事件番号 平成18(ワ)20790
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成20年11月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節
2 次に,争点(4)(本件特許に無効理由が存在するとしても,訂正により,本件特許権に基づく権利行使が可能となるか)について判断する。
(1 ) 前記1のとおり,本件発明は,いずれも進歩性が欠如するから,特許法104条の3第1項により,原告は,本件特許権に基づく権利行使をすることはできない。
しかしながら,被告に特許権侵害の事実があるにもかかわらず,当該特許に無効理由があるため,上記条項により,同特許権に基づく権利行使ができない場合であっても,当該特許権者が,①特許庁に対し,適法な訂正審判の請求又は訂正の請求を行っており,②当該訂正によって,上記の無効理由が解消され,さらに,③被告の製造販売する製品ないし被告が実施している方法が訂正後の特許請求の範囲に含まれる場合には,上記の無効理由があるにもかかわらず,上記特許権者は,上記特許権に基づく権利行使ができるものと解するのが相当である。
そして,前記争いのない事実等で判示したとおり,原告は,本件明細書の記載について,訂正審判請求をし,後日,特許法134条の3第5項により,訂正請求(本件訂正請求)がされたものとみなされたところ,原告は,本件特許権に前記1の無効理由が存在するとしても,本件訂正請求により,本件特許権に基づく権利行使は許される旨主張する。
そこで,上記の要件に照らして,本件訂正により,本件特許権に基づく権利行使が許されるか否かについて,以下検討する。
(2) 本件訂正が,特許法134条の2第5項で準用する特許法126条3項(ただし,平成14年法律第24号附則3条1項の規定により,同法2条の定による改正後の特許法の規定は,同法附則1条2号に定める日(平成15年7月1日)以後の特許出願について適用され,同日前にした特許出願については,なお従前の例によるものとされているため,本件訂正請求については,同法による改正前の特許法126条2項(以下「旧特許法126条2項」という。)が適用されることになる。)に違反しないかについて
ア 旧特許法126条2項の「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者にとって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味し,したがって,同項の「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」における訂正とは,当該訂正が,当業者にとって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである場合を意味すると解するのが相当である(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号事件・平成20年5月30日判決参照)。
イ 本件訂正後発明1は,前記争いのない事実等(8)イ(ア)のとおりであり,本件訂正は,ゲートの位置を,本件訂正前は,リブ部に対応する部分としていたのを,リブ部のうちブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分,又は,リブ部を複数設ける場合は,ブレード本体の側面側の近傍にあるリブ部に対応する部分(・・・。)に限定したものであることが認められる。
これに対し,本件明細書には,実施例としては,リブ部がブレード本体の一方の側面部から他の側面部にわたって形成されているものしか記載されておらず,同リブ部を前提として,ゲートをリブ部の両側面部に設けたもの(・・・)及びリブ部の後方の面の両端部に対応する部分に設けたもの(・・・)が記載されていることが認められる(甲4)。
したがって,本件訂正後発明1のうち,リブ部の長手方向の長さが短く,そのリブ部をブレード本体の長手方向端部のみに配置した構成は,本件明細書及び本件図面には記載されておらず,また,本件明細書及び本件図面の記載から当業者にとって自明であるということもできない。
そして,そもそも,本件発明1は,前記のとおり,ゲートをブレード本体に対応する部分ではなく,ブレード本体から突出したリブ部に対応する部分に設けることによって,ウェルド,バリ,ヒケのない現像ブレードを製造するというものであるところ,本件明細書において,リブ部のいかなる部分に対応した部分にゲートを設けるべきか,又は,リブ部を複数設ける場合に,ブレード本体のどの部分にリブ部を設けるべきかについての記載はなく(・・・。),むしろ,前記1(1)ア(ア)d⒟で認定したとおり,本件明細書の段落【0012】には,「・・・。」と記載されている。
このように,本件発明1は,リブ部のうちのいかなる部分に対応する分にゲートを設けても,また,ゲートを設けたリブ部を複数設けても,技術的には異ならないということを前提としており,換言すれば,特定の部位にゲートの位置を設けることについての技術的意義を見い出していないものと解される。これに対して,本件訂正は,ゲートの位置を上記のとおり限定したものであるところ,本件発明のように,ゲートをリブ部に設ける現像ブレードの製造方法において,ブレード本体の長手方向におけるゲートの設置位置を限定することには,一定の技術的な有意性が認められるものと解される。
以上の点を総合すると,本件訂正が,リブ部を複数設ける場合に,ゲートの設置位置を,ブレード本体の側面側の近傍にあるリブ部に対応する部分に限定することは,本件明細書及び本件図面から導かれる技術的事項とは異なる新たな技術的事項を導入することになり,本件訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」における訂正ということはできないというべきである。
ウ したがって,本件訂正は,特許法134条の2第5項で準用する特許法126条3項(なお,前記のとおり,本件訂正請求については,旧特許法126条2項が適用される。)に違反するというべきである。
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成20年11月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節
2 次に,争点(4)(本件特許に無効理由が存在するとしても,訂正により,本件特許権に基づく権利行使が可能となるか)について判断する。
(1 ) 前記1のとおり,本件発明は,いずれも進歩性が欠如するから,特許法104条の3第1項により,原告は,本件特許権に基づく権利行使をすることはできない。
しかしながら,被告に特許権侵害の事実があるにもかかわらず,当該特許に無効理由があるため,上記条項により,同特許権に基づく権利行使ができない場合であっても,当該特許権者が,①特許庁に対し,適法な訂正審判の請求又は訂正の請求を行っており,②当該訂正によって,上記の無効理由が解消され,さらに,③被告の製造販売する製品ないし被告が実施している方法が訂正後の特許請求の範囲に含まれる場合には,上記の無効理由があるにもかかわらず,上記特許権者は,上記特許権に基づく権利行使ができるものと解するのが相当である。
そして,前記争いのない事実等で判示したとおり,原告は,本件明細書の記載について,訂正審判請求をし,後日,特許法134条の3第5項により,訂正請求(本件訂正請求)がされたものとみなされたところ,原告は,本件特許権に前記1の無効理由が存在するとしても,本件訂正請求により,本件特許権に基づく権利行使は許される旨主張する。
そこで,上記の要件に照らして,本件訂正により,本件特許権に基づく権利行使が許されるか否かについて,以下検討する。
(2) 本件訂正が,特許法134条の2第5項で準用する特許法126条3項(ただし,平成14年法律第24号附則3条1項の規定により,同法2条の定による改正後の特許法の規定は,同法附則1条2号に定める日(平成15年7月1日)以後の特許出願について適用され,同日前にした特許出願については,なお従前の例によるものとされているため,本件訂正請求については,同法による改正前の特許法126条2項(以下「旧特許法126条2項」という。)が適用されることになる。)に違反しないかについて
ア 旧特許法126条2項の「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者にとって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味し,したがって,同項の「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」における訂正とは,当該訂正が,当業者にとって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである場合を意味すると解するのが相当である(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号事件・平成20年5月30日判決参照)。
イ 本件訂正後発明1は,前記争いのない事実等(8)イ(ア)のとおりであり,本件訂正は,ゲートの位置を,本件訂正前は,リブ部に対応する部分としていたのを,リブ部のうちブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分,又は,リブ部を複数設ける場合は,ブレード本体の側面側の近傍にあるリブ部に対応する部分(・・・。)に限定したものであることが認められる。
これに対し,本件明細書には,実施例としては,リブ部がブレード本体の一方の側面部から他の側面部にわたって形成されているものしか記載されておらず,同リブ部を前提として,ゲートをリブ部の両側面部に設けたもの(・・・)及びリブ部の後方の面の両端部に対応する部分に設けたもの(・・・)が記載されていることが認められる(甲4)。
したがって,本件訂正後発明1のうち,リブ部の長手方向の長さが短く,そのリブ部をブレード本体の長手方向端部のみに配置した構成は,本件明細書及び本件図面には記載されておらず,また,本件明細書及び本件図面の記載から当業者にとって自明であるということもできない。
そして,そもそも,本件発明1は,前記のとおり,ゲートをブレード本体に対応する部分ではなく,ブレード本体から突出したリブ部に対応する部分に設けることによって,ウェルド,バリ,ヒケのない現像ブレードを製造するというものであるところ,本件明細書において,リブ部のいかなる部分に対応した部分にゲートを設けるべきか,又は,リブ部を複数設ける場合に,ブレード本体のどの部分にリブ部を設けるべきかについての記載はなく(・・・。),むしろ,前記1(1)ア(ア)d⒟で認定したとおり,本件明細書の段落【0012】には,「・・・。」と記載されている。
このように,本件発明1は,リブ部のうちのいかなる部分に対応する分にゲートを設けても,また,ゲートを設けたリブ部を複数設けても,技術的には異ならないということを前提としており,換言すれば,特定の部位にゲートの位置を設けることについての技術的意義を見い出していないものと解される。これに対して,本件訂正は,ゲートの位置を上記のとおり限定したものであるところ,本件発明のように,ゲートをリブ部に設ける現像ブレードの製造方法において,ブレード本体の長手方向におけるゲートの設置位置を限定することには,一定の技術的な有意性が認められるものと解される。
以上の点を総合すると,本件訂正が,リブ部を複数設ける場合に,ゲートの設置位置を,ブレード本体の側面側の近傍にあるリブ部に対応する部分に限定することは,本件明細書及び本件図面から導かれる技術的事項とは異なる新たな技術的事項を導入することになり,本件訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」における訂正ということはできないというべきである。
ウ したがって,本件訂正は,特許法134条の2第5項で準用する特許法126条3項(なお,前記のとおり,本件訂正請求については,旧特許法126条2項が適用される。)に違反するというべきである。