知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

構成の意義を明細書の記載から認定して引用発明と対比した事例

2011-03-07 22:01:19 | 特許法29条の2
事件番号 平成22(行ケ)10299
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(1) 本件明細書の記載
本件明細書(甲19)には,「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」との構成に関して,以下の記載がある。
 ・・・
 このように,本件発明1の上記実施例は,「給水管配設空間部」を「カバー部材」により覆うことにより,全体として平面的に形成され,見栄えが非常に良くなるとの効果を生じるとするものである。すなわち,「カバー部材」を用いずに「給水管配設空間部」のような空隙を生じさせた場合には,全体として平面的に形成されず,見栄えが悪くなると解される。
以上のとおり,「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」ことの意義は,全体として平面的に形成され,見栄えが非常に良くなることを意味しているものといえる。本件明細書には,同記載部分を除いて,「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」ことの意義に関する記載はない。
 ・・・
3 相違点1の実質的同一性に係る判断
 上記によれば,本件発明1における植栽マットを「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」との構成の技術的意味は,給水管配設用空間部22を形成し得るような「空隙」が生じないというものであって,植栽設備が全体として平面的に形成され,その見栄えが非常に良くなるとするものである。
他方,甲2-1発明の緑化構造も,雑然としたイメージを排除して花壇のような美しい景観を造り出すように載置するものであって,本件発明1の植栽設備と同様の美観上の効果を有するものであることに照らせば,甲2-1発明の緑化構造は,本件発明1の「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」との構成を備えるものであるといえる
 そうすると,相違点1(「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」との限定の有無)は実質的な相違点に当たらず,本件発明 1 と,甲2-1 発明とは同一の発明であり,特許法29条の2の規定に違反して特許されたものとして本件発明1及び2の特許がいずれも無効である旨判断した第2次審決には誤りがないということができる。

原審

拒絶査定の理由とは異なる理由の審決

2011-03-07 21:39:45 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10174
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(2) 判断
ア 上記(1) ア認定の事実及び弁論の全趣旨によれば,
 平成19年10月19日付け拒絶理由通知書及び平成20年5月13日付け拒絶査定においては, 引用発明との相違点に関する本願発明の構成である「1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室」について,引用例2に開示されていると認定し,これを理由として,本願発明は,当業者が容易になし得たものと認められると判断したこと,
 原告(審判請求人)が,平成20年10月27日付け手続補正書において上記認定を争ったところ,審決においては,一方で,引用例2における「キャピラリー室の容量」は本願発明のものより大きいことを認定し,他方で,甲10ないし12を引用し,これに基づいて,「グルコースセンサの分野において,検査に用いるサンプル量を少なくするためにサンプル室の容量を小さなものとすることは,本願優先権主張日前に,当業者の間に広く知られた課題であって,サンプル室の容量を1μl以下としたものも周知である」としこれを理由として,「引用発明において,キャピラリー室の容量および深さを,上記相違点2における本願発明のようにすることは,・・・容易に想到しうる程度のことである」と判断したこと,
 甲10ないし12については,審決に至るまでの手続では提示されず,それらに記載された技術が周知であることについて,原告に意見を述べる機会を付与しなかったこと等の事実が認められる。

 以上によれば,審決は,相違点2に係る本願発明の構成である「1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室」とすることが容易想到であると判断するに当たって,引用例2に開示されているとした査定の理由とは異なり,甲10ないし12に基づき,サンプル室の容量を1μl以下としたものが周知であるとの理由によって結論を導いたことが認められる。そうすると,審判手続において,原告に対し,拒絶の理由を通知し,意見書を提出する機会を与えるべきであったにもかかわらず,その機会を付与しなかったから,特許法159条2項で準用する同法50条に違反する手続違背があり,この手続違背は審決の結論に影響を及ぼすというべきである。