知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

ソフトウェア関連発明の判断と複数の手続補正の扱い

2006-12-13 19:25:17 | 特許法29条柱書
事件番号 平成17(行ケ)10698
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年09月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 三村量一

原告らは,審判請求の日から30日以内に行われた複数の補正は,これらを一体のものとして把握した上で,後の補正を審判請求前の明細書及び図面と比較して補正の適否を判断すべきであり,そのように取り扱うことが当事者の意思に合致すると主張する
しかし,
① 特許法には,審判請求の日から30日以内という同一の補正の機会に行われた複数の補正がある場合に,それらの補正を一体のものとして扱うべきことを規定した条文は存在せず
② 特許法上,手続補正の手続は,方式不備等の理由に基づいて18条の規定により手続却下がされない限り,消滅することはないから,審判請求の日から30日以内に複数回の補正があった場合には,次の理由により,これらを一体として扱うのではなく,それぞれの補正を独立したものとして扱うべきものと解するのが相当である。

ある補正が,特許法17条の2第4項及び第5項の規定に適合するか否かについての判断をする場合には,当該補正よりも前の時点での特許請求の範囲を基準にしなければならないところ,その基準となるのは,最後に適法に補正された特許請求の範囲であり,そのような補正がない場合には願書に添付された特許請求の範囲である。そして,特許請求の範囲に関するある補正について上記判断をする場合において,それ以前にされた複数の補正についてその適否がいまだ判断されていないときには,補正のされた順番に従って,補正の適否について順次判断すべきである。』


『以上の検討結果によると,本願発明の各行為を人間が実施することもできるのであるから,本願発明は,「ネットワーク」,「ポイントアカウントデータベース」という手段を使用するものではあるが,全体としてみれば,これらの手段を道具として用いているにすぎないものであり,ポイントを管理するための人為的取り決めそのものである。したがって,本願発明は,自然法則を利用した技術的思想の創作とは,認められない。』

『上記旧請求項11には,「データベース」,「ネットワーク」との記載があるが,「データベース」は整理して体系的に蓄積されたデータの集まりを意味し,「ネットワーク」は通信網又は通信手段を意味するもので,いずれの文言もコンピュータを使ったものに限られるわけではない。したがって,上記旧請求項11の記載からは,本願発明の「ポイント管理方法」として,コンピュータを使ったものが想定されるものの,ソフトウエアがコンピュータに読み込まれることにより,ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段によって,使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより,使用目的に応じた特有の情報処理装置の動作方法を把握し得るだけの記載はない。』

『原告らは,ソフトウェア関連発明における特許請求の範囲の記載は,当業者が所期の目的・効果を実現できる程度に記載されていれば,十分具体的であり,それを超えて,その具体的な態様,例えば,中央処理装置,主メモリ,バス,外部記憶装置,各種インタフェース等のコンピュータの各部品をどのように用いるかまで,具体的に特定する必要はないから,旧請求項11の各ステップの記載は,当業者が所期の目的・効果を実現できるように記載されていると主張する。
審査基準(第Ⅶ部第1章2.2.2「判断の具体的な手順」(2))には,ソフトウェア関連発明において,ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されているか否かにより,「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるかを判断することが記載されているが,審査基準は,自然法則を利用した技術的思想の創作であるためには,コンピュータの部品の類まで具体的に特定する必要があるとするものではないし,コンピュータの部品の類まで具体的に特定していれば,「自然法則を利用した技術的思想の創作」であると判断するというものでもない。』


判決の拘束力-進歩性否定の原因となる要旨変更

2006-12-13 06:41:31 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10206
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年12月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 篠原勝美


『 特許無効審判事件についての本件審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は,特許法181条5項の規定に従い,当該審判事件について更に審理を行って審決をすることになるが,審決取消訴訟は,行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理ないし審決には,同法33条1項の規定により,上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文のみならず,判決主文の結論が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に対しても及ぶものと解すべきであるから,審判官は,上記事実認定及び法律判断に抵触する認定判断をすることは許されないものである(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)。そして,このことは,本件のように,特許法旧40条の規定の適用をめぐり,補正が当初明細書等の要旨の変更に当たるか否かについてされた審決取消しの確定判決についても同様である。

 この点について,原告は,本件は,特定の引用例との対比における発明の進歩性に関する審決取消判決がされた後の再度の審理・審決に対する拘束力が問題となる事案ではなく,本件出願当時の技術常識あるいは周知慣用の技術事項を証明し,ひいては,本件審決の判断の誤りを主張立証するものであって,引用例1を単に補強するだけでなく,これとあいまって初めて無効原因たり得るものであるから,前記最高裁判決の射程には入らず,前判決の拘束力の問題は生じない旨主張する。

 しかし,行政事件訴訟法33条1項は,「処分又は裁決を取り消す判決は,その事件について,処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。」と規定しており,「処分又は裁決を取り消す判決」に格別の限定を付しているわけではないから,上記最高裁判決が,発明の進歩性に関する取消判決を対象にしているからといって,その射程が発明の進歩性に関する取消判決に限られるものではなく,特許法旧40条の規定の適用をめぐり,補正が当初明細書等の要旨の変更に当たるか否かについてされた前判決についても拘束力が及ぶことは,上記のとおりである。

 そうすると,本件第2補正が当初明細書等の要旨の変更に当たるとした前判決について,新たな証拠を提出して当該判断を争うことは,再度,確定した取消判決の拘束力が及ぶ判断事項を蒸し返えそうとするものにほかならず,許されないものというべきである。』

『 本件についてみると,上記(1)ウ認定の事実によれば,前判決は,①当初明細書等には,対向間隙Yと両端面からの突出量α1,α2が「α1+α2=Y」の関係にあることが記載されていること,②他方,本件特許請求の範囲請求項1には,「α1+α2<Y」との関係が記載されていること,③したがって,本件第2補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものではなく,当初明細書等の要旨の変更に当たること,④そうすると,本件出願は,特許法旧40条の規定により,本件第2補正に係る手続補正書を提出した時にしたものとみなされるから,無効理由1についての前審決の認定判断は誤りであると判断したことが明らかであり,上記認定判断は,前審決を取り消す旨の前判決の判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断であったことが明らかである。
そうすると,確定した前判決の拘束力は,上記事実認定及び法律判断に及ぶものというべきである。』

新たな証拠による技術常識の参酌

2006-12-13 06:12:28 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10217
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年12月06日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 中野哲弘

『原告は,上記の国際公開第94/17229号公報(乙3)は審決に言及のない新たな引用文献であるから,これに基づき審決取消訴訟において進歩性の有無を判断することは許されない旨主張する。しかし,拒絶査定不服審判の審決に対する取消訴訟において,審判の手続において審理判断されていた刊行物記載の発明との対比における拒絶理由の存否を審理判断するに当たり,審判の手続に現れていなかった資料に基づき当業者の出願当時における技術常識を認定し,これをしんしゃくして上記発明との対比における拒絶理由の存否を認定判断したとしても,違法ということはできない(最高裁昭和55年1月24日第一小法廷判決・民集34巻1号80頁参照)。
そして,上記のとおり,国際公開第94/17229号公報は,本願出願当時の技術常識の認定に用いているのであって,引用例(甲2)との対比に当たり,この技術常識をしんしゃくして拒絶理由の存否を認定判断することは,違法ではない。上記公報が本願出願約10か月前に公開された公報1件であるとしても,そのことは,上記のとおり,他の刊行物記載の事実と併せて技術常識を認定することの妨げとなるものではない。』