知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

課題に対する解決方法を異にする主引用例

2008-08-31 10:52:26 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10412
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年08月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

第5 当裁判所の判断
 当裁判所は,取消事由1に関する原告の主張には理由があり,原告の請求を認容すべきものと判断する。
 すなわち,引用発明は,ボールジョイントにより「支竿(2)」を揺動させることで,「支竿(2)」の上端に設けた「腕受け(1)」を略水平方向に移動可能とするものであるのに対し,本願発明は,弾性的支柱の弾性変形により,弾性的支柱の上端に設けたアームレストを略水平方向に移動可能とするものであり,両者は課題に対する解決方法を異にするものであるから,引用発明は,本願発明に係る技術を示唆するものではない。以下,その理由を述べる。
・・・
(3) 相違点1についての容易想到性の有無
ア 以上認定した事実を前提にすると,引用発明においては,「支竿(2)」は,その下端の「ボールジョイント(5)」により揺動することで,その上端が略水平方向に移動可能であり,それによって,その上端に設けられた「腕受け(1)」が略水平方向に移動可能としたものである。引用発明の「腕受け(1)」が本願発明の「アームレスト」に相当するところ,刊行物1には,「支竿(2)」の弾性について何ら記載されるところはない。

 すなわち,本願発明は,弾性的支柱の弾性変形により,弾性的支柱の上端に設けたアームレストを略水平方向に移動可能とするのに対し,引用発明は,ボールジョイントにより「支竿(2)」を揺動させることで,「支竿(2)」の上端に設けた「腕受け(1)」を略水平方向に移動可能としているといえるから,引用発明は,本願発明の弾性力をもって水平方向に移動可能に支承するという弾性的支柱の技術的意義を記載・示唆するものではない

 したがって,「弾性的支柱」と「支竿(2)」とはそれらの技術的意義が相違するから,上端に支持した「腕受け(1)」を略水平方向に移動可能とするために,「支竿(2)」として弾性を有する素材を採用することが刊行物1に示唆されているとはいうことができない。

イ また,引用発明と周知技術との組合せについても,以下のとおり容易とはいえない
 すなわち,上記(1)で述べたとおり,引用発明には,「ボールジョイント(5)」により,「腕受け(1)」を略水平方向に移動可能とするという技術的思想が記載されており,「支竿(2)」の弾性により「腕受け(1)」を略水平方向に移動可能とする技術的思想は開示も示唆もされていない。
 そうすると,本願発明と引用発明とは,腕受け(アームレスト)を水平方向に移動可能とする点において,技術的思想が異なるから,仮に身体保持具としての弾性力のある支柱が甲2及び甲3により周知の技術であるとしても,引用発明において,「支竿(2)」の上端に支承された「腕受け(1)」を略水平方向に移動可能とする手段として,「ボールジョイント(5)」に代えて,上記周知技術を適用することが容易であったいうことはできない

(4) 被告の主張に対し
ア 被告は,本願明細書の「受台3は床に置かれたスタンド4に載せられ,床から受台3までの垂直な支柱2によって,支持されており,多少弾力性を含んでいてもよい。」との記載を根拠に,「支柱(2)」は弾力性を有さないものであってもよく,「弾性的支柱」は「支柱(2)」とは別個の部品であり,かつ「アームレストを弾力をもって支承するためのばね」と別のばねにより,アームレストを略水平方向に移動させるものも含まれると主張する
 しかし,被告の上記主張は,以下のとおり採用できない。
 すなわち,前記説示のとおり「弾性的支柱」は特許請求の範囲の記載に基づいて,それ自体が弾性を有する支柱と解すべきであり,上記本願明細書の記載は,単に「受台(3)」が弾性を含んでもよいとの趣旨を記載したにすぎないものと解するのが合理的である。したがって,被告の主張は失当である。

イ また,被告は,本願発明には「弾性的支柱が本来の待機位置を有するものである」ことを裏付ける事項が記載されていないと主張する。
 しかし,被告の上記主張も,以下のとおり採用できない。
 前記(1)で検討したとおり,「弾性的支柱」は,特許請求の範囲の記載に基づいてそれ自体が弾性を有する支柱であり,「弾性的に変形し,その変形による弾性復元力で原形に復元する支柱」であると解されるから,本来の待機位置を有するものと理解するのが合理的である。本願発明の「弾性的支柱」は,アームレストを水平方向に移動させる際に本来の待機位置を有するものであるといえる。したがって,被告の主張は失当である。

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