知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標法4条1項7号の解釈

2006-12-30 23:03:03 | Weblog
事件番号 平成17(行ケ)10032
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 篠原勝美

審決は,本件商標の登録は,商標法4条1項7号に違反してされたものであるとしたのに対し,原告は,本件紛争は,原告とPの遺族の一人(三女)である被告との間の商標権の帰属をめぐる紛争,すなわち,私益に関する紛争にすぎないから,このような私人間の紛争の解決のために7号を適用した審決は,そもそも誤りである旨主張する。』

『 「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」につき,商標登録を受けることができないとする7号の文言自体からすれば,商標の構成自体に着目した規定となっているが,登録出願の経緯に照らし,商標法の予定する秩序に反する登録出願も,公の秩序に反するものというほかなく,これを有効とすることは同法の趣旨に反するものというべきである。そして,商標法4条1項各号には個別に不登録事由が定められていること,商標法においては商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることなどを併せ考えると,登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないような場合には,商標の構成自体に公序良俗違反のない商標であっても,7号に該当するものと認めるのが相当である
 原告は,本件紛争が私益に関する紛争であるとして,7号が適用されない旨主張するが,本件においては,原告の有する本件商標について,原告の登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものがあるか否かが争われているのであり,単に,原告と被告との間の私益に関する紛争が問題となっているものではないから,被告(審判請求人)からの本件無効審判請求において,審決が,本件商標の登録の有効性につき,その登録出願の経緯等を認定した上,7号の該当性判断を行ったことに原告主張のような誤りはない。』
 
『・・・
( 3) 以上認定の事実によれば,本件商標は,その登録出願時(平成6年5月18日)において,少なくとも空手及び格闘技に興味を持つ者の間では,Pの極真会館というまとまった一つの団体を出所として表示する標章として広く知られていたが,極真会館が法人格を有さず,極真会館の名義により商標登録出願を行うことができないところから,原告は,極真会館の代表者として個人名義で登録出願を行ったものである。
 一般に,法人格のない団体を出所として表示する商標がある場合,その団体自身の名義により商標の登録出願をすることはできず,他方,団体とは関係がない第三者がその登録出願を行うなどして,団体が不利益を被る可能性もあるから,団体の利益ないし権利を守るため,便宜上,代表者の個人名義で登録出願を行うことが,その団体の利益ないし権利を守るための行動であると認められる場合のあることは,否定することができない。
 しかし,団体の規模が小さく,いわば,代表者個人の団体と評価することができるような場合はともかく,団体としての組織運営に関する定めを有し,団体と代表者個人とが明確に区別され,多数の構成員からなる規模の大きな団体にあっては,団体と代表者個人の利害関係は必ずしも一致しない。そのような団体の場合,代表者は,団体のために,善良な管理者の注意をもって代表者としての事務を処理し,団体の重要な財産の管理,処分については,団体内部の適正な手続を経るべき義務を負うものというべきである
 ・・・
 したがって,原告は,極真会館のために,善良な管理者の注意をもって代表者としての事務を処理し,本件商標を含む本件関連登録商標のような極真会館の重要な財産の管理,処分については,極真会館内部の適正な手続を経るべき義務を負っていたものというべきである。』

『・・・
(6) 以上によれば,原告による本件商標の登録出願は,Pの生前の極真会館という膨大な構成員からなる規模の大きなまとまった一つの団体を出所として表示するものとして広く知られていた標章について,Pの死亡時から間もない当時の代表者である原告が個人名義でしたものであるところ,その登録出願は,極真会館のために,善良な管理者の注意をもって代表者としての事務を処理すべき義務に違反し,事前に団体内部においてその承認を得ると共に,その経過を直ちに報告するなど,極真会館内部の適正な手続を経るべき義務を怠り,個人的な利益を図る不正の目的で,秘密裏に行ったと評価できるものであり,極真会館としても,その後,それが不適切な行為であると表明していた。また,本件遺言が確認審判申立ての却下決定の確定により効力が認められず,原告は,少なくとも内部的には,正当な代表者であると主張する根拠を欠くに至っていた。そして,登録査定時において,原告は,X派と呼ばれる極真会館を名乗る団体の代表者であったのであるが,本件商標は,本来,上記のとおり,Pの生前の極真会館というまとまった一つの団体を出所として表示する標章として広く知られていたものであり,X派は,上記極真会館と同一性を有するものではないから,原告がX派と呼ばれる極真会館を名乗る団体の代表者であったことが,直ちに,本件商標の登録出願を正当化するものではない。かえって,本件商標の正当な出所といえるPの生前の極真会館が,その死後,複数の団体に分裂し,極真空手の道場を運営する各団体が対立競合している状況下において,Pの死亡時から間もない当時の極真会館の代表者としての原告が重大な義務違反により個人名義で登録出願したことによる本件商標の登録を,登録査定時においてPの生前の極真会館とは同一性を有しない一団体の代表者である原告にそのまま付与することは,商標法の予定する秩序に反するものといわざるを得ない。』

『・・・
(8) 以上によれば,本件商標の登録は,その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないというべきであるから,商標法4条1項7号に違反してされたものであるとして,同法46条1項の規定により,その登録を無効とすべきであるとした審決の結論に誤りはなく,原告主張の取消事由2は理由がない。』

以下も同旨を言うもの。(裁判所ホームページ掲載順に従う。)

事件番号 平成17(行ケ)10028
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 篠原勝美

事件番号 平成17(行ケ)10033
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年12月26日
裁判長裁判官 篠原勝美

事件番号 平成17(行ケ)10031
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 篠原勝美

事件番号 平成17(行ケ)10030
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 篠原勝美

事件番号 平成17(行ケ)10029
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年12月26日
裁判長裁判官 篠原勝美