知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

判決の拘束力-進歩性否定の原因となる要旨変更

2006-12-13 06:41:31 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10206
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年12月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 篠原勝美


『 特許無効審判事件についての本件審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は,特許法181条5項の規定に従い,当該審判事件について更に審理を行って審決をすることになるが,審決取消訴訟は,行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理ないし審決には,同法33条1項の規定により,上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文のみならず,判決主文の結論が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に対しても及ぶものと解すべきであるから,審判官は,上記事実認定及び法律判断に抵触する認定判断をすることは許されないものである(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)。そして,このことは,本件のように,特許法旧40条の規定の適用をめぐり,補正が当初明細書等の要旨の変更に当たるか否かについてされた審決取消しの確定判決についても同様である。

 この点について,原告は,本件は,特定の引用例との対比における発明の進歩性に関する審決取消判決がされた後の再度の審理・審決に対する拘束力が問題となる事案ではなく,本件出願当時の技術常識あるいは周知慣用の技術事項を証明し,ひいては,本件審決の判断の誤りを主張立証するものであって,引用例1を単に補強するだけでなく,これとあいまって初めて無効原因たり得るものであるから,前記最高裁判決の射程には入らず,前判決の拘束力の問題は生じない旨主張する。

 しかし,行政事件訴訟法33条1項は,「処分又は裁決を取り消す判決は,その事件について,処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。」と規定しており,「処分又は裁決を取り消す判決」に格別の限定を付しているわけではないから,上記最高裁判決が,発明の進歩性に関する取消判決を対象にしているからといって,その射程が発明の進歩性に関する取消判決に限られるものではなく,特許法旧40条の規定の適用をめぐり,補正が当初明細書等の要旨の変更に当たるか否かについてされた前判決についても拘束力が及ぶことは,上記のとおりである。

 そうすると,本件第2補正が当初明細書等の要旨の変更に当たるとした前判決について,新たな証拠を提出して当該判断を争うことは,再度,確定した取消判決の拘束力が及ぶ判断事項を蒸し返えそうとするものにほかならず,許されないものというべきである。』

『 本件についてみると,上記(1)ウ認定の事実によれば,前判決は,①当初明細書等には,対向間隙Yと両端面からの突出量α1,α2が「α1+α2=Y」の関係にあることが記載されていること,②他方,本件特許請求の範囲請求項1には,「α1+α2<Y」との関係が記載されていること,③したがって,本件第2補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものではなく,当初明細書等の要旨の変更に当たること,④そうすると,本件出願は,特許法旧40条の規定により,本件第2補正に係る手続補正書を提出した時にしたものとみなされるから,無効理由1についての前審決の認定判断は誤りであると判断したことが明らかであり,上記認定判断は,前審決を取り消す旨の前判決の判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断であったことが明らかである。
そうすると,確定した前判決の拘束力は,上記事実認定及び法律判断に及ぶものというべきである。』

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