知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許権者は警告が「虚偽の事実」の告知とならないよう高度の注意義務を負うか

2011-03-06 22:45:16 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)31686
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成23年02月25日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(2) 不競法2条1項14号に基づく損害賠償責任の有無
ア 前記1で認定したとおり,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるから,・・・,本件告知の内容は,結果的にみて,虚偽であったことになる
・・・
カ 以上のように,特許権者である1審被告が,特許発明を実施するミヤガワらに対し,本件特許権の侵害である旨の告知をしたことについては,特許権者の権利行使というべきものであるところ,本件訴訟において,本件特許の有効性が争われ,結果的に本件特許が無効にされるべきものとして権利行使が許されないとされるため,1審原告の営業上の信用を害する結果となる場合であっても,このような場合における1審被告の1審原告に対する不競法2条1項14号による損害賠償責任の有無を検討するに当たっては,特許権者の権利行使を不必要に萎縮させるおそれの有無や,営業上の信用を害される競業者の利益を総合的に考慮した上で,違法性や故意過失の有無を判断すべきものと解される。

 しかるところ,前記認定のとおり,本件特許の無効理由については,本件告知行為の時点において明らかなものではなく,新規性欠如といった明確なものではなかったことに照らすと,前記認定の無効理由について1審被告が十分な検討をしなかったという注意義務違反を認めることはできない
 そして,結果的に,旭化成建材の取引のルートが1審原告から1審被告に変更されたとしても,本件告知行為は,その時点においてみれば,内容ないし態様においても社会通念上著しく不相当であるとはいえず,本件特許権に基づく権利行使の範囲を逸脱するものとまではいうこともできない


(原審)
事件番号 平成20(ワ)18769等
裁判年月日 平成22年09月17日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 岡本岳

 特許権者が,競争関係にある者が製造する物品について,その取引先に対し特許権の侵害を主張して警告することは,これにより当該警告を受けた取引先が特許権者による差止請求,損害賠償請求等の権利行使を懸念し,当該物品の取引を差し控えるなどして上記製造者の営業上の利益を損う事態に至るであろうことが容易に予測できるのであるから,特許権者は,そのような, 警告をするに当たっては 当該警告が不競法2条1項14号の「虚偽の事実」の告知とならないよう,当該特許に無効事由がないか,当該物品が真に侵害品に該当するか否かについて検討すべき高度の注意義務を負うものと解すべきである。
 そこで,このような見地に立って本件について検討すると,上記1で説示したように,本件特許発明は,当業者が引用発明,甲18の2刊行物及び甲19の2刊行物の記載に基づき容易に発明することができたものであって進歩性を欠くものであるが,
① 引用発明が記載された甲22刊行物は,本件特許出願の3年以上前の平成11年1月に旭化成建材がパワーボードの施工をする業者向けに発行した技術情報パンフレットであり,相当の部数が当業者に配布されたことが推認できること,
② 副引用例である甲18の2刊行物及び甲19の2刊行物は本件特許権の出願審査の過程でされた平成19年4月24日付け拒絶理由通知において引用文献として指摘されていたこと(乙)5 ,
③ それにもかかわらず,被告が甲3及び甲4の書面を送付するに当たり,本件特許の無効事由の有無につき検討したのか否か,したとすればどのような検討を行ったのか
について,被告は何ら主張立証をしていないこと等に照らすと,被告が本件告知行為を行うに当たって上記注意義務を尽くしたと認めることはできず,被告には過失があるというべきである。