知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

引用例組み合わせの検討の教科書的事例

2008-09-07 23:04:51 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(ワ)19159
事件名 特許権侵害差止請求事件
裁判年月日 平成20年08月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

引用発明1は「・・・ダイシングソウに関するもの」(乙9の1頁18行ないし20行)であり,引用発明2も「・・・ダイシングソウに関する」(乙15の2の1頁11行ないし13行)ものであって,両者の技術分野は同一であること,また,
 引用発明1は「圧電基板などの切り出しや切削などの加工が短時間にできるようにして生産性を向上することを目的とする」(乙9の3頁3行ないし5行)ものであり,引用発明2も「半導体ウエハの全体を切断して個々の半導体ペレットに分割する時間が短縮される」(乙15の2の4頁11行及び12行)ことを目的とするものであって,両者は切削時間の短縮という目的においても共通していることから,
 引用発明1に対し,具体的な切削方法として引用発明2の方法を採用することは,当業者が容易に想到することができたというべきである。

 ところで,引用発明1が,・・・との構成を備えていることを勘案すれば,引用発明1に対し引用発明2を適用することにより,引用発明2の「スピンドルを下降させる」ことは,本件発明の「該第一のスピンドル及び該第二のスピンドルを下降させる」こととなり引用発明2の「該第一のブレードと該第二のブレードとの間隔を維持」することは,本件発明の「該第一のスピンドルと該第二のスピンドルとの間隔を維持する」こととなることは,当然であるということができる。
 また,引用発明2に開示された切削方法においては,引用発明1と異なり,チャックテーブルをY軸方向に割り出し送りすることとなっているところ,上で述べたとおり,引用発明1は,2つのスピンドルをY軸方向に移動させるものであるから,チャックテーブルをY軸方向に割り出し送りすることに代えて,第一のスピンドル及び第二のスピンドルをY軸方向に割り出し送りすることは,設計上の選択事項として,当業者が適宜になし得たことであるというべきである。
 以上によれば,相違点3に係る構成は,引用発明1に対し引用発明2に開示された切削方法を適用することにより,当業者が容易に想到し得たものであると解するのが相当である。

・・・
以上によれば,本件発明は,引用発明1,2及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものというべきである(特許法29条2項)。したがって,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することはできない(特許法104条の3)。

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