バヌアツの村々には、争いが絶えなかった。 小さな島だというのに、人々は限られた作物を奪い合っていた。 村は小さな「国」となり、村の男たちは「兵士」となって殺しあった。 村の違いは「生物」の違いとなり、
人々は殺した「敵」を野生の豚と同じように喰うようにさえなった。
長い長い昔のある日、バヌアツの地に「ロイマタ」という、男が現れた。 ロイマタは、人々が殺し合い、食い合うことに、辟易としていた。 どうして同じ島に生まれた人々が、争わなければならないのか、考えた。 彼はひとり、島の外の誰も住めない「死の地」に赴いた。 其処は、白い石灰岩に覆われた不毛の地で、何の食物も育たない。 その地に、ロイマタはひとりで住んだ。 彼は飢え、乾き、動けなくなった。 或夜、彼は「死の地」に住む先祖の霊に触れそうになった。 彼等は、ロイマタに言った。
『この地に、争いはない。 この地には、何もないからだ。この地にはどんな食べ物も育たない。 この地には、人と奪い合う、どんなモノも・ないからだ。』
ロイマタは這うように「死の地」を抜け、島に帰った。 村の人々は、驚いた。
死んだと思ったロイマタが帰って来たうえに、
彼の体は別人のように痩せ細り、「白く」なって・いた。 長い間、石灰の上に寝起きしていた彼の体は、知らぬ間に「白く」なっていたのだ。
彼は、自分の家を焼き、自分の所有していたかけがえのない豚を殺した。 そして、言った。
「自分はもうじき、先祖達の地に赴くだろう。 その前に自分の一番大切な豚を、皆に振る舞いたい。 村々を越えて、このバヌアツに住む全ての人に食べて欲しいからだ。 人々に豚を喰いに集まるように、伝えて欲しい。 ただ、その時、先祖達への供え物として、自分の大切なモノを持ち寄って欲しい。」
こうして人々は、集まった。 右手に武器を、左手にそれぞれが一番「大切」にする モノを持って。
ロイマタは、よろよろと、立ち上がり、何処にそんな力が残っているか・と、 人々が畏れる程の大声で、叫んだ。
「 わたしは『死の地』で聞いた。 この島に争いが絶えぬのは、人がモノを持つからだ、と。 今、ココナッツを持ち寄った者は、同じモノを持ち寄った者とソレを交換するのだ。 ナッパを手にする者は、ナッパを持つ者と、タコを持つ者は、タコを持ち寄った者と、 石を持つ者は、石持つ者と、ヤムイモを持つ者は、ヤムイモを持つ者と、 ・・・・ただし、自分の大切なモノを持ち寄らず武器しか持たぬ者は、
同じように武器しか持たぬ者と、今ここで殺し合うがいい。 今日よりバヌアツの地には、そんな人殺しが住む場所はどこにもない。」
「今日より我等は、新たな家族となる。 ココナッツを大事にするモノは、ココナッツを大事にする同じ霊を先祖に持つ『ナフラック』として。 ナッパを大事にするモノは、ナッパの『ナフラック』として、 タコを大事にするモノは、タコの『ナフラック』として、 石を大事にするモノは、石の『ナフラック』として、 ヤムイモを大事にするモノは、ヤムイモの『ナフラック』として、 村を越え、家族のように親族のように助け合って生きるのだ。」
こうしてバヌアツのひとびとは、武器を捨て、殺し合うことを止めた。 バヌアツの地から、争いの火種を消し去り、新たな『同族』の名付け親となったロイマタは、
人々から、畏敬を込めて【チーフ】と、呼ばれた。
ロイマタから400年が経った現代、 今の【チーフ】であるモルボルさんは、祝い事の日には、自分の豚を殺して村人に振る舞う。
バヌアツの人々は、手に手に自分の先祖が大切にした
「ナッパ」や「タコ」や「石」や「ヤムイモ」や「ココナッツ」を持って、
モルボルさんの元に集まる。
そして、皆で分け合って、バナナの蒸し焼きの「ラップラップ」を食べ、
カバという「発酵酒」を飲んで、笑い合い踊り合い語り合っている。
この島を「天国」に変えた『初代チーフ』、【ロイマタ】のことを・・・・・・。
2007年、オセアニア・ミクロネシアに属するこの島は、「ロイマタ酋長の領地」として、 イギリスのシンクタンクの調査で【世界一幸せな国】に選ばれた。 2008年、ユネスコによって、「ロイマタ」が赴いたとされる『フェルズ洞窟』は、 【世界自然遺産】に登録されている。
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