知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

業務経験に鑑みたテクニカルライターによる広告文は法律上保護される利益を有するか

2011-06-05 15:34:08 | Weblog
事件番号 平成23(ネ)10006
事件名 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日 平成23年05月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

3 争点3(一般不法行為の成否)について
・・・
(1) 控訴人は,先行企業としての業務経験に基づき試行錯誤の上に完成させた自社のオリジナル広告文につき,同一サービスに新規参入する業務経験のない大手ライバル企業によって盗用されない利益は法的保護に値するものであるから,先行競合企業である控訴人の広告文言を盗用した被控訴人の行為は,社会的相当性を逸脱し控訴人の法的保護に値する利益を侵害した点で不法行為を構成すると主張する。
・・・
被控訴人文章作成の際,控訴人文章を全く参照しなかったのであるならば,控訴人文章と被控訴人文章とが,記載順序や構成がほぼ共通しているほか,データ復旧が必要となる状態を「非常事態」とした上で,データ復旧サービスを「有効な回復策の一つとして」「データ復旧サービスの利用を検討する」という具体的表現(控訴人文章2③)や,パソコン修理及びデータ復旧について「主眼を置く」点を明らかにした上で,「例えを用いて説明する」具体的表現(控訴人文章3②・③)のみならず,パソコンの低価格化とデータの重要性向上について説明した上で,パソコンに事故が起こった場合に,パソコンが大切なのか,データが大切なのかをよく見極めることが大切であると結論付ける具体的表現(控訴人文章3④)についてもほぼ一致していることは,それらがありふれた表現であることを考慮しても,不自然であるというほかない。
・・・
 したがって,控訴人が A の説明に疑問を抱き,著作権侵害が認められないとしても,なお被控訴人の行為を強く非難することは,それ自体無理からぬところである。

(3) しかるところ,控訴人は
① 他人の文章に依拠して別の文章を執筆し,ウェブサイトに公表する行為が,営利目的によるものであり,文章自体の類似性や構成・項目立てから受ける全体的印象に照らしても,他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得たと評価される場合には,当該行為は公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものとして不法行為を構成するというべきである,
② 控訴人文章は,控訴人において,世間一般に知られていなかったサービスにつき,顧客から誤解に基づくクレームを受けた等の業務経験に鑑み,試行錯誤を行いながら,控訴人代表者が,テクニカルライターとしての経験を活用して書き上げたものであり,被控訴人は,このような先行企業による成果物に無断で「ただ乗り」し,他人の成果物を不正に利用してビジネス上の利益を享受していることは明らかである,
③ 保護されるべき企業の利益は,直接的なものに限られるものではない
などと主張する。

(4) しかしながら,控訴人主張の「オリジナル広告文」が法的保護に値するか否かは,正に著作権法が規定するところであって,当該広告が著作権法によって保護される表現に当たらず,その意味で,ありふれた表現にとどまる以上,これを「オリジナル広告」として,控訴人が独占的,排他的に使用し得るわけではない
 したがって,被控訴人が控訴人のそのような広告と同一ないし類似の広告をしたからといって,被控訴人の広告について著作権侵害が成立しない本件において,著作権以外に控訴人の具体的な権利ないし利益が侵害されたと認められない以上,不法行為が成立する余地はない
 そして,・・・,控訴人文章と被控訴人文章とは,表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎない以上,被控訴人文章をウェブサイトに公開したことをもって,公正な競争として社会的に許容される限度を超えたものということはできない。

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