いただきものの、「木なりの夏蜜柑」なるものを口に入れる。あっ、すっぱい。スゴークすっぱい。と思ったら、後からじわじわうまみが舌の上に広がってきて、一瞬、判断機能が停止してしまう。
この味を「美味しい!」と言っていいのか、「酸っぱすぎてだめ」というべきなのか・・・わからない。でも、そのまま、むしゃむしゃ食べてしまった。口に入れるたびに、唇をすぼめ、ぎゅっと目をつぶって。それでも、食べたのだから、まあ結局おいしかったんだな。
それにしても、柑橘類というものはくせものである。つやつやとした蜜柑のオレンジ色、レモンの清らかな黄色と色彩的にも申し分ない美人で、形もキュートなのに、ひとたび口に入れたら、思いもかけない伏兵が潜んでいる。なんて思うのは、私が酸っぱいものが苦手だからで、大半の人にはこの酸味が素晴らしい魅力なのかも。
ふいと夏の情景がよみがえる。まだ5歳かそこらの私の前にあるのは、砂糖をいっぱいにまぶしたグレープフルーツ。ガラスの皿に盛られたそれは、ぷちぷちと音がしそうなほどに、新鮮でおいしそうだ。とけかかった砂糖が果肉に溶け込んで、ゼリーみたいにぷるるんと輝いてる。
そうだ、あの頃は真っ二つに切ったグレープフルーツに砂糖をかけるのがはやってたんだ・・・でも、人からそんな話は聞いたことがないのだけど。 でも、ゴールデンイエローにつやつや輝く、みずみずしい果肉に、砂糖がしみこんで「水菓子」ってこういうことなのかも、と思わせられる美味しさだった(はず)。
あの頃の幼児の前に、この木なりの夏蜜柑を差しだしてみたい。そしたら、どう言うだろう?「こうすればいいんだよ」と、砂糖をデコレーションするかもしれないな。