知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標法50条1項の「使用」の意義

2009-10-25 16:20:20 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10216
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年10月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 標章の「使用」に当たる行為について規定する法2条3項2号に法改正によって「輸出」が追加されたのは,経済のグローバル化の進展により,模倣品問題が国際化・深刻化してきたことにかんがみ,国内の製造や譲渡の段階で差し止めることができない場合でも,輸出者が判明した場合には,権利者が輸出の段階で差止めなどの措置を講ずることを可能とするためであり,主として商標権の侵害の場面が想定されている
・・・
 したがって,「輸出」は不使用取消しの場面における商標の「使用」には該当しないというべきであり,仮に,本件において被告主張の輸出の事実が認められるとしても,当該事実から本件商標について法50条にいう使用を認めた本件審決の判断は誤りというべきである


第4 当裁判所の判断
・・・
(1) 不使用取消審判における「使用」の意義
 法50条1項は,継続して3年以上日本国内において指定商品についての登録商標の使用がされていないときに,当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる旨を規定し,同条2項は,不使用取消審判においては,商標権者等が使用の事実を証明しない限り商標登録の取消しを免れない旨を規定しているが,法は,標章の「使用」に当たる行為についても法2条3項各号をもって定義しているところ,同項2号によると,「商品又は商品の包装の標章を付したものを譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,又は電気通信回線を通じて提供する行為」は標章の「使用」に当たると規定されている

 法50条に規定されている不使用取消審判の制度は,本来商標の使用によって蓄積された信用に対して与えられる商標法上の保護を,長期間にわたって使用されていない商標に与えたままにしておくことは,国民一般の利益を不当に侵害し,かつ,その存在により権利者以外の商標使用希望者の商標の選択の余地を狭めることとなるため,そのような商標登録を取り消すための制度であると解される。
 そして,この制度の適切な運用により,長期間使用されていない登録商標が取り消され,登録商標に対する信頼が相対的に確保されるのであり,これは商標を保護して商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図るという法の目的に合致するものであり,不使用取消審判の場面における「使用」の概念を法2条3項各号において定義されているものと別異に理解すべき理由はない

 この点について,原告は,法2条3項2号に規定する標章の使用に当たる行為に「輸出」が加えられたのが法改正(判決注:平成18年法律第55号による改正をいう。)によるものであることから,法改正前には使用に当たらなかった輸出については,法改正後も使用に当たらないと解すべきであるとの趣旨の主張をするが,少なくとも法改正後の現在においては上記のとおりに解されるべきものであるから,原告の主張を採用することはできない。

平成21(行ケ)10217も同趣旨

引用例から構成は組み上がっても動機付けがないとした事例

2009-10-25 15:25:40 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(行ケ)10398
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年10月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣


(1) 化粧用シート部材にWJ加工をするとの構成に係る解決課題
・・・
ウ したがって,本件各発明において,個々の化粧用パック材にWJ加工を施すことにより解決すべき主たる課題は,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちの防止にあったということができる

エ そして,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちを防止することが,本件出願当時の当業者にとって自明又は周知の課題であったと認めるに足りる証拠はなく,・・・,本件出願当時の当業者は,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちを防止することを解決課題として認識していなかったものと認めるのが相当である。

 ・・・

(2) 化粧用パッティング材(化粧綿)から剥離される各層(各部材)にWJ加工を施す動機付け
 ・・・
イ上記引用例の記載によると,・・・,引用例には,積層構造体として形成された単位コットンから各層を剥離した際に生じる毛羽立ちを防止するため,各層にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆はない。
・・・

ウ そして,その他,本件全証拠によっても,化粧用パッティング材(化粧綿)から剥離される各層(各シート部材)にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆のある刊行物(本件出願前に頒布されたもの)が存在するものと認めることはできない

(3) 本件審決の判断の当否
 上記(1)及び(2)のとおり,化粧用パック材にWJ加工を施すとの本件各発明の構成は,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちの防止を主たる解決課題として採用されたものであるところ,同課題が本件出願当時の当業者にとっての自明又は周知の課題であったということはできず,また,引用例を含め,化粧用パッティング材(化粧綿)から剥離される各層(各シート部材)にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆のある刊行物(本件出願前に頒布されたもの)は存在しないのであるから,仮に,本件審決が判断したとおり,引用発明に周知事項1及び2を適用して各層(化粧用シート部材)の側縁部近傍を圧着手段により剥離可能に接合するとともに,各層を化粧用パック材として使用することが,本件出願当時の当業者において容易になし得ることであったとしても,また,引用発明の単位コットン(化粧用パッティング材)がWJ加工を施したものであることを考慮しても,これらから当然に,各層を1枚ごとに剥離可能としてパック材として使用する際にその使用形態に合わせて各層にWJ加工を施すことについてまで,本件出願当時の当業者において必要に応じ適宜なし得ることであったということはできず,その他,引用発明の各層にWJ加工を施すことが本件出願当時の当業者において必要に応じ適宜なし得たものと認めるに足りる証拠はないから,相違点1に係る各構成のうち化粧用パック材にWJ加工を施すとの構成についての本件審決の判断は誤りであるといわざるを得ない。