知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

共有者の一部によってなされた拒絶査定不服審判請求

2011-06-05 19:34:28 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10363
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年05月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


(1) 特許を受ける権利が共有に係るときは,各共有者は他の共有者と共同でなければ特許出願をすることができず(特許法38条),その共有に係る権利について審判を請求するときは,共有者の全員が共同して請求しなければならない(同法132条3項)
 また,特許を受けようとする者は,特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならず(同法36条1項),拒絶査定に対して不服審判を請求する者は,当事者及び代理人の氏名又は名称及び住所又は居所を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならないとされている(同法131条1項)。したがって,共有者の全員が一人の代理人に対して拒絶査定不服審判の請求を委任し,その代理人が,共有者のために拒絶査定不服審判を請求する際には,審判請求書に請求人として共有者全員の氏名を記載することが求められる

(2) 上記規定によれば,審判請求書には審判請求人全員の氏名を記載しなければならないのであるが,他方,共有に係る権利の共有者全員の代理人から審判請求書が提出された場合において,共有者全員が「共同して請求した」といえるかどうかについては,単に審判請求書の請求人欄の記載のみによって判断すべきものではなく,その請求書の全趣旨や当該出願について特許庁が知り得た事情等を勘案して,総合的に判断すべきである。

 ところで,・・・,代理人が,共有者全員から拒絶査定不服審判請求について委任を受けているにもかかわらず,共有者の一部の者のみを代理して拒絶査定不服審判を請求することは,あえて不適法な審判請求をすることとなり,そのような行為は,不自然かつ不合理である・・・。そうだとすると,その代理人から審判請求書を受理する特許庁としては,代理人がこのような不合理な行為を行うやむを得ない特段の事情が推認される場合はさておき,そのような事情がない限り,審判請求書の記載上,共有者の一部の者のためにのみする旨の表示となっている場合があったとしても,そのような審判請求書は,誤記に基づくものであると判断するのが合理的である。

(3) 上記の観点から,本件について検討する。前記のとおり,
○1 原告らは,いずれも日本国内に営業所又は住所若しくは居所を有しない者であり,特特許管理人によらなければ特許法に基づく諸手続を行うことができず,しかも,特許管理人は原則として一切の手続について本人を代理するという包括的な代理権を有していること(特許法8条1項,2項),
○2 原告らは,本願発明に係る特許法に基づく諸手続をX弁理士に委任しており,同弁理士は原告らの特許管理人であったこと,
○3 特許庁は,特許出願過程において,・・・,原告A及び原告Bが発明者であると共に出願人でもあると理解した上,国内書面の特許出願人の欄を補正するよう手続補正を指令し,これに応じて,X弁理士は,・・・,錯誤により出願人を間違えた旨付記した上,原告A及び原告Bを国内書面の特許出願人に追加する旨の手続補正を行ったこと,
○4 特許庁は,・・・本件拒絶査定書には,特許出願人として「サン・ケミカル・コーポレーション(外2名)」と記載し,代理人にX弁理士の氏名を記載したこと等の事実が認められる。

 以上の事実を総合すれば,弁理士が本件審判請求書を提出することによってした審判請求は,審判請求書の記載上,原告サン ケミカルの名称のみ表記され,原告A及び原告Bの氏名は表記されていないがX弁理士に原告ら全員のためにする意思があることは明らかであり,しかも,特許庁においても,その意思は,十分に知り得たものというべきである。
 したがって,本件審判請求は請求人が原告ら3名であるにもかかわらず,本件審判請求書には請求人として原告サン ケミカルのみが記載されている場合であるから,同法131条1項の定める方式について不備があることとなる。このような場合,審判長は,同法133条1項に基づき,原告らの代理人たるX弁理士に対して,相当の期間を定めてその補正をすべきことを命じなければならなかったといえる。
・・・
 なお,・・・特許法や特許法施行規則において,代理人による特許出願の場合に委任状の提出は義務付けられておらず,委任状の提出を要しない実務慣行の存在も推認・・・,特許庁も・・・委任状の提出を求めることはなく,X弁理士が同原告らの代理人であるとして出願手続を進めてきていること等の経緯に照らすならば,原告A及び原告Bから同弁理士に対する包括委任状が提出されていない事実をもって,本件審判請求が,原告らの共同意思に基づく請求であることを否定する根拠とはならない。なお,日本国内に住所又は居所(法人にあっては営業所)を有する者が代理人に拒絶査定不服審判の請求を委任する場合は,特別の授権を要し(特許法9条),その代理権の授与は書面をもって証明しなければならないが(同法施行規則4条の3),特許管理人であるX弁理士は,包括的な代理権を有しており,拒絶査定不服審判を請求するに当たっても特別の授権は必要ないことからすると,原告A及び原告Bの包括委任状が特許庁に提出されておらず,そのため,本件審判請求書の提出物件の目録にも同原告らの包括委任状の番号は記載されていなかったとしても,そのことをもって,原告A及び原告Bには本件審判を請求する意思がないことの根拠にもならない。

<類似:平成21年11月19日 知的財産高等裁判所 平成21(行ケ)10148

業務経験に鑑みたテクニカルライターによる広告文は法律上保護される利益を有するか

2011-06-05 15:34:08 | Weblog
事件番号 平成23(ネ)10006
事件名 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日 平成23年05月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

3 争点3(一般不法行為の成否)について
・・・
(1) 控訴人は,先行企業としての業務経験に基づき試行錯誤の上に完成させた自社のオリジナル広告文につき,同一サービスに新規参入する業務経験のない大手ライバル企業によって盗用されない利益は法的保護に値するものであるから,先行競合企業である控訴人の広告文言を盗用した被控訴人の行為は,社会的相当性を逸脱し控訴人の法的保護に値する利益を侵害した点で不法行為を構成すると主張する。
・・・
被控訴人文章作成の際,控訴人文章を全く参照しなかったのであるならば,控訴人文章と被控訴人文章とが,記載順序や構成がほぼ共通しているほか,データ復旧が必要となる状態を「非常事態」とした上で,データ復旧サービスを「有効な回復策の一つとして」「データ復旧サービスの利用を検討する」という具体的表現(控訴人文章2③)や,パソコン修理及びデータ復旧について「主眼を置く」点を明らかにした上で,「例えを用いて説明する」具体的表現(控訴人文章3②・③)のみならず,パソコンの低価格化とデータの重要性向上について説明した上で,パソコンに事故が起こった場合に,パソコンが大切なのか,データが大切なのかをよく見極めることが大切であると結論付ける具体的表現(控訴人文章3④)についてもほぼ一致していることは,それらがありふれた表現であることを考慮しても,不自然であるというほかない。
・・・
 したがって,控訴人が A の説明に疑問を抱き,著作権侵害が認められないとしても,なお被控訴人の行為を強く非難することは,それ自体無理からぬところである。

(3) しかるところ,控訴人は
① 他人の文章に依拠して別の文章を執筆し,ウェブサイトに公表する行為が,営利目的によるものであり,文章自体の類似性や構成・項目立てから受ける全体的印象に照らしても,他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得たと評価される場合には,当該行為は公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものとして不法行為を構成するというべきである,
② 控訴人文章は,控訴人において,世間一般に知られていなかったサービスにつき,顧客から誤解に基づくクレームを受けた等の業務経験に鑑み,試行錯誤を行いながら,控訴人代表者が,テクニカルライターとしての経験を活用して書き上げたものであり,被控訴人は,このような先行企業による成果物に無断で「ただ乗り」し,他人の成果物を不正に利用してビジネス上の利益を享受していることは明らかである,
③ 保護されるべき企業の利益は,直接的なものに限られるものではない
などと主張する。

(4) しかしながら,控訴人主張の「オリジナル広告文」が法的保護に値するか否かは,正に著作権法が規定するところであって,当該広告が著作権法によって保護される表現に当たらず,その意味で,ありふれた表現にとどまる以上,これを「オリジナル広告」として,控訴人が独占的,排他的に使用し得るわけではない
 したがって,被控訴人が控訴人のそのような広告と同一ないし類似の広告をしたからといって,被控訴人の広告について著作権侵害が成立しない本件において,著作権以外に控訴人の具体的な権利ないし利益が侵害されたと認められない以上,不法行為が成立する余地はない
 そして,・・・,控訴人文章と被控訴人文章とは,表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎない以上,被控訴人文章をウェブサイトに公開したことをもって,公正な競争として社会的に許容される限度を超えたものということはできない。

標章が商標として使用されているか否かの判断事例-「Quick Look」事件

2011-06-05 14:06:43 | 商標法
事件番号 平成22(ワ)18759
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年05月16日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 大須賀滋

1 被告各標章が商標として使用されているか否か(争点(1)ア)について
 商標は,当該商標を使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの(商標法3条2項),すなわち自他商品識別機能及び出所表示機能を有するものとして登録されるのであるから,ある標章の使用が,商標権者の登録商標を使用する権利(同法25条)の侵害行為又は侵害とみなされる行為(同法36条1項,37条)といえるためは,当該使用される標章が自他商品識別機能及び出所表示機能を有する態様で使用されていることが必要である。
 ・・・

 このような甲47のウェブページに接したコンピュータ商品およびOS商品の需要者は,「Quick Look」が,ファイルを開かずにフ ァイルの内容をすばやくプレビュー表示するという機能を有する,被告のOSソフトウェア商品である「Mac OS X」の主なアプリケーションの一つであると認識し,被告標章1も,当該機能を有するする,被告のOSソフトウェア商品の主なアプリケーションの一つを表示するものと認識すると認められる。
 そして,被告は,・・・プログラム(プラグイン)を作成するために必要な技術仕様を公開,提供していることが認められる。

 しかしながら,前記アのとおり,被告は,ファイルを開かずにファイルの内容をすばやくプレビュー表示するという,被告OSソフトウェア商品が有する機能を「Quick Look」(クイックルック)と表示していることが認められるところ,後記エのとおり,被告は,当該機能を使えるようにするためのプログラム(プラグイン)を作成するために必要な技術仕様の公開,提供をしていることは認められるものの,当該プラグインを自ら作成したり,これを配布したりするなどの行為を行っていると認めることはできないから,結局,被告が被告のOSソフトウェア商品の主なアプリケーションの一つとして表示する「Quick Look」(クイックルック)は,被告のOSソフトウェア商品の有する当該機能を,被告のOSソフトウェア商品の「アプリケーション」と称して表示したものにすぎないというべきである。

 そうすると,・・・「Quick Look」との表示は,・・・機能の一つを表示したものであり,・・・需要者は,「Quick Look」が,・・・機能を表示するものであると認識するものと認められるが,他方で,被告のOSソフトウェア商品の出所については,甲47のウェブページの「Quick Look」の表示がその左上部に記載された,「Mac OS X」の一機能として記載されていることからすると,被告のOSソフトウェア商品の出所については,その左上部に記載された「Mac OS X」の標章から想起し,「Quick Look」の語から想起するものではないものと認められる。

 したがって,被告標章1が甲47のウェブページにおいて被告OSソフトウェア商品の自他商品識別機能・出所表示機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできないから,甲47のウェブページにおける被告標章1の使用は,商標としての使用(商標的使用)に当たらない。