知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

分割直前の明細書に至る補正の効力

2008-04-20 11:51:48 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10321
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年04月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『(3) 上記(2)のとおりの本件審査手続の経過に照らせば,原告が,本件原出願に意匠登録を受けようとする意匠として二の意匠が包含されており,意匠法7条に規定する要件を満たさないとの本件原出願に係る第1回拒絶理由通知を受けたため,これに係る拒絶理由を解消するため,すなわち,本件原出願が,意匠登録を受けようとする意匠として一の意匠のみを包含するものとなるよう,本件第1次補正をしたことは明らかであるから,本件原出願における意匠登録を受けようとする意匠は,本件第1次補正により,第二形態の意匠のみとされ,第一形態の意匠は,本件原出願における意匠登録を受けようとする意匠から除外されたことにより放棄されたものと認めるのが相当である

 また,原告は,本件第1次補正によって意匠登録を受けようとする意匠とされた第二形態の意匠(部分意匠)が,意匠登録を受けようとする部分とその余の部分との境界が不明確であり,意匠法3条1項柱書に規定する意匠に該当しないとの本件原出願に係る第2回拒絶理由通知を受けたため,これに係る拒絶理由を解消するため,第二形態の意匠に係る必要な手続補正として,本件第3次補正をしたものと認めるのが相当である(なお,本件第2次補正は,本件第1次補正において記載漏れのあった軽微な事項の追加に係るものである。)。

(4) そうすると,本件原出願における意匠登録を受けようとする意匠は,本件第1次補正によって,本件原出願時から第二形態の意匠のみとされ,本件第3次補正も,第二形態の意匠についてされたものであるといえるから,本件出願の時点では,本件原出願における意匠登録を受けようとする意匠は,第二形態の意匠のみであったと認められる。
 したがって,本件原出願は,本件出願の時点では,「二以上の意匠を包含する意匠登録出願」ではなかったものであるから,本件出願が分割要件を欠くものであったことは明らかであり,その他,本件出願の時点において,同出願が分割要件を満たしていたものと認めるに足りる証拠はない。

2 原告の主張について
原告は,種々の根拠を挙げて,本件出願が分割要件を満たすものであったと主張するので,以下,順次検討する。
(1) 本件出願の時点における本件原出願の内容(意匠登録を受けようとする意匠)を本件原出願の出願時のものと解すべきであるとの主張について

・・・

原告は,「『意匠登録出願の願書の記載又は願書に添付した図面について補正があり,その補正がこれらの要旨を変更するものでないとき,書類等は出願当初から補正後の状態で提出されたものとして取り扱われる。』との審決の解釈に根拠はなく,まして,手続補正により,当初の出願時にさかのぼって,当初の出願手続書類等が手続補正書類等と差し替わるものではないから,本件各補正があっても,本件原出願の内容は,留保された状態にあるというべきである。」と主張する

 しかしながら,適法な手続補正がされれば,意匠登録出願の内容がその出願時にさかのぼって当該手続補正の内容のとおり変更されることは,意匠法9条の2,17条の2第1項及び17条の3の各規定から当然に導かれる解釈であるから,原告の上記主張は,独自の見解であるといわざるを得ず,採用することができない。

ウ 原告は,「審決は,『意匠登録出願の願書の記載又は願書に添付した図面について補正があり,その補正がこれらの要旨を変更するものでないとき,書類等は出願当初から補正後の状態で提出されたものとして取り扱われ,手続の補正があった時からその効力を有するものであり,手続は暫定的な状態にあるものではない。』と判断したが,手続補正により,当初の出願時にさかのぼって,当初の出願手続書類等が手続補正書類等と差し替わり,前者が取り下げられたり,放棄されたりするとの効果が生じるわけではない。そもそも,手続補正は,『一連の意味を持った手続経緯を有するもの』として,当該手続補正の内容につき『時系列的に出願当初からの効力を持つ』ものであるから,当初の出願の目的及び範囲において,以後も手続補正は可能であり(先行の手続補正は,後行の手続行為を拘束するものではない。),その意味で,手続補正は暫定的なものである。」と主張する

 確かに,適法な手続補正がされても,その後に,再度,適法な手続補正がされれば,前者の手続補正によって変更された意匠登録出願の内容は,後者の手続補正の内容のとおり変更されるのであるが,これは,適法な手続補正の効果として意匠登録出願内容が出願時に遡及して変更されることがあり得ることを意味するに止まり,このような可能性があるからといって,出願内容自体が未確定ないし浮動的なものであることを意味するものとしての「暫定的」なものであるとするのは相当ではない

 そして,原告の上記主張は,結局は,適法な手続補正がされても,当初の意匠登録出願の時点にさかのぼって,その内容が変更されるものではない旨をいうものであるから,上記イにおいて説示したとおり,これを採用することはできない。

・・・

(2) 本件参考図の存在により,本件第3次補正後の本件原出願に二の意匠が包含されているとの主張について
・・・

イ 原告は,「手続補正によりいったん削除した記載であっても,その後の手続補正(回復補正)により,再度,当該記載を加えることは可能であると解され,したがって,本件参考図を,当初の出願書類に添付されていた一組の図面(意匠登録を受けようとする意匠)に補正することも可能であると解されるところ(これは,当業者にとって自明である第一形態の意匠の他の部分の構成態様を念のために補正・補充するものである。),本件出願に当たり,当該手続補正を行った上で,出願の分割(本件出願)を行うというのは,審査官にとっても出願人にとっても迂遠な方法であり,手続経済的合理性を欠くから,本件においては,当該手続補正を経ることなく,出願の分割が可能であったと解すべきである。」と主張する

 しかしながら,前記1(2)のとおりの本件審査手続の経過に照らせば,本件原出願について原告が主張するような手続補正を行うことは,要旨変更に当たるものとして許されない上,意匠法7条の規定にも違反するものであって不適法であることが明らかであるから,当該手続補正が適法に行えることを前提とする原告の主張は,その前提を欠くものとして,失当である。』

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