知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許法43条1項の「同時に」の解釈

2009-04-20 20:00:00 | Weblog
事件番号 平成20(行コ)10002
事件名 却下処分取消請求控訴事件
裁判年月日 平成21年03月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

1 本件の経過
 本件は,控訴人が意匠登録出願と同時に,パリ条約による優先権主張の手続をしないで,その後の上記出願日中に,優先権主張に必要な事項を追加した手続補正をし,さらに後日,適法な優先権主張があることを前提とした優先権証明書の提出書を提出したのに対し,特許庁長官が控訴人に対し,上記手続補正及び同優先権証明書の提出書に係る各手続をいずれも却下する処分(以下「本件各処分」という。)をしたため,控訴人が被控訴人に対し,上記手続補正を却下した処分には意匠法15条1項で準用される特許法43条1項の解釈・適用を誤った違法があり,この違法な却下処分の存在を前提とした上記優先権証明書の提出書を却下した処分には意匠法60条の3の適用を誤った違法がそれぞれあると主張して,本件各処分の取消しを求める事案である。
 ・・・

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,後記2に当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」(原判決19頁19行~24頁22行)に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1) 特許法43条1項の「同時に」の解釈について
ア 控訴人は,法律上の文言の解釈は,その法律における当該条文が制定された趣旨,当該法律の依拠しかつ由来としている条約等の文言の持つ意味から,目的的かつ合理的に解釈されるべきであり,原判決が,特別の事情が認められない限り,「同時に」という文言を「同一日に」と解釈することは許されないとしたことは,緻密な個別条項解釈の作業努力を放棄した文言解釈というほかなく,合理性を欠く不当なものであると主張する

 しかしながら,引用に係る原判決の説示するとおり(21頁24行目から22頁6行目まで),言葉の通常の意味として「同時に」と「同日に」は時間的接着の程度において明らかに異なる概念として理解されていること,両語が有するかかる通常の意味を踏まえて意匠法等において「同時に」と「同日に」とを使い分けて使用していることからすれば,特許法43条1項の「同時に」を「同一日に」と解釈することは,そのように解すべき特別の事情が認められない限り許されないというべきである。

 確かに,・・・控訴人主張は,一般的な法律解釈の方法としてそれ自体否定されるものではないが,特許法43条1項のような国民に一定の行為の履践を求める手続に関する規定においては,手続を利用する一般国民が言葉の通常の意味により理解することができることが特に強く要請されるのであり,言葉の通常の意味ないしは用法において「同時に」と「同日に」とは明らかに意味が異なるものとして理解されていること,立法者は,正に控訴人主張に係る「その法律における当該条文が制定された趣旨,当該法律の依拠しかつ由来としている条約等の文言の持つ意味」をも考慮した上で法律の条項における文言を定め,意匠法等において文言上「同時に」と「同日に」とを使い分けているのであるから,控訴人主張に係る「その法律における当該条文が制定された趣旨,当該法律の依拠しかつ由来としている条約等の文言の持つ意味」は法律の条項における文言の選択において既に考慮済みであるといえること等に鑑みれば,特許法43条1項の「同時に」を「同一日に」と解釈することは,手続の利用者である一般国民の理解や立法者の意思に反するものというべきであり,特段の事情がない限り許されないことはむしろ当然であると言わなければならない。
 ・・・

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