[クァク・ノピルの未来の窓]
56億光年の距離…「理論上の上限に近い」
銀河の質量もわれわれの銀河の100倍
発見されたブラックホールは中央のオレンジ色の銀河(前景銀河)の中心にある。前景銀河の周辺には前景銀河の重力で光が馬蹄形のリング状に曲がり、より遠方の青色の銀河(背景銀河)がみえる=ポーツマス大学//ハンギョレ新聞社
星は光を放ち、ブラックホールは光を封じ込める。ブラックホールは文字通り、重力が極めて強く、光さえ抜け出すことのできない超高密度の天体のことをいう。星の一生では一般に、太陽よりはるかに大型の星が核融合エネルギーの減少によって崩壊する過程で、超新星爆発を起こした後、ブラックホールが形成される。
われわれの銀河を含む多くの銀河の中心には、太陽の数十万倍を優に超える超大質量ブラックホールが存在している。宇宙では、密度が高い中心で星が形成され、重力崩壊が起き、自然に銀河の中心に巨大なブラックホールが形成される。この巨大なブラックホールは、強力な重力によって自身が属する銀河の構造と星の形成に一定の影響力を及ぼす。
英国のポーツマス大学とブラジルのリオグランデ・ド・スル連邦大学(UFRGS)の天文学者らが、これまで発見されたなかでは最大となるブラックホールを発見し、英王立天文学会月報で報告した。
研究チームが、ハッブル宇宙望遠鏡と欧州南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡(VLT)の観測データを分析したところ、このブラックホールは太陽の質量の360億倍で、われわれの銀河の中心にある超巨大ブラックホールである「いて座A*」(サジタリウスA*)に比べ、約1万倍重いと推定された。研究チームは「これは、宇宙で存在可能な理論上の上限値に近い」と述べた。ある研究によると、138億年の宇宙の歴史を前提とする場合、ブラックホールが到達可能な質量の理論的限界は、500億太陽質量だ。
■重力レンズと星の移動速度から質量が分かる
このブラックホールは、2007年に発見された「宇宙馬蹄」(Cosmic Horseshoe)という名の重力レンズ銀河に位置している。宇宙馬蹄は、中央にある56億光年の距離にある前景銀河(LRG 3-757)とその周辺で輪を形成している190億光年の距離にある背景銀河で構成されている。背景銀河から出た光が前景銀河の重力の影響で、馬のひづめ(馬蹄)のように曲がっている姿を示す。まるで、光がレンズを通過する際に曲がるかのようであるため、このような現象を「重力レンズ」または「アインシュタイン・リング」と呼ぶ。
前景銀河があまりにも巨大であるため、背景銀河が作る馬蹄は、ほぼ完全な円を描いている。この銀河の質量は、われわれの銀河の100倍で、やはり天文学者らが発見したもののなかでは最大の銀河だ。銀河が大きいほど、その中心の超大質量ブラックホールも、さらに大きくなる。
研究を主導したポーツマス大学のトーマス・コレット教授(天体物理学)は「このブラックホールは、これまで発見されたなかでは最大のブラックホール10個のうちの一つか、おそらく最も巨大なブラックホールだろう」と述べた。過去に別の推定方法を用いて太陽の質量の最大で400億倍と推定されるブラックホールが発見されたことはあるが、誤差範囲が何と「0」をもう一つ追加するほどであるため、信頼性に劣る。今回発見されたブラックホールの質量の誤差範囲は35%だ。
研究チームは、2つの方法を結合して、このブラックホールの存在と質量を突き止めた。ブラックホールの存在は、光が曲がる重力レンズ効果によって判明し、ブラックホールの質量は、銀河の内側にある星が秒速400キロメートルの高速で動くという点に基づいて測定した。
宇宙馬蹄銀河系のオレンジ色の銀河近くの薄いオレンジ色の像が、ブラックホールの発見に決定的な役割を果たした=ポーツマス大学提供//ハンギョレ新聞社
■伴銀河をすべて吸収した化石銀河
論文の第1著者であるカルロス・メルル研究員(UFRGS)は「これまでは、遠くにあるブラックホールは、活発に物質を吸収する場合のみ、質量の測定が可能だったが、今回のように強力なレンズ効果と恒星力学を結合することで、宇宙の各所に隠れている『休眠ブラックホール』、すなわち、活動が活発ではないブラックホールも見つけだし、質量を測定することができる」と述べた。
研究チームは、今回の発見が超大質量ブラックホールと銀河の関係を説明するうえでも役に立つと明言した。コレット教授は「両者の大きさには密接な関連があり、銀河が成長するにつれ、物質が中心のブラックホールに流入しやすくなる」と述べた。その物質の一部はブラックホールに吸い込まれ、ブラックホールを大きくするが、大部分はブラックホールの周辺で摩擦を起こし、クエーサーと呼ばれる非常に明るい発光体になる。クエーサーが銀河に放出する熱や星間ガスが凝縮されるのを妨げ、新しい星の形成を抑制する。
研究チームは、宇宙馬蹄の前景銀河は化石銀河群に属することを明らかにした。化石銀河は、宇宙で重力によって縛られている最も巨大な構造物の最終的な段階だ。数十億年かけて銀河群で最も重い銀河が別の伴銀河を捕獲して合体した「孤独な巨人」銀河だ。
コレット教授は「もともとは伴銀河だった超大質量ブラックホールがすべて合体し、今回発見された超大質量ブラックホールを形成した可能性が高い」としたうえで、「したがって、われわれは銀河とブラックホールの最終局面を同時にみているわけだ」と述べた。
われわれの銀河の場合、アンドロメダ銀河が伴銀河に該当する。科学者たちは2つの銀河が45億年後に合体すると予想する。ならば、われわれの銀河とアンドロメダ銀河も遠い未来に衝突した後、合体したブラックホールの周辺で一定期間クエーサーを生成し、最終的には化石銀河になる可能性が高いということになる。
*論文情報
Unveiling a 36 billion solar mass black hole at the centre of the Cosmic Horseshoe gravitational lens.
Monthly Notices of the Royal Astronomical Society (2025)
doi.org/10.1093/mnras/staf1036
クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )