知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

ソフトウェアの秘密保護義務

2006-12-15 22:20:22 | Weblog

事件番号 平成17(ワ)12938
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成18年12月13日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 市川正巳


『1 争点(1)(営業秘密としてのアルゴリズムの不正使用)について
(1) 請求内容について
 原告は,不正競争防止法2条1項7号,3条2項に基づき,侵害の停止又は予防に必要な措置として,請求第2項記載の行為を求めているが,その請求内容が特定されていないから,これらの訴えは,不適法なものとして却下されるべきである。
(2) 営業秘密の使用について
ア 被告が原告アルゴリズム全体をそのまま使用して市川ソフトを作成したのであれば,プログラムとしての表現が異なっていても,不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為が成立する余地があるが,後記2(2)及び(3)に説示の事実によれば,被告は,市川ソフトを作成するに当たり,原告アルゴリズムをそのまま使用したものではなく,多くの点で原告アルゴリズムとは異なる処理手順を採用し,一部原告アルゴリズムと同様の処理手順を採用した箇所についても,技術上の合理性の観点から当然採用される部類に属する手法を採用したものであり,原告アルゴリズムや原告ソフトそのものを使用又は開示するに等しい結果を何ら招来していないものであるから,被告が市川ソフトを作成するに当たり,原告アルゴリズムを使用したものと認めることはできない。』


『2 争点(2)(債権者代位権に基づく差止請求)について
(1) 請求内容
原告は,債権者代位権に基づく差止請求として,請求第2項記載の行為を求めているが,その請求内容が特定されていないから,これらの訴えは,不適法なものとして却下されるべきである。』

『(2) 信義則上の秘密保持義務の内容
ア 被告は,前提事実(1)イ及び(2)ウのとおり,平成9年6月30日まで両毛システムズに在職し,原告から委託を受けた原告ソフトの開発に責任者として関与したものであるから,信義則上,両毛システムズに在職中知り得た秘密を保持する義務を負っていると考えられる。

イ 被告がどのような内容の秘密保持義務を負うかについて検討する。
(1) 被告がソフトウェア開発の前提として原告から開示された原告に特有のトーションレースの編み方のノウハウや,原告アルゴリズム全体をそのまま他に開示するような行為(原告アルゴリズムと全く同じアルゴリズムに基づくソフトを作成して市川鉄工に成果物として交付する行為を含む。)は,信義則上の秘密保持義務に違反すると考えられる。
(2) しかしながら,システムエンジニア又はプログラマーがあるソフトウェアの開発によって得たものは,一面で委託者から委託されたソフトウェア開発の成果物であるが,他面で,従来からシステムエンジニア又はプログラマーとして有していた技術を適用した結果であったり,技術上の合理性の観点から必然である処理手順であることが考えられ,これらの点を無視して信義則上の秘密保持義務を広く負わせることは,システムエンジニア等に同種のソフトウェアの開発に関与することを実際上禁止して職業選択の自由を制約し,社会経済的にも技術の蓄積によるソフトウェアの開発コストの削減を妨げる結果となりかねない。
 以上の点からすると,以前に同種ソフトウェアの開発に関与した被告が信義則上の秘密保持義務に反したか否かは,原告アルゴリズムと市川アルゴリズムとが一致する割合はどの程度か,一致する部分について,当該システムエンジニア等が従来から有していた技術の適用の結果といえるか,又は技術上の合理性の観点からそのような手順を採用することが当然か,市川ソフトウェアやその前提となる市川アルゴリズムの一部が開示されることにより,従前の雇用主である両毛システムズ又は開発委託者である原告のノウハウ等が開示される結果となるか等を総合して判断するほかはない。』

最新の画像もっと見る