【ぶらり北京】北京の本を探すならココ編
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北京の街を人民網日本人編集者のA姐とG姐がぶらりと歩いて紹介する、その名も「ぶらり北京」。今回は4月23日の「世界本の日」にちなみ、とある書店を訪問。万松老人塔という文化財の中にあって、北京に関する本だけを扱っていて、看板猫が人気?さて、いったいどんな書店なのでしょうか?
【万松老人塔ってどんな塔?】
西四南大街の西側にたたずむ八角形の九重の塔。名前を万松老人塔という。通りから見える塔は清代に建てられたものだが、実は中にもう一つ塔が隠れていて、こちらの塔の創建は元代まで遡る。万松老人塔という風変わりな名前は、この塔が建てられた理由と関わりがある。
西四南大街にある万松老人塔(撮影・勝又あや子)
万松老人というのは万松行秀という金代の曹洞宗の僧侶で、「万松野老」と自称した。元のチンギス・ハーンに仕えた耶律楚材が3年間師事していたという。没後、墓として建てられたのがこの万松老人塔だ。北京で唯一の石レンガ造りの塔で、国家級重要文化財保護施設に指定されている。こじんまりしているし、北京の名所として知られているわけではないけれど、実はなかなか由緒正しい塔なのだ。
【北京の本専門の本屋さんだった!】
この塔は文化財であると同時に、ある書店の所在地にもなっている。書店名は正陽書局。敷地の中に入ると、こじんまりした庭の中心に塔がそびえ、そして庭には樹齢50年以上という香椿の木や、カイドウ、ザクロ、フジ、ブドウ、タマカンザシなどが植えられている。
正陽書局の入口(撮影・勝又あや子)。
塔を囲むようにした敷地の南側と北側には北京の伝統建築様式である四合院風の建物があり、そこが店舗になっている。書棚には本がぎっしりと並べられ、風情のある家具の上にも平積みされている。
正陽書局の店内。取り壊した古民家などから集めたインテリアを使って、昔ながらの読書をする空間の雰囲気を演出(撮影・勝又あや子)。
その書名を見ていくと、北京、北京、北京…。そう、この書店で扱っている本はすべて北京についての本なのだ!内容は北京の歴史や民俗習慣、食文化など、多岐にわたる。
正陽書局に並べられた様々な北京に関する本。ここはグルメ本コーナー(撮影・勝又あや子)。
この書店で面白いのは、古本と新刊本が同じ書棚に並んでいること。この書店を経営する崔勇さん(40)に聞いてみると、「これらのジャンル別の書棚には、新しく出版したばかりの本から、十数年、何十年前に出版された本まで、一緒に並べている。なぜならこれは一つのつながりであり、皆さんに北京の過去も未来も目にしてほしいから」との答えが返ってきた。
店内を案内してくれていた崔さんが、「ここには日本語の本もありますよ」と言って書棚の上段からわざわざ取り出して見せてくれたのは、「燕京歳時記」の日本語版。「北京年中行事」の副題がついており、往時の北京に興味のある人にとっては必読の書と言える存在だ。なんとオリジナル版まで見せていただいて、思わず大感激。
「燕京歳時記」のオリジナル版と日本語版(撮影・勝又あや子)。
店内の目立つ位置に置かれている「明代遷都北京研究」は、日本の山形大学名誉教授である新宮学氏の著書「北京遷都の研究--近世中国の首都移転」の中国語版だ。正陽書局は日本の学者との交流も盛んに行っている。門の軸受け石「門墩」を研究する日本人研究者との間でも、その研究成果を書籍化する企画が進んでいるという。
店内に陳列されたさまざまな北京関連の本(撮影・勝又あや子)。
崔さんは、「北京の一番面白い点は、北京に関する記録が極めて多いこと。中国を始め、世界中の多くの都市で北京に関する書籍を目にすることができる」と話す。古い書籍を探すために世界各地を訪れ、東京の神保町へも足を運んだことがあるという。
【文化財の守り人】
ところで、元代に建てられた文化財の中に書店があるのはどうしてなのだろう。店主の崔勇さんによると、これは万松老人塔のある西城区政府の「塔を修繕し、利用しながら文化財を保護する」という理念によるもの。つまり、一般への公開と同時に、文化財に触れることで北京の歴史に対する理解を促進してもらおうという考えだ。それに「正陽書局という北京の特色を備えた書店がピッタリ」ということで白羽の矢が立ち、「『塔の守り人』として選ばれた」のだという。
「塔の守り猫」として仕事に余念のない看板猫の「磚磚(ジュワンジュワン)」(撮影・勝又あや子)。
実は、正陽書局は開店当初、前門の廊房二条にあった。移転に当たって、西城区政府は万松老人塔の賃貸料を免除。崔さんは、「浮いたコストを社会や読者に還元すべき」と考え、ここを本を購入することも借りることもできる、書店と図書館を一体化した空間にしているほか、書籍の著者を招いたファンミーティングなどのイベントも数多く開催してきた。
今年の4月23日で、正陽書局が万松老人塔に移転してから8年目。4月23日は「世界本の日」でもある。崔さんは「多くの人に、読書を通じてこの古都・北京を理解し、学び、愛するようになってもらいたい」と言葉に力を込めた。
【本で心を満たした後は…】
さて、文化財と書店の幸せな同居にすっかり感激したA姐とG姐、二人ともお気に入りの本を手に入れた。G姐が買ったのは「北京俏皮話辞典(北京ユーモアフレーズ辞典)」。A姐が買ったのは、昔の北京の家庭料理とそれにまつわる逸話満載の「閭巷話蔬食」。そしてA姐もG姐も思わず手に取ったのは、日本でも翻訳版が出ている「吃貨辞典(中国くいしんぼう辞典)」の増訂版だ。
くいしんぼう本を手に入れ、正陽書局を後にした二人が向かったのは、近くにある砂鍋居。1741年創業の老舗レストランだ。注文するのはもちろん看板料理の砂鍋白肉。土鍋の中に豚バラ肉の薄切り、酸菜(白菜の漬物)と春雨を入れて煮込んだ料理だ。そして今が旬の香椿を使った香椿豆(香椿とゆで大豆の和え物)と、北京のスイーツ・驢打滾(小豆あんをロールして黄な粉をまぶした餅菓子)も堪能した。
砂鍋居の看板料理「砂鍋白肉」と焼いたマントウ、香椿豆、驢打滾(撮影・勝又あや子)。
文化財に同居する書店の北京情緒あふれるお庭でお茶を飲みながら、生粋の北京っ子であるご主人から北京や書物に関する話を聞き、書棚からお気に入りの北京の本を選ぶ。そして北京の老舗レストランで味わうお昼ごはん。本で心を満たした後は、北京の老舗グルメでお腹も満たされたのだった。(文・勝又あや子)
「人民網日本語版」2022年4月20日
ぶらり北京
北京の街を人民網日本人編集者のA姐とG姐がぶらりと歩き、見たり、食べたり、遊んだり?興味の向くまま、気の向くまま、北京の魅力をゆる~くお伝えしていきます。