知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

文言解釈では一致する請求項の用語を、発明の詳細な説明の記載を参酌して解釈し相違するとした事例

2012-03-10 10:50:58 | 特許法29条の2
事件番号 平成23(行ケ)10241
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(1) 審決は,本願補正発明における「電力需給線路」に,先願発明の「送配電線網」は含まれるものと認定し,本願補正発明と先願発明に相違点は認められず,本願補正発明は特許法29条の2の規定により特許を受けることができないと判断して,本件補正を却下した。しかし,以下のとおり,審決の認定,判断は誤りである。
 ・・・
 本願補正発明における「電力需給線路」は,・・・,請求項1の記載のみでは,その技術的意義が明確ではないから,発明の詳細な説明の記載を参酌することとする。
 補正明細書の記載によれば,「従来の電力系統」とは,図8が示すような,大規模発電所を頂点とし需要家を裾野とする「放射状系統」を基本とする広域かつ大規模な単一システムをいうこと,従来の電力系統では,・・・損失が多く,また,従来の電力系統との連係を前提とした系統連系型分散発電システムは,・・・大規模発電所を構築しにくいとの課題があり,これを解決するため,本願補正発明は,従来の電力系統に拠らない電力システムの提供を目的としていること(・・・),本願補正発明は,自立し,疎結合した各電力需給家が,少なくとも各1つの発電機器,蓄電機器及び電力消費機器と,電力需給制御機器とを備え,それぞれの電力需給制御機器において電力需給線路により相互接続されてなる電力システムであること,・・・が認められる。
 以上によれば,特許請求の範囲の請求項1記載の「電力需給線路」は,従来の電力系統に拠らない電力システムを構成し,各「電力需給家」が備える「電力需給制御機器」を接続するものであり,各「電力需給家」において,電力の不足,余剰が生じた場合には,「電力需給制御機器」がこれを判断して電力を「受け取り」又は「渡し」,電流・電圧等の整合を行うが,「電力需給線路」を介して電力の移動が行われるものであることが認められる。
 すなわち,本願補正発明における「電力需給線路」は,「従来の電力系統に拠らない」【0006】ことを目的とするものであって,図8(従来の電力系統)が示すような,大規模発電所を頂点とし需要家を裾野とする「放射状系統」を基本とする広域かつ大規模な単一システムを前提とする電力設備は含まず,各「電力需給家」が備える「電力需給制御機器」を接続するものであるから,「電力需給線路」は,「従来の電力系統」とは異なるとともに,電圧等の整合を行うための構成を含んでいないと解するのが相当である。
 そうすると,本願補正発明における,電力需給家の複数が夫々の電力需給制御機器を相互接続するための「電力需給線路」は,「従来の電力系統」(図8が示すような,大規模発電所を頂点とし需要家を裾野とする「放射状系統」を基本とする広域かつ大規模な単一システムを前提とする電力設備)を排除しているものと解すべきである。
 ・・・
 以上によれば,本願補正発明の「電力需給線路」は,従来の電力系統でないとともに「電力需給制御装置」とも区別されているのであって,電圧等の整合を行うための構成を含んでいないのに対して,先願発明における「送配電線網」は,従来の電力系統として変電所等の電圧等の整合を行うための構成を示すにとどまり,これを超える構成を示すものではないから,両者が相当するということはできない

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