知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

「元祖」を巡る争い

2007-10-28 19:31:33 | Weblog
事件番号 平成19(ネ)1229
事件名 不正競争行為差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成19年10月25日
裁判所名 大阪高等裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 若林諒

『第2 事案の概要
・・・
〔控訴人〕
(1) 「元祖」表示が品質誤認表示行為にあたるか
ア 不競法2条1項13号の趣旨からすると,顧客が商品の選定に際して参考にする情報が客観的に誤ったものであれば広く品質誤認表示にあたると判断すべきであり,また,誤認表示にあたるか否かは,一般的な需要者を基準として当該表示に接した場合に誤認が生ずるかによって判断すべきであって,商品の客観的な特色に該当する情報のうち需要者の商品選定に影響を与えるものは,広く同号の「品質」にあたると解すべきである。
 被控訴人商品のような食品については,商標登録拒絶査定審決で「元祖」の文字は「ものごとを始めた者」を意味する語であり,当該商品を初めて作り出した者の意で商品の品質を誇称して表示する場合によく使用される語であるなどと判断されており(甲27),「物事を初めてしだした人」の意味において需要者の商品選択の重要な要素になる(甲47,48)。特にアイデア商品については,今まで誰も思い付かなかったアイデアを思い付いた点に重要な価値があり,これが需要者の商品選定の重要な考慮要素となる。
 「元祖」表示を見た需要者において,かかる表示を付する者が最初に当該商品を思い付いた者であるところに希少価値を求めて誘引されることは社会通念上明らかである

 控訴人商品は,たれがあるので食べづらい伝統的な菓子であるみたらし団子を,醤油だれと餅生地を逆にした点に特徴のある画期的なアイデア商品,斬新な商品であるから,これを考え出した者であること自体に大きな価値があり,「元祖」表示は「製造販売を継続している中で最古のもの」ではなく「物事を初めてしだした人」の意味において,需要者の商品選定に大きな影響を与える。控訴人・被控訴人ともこの点に価値を見いだし,他の商品との差別化を図り販売しているものであり,被控訴人も被控訴人商品の最大の売りとして「元祖」であることを自ら積極的に宣伝広告している。

 控訴人商品がインターネット掲示板でまがい物扱いされたこと(甲28~30,40)は,「元祖」表示が一般需要者に対して与える印象を決定づける。一般需要者は控訴人商品との比較において被控訴人商品が伝統がある優位性のある商品と認識する。販売を継続できたのは優れた品質が顧客に支持されたからであるとして,「元祖」を「製造販売を継続している中で最古のもの」と解するのは,判断することが著しく困難な主観的かつ抽象的意味での品質の良し悪しを前提とするもので誤りである。』


『第3 当裁判所の判断
1 「元祖」表示による品質誤認表示行為の有無(不競法2条1項13号)
(1) 原判決「事実及び理由」第3・3記載のとおりであるからこれを引用する。当裁判所もかかる請求は理由がないと判断する。
(2) 控訴人の当審補充主張
ア 控訴人は,商品の客観的な特色に該当する情報のうち需要者の商品選定に影響を与えるものは,広く同号の「品質」にあたると解すべきであるところ,「元祖」は「ものごとを始めた者」を意味する語であり,当該商品を初めて作り出した者の意で商品の品質を誇称して表示する場合によく使用される語であって,特に控訴人商品のようなアイデア商品については,アイデアを思い付いた点に重要な価値があり,これが需要者の商品選定の重要な考慮要素になるなどと主張する

 しかるに,引用に係る原判決の認定・説示のとおり(15頁20行目~17頁7行目),同種の菓子食品であっても品質等(原材料,成分・栄養分,添加物の有無,味覚,食感,消費期限,保存方法等),様々な点に違いがあるのが通常であって,一番最初に当該商品についての着想を得る等した者が製造した商品であるからといって,必ずしもその品質が優れているとは限らないから,「元祖」を上記のように解したとしてもかかる表示が直ちに商品の特定の品質に結びついて商品選定に影響するとは認められない。また,「一家系の最初の人」も意味する「元祖」の語義からすれば,一般論としてはこれを付した商品が相応の歴史・伝統を有するものとして商品選定に何がしかの影響を及ぼすことがあり得るとしても,本件商品のような新しい着想による,歴史・伝統の浅い商品について「元祖」表示を付することが,その品質に係る優位性を強調することに繋がるとは必ずしもいえず,かかる商品についての「元祖」表示が,直ちに商品選定に影響するとは認められない

 また,仮に,かかる意味での「元祖」表示をもって品質についての表示と見うるとしても,控訴人が平成元年5月30日にした特許出願(甲3,4,16,21,22,43)より前に,レオンがみたらしだれ等の液状の蜜を餅生地で包んだ和菓子の製造機械を開発して販売していたこと(乙18),被控訴人も,レオンから上記機械を導入して,同社提供の配合表を参考としつつ,独自に被控訴人商品を開発して製造販売を開始したものであること(乙11,17),及び引用に係る原判決の認定・説示のとおりの控訴人商品の製造経緯(16頁9行目~17頁3行目,20頁9行目~22頁4行目)に照らせば,着想,研究・試作の点はともかく,控訴人が開発,及び試験販売に至るのは平成4年6月からであって,控訴人商品の製造販売の程度と対比した被控訴人商品の製造販売の経緯と規模からして,商業的には被控訴人が上記商品を一番最初に製造販売して一般需要者に認知させたともいい得るものであり,被控訴人商品について「元祖」表示をすることが品質誤認表示にあたると直ちに認めるに足りない。』

『2 「元祖」表示による営業誹謗行為の有無(不競法2条1項14号)
(1) 原判決「事実及び理由」第3・4記載のとおりであるからこれを引用する。当裁判所もかかる請求は理由がないと判断する。

(2) 控訴人の当審補充主張
 控訴人は,「元祖」を「製造販売を継続している者の中で最古の者」と解釈するのは誤りであり,また「初めてしだした人」の他が真似であることは社会通念上一般的な理解であって,特に,控訴人・被控訴人のような典型的な競業者の場合,アイデア商品の販売を後発的に開始した業者は,先発業者の商品を真似したものと一般需要者に理解されるリスクを孕んでいるから,「元祖」表示は控訴人の営業誹謗行為にあたると主張する
 しかし,前記引用に係る原判決の認定・説示のとおり(22頁13行目~23頁7行目), 「元祖」表示は,自らについて説明するものといえても,他の同業者について何ら述べるものではないから,それのみでは他の同業者の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知又は流布したといえない など,かかる主張は採用できない。』

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