徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

般若心経三題

2015-02-26 18:13:57 | 文芸
◆山頭火と般若心経
 熊本の報恩寺で出家得度した山頭火は、曹洞宗の雲水として行乞の旅を続けたわけだが、朝に夕に誦経したであろう般若心経が、精神的に山頭火を支えていたのかもしれない。1989年のNHKドラマ「山頭火 何でこんなに淋しい風ふく」では、山頭火の遺骨を前にして、妻咲野さんのこんなセリフがある。

咲野「残された句を、読んでみますと、なんと淋しい句が多いのでしょう。泣きながら、旅をしております。あたたかい団欒を、人一倍欲しがっておるのに、不器用でそれをつくれなかったお人の涙が、このたくさんの句だと思います。結局は帰ってまいりませんでしたが、ずっと待っておってよかったとわたしは思うております。かわいそうなお人でした」

 行乞記(二)には、昭和7年1月20日、唐津市街を行乞した時の日記に
山へ空へ摩訶般若波羅密多心経
という句が記されている。

◆海達公子と般若心経
 先日98歳で他界された岩本澄さんが著された「天才少女詩人 海達公子と女学生時代を共にして」には、公子の永遠の恋人ともいうべき教師石塚菊二郎との出逢いと別れが記されている。公子が石塚に魅かれる大きなきっかけとなったのが石塚による般若心経の講義。公子の家は熱心な天理教の信者だったが、石塚の講義を受けるうちに疑問を抱くようになり、一人で悩み苦しむ。さらに進学問題では親が勧める天理大に対し、公子と石塚は奈良女高師を目指して個人授業による受験対策を始める。石塚との将来に淡い夢を抱き始めた矢先、突然、石塚に熊本の女性との縁談が持ち上がり、石塚は結婚してしまう。哀しい恋物語だ。

◆3.11と般若心経
 先日の「邦楽新鋭展Vol.4」で、僕が最も心に残ったのは、平成18年の「第12回くまもと全国邦楽コンクール」最優秀賞の北原香菜子さんが演奏した「琵琶経 ~3.11後の供養曲~」。北原さんは佐賀市出身の若手の薩摩琵琶奏者。NHKの邦楽番組出演歴や海外公演歴もあり、世界遺産・平泉中尊寺でこの東日本大震災の鎮魂曲を奉納演奏したこともあるという。最近、琵琶演奏は時々見かけるようになったが、正直あまり演奏に引き込まれることはなかった。般若心経を琵琶の音に乗せて北原さんの透明感のある声で誦経されると、般若心経そのものについてはあまり知らない僕も自然と胸が熱くなり、思わず涙をこぼした。機会があればまたどこかでぜひ聴きたい。
※写真は北原香菜子さん



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