知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

望ましい構成を開示した部分の実施可能性の判断

2010-08-10 06:40:18 | Weblog
事件番号 平成21(行ケ)10246
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

第3 原告主張の要旨
1 取消事由1(実施可能要件についての判断の誤り)
(1) ・・・
 そして,審決は,「流路の粘性抵抗が,溶融金属の性状,ライニングの材質,表面粗さ等,種々の要因により変動し,他方,溶融金属自体の重量やその影響が,金属の種類,流路の長さ(高さ),流速等によって変わることが明らかである」と正しく認定しているのであるから,当該認定からすれば,本件特許発明3における発明特定事項の記載のみでは,明細書に記載された目的とする効果(溶融金属を容器内から導出する際に容器内を非常に小さな圧力で加圧すればよくなること)を奏さず,その他発明の詳細な説明の記載を参酌しても本件特許発明を当業者が実施することが不可能であることは明らかである。


第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(実施可能要件についての判断の誤り)について
(1) 本件特許発明に係る明細書(平成19年10月22日付け訂正審判請求が認められた後のもの。甲12)には,以下の記載がある。
・・・
(2) 本件特許発明は,いずれも平成19年10月22日付け訂正審判請求が認められたことにより,ハッチや貫通孔といった構成が加えられ,それによって,進歩性が認められたものである。上記各構成が加えられる前の請求項3に係る発明は,原告が本訴で問題としている,流路の有効内径の数値限定部分等を発明の本質的事項の一部としていたといえるが,上記訂正により,同部分は,それによって進歩性が認められる事項ではなく,単に望ましい構成を開示しているにすぎないといえる。

(3) 以上を前提として,本件特許発明3につき実施可能要件違反の有無を検討するに,本件特許発明3の目的の1つと解される「溶融金属を容器内から導出するために必要な圧力を小さくすること」を達成するためには,溶融金属の重量,流路の粘性抵抗等の条件を設定する必要があり,そのうち粘性抵抗については,・・・等のパラメータによって決定され,溶融金属の重量やそれによる影響は,・・・等のパラメータによって決定されるものである。
 そうすると,単に「溶融金属を導出するために必要な圧力を小さくする」との目的のみを達成するためであれば,流路の有効内径以外のパラメータも設定する必要があることは自明であり,その限りにおいて,原告の主張は誤りではない

 しかしながら,「導出圧力の最小化」は,本件特許発明においては付随的な目的にすぎない。この点を措くとしても,被告が主張するように,公道を介して搬送する取鍋の内径は,取鍋を搬送するトラックの車幅との関係で,一定の限度内に収まらざるを得ないのであり,また,そのトラックの車幅も,公道の幅員等により,自ずから相当の限度内になるものということができる

 この点につき,原告は,公道搬送可能な取鍋の大きさは千差万別である旨主張するが,取鍋の標準的な大きさは一定の範囲で自ずから存在するものであり,逆に,単に「望ましい」事項を記載しているにすぎない部分においても,あらゆる大きさや種類のトラックに対して有効なすべてのパラメータを提供しなければならないとするのでは,特許権者や出願人に過大な要求をするものであって,相当ではない。

<同趣旨の判示>
平成22年07月20日 平成21(行ケ)10244等

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