知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

反駁の機会を与えることなく職権審理結果通知に記載の判断と異なる判断を示した審決

2011-03-13 23:22:31 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10221
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟

1 手続上の瑕疵(取消事由1)について
 審判手続には,適切な釈明がされなかったとの手続上の瑕疵はない。その理由は,以下のとおりである。
 原告は,
① 特許庁が,平成22年4月21日,原告に対し,訂正審判請求書(甲44)の副本と,本件訂正を拒絶する旨記載した職権審理結果通知書(甲47)を同時に発送し,同月22日,それらが原告に到達したこと,
② 被告の平成22年5月20日付け意見書(甲50)には,訂正審判請求書(甲44)では全く主張されていない主張が記載されていたこと,
③ 平成22年6月10日,審理終結通知書(甲65)と被告の平成22年5月20日付け意見書(甲50)の副本(甲64)が同時に原告に到達したこと,
④ 審決は,被告の平成22年5月20日付け意見書(甲50)に記載されていた意見を容れ,職権審理結果通知書(甲47)で示した見解と全く矛盾する見解を述べた上,本件訂正を認めたこと,などの経過を前提として,審判官は,原告に対し,平成22年5月20日付け意見書(甲50)に対する反駁の機会を与えるべきであり,そのための釈明をすべきであったが,そのような釈明はされなかったから,審判手続には,適切な釈明権の行使を怠ったとの手続上の瑕疵があると主張する。

 しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することはできない。

(1) 差戻後の本件無効審判の審理の経過は,前記第2,1(3)のとおりである。
 職権審理結果通知は,当事者又は参加人が申し立てない理由について審理したときに,その審理の結果を当事者等に通知し,相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与えるものであり(特許法134条の2第3項),意見書の提出を前提としていることからすると,意見書を参酌した上で,その後の審判官の見解が,職権審理結果通知書の記載と変わる場合のあることを予定しているものと認められ,職権審理結果通知書の記載が,審決の結論又は理由を拘束するとの法的根拠はない。
 そうすると,本件訂正を拒絶する旨の職権審理結果通知書(甲47)の記載とは結論及び理由を異にして,本件訂正を認める旨の審決が行われたとしても,その点をもって違法ということはできない。

(2) 原告に送付された訂正請求書副本の送付通知(甲63)には,「本件無効審判について本件訂正請求がされたものとみなされた」旨,「本件訂正請求に対して意見があれば訂正審判請求書副本発送の日から30日以内に提出するよう促す」旨が記載されていた。そして,前記(1)のとおり,職権審理結果通知書の記載は,審決の結論又は理由を拘束することはなく,審判官の見解は,職権審理結果通知書の記載と変わる場合があり得るから,原告は,審判官の見解が職権審理結果通知書の記載と変わる場合にも備えて,本件訂正請求について意見を述べることができ,その機会が与えられていたということができる。

(3) 原告は,被告の平成22年5月20日付け意見書(甲50)には,訂正審判請求書(甲44)で主張されていなかった事項が記載されていた旨主張する。ところで,特許法156条2項は,審判長は,職権審理通知をした後であっても,当事者の申立てにより又は職権で審理の再開をすることができる旨規定する。したがって,原告は,被告の平成22年5月20日付け意見書(甲50)に対する反論が必要であると判断した場合には,審理の再開を申し立て,再開された審理において,被告の上記意見書に対する反論をすることができたといえる。それにもかかわらず,原告は,審理の再開を求めることすら行わなかった

(4) 以上の事情を考慮すると,本件において,審判官に,審理終結の前に原告に対して反論の機会を与えるための釈明をすべき義務があったとする根拠はないし,そのような釈明が行われなかったとしても,それによって原告の反論の機会が失われたということはできない。