澁澤龍彦編著の「暗黒のメルヘン」・・・う~ん、趣味がきついというか、こういう偏愛趣味は澁澤ならでは。こうした独自のスタイルを追及する作家も、今はいなくなってしまった(これは、Mさんから頂いた本の一冊です。黒を背景として、さまざまな人物の肖像が描かれた表紙も、魅力的!)。
夢野久作、島尾敏雄、三島由紀夫、倉橋由美子、安部公房、日影丈吉・・・など、昭和の文学史を彩ってきた作家が、一堂に会している上、それが幻想ものに限られているのだから、この上なく贅沢なコレクション!--あっ、我ながらちょっと興奮しているかも。日影丈吉の「猫の泉」は、高校生の頃だったか読んで、心に残っていた短編。それが、この選集にもおさめられている。ただ、南フランスの、ほとんどの人が存在を知らない謎めいた村へたどり着き、不気味な村人や、猫に会うというストーリー--記憶の中では、もっと面白かったような気がするのだけれど。
でも、これって、萩原朔太郎の「猫町」にも、通ずるモチィーフ。私も、ふと目のあった猫を追いかけて行ったりしたら、不思議な異界に連れていって、もらえるかもしれない。小栗虫太郎という人は、江戸川乱歩以前の、推理小説の元祖ともいえる人じゃなかったっっけ。「黒死館の殺人」なんて、あまり面白いとは思えず、その理屈っぽさに閉口した覚えがあるのだけれど、ここの「白蟻」は土俗的な恐怖が迫ってくるようで、肌に粟立つ感じだった。
倉橋由美子も、若い頃偏愛した作家だけれど、今読むと、この人の作品毒が強すぎ・・・やっぱり、「夢の通い路」とか「倉橋由美子の怪奇掌編」ぐらいに抑えとくのが、無難でありましょう。
メルヘンって、考えてみれば、グリム童話の昔から残酷であったり、人間の暗い欲望をのぞかせる「夢」であったはず。星や女の子やファンタジックな背景に彩られた、可愛いものではないのです。 あくまで、万人向けではありませんが、その道の趣味の人にとっては、毒(媚)薬のごとき、魅力ある一冊。