虫干し映画MEMO

映画と本の備忘録みたいなものです
映画も本もクラシックが多いです

闇の守り人/上橋菜穂子

2005年10月08日 | 
偕成社

 ちょっと鬱屈した気分に風を通してすっきりしたい時などにお薦めのファンタジー。
 
 主人公バルサは「守り人」の名の通り、用心棒を稼業にしている。現在シリーズは6冊、そして外伝が1、2冊出ている。その中でも、私はこれが一番好きなのだが、これは主人公が仕事として経験することではなく、主人公自身とその養い親の運命と、そこにわだかまる感情とを一度解き放ち、そしてまた受け入れるまでのストーリー。このシリーズは物語の世界の構成、ディティールもが細部まで整い、ジュブナイルとはいえ、私のような昔10代だった者の心も掴んで離さず一気に読まずにいられない。

 バルサが死せる養い親と、彼に叩き込まれた武術を尽くして闘うクライマックスはわかっていても私は涙無しには読めない。主人公がなぜ、用心棒という生き方をするに至ったか、いや、それを選択せざるを得なかったか。愛情と尊敬と感謝を捧げる人へそれだからこそ持たざるを得ない負の感情など、人が生きていく上で否応なしに抱えていく重しを、人との関わりを浄化して、いかに我が物として持ちこたえて生きていくのか。いつかそこへ自らが突き当たった時に、道を照らしてくれる灯りの一つになってくれそうなものが心の底に残るような魅力的な物語である。
 この物語は情景描写が好きだ。周囲が描かれ、その中から中心が浮かび上がるような部分。武術の描写は、私には香港功夫映画の素晴らしい武術を思わせるようなところがある。また、食べ物の描写なども見たことも聞いたこともないものなのに、なぜかとてもおいしそう。

 バルサは辛く厳しい生い立ちを背負っている。そしてゲームのキャラの如き17や18のお姉さんではない。30歳超えた経験もあり腕も確かな女用心棒。男装だし美醜よりも、パワーを感じる描き方である。そして彼女に感じるのは受容力とクールな判断力。
 こういうファンタジーの主人公がジュブナイルで受け入れられている(と言っても、作品それぞれに10代の中心人物が配されている)のは嬉しい。女性向けと思われる「スカーレット・ウィザード」シリーズは、男の人にも受けがいいらしいが、いい男に愛されるだけのヒロインではなく、人並み以上の冒険も仕事もして、飛び切りの男と対等に渡り合い、しかも短い生涯でその男の子どもも作り、彼の心をわしづかみにしたまま世を去るなんて、欲張りにもほどがあるヒロインでした。こういうおいしいところを一つも手放さない闘うヒロインが出てくるのは本当に嬉しい限りです。

 ともかく読んで損はありませんし、きっとシリーズ全部あるだけ読みたくなります。