知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

異なる技術的課題の解決を目的として同じ解決手段(構成)に到達したとされた事例

2012-05-27 21:38:25 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10298
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣


 しかし,引用発明において,前記(1)アないしカ記載の周知技術を適用する動機付けは存在することは前記(3)のとおりである。そして,引用発明に上記周知技術を適用する動機付けがあることが明らかである以上,引用発明に上記周知技術を適用して相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得ることである。また,前記(4)のとおり,引用発明に上記周知技術を適用し,・・・,引用発明における記録方法によって行うことは,当業者が当然に行うものであり,その結果,引用発明における記録方法で記録された各情報層では,クラスタ間のリンキングセクタL3で,リンキング用セクタに配されたダミーデータどうしが重複することは,前記3で検討したとおりである。
 そうすると,引用発明に上記周知技術を適用し・・・,各情報層においてクラスタ間にはダミーデータが配されたマルチレイヤー記録担体の上方情報層を通過して下方情報層に達する光を照射する際に,上方情報層における光透過率が均一となることは,その構成から当業者には自明である

 したがって,本件補正発明が「均一な光透過率とすることにより,下方情報層へのデータ書き込みに悪影響を与えないようにするという」という課題を有するものであり,他方,引用発明は,このような課題を有するものではないとしても,異なる技術的課題の解決を目的として同じ解決手段(構成)に到達することはあり得るのであり,実際,引用発明に上記周知技術を適用することにより,相違点1に係る本件補正発明の構成とした場合には,各情報層はギャップが存在しないものとなる以上,引用発明が複数の情報層を備えていないからといって,本件補正発明と同様の構成とすることが想到し得ないということはできず,原告の主張は理由がない。

特許出願の請求項の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定することの適法性

2012-05-27 18:02:05 | 特許法その他
事件番号 平成23(行ケ)10296
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 原告は,審決は請求項1の発明の進歩性についてのみ判断し,請求項2ないし4の発明の進歩性について判断しておらず,不当,違法であると主張する。

 しかしながら,特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて一つの特許が付与され,一つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。このことは,特許法49条,51条の文言や,特許出願分割制度の存在自体に照らしても明らかである(最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決民集62巻7号1905頁参照)。
 なお,拒絶査定を受けた出願人が不服審判請求をするために請求項の数に応じた手数料を納付しなければならないのは,審判においてすべての請求項につき審理・判断の可能性があることに対応するものであって,出願拒絶についての可分的な取扱いと結び付くものではない

 したがって,審決が請求項2ないし4の発明の進歩性について判断をしなかったとしても違法ではなく,原告が主張する取消事由3は理由がない。

特定の実施例の作用効果と発明の構成に基づく効果

2012-05-27 17:31:10 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10199
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 以上によれば,本件明細書に記載された本件発明の実施例(本件実施例)が達成した8%というEL効率は,発光層のホスト材料としてCBPを採用し,かつ,BCPからなる励起子阻止層を採用した場合に限って得られるものであって,発光層に「芳香族配位子を有するリン光性有機金属イリジウム錯体」を採用したことによって当然に得られるものとは認められず,したがって,当該イリジウム錯体に含まれるfac-Ir(thpy)3を発光層に採用したとしても,そのことによって上記の8%というEL効率が達成されるものとは認められない。

 以上のとおり,本件発明のうち,特定の実施例(本件実施例)が顕著な作用効果(8%というEL効率)を示しているとしても,当該作用効果は,本件発明の構成に基づいて得られたものとは認められないから,本件明細書は,それ自体,本件発明がその構成によって顕著な作用効果を有していることや,ましてfac-Ir(thpy)3を発光層に採用した場合に顕著な作用効果を発揮することを明らかにしているとはいい難い
 ・・・
 よって,本件発明の容易想到性の評価に当たって,本件実施例の有する作用効果を参酌することはできないというほかない。

相当程度進行した請負契約の解除

2012-05-27 17:15:19 | Weblog
事件番号 平成22(ワ)17142
事件名 物件返還等請求事件
裁判年月日 平成24年05月15日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 その他
訴訟類型 民事訴訟
裁判官 志賀勝(裁判長裁判官 阿部正幸 転補)

 被告代表者は,平成22年3月12日,原告に一方的に被告の仕事を辞めるようにと告げており,これは,本件各請負契約の注文者である被告が原告に対し解除権(民法641条)を行使したものということができる。このように,本件各請負契約は本件各物件が完成する前に解除されているものの,前記1(2),(3)及び後記イ,(2)アによれば上記解除の時点において,本件各物件の製作は相当程度進行していたことが認められるのであり,このような場合においては,既に製作された部分に対する請負契約の解除は許されず,請負人である原告は,被告に対し,本件各請負契約が解除された時点における本件各物件の完成度に応じた出来高に係る請負代金請求権を有すると解するのが相当である。