知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

著作権の時効取得

2012-02-19 20:11:18 | 著作権法
事件番号 平成23(ネ)10028
事件名 損害賠償等,著作権侵害差止等,出版権確認等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 著作権の時効取得が観念されると解した場合,著作権の時効取得が認められるためには,自己のためにする意思をもって平穏かつ公然に著作権(例えば,複製権)を行使する状態を継続していたことを要する
 換言すれば,著作権の時効取得が認められるためには,著作物の全部又は一部につきこれを複製する権利などを専有する状態,すなわち外形的に著作権者と同様に複製権を独占的,排他的に行使する状態が継続されていることを要するのであって,そのことについては取得時効の成立を主張する者が立証責任を負うものと解するのが相当である(最高裁判所平成9年7月17日判決民集51巻6号2714頁参照)。
この観点から,本件をみると,・・・こと等の事実を認めることができる。

 上記認定事実によれば,亡Bの相続人が,控訴人日本教文社から印税を受け取ったり,控訴人日本教文社に対し本件①の書籍1の18版及び19版の奥付に誤った「Ⓒ」表示をさせたりした経緯を認定することはできるが,そのような経緯によっては,複製権等を独占的,排他的に行使する状態を継続している事実,及び他の者に対する著作権の行使を排除した事実を主張,立証したと認めることはできない

課題と解決手段を検討し動機付けを否定した事例

2012-02-19 19:53:40 | 特許法その他
事件番号  平成23(行ケ)10142
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 すなわち,引用発明は,素材を内外から加熱することに発明の特徴があるのに対して,引用刊行物2記載の技術は,マイクロ波の素材への直接照射を遮断することに発明の特徴があり,両発明は,解決課題及び解決手段において,大きく異なる。
 引用発明においては,外部加熱のみによって加熱を行わなければならない必然性も動機付けもないから,引用発明を出発点として,引用刊行物2記載の技術事項を適用することによって,本願発明に至ることが容易であるとする理由は存在しない

 したがって,審決が,引用刊行物2記載の示唆に基づいて,引用発明の内部加熱のための被調理物加熱層14を透過するマイクロ波の一部が透過しないように被調理物加熱層14のセラミック材をなくし,フェライト粉によってマイクロ波を遮蔽するようなすことは当業者が格別の困難性を要することなくなし得たことを前提に,本願発明の相違点Aに係る構成に至ることが容易であるとした判断は,前提を欠くものであり,誤りというべきである。

希望された面接なしに審決した手続

2012-02-19 19:37:47 | 特許法その他
事件番号  平成23(行ケ)10245
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 原告は,本願に係る不服審判請求時,審判官との面接を希望したにもかかわらず,面接がされないまま,審決がされた手続には違法がある旨主張する。

 しかし,原告の上記主張は失当である。すなわち,特許法145条2項には,拒絶査定不服審判は,書面審理による旨が規定されている。したがって,当事者に面接の機会を与えなかったことは,特段の事情のない限り違法を来すことはない。また,本件において,審判合議体が原告に対し面接の機会を付与しなかった点に,審決の違法を来す特段の事情はうかがえない。したがって,原告主張に係る手続の瑕疵を認めることはできない。

プロダクトバイプロセスクレーム-大合議判決と特許庁基準の比較

2012-02-19 15:58:26 | 特許法70条


<所感>
 普通に物として特定できるのにあえてプロダクトバイプロセスクレームとした場合には、特許請求の範囲の特定どおり解釈した方が解釈原則を曲げないので筋がよい。不真性プロダクトバイプロセスクレームの解釈は大合議判決の方が良い。不真性→真性の立証責任を出願人に負わせることで広い権利範囲を得ることと立証責任の負担とのバランスがとれる。

 問題としては、
(1) 「物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であること」の立証が困難ではないかということ、
(2) 物として特定できることの反証が示された場合に権利範囲が変動し、無効(拒絶)理由の有無も変わることから、予測可能性、権利の安定性を欠くこと。
(3) 出願人が立証をせずあるいは審査官が直ちに不真性プロダクトバイプロセスクレームとして特許査定を与えた後、権利行使の場面で権利者が真性プロダクトバイプロセスクレームの立証をした場合に審査を経ていない権利範囲で権利行使が可能となる点で、予測可能性、権利の安定性を欠くこと。
があげられる。
 ただし、(1)については疎明すればよしとすること、(2)、(3)についてはまず審査に当たりプロダクトバイプロセスクレームの場合には必ず「物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であること」を立証させる運用とすることで、容易に解決できるのではないか。

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈(大合議判決)はここ

技術常識を考慮した特許請求の範囲の用語の解釈

2012-02-19 10:11:19 | 特許法70条
事件番号 平成23(行ケ)10065
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(イ) 原告は,本件補正発明においては,審決が引用発明1のデータ端末とコンピュータにそれぞれ対応させた「ウエブ・ブラウザ12」と「コンピュータ・ネットワーク装置22」とは「遠隔アクセス」する関係にある。「ウエブ」とは,インターネットまたはワールドワイド・ウエブと呼ばれる国際的なネットワークのようなコンピュータ・ネットワークを意味しているのに対し,引用発明1におけるデータ端末はコンピュータに収容されており,あるいはせいぜいLAN(構内通信網)6を介して接続されていることから,引用発明1は,「遠隔アクセス」を想定していないと主張する。

 しかし,原告のこの点の主張も,以下のとおり採用できない。すなわち,本件補正後の請求項1には,「遠隔アクセス」について,「ウエブ・ブラウザを用いて遠隔アクセスできるコンピュータ・ネットワーク装置によってアクセスするために,」との記載及び「前記電話番号情報の表示のためにウエブ・ブラウザを用いてコンピュータ・ネットワーク装置を遠隔アクセスし;」との記載はあるが,「遠隔アクセス」の内容は特定されていない。LAN上のサーバに情報を記憶しておき,ウエブ・ブラウザからサーバの該情報にアクセスして,ウエブ・ブラウザ上で該情報を表示することは,企業内ネットワークにみられるように,本願の優先日前において,当該技術分野では常套手段であるから,ウェブ・ブラウザを用いて「遠隔アクセス」することが記載されていても,その「遠隔アクセス」が,インターネットを介して接続される遠隔なアクセスに限定されるものではない