事件番号 平成20(ワ)17170等
事件名 損害賠償請求
裁判年月日 平成22年05月06日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三
3 被告P2による不当提訴の成否
(1) 民事訴訟の提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(権利等)が事実的,法律的根拠を欠くものであるうえ,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和63年1月26日判決・民集42巻1号1頁参照)。
(2) 一部勝訴していることについて
被告らは,本件前訴において,提訴者である被告P2が一部勝訴していることを理由に,本件前訴が不当提訴として不法行為が成立することはないと主張する。
たしかに,提訴者が一部勝訴した以上,提訴された者にとっては,応訴はやむを得なかったこととなるが,応訴の負担の全てがやむを得なかったことになるわけではなく,不当提訴となるべき訴訟が含まれる以上,当該訴訟の不法行為該当性の可能性は残っているというべきである。
(3) 法の不知について
被告らは,被告P2が,特許出願前に当該発明を公然に実施することが無効理由となることを知らなかったと主張する。
しかし,前記(1)に述べたところによると,法律的根拠を欠くことを知らずに訴えを提起した場合(法の不知がある場合)であっても,通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなどという場合には,訴えの提起が不法行為を構成することはあり得る。
(4) 本件前訴の提起の評価
前記2(1)のとおり,本件特許2には無効理由が存したということができる(なお,この無効理由は,本件特許2についての特許庁の無効審決の理由とは異なる。)。
しかし,前記2(2)で述べたとおり,被告らの作成した被告製品のプロモーションビデオには,特許出願中とのテロップが挿入されていたり,P4らが,本件発明2について特許出願中であると回答していたのであり(前記1(3)ア,イ),被告P2らが,原告会社に被告製品の宣伝・販売活動を依頼するに際し,既に,本件特許2を含む一連の発明について特許出願済みであったと誤解していた可能性を否定できないというべきである。
そして,前記1(3),(5),(6)のとおりの経緯事実に照らすと,本件特許権1,2を侵害されたと考えた被告P2が,原告会社に対し,本件前訴を提起することを考え,弁護士に依頼して提訴に及んだことは,結果的に,本件特許権2に基づく請求について,事実的,法律的根拠を欠くものであり,この点について,被告P2に過失があったとしても,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認めることはできない。
(5) 本件前訴の継続について
訴えの提起が不法行為を構成するか否かの判断基準時は,提訴の時点であり,審理の結果,自己の主張する権利が事実的,法律的根拠を欠くことが明らかになったからといって,直ちに訴えを取り下げる義務までを認めることはできない。
また,本件前訴第1審の審理経過(前記1(7))に照らすと,被告P2が本件特許権2に係る訴えを継続させたことを非難することはできないというべきである。
<本件の前訴>
事件番号 平成20(ネ)10054等
事件名 特許権等侵害差止請求控訴事件,特許権等侵害差止請求附帯控訴事件
裁判年月日 平成21年01月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明
事件番号 平成18(ワ)8725
事件名 特許権等侵害差止請求事件
裁判年月日 平成20年05月29日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田知司
事件名 損害賠償請求
裁判年月日 平成22年05月06日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三
3 被告P2による不当提訴の成否
(1) 民事訴訟の提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(権利等)が事実的,法律的根拠を欠くものであるうえ,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和63年1月26日判決・民集42巻1号1頁参照)。
(2) 一部勝訴していることについて
被告らは,本件前訴において,提訴者である被告P2が一部勝訴していることを理由に,本件前訴が不当提訴として不法行為が成立することはないと主張する。
たしかに,提訴者が一部勝訴した以上,提訴された者にとっては,応訴はやむを得なかったこととなるが,応訴の負担の全てがやむを得なかったことになるわけではなく,不当提訴となるべき訴訟が含まれる以上,当該訴訟の不法行為該当性の可能性は残っているというべきである。
(3) 法の不知について
被告らは,被告P2が,特許出願前に当該発明を公然に実施することが無効理由となることを知らなかったと主張する。
しかし,前記(1)に述べたところによると,法律的根拠を欠くことを知らずに訴えを提起した場合(法の不知がある場合)であっても,通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなどという場合には,訴えの提起が不法行為を構成することはあり得る。
(4) 本件前訴の提起の評価
前記2(1)のとおり,本件特許2には無効理由が存したということができる(なお,この無効理由は,本件特許2についての特許庁の無効審決の理由とは異なる。)。
しかし,前記2(2)で述べたとおり,被告らの作成した被告製品のプロモーションビデオには,特許出願中とのテロップが挿入されていたり,P4らが,本件発明2について特許出願中であると回答していたのであり(前記1(3)ア,イ),被告P2らが,原告会社に被告製品の宣伝・販売活動を依頼するに際し,既に,本件特許2を含む一連の発明について特許出願済みであったと誤解していた可能性を否定できないというべきである。
そして,前記1(3),(5),(6)のとおりの経緯事実に照らすと,本件特許権1,2を侵害されたと考えた被告P2が,原告会社に対し,本件前訴を提起することを考え,弁護士に依頼して提訴に及んだことは,結果的に,本件特許権2に基づく請求について,事実的,法律的根拠を欠くものであり,この点について,被告P2に過失があったとしても,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認めることはできない。
(5) 本件前訴の継続について
訴えの提起が不法行為を構成するか否かの判断基準時は,提訴の時点であり,審理の結果,自己の主張する権利が事実的,法律的根拠を欠くことが明らかになったからといって,直ちに訴えを取り下げる義務までを認めることはできない。
また,本件前訴第1審の審理経過(前記1(7))に照らすと,被告P2が本件特許権2に係る訴えを継続させたことを非難することはできないというべきである。
<本件の前訴>
事件番号 平成20(ネ)10054等
事件名 特許権等侵害差止請求控訴事件,特許権等侵害差止請求附帯控訴事件
裁判年月日 平成21年01月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明
事件番号 平成18(ワ)8725
事件名 特許権等侵害差止請求事件
裁判年月日 平成20年05月29日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田知司