知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許法29条の2のクレーム解釈

2006-12-03 22:24:36 | 特許法29条の2
事件番号 平成18(行ケ)10110
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年11月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一


『訂正審判請求書添付の訂正明細書のもの(下線部分が訂正箇所)
【請求項1】
 画像形成に用いた画像形成装置を特定するために,少なくとも画像形成装置ごとに割り当てられた情報を含んだ符号化パターンである2次元ビットマップ情報を該装置内で発生する手段と,
選択的に,入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加する付加手段と,
 前記付加手段からの信号に基づき記録媒体上に画像を形成する手段とを有し
 前記付加手段は,
a)前記入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加する場合,前記入力画像信号に前記符号化パターンの一部を付加した信号と付加しない信号とを局所的に切り替えて出力することによって前記2次元ビットマップ情報を示す前記符号化パターンを前記入力画像信号に付加し,
b)前記入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加しない場合,前記入力画像信号をそのまま出力する,
 ことを特徴とする画像形成装置。』


『(3) 原告は,符号化とは,「ある情報を別の表現体系へ対応づける」ことであり,処理の実態は変換であって,符号化パターンは,記号等とは異なる次元の情報であり,これにより,その作用効果にも差が生じるものであって,先願発明には,訂正発明の「2次元ビットマップ情報を該装置内で発生する手段」がないと主張する。
しかしながら,符号とは,一般に,記号の一形態を意味するものと理解されるものであって,このことは,「符号」が,「〔1〕・・・〔2〕情報を表現するための記号の配列。コードという。一般に0と1の記号が使われる。・・・」(オーム社発行の「情報技術用語大辞典」(甲8)),「情報を表現する通報の集合に対し,あらかじめ約束された規則に従って対応付けられた記号列(符号語)の集合。
各記号列は1次元的に記号を連ねて構成される。符号を構成する個々の記号列を符号語という。・・・」(電子通信用語辞典(甲9))と定義されていることからも明らかである。そして,原告の主張する作用効果の差は,符号として記号を用いる際に,予め約束された規則によって,符号として用いる記号にどの程度の秘匿性や暗号性を持たせるかということに帰するのであって,当業者が必要に応じて適宜決めればよい技術的な設計事項にすぎない。』


『,この記載によれば,先願発明は,CPUが画像メモリ内の画像データを加工しているということができる。
しかしながら,先願発明でも,上記(3)のとおり,繰返し出力の周期に対応して,記号を重ねる位置を特定し,記号を重ねる場合には,記号の2次元ビットマップ情報に基づき,局所的に切り替えて,記号を重ねるための信号を出力しているのであり,また,上記1(2)のとおり,画像メモリの出力信号が,レーザドライバに送られて半導体レーザを駆動し,印刷出力を行っているのである。
このように,先願発明は,局所的に切り替えて加工した画像データを最終的に印刷出力しているのであるから,CPU1170と画像メモリ1116からなる構成により,訂正発明の「a)前記入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加する場合,前記入力画像信号に前記符号化パターンの一部を付加した信号と付加しない信号とを局所的に切り替えて出力することによって前記2次元ビットマップ情報を示す前記符号化パターンを前記入力画像信号に付加し,b)前記入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加しない場合,前記入力画像信号をそのまま出力する」との処理を行っていると解される。そして,訂正発明の付加手段が,まず,局所的に切り替えて画像メモリ内で加工を行い,その局所的に切り替えて加工された画像データを記録媒体に出力するという先願発明の構成を,排除することまでは特定していない。』


「ひよこ」の立体商標は登録商標になれない

2006-12-03 12:14:36 | Weblog
事件番号 平成17(行ケ)10673
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年11月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 中野哲弘

『 法3条2項は,法3条1項3号等のように本来は自他商品の識別性を有しない商標であっても,特定の商品形態が長期間継続的かつ独占的に使用され,宣伝もされてきたような場合には,結果としてその商品形態が商品の出所表示機能を有し周知性を獲得することになるので,いわゆる特別顕著性を取得したものとして,例外的にその登録を認めようとしたものと解される。
そして,この理は,平成9年4月1日から施行された立体商標についてもそのまま当てはまると解されるが,この場合に留意すべきことは,本件事案に即していえば,法3条2項の要件の有無はあくまでも別紙「立体商標を表示した書面」による立体的形状について独立して判断すべきであって,付随して使用された文字商標・称呼等は捨象して判断すべきであること,商標法は日本全国一律に適用されるものであるから,本件立体商標が前記特別顕著性を獲得したか否かは日本全体を基準として判断すべきであること等である。』

『 当裁判所は,被告の文字商標「ひよ子」は九州地方や関東地方を含む地域の需要者には広く知られていると認めることはできるものの,別紙「立体商標を表示した書面」のとおりの形状を有する本件立体商標それ自体は,未だ全国的な周知性を獲得するまでには至っていないと判断する。その理由は,以下に述べるとおりである。
・・・略・・・
被告の直営店舗の多くは九州北部,関東地方等に所在し,必ずしも日本全国にあまねく店舗が存在するものではなく,また,菓子「ひよ子」の販売形態や広告宣伝状況は,需要者が文字商標「ひよ子」に注目するような形態で行われているものであり,さらに,本件立体商標に係る鳥の形状と極めて類似した菓子が日本全国に多数存在し,その形状は和菓子としてありふれたものとの評価を免れないから,上記「ひよ子」の売上高の大きさ,広告宣伝等の頻繁さをもってしても,文字商標「ひよ子」についてはともかく,本件立体商標自体については,いまだ全国的な周知性を獲得するに至っていないものというべきである。』

『したがって,本件立体商標が使用された結果,登録審決時において,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができたと認めることはできず,本件立体商標は,いわゆる「自他商品識別力」(特別顕著性)の獲得がなされていないものとして,法3条2項の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」との要件を満たさないというほかない。』

審判官への忌避事由について

2006-12-03 11:59:36 | Weblog
事件番号 平成17(行ケ)10622
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年11月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

『原告は,本件特許出願に対し,Lが,引用例1,引用例3等の提出をすることにより情報提供を行い,また,審決の構成審判官の1人であるM審判官が,審決後にLの特許出願等の代理人として極めて多くの案件を手がけている弁理士が所属する弁理士事務所に入所したところ,その入所時期からみて,M審判官は,審決前に,同事務所が上記情報提供者であるLと,上記のような密接な関係を有することを知った上で,同事務所への入所を決定したはずであるとし,このような事実は,M審判官についての忌避事由に当たり,審決は,忌避事由を有する審判官が関与した違法があると主張する。
しかしながら,「審判官について審判の構成を妨げるべき事情があるとき」(特許法141条1項)とは,審判官と審判事件との関係から見て,不公正な審判がなされるであろうとの予測が,通常人を判断基準として,客観的に存する場合をいうものである。そして,仮に,Lが主張の情報提供を行い,かつ,M審判官が,審決当時,上記弁理士事務所にLの特許出願等の代理人として極めて多くの案件を手がけている弁理士が所属することを知った上で,入所することを決めていたとしても,情報提供は,特許法施行規則13条の2に根拠を有し,何人においてもすることのできる手続であること,M審判官が上記弁理士事務所に入所することを決めたからといって,同審判官とLとの間に,直接,何らかの関係が生ずるものではないことを併せ考えると,同審判官と本件審判事件との関係から見て,不公正な審判がなされるであろうとの予測が,通常人を判断基準として,客観的に存する場合に当たるということはできない。
 のみならず,審判官が忌避事由を有していたとしても,除斥事由を有する場合と異なり,当事者等の申立てに基づく忌避の決定(特許法143条)を経なければ,当該審判官が当該審判事件から排斥されるわけではない。そして,忌避の申立てがないまま,審決がなされた場合には,たとえ,それが,忌避事由が存することを当事者等において知らなかったためであったとしても,もはや当事者等は忌避申立てをすることができなくなったと解すべきであり,したがって,忌避の決定がなされる可能性はなくなったのであるから,当該審判官が審決に関与したことについて,忌避の制度との関係で違法の問題が生ずる余地はない。なお,忌避事由を有する審判官が審決に関与したことは,再審事由に当たるものともされていない(特許法171条2項,民事訴訟法338条1項)。
 そうすると,原告の上記主張は,いずれにしても失当である。』

分割の適法性(発明原理が同じであれば適法か)

2006-12-03 11:45:52 | 特許法44条(分割)
事件番号 平成17(行ケ)10796
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年11月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長 裁判官 三村量一

『(3) 本件出願は原出願の分割出願として出願されたものであり,分割出願として適法であるためには,本件出願に係る訂正発明が原明細書に包含されていたものでなければならない(特許法44条1項)。
訂正発明はリニアモータ以外の駆動装置を具体的に特定するものではなく,訂正発明の技術的範囲に駆動装置がリニアモータ以外のエレベータも含まれる(このことは,当事者間に争いがない。)。
前記(1)のとおり,原明細書には,「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」についての記載があるのみで,これ以外の駆動方式(例えば,巻上機駆動方式や油圧駆動方式)の機械室レスエレベータ装置についての記載は一切存在しない。
(4) 被告は,原明細書の記載から吊り車を傾斜させてA3(図1(b))<A2(図15(b))とすることが「昇降路の寸法を低減できる」という効果の理由であることを当業者が理解することは容易であり,このことは,エレベータをどのような駆動方式で駆動するかとは無関係であり,原明細書には,訂正発明1ないし4の構成と効果の関係が当業者に容易に理解できるように記載されているから,本件出願は適法な分割出願であると主張する。しかし,原明細書に訂正発明が包含されるかどうかは,原明細書の記載に基づいて定められるべきものである。仮に,吊り車を傾斜させて昇降路の寸法を低減できるという効果を奏することがエレベータの駆動方式と関係しないとしても,そのことと原明細書に訂正発明が開示されているか否かとは別問題であるから,そのことから原明細書に訂正発明の開示があるということはできない。
前記(1)のとおり,原明細書には,「機械室レスエレベータ装置」として「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」のみが記載されているのであり,吊り車を傾斜させることにより他の駆動方式によるエレベータにおいても昇降路の寸法を低減できるという効果を奏することができることを示す記載や,「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」が「機械室レスエレベータ装置」の例示にすぎないことを示す記載は存在しない。また,原明細書では,産業上の利用分野,従来の技術,発明が解決しようとする課題,課題を解決するための手段,実施例を通じて,終始「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」について説明されている。これらの記載によれば,原明細書記載の発明は,従来の「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」につき吊り車の構成の工夫により昇降路の寸法を低減する改良を加えたものであって,その対象となるエレベータを駆動方式として「リニアモータ駆動方式」を用いるものに限定した発明というべきである。』

(感想)
 高裁は、一貫して、原出願の開示範囲からの逸脱を厳しくとがめてきた。その流れを、はっきりと意識させる判決。一方で、審判は、分割要件(44条)については大目に見ている。これは、特許庁の審判一般にいえる傾向かもしれない。記載要件(36条)についても同様である。
 特許法は、自由競争の原理に例外をもうけて、発明の公開を条件に独占権を付与するものであること、に立ち返れば、特許権の効力がより強化されている今日においては、より明細書記載を重視した審査がなされるべきであり、特許法44条や36条の運用は、法の趣旨に忠実であるべきで、裁量により緩和すべきでものではない。
 したがって、本判決は支持されるべきものであって、実務者にとっては、重要な意味を持つものと考える。