。この点,被告標章2の「配達地域指定」の語は,役務の質(荷物が配達される地域が指定されること)を表示する部分であり,出所識別機能を有しないものというべきであるから,被告標章2の要部は,「ゆうメール」であると認められる。そうすると,本件商標と被告標章2の要部は,外観,称呼,観念において同一であるから,本件商標と被告標章2は,類似の商標である。

・・・,取引の実情において需要者に混同が生じることは否定されないというべきである。

特許発明の特許請求の範囲の用語の解釈事例

2012-02-05 17:12:46 | 特許法70条
事件番号 平成23(ネ)10056
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年01月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

第2 事案の概要
・・・
3 ・・・,本件特許発明の特許請求の範囲の記載は次のとおりである(下線部は,平成22年8月26日の訂正審決確定により追加された部分である。また,A~Dの項目は原判決が付したものである。)。
【請求項1】
A ISDNに接続した番号調査用コンピュータにより,使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる調査対象電話番号について回線交換呼の制御手順を発信端末として実行し,網から得られる情報に基づいて有効な電話番号をリストアップして有効番号リストを作成する網発呼プロセスと,
B ・・・リスト配布プロセスと,
C ・・・クリーニング処理プロセスと,
D を含んだことを特徴とする電話番号リストのクリーニング方法。

・・・

第4 当裁判所の判断
1 当裁判所も,被告サービスは,少なくとも本件特許発明の構成要件Aを充足せず,禁反言の法理の関係で本件特許発明と均等とは認められないものと判断する。
・・・
2 控訴人の当審主張について
 本件特許発明の特許請求の範囲においては,(使用されている)「すべて」の市外局番及び市内局番という文言が用いられているのであって,範囲の広狭がある場合には,最も広い範囲を指すと解するのが自然であり,逆に,これを「調査対象となる一定の地域」に限定する記載はない
 本件明細書(甲1,47)の記載をみても,・・・と記載されるように,全国を対象として調査するものである。なお,控訴人が主張の根拠とする記載(段落【0011】~【0013】,【0026】)は,全国を調査する一環として,ある地域を分担したパソコンによる調査方法を説明したものであって,控訴人の主張するような,一定の地域に限定して調査を行う旨の記載であるとは認められない。
・・・
したがって,構成要件Aの「使用されているすべての市外局番および市内局番」とは,調査対象となる一定の地域において使用されているすべての市外局番及び市内局番を意味するという控訴人の主張は,採用することができない。


原審 事件番号 平成21(ワ)35411