犀川の河川整備を考える会

犀川の辰巳ダム建設を契機に河川整備を考え、公共土木事業のあり方について問題提起をするブログ。

辰巳ダム>貯留関数法の計算結果は金科玉条だが。(その2)

2012年10月14日 | ダム問題
 実績流量から決めた定数の適用範囲についての制約がわからない。マニュアル「中小河川計画の手引き(案)」にも記載がない。
 仕方がないので、マニュアルの検討例と辰巳ダム計画の例を比較してみる。
「中小河川計画の手引き(案)」では、貯留関数法による基本高水検討例p.183では、定数を決める際の実績ピーク流量は306~626立方メートル毎秒であり、基本高水流出計算結果のピーク流量は773~1607立方メートル毎秒である。このうちの最大流出量の1607立方メートル毎秒を採用しているわけではなく、「流量確率を検討していないので、基本高水ピーク流量は流出計算結果からカバー率50パーセント程度(中央値)の値を採用する方針とする。」p.189として、1045立方メートル毎秒を採用している。
 実績306~626立方メートル毎秒の3.4~1.7倍で平均2.2倍となる。
これに対して、辰巳ダム計画では、(基本高水ピーク流量1750の既設2ダムの調整後のピーク流量は1460)
 実績220~352立方メートル毎秒の6.6~4.1倍で平均5.1倍となる。
 実績の2倍程度の流量であれば許容できる精度におさまるということと理解していいのだろうか。辰巳ダム計画の5倍はどうなのだろうか。

 辰巳ダム計画では、さらに科学的根拠をないがしろにして大胆に決めている。基本高水ピーク流量は、1750立方メートル毎秒であるが、これは、平成7年8月30日型降雨で計算して求めた1741立方メートル毎秒をまるめた数値である。この平成7年8月30日型の降雨にもとづいて、基本高水ピーク流量を決定しているのである。
この実績降雨は、2日雨量156.6mmであり、毎年発生する程度のよく有る雨である。犀川大橋基準点の直上流にある下菊橋測水所の実績最大流出量は、34立方メートル毎秒だった。あまりにも小さいので、定数の検証の対象外で、検証されていない。そして、この平成7年8月30日型の降雨を引き伸ばしたデータで、定数の検証した範囲をはるかに超えるところに位置する予測値を算定しているのである。つまり、実績流量は検証範囲のはるか下、予測値は検証範囲のはるか上なのである。
 これを検証という科学的な手法にもとづいた技術といえるのだろうか。嘘とまではいえないが、作意を持った人が使えば、詐術か、魔術になりかねない。
 平成7年8月30日に小さな雨があった。たまたま、過去に小さな雨があったので、将来、有史以来発生したことのないような大洪水が発生するというのである。むかし、聞いたおぼろげな逸話を思い出した。一枚の葉っぱが落ちて池に小さな波紋を起こして、そのゆらぎがつぎつぎに波及して最後には世界大戦争になった。
 まるで、サイエンスフィクションの世界である。
2012.10.14,naka
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辰巳ダム>貯留関数法の計算結果は金科玉条だが

2012年10月13日 | 辰巳ダム
 貯留関数法についてその問題点がとりざたされており、思考中である。
 辰巳ダム裁判では、過大に洪水量を想定している原因として、つぎの3点を指摘している。
1 実績雨量から統計的に対象2日雨量を求める際に適合度の悪い確率分布を選択して対象降雨の降雨量を過大に見積もっていること、
2 各実績2日雨量を対象2日雨量に換算するために引き伸ばした3時間雨量の棄却基準を緩めて計画規模の100年確率を著しく超える降雨量のケースも選抜して対象降雨の3時間雨量を過大に見積もっていること、
3 貯留関数法によって雨量から最大流量を計算する際に山林の保水力を低く評価して飽和雨量を小さく見積もっているので犀川大橋基準点の最大流出量が過大に算定されていること

 3の貯留関数法は、降雨から流出量を求める手法の一つとして、比較的簡単に降雨から出水が再現されるので全国的に多用されている。しかし、その適用に制約がありながら、その制約がうやむやで計算結果だけが金科玉条のように取り扱われている。中小河川計画の手引き(案)p.34では、「実用的であるが、定数について水理学的な裏付けが弱い」、「小出水の際の定数を用いた場合、大出水の再現性に問題がある。」などと指摘されているが、適用できるあるいはできないという制約の範囲は明らかにされていない。
辰巳ダム計画では、実績流量(既存2ダムで調節後)220~352立方メートル毎秒のケースから定数を決めて基本高水ピーク流量1750立方メートル毎秒を算出している。
この大出水の再現性に問題がないのかまったく不明である。

「定数について水理学的な裏付けが弱い」ともあるが、このことも貯留関数法の採用についてなんの制約も明らかではない。「定数について水理学的な裏付けが弱い」ということは、水理的な条件が変化すれば定数が変わるのではないか。降雨の強さが変わると、定数が変わるということであろうか。
貯留関数法には、主要な5つの定数(パラメータ)がある。1次流出率(f1)、飽和流出率(fsa)、飽和雨量(Rsa)、K、pで、前者の3つは、有効雨量に関する定数、後者の2つは、流域の定数である。
有効雨量に関する定数は、降雨が強くなると変わるという知見が多くある。また、流域の定数K、pも「水理学的な裏付けが弱い」ということは降雨が強くなるにつれても変化しないということはいえないということになろう。
貯留関数法の計算の前提は、各定数が降雨の強さに関係なく、一定であることである。そうでなければ、想定される、実績よりはるかに大きい予測値を推定できない。

 さらに、モデル定数を決定する際に、流出モデルの流出波形と実績の流出波形を一致させるために各定数を調整する。辰巳ダム計画では、一次流出率と飽和流出率を固定して飽和雨量を変化させ、pを固定してKを変化させている。言い換えると、一次流出率と飽和流出率のしわ寄せを飽和雨量に集中し、pのしわ寄せをKに集中している。この段階ですでに歪んでいる。歪んでいたとしても、検証して定数を決めた実績の洪水の規模の範囲内では、再現に問題ないかもしれない。しかし、この範囲を大きく超えた流量規模の計算においては、二重に定数の歪みが算定結果に反映されることになる。

 ということになると、辰巳ダム計画のように、小実績ピーク流量で検証して決めた定数を用いて計算した結果である大流量の基本高水ピーク流量は信用できないということになる。
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ダム問題>「緑のダム」効果に関するニュース

2012年10月10日 | ダム問題
――400mmを超す豪雨でも森林の保水力が増加する――

 ほどんどの河川工学者はといってはなんだが、当方は、最近まで、洪水とは地表面を流れて川へ溢れてくる水であると信じていた。降雨の当初は、地中へ浸透していくが、降雨が継続して地表の土壌が飽和状態になると降った雨の全量が地表を流れて川に到達し、これが洪水をもたらすものと考えていた。洪水の最大流量を計算する手法である、貯留関数法では地表の土壌の間隙が雨水で満たされ、飽和雨量に達した後は、降雨のすべてが地表を流れ出すと説明されている。

 それが間違いのようだ。ある水文学者によると「洪水時の川水の大部分は地下水である」※1 のだそうだ。つまり、豪雨が降ってもすべて地中へ浸透する。そして、どれだけの豪雨であっても、地表流は発生せず(道路など表面から浸透しないところは別だが。)、地中へ浸透し、降雨が強くなるにつれて土壌中に貯留される量も増えるという。これを証明する一つの研究成果が発表された。降雨が飽和雨量に達した後は、全量流出するとの仮定はまちがいだということだ。

 その研究成果発表に関する情報が、以下のブログで紹介されている。
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/da6f3c16a35f2ede3b413981a3662a71

 毎日新聞 2012年09月25日 西部朝刊「緑のダム:効果、大雨時ほど鮮明 東大演習林で観測、400ミリ超でも貯留量増加」である。
 東京大学付属演習林(愛知県)の観測データの解析結果で「森が降った雨をためて洪水を緩和する『緑のダム』効果が、時間雨量30ミリ以上の強雨時に顕著に表れ、総雨量400ミリを超す大雨でも頭打ちにならない」ということが明らかになったとのことです。
 これを紹介する新聞記事は、以下のとおり。
http://mainichi.jp/area/news/20120925ddp041040009000c.html

※1:「地下水の世界」筑波大学教授 榧根勇(かやねいさむ)74~76ページの内容を以下に転載。
水文学のような地味な学問でも、ときたま新発見がある。「洪水時の川水の大部分は地下水である」という発見もその一つである。ただしこれは、特定の個人による発見ではない。地下水に限らず地球科学では、多くの研究成果の集積によって、徐々に透明度が増してきたという類の「発見」が多い。
ロバート・ホートンは、水に関する多彩で独創的な研究をしたことで知られる、アメリカ水文学の父とも言われている人である。アメリカ地球物理学連合のホートン賞は、彼の業績を称えて設けられた。
その彼が「考えた」概念の一つに地表流がある。これは後にホートン地表流と呼ばれるようになった。雨が降ってから洪水が発生するまでのメカニズムについて「考えて」みよう。土には雨を吸収する能力がある。この能力を浸透能という。浸透能は雨の降り始めのときに大きく、降雨時間の経過とともに小さくなる。降雨の強さ(単位時間に降る雨の量)が浸透能(単位時間に雨を吸収する能力)よりも小さければ、雨はすべて土に吸収されるので、ホートン地表流は発生しない。(中略)逆にいえば、浸透能よりも強い雨が降ったときだけホートン地表流が発生する。洪水はそのような地表流が川へ集まったものと考えられていた。(中略)
このホートンの「考え」に間違いはなかったので、洪水はそのようなメカニズムで発生するものと信じられてきた。ところが実際に「観測」してみると、湿潤温暖地域の森林流域では、豪雨時でもホートン地表流は発生しない。一般に、森林斜面の浸透能は豪雨時の降雨強度よりも大きいのである。
このことは、同位体による水循環の追跡によっても確かめられ、動かない事実となった。(中略)世界中のいろいろな森林流域で調査された結果によると、川水の大部分は、洪水のピーク時においても、地下水から供給された、水で占められていた。
もちろん山地森林流域内には、水面や湿地や道路など、雨水を地中に浸透させない部分もある。しかし、そのような非浸透性の地表面の面積比率は、合計しても普通は流域面積の10%にも満たない。計算結果から、地下水以外から供給された水は、非浸透性の地表面上に降った雨であることもわかった。
河川水の大部分は、一度は土や岩石の中を通過してくる。
2012.10.10,naka
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公共事業>人口減少時代のインフラ整備について(その5)

2012年10月09日 | 公共土木事業評価監視
 水道事業といっても、上水、下水と分かれて、それぞれまたいくつかの事業手法がある。それぞれ、国、県の補助があり、町負担分がある。町負担分について、借金(起債)するが、その元利償還金についても、町がすべて返却するのではなく、国からお金(地方交付税措置)がくる。毎年、複雑な計算の結果、町が、町民がいくら実質、負担しているのか、よくわからない。本来、水道は、受益者がはっきりしているから、受益者から、料金を徴収して帳尻をあわせて、町で使える税金を水道に投入しなくてもよいようにするのが望ましい。社会保障などでいくらお金があっても足りないのだから。ところが、実際には、水道にかなりの税金を毎年投入している。料金を高くするのは、町民の抵抗が大きいからである。だから、必要なだけ、料金を徴収するのではなく、ほどほどのところでということになりかねない。
 能登町でも、今年6月に水道料金を上げた。これで当面でも帳尻があうのかというとそうでもない。10%程度であれば、抵抗が少ないということできめたような気配である。陳情要望という形式で、水道管理者から話を聞くことにした。「要望書」は、以下のとおりである。


平成24年10月9日
能登町水道事業担当者 様

「水道事業の財政について説明を受けたい旨の要望書」

石川県鳳珠郡能登町字中斉ワ部2
中 登史紀(65歳)

私は、本年6月18日、能登町水道課で水道事業の財政について教示を受けました。その時の説明を受けておおよそつぎのように理解しています。

上水道事業については、平成24年6月の水道料金改定の効果で、年間の赤字が解消されて年間4千万ほど黒字になる。簡易水道は4千万ほどマイナスが減るが年間8千万円ほど赤字が残る。上水道の黒字に簡易水道の赤字を合わせると、上水道事業全体は年間4千万円ほどの赤字になる。
また、下水事業(公共、集落排水、浄化槽)の町費持ち出し(赤字と仮定)は、毎年1.5億から2.5億前後の大きさである。
上水道事業と下水事業の赤字の総計は、毎年2億円から3億円程度となる。町民1人当たりに換算すると年間1万円から1万5千円くらいである。

本来、水道事業は受益者がはっきりしていますから、受益者から徴収する料金でまかなわれるものと考えられます。赤字だからということで、水道の料金を値上げされましたが、結果的には、上水道事業についても当面の帳尻があっていません。このままでいいのでしょうか。この先どのような展望を持っておられるのでしょうか、どのような改善案あるいは解決策を考えておられるのでしょうか。負担する人口がどんどん減少する上、高齢化がすすみ、負担に耐えられなくなるような状況がますます進行しそうです。なるようにしかならないとは考えておられないと思います。
町民の一人としてたいへん懸念しています。展望について話を聞かせていただけないでしょうか。

 
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辰巳ダム>飽和雨量の問題(犀川流域の保水力)その2

2012年10月08日 | 辰巳ダム
(犀川流域の保水力は安定)
 昭和53年から平成10年までの21年間に発生した29降雨の犀川大橋地点における最大流量(飽和雨量0)と観測最大流量について、経年変化があるかどうか、図化して近似曲線を引いて確かめたところ、横ばい傾向にあり、ほとんど変化が無い。犀川流域の山地の保水能力が、この21年間の間にほとんど変化がなく、山地は安定した保水力が確保されていると考えることができるだろう。

(降雨の強さが山地の保水力に影響を与えるか)
 犀川流域の山地の保水力が安定して同じという仮定にたつと、この21年間の29降雨から、降雨の強さが山地の保水力に影響を与えて変化するのか、変化しないのかを確かめることができる。
 一般的に山地の保水力の大きさは、降雨の強さとは無関係として考えられている。貯留関数法で山地の保水力を表す「飽和雨量」は、降雨の強さに関係なく、一定値で固定されている。

(降雨の強さと山地の保水力の関係)
 29降雨について、実績2日雨量の小さいものから昇順に並べ替えて、図化してみた。ピンクの折れ線が実績2日雨量である。棒グラフの雨量が大きくなるにつれて、最大流量が大きくなるのは道理であるが、青棒の最大流量(飽和雨量0mm)と橙棒の観測最大流量の近似曲線の傾きが明らかに異なっている。山地の保水力が、降雨の強さに関係がないとすれば、山地の保水力が降雨の強さに関係がないとして貯留関数法で計算された最大流量の傾向と同じとなり、この近似曲線は平行になるはずである。ところが、最大流量(飽和雨量0mm)の近似曲線は勾配が急であり、一方、観測最大流量の近似曲線の勾配は緩やかである。その結果、降雨量が大きくなるにつれてその差は拡大している。
 近似曲線式のXに0、29を代入して計算すると、最大流量(飽和雨量0mm)の値は、288㎥/s、722㎥/s、観測最大流量の値は、70㎥/s、185㎥/s、その差は、218㎥/s、537㎥/sとなる。降雨量が88mmから267mmにおおきくなるにつれて、最大流量(飽和雨量0mm)と観測最大流量の差は、2.5倍に拡大している。
 
(関先生の説明)
 関 良基拓殖大学准教授は、ブログで、降雨の強さと保水力との関係について、「降雨規模と強度が大きくなるほど、土壌は、微細な孔隙にまで雨水を最大限に貯めこもうとし、貯留する雨水が増大していく」として、その根拠は、長野県が実施した「森林と水プロジェクト」の調査研究を引用して説明されている。
そして、「この薄川の事例では、総降雨量100㎜の雨に対して流域保留量(=飽和雨量)は72㎜になり、200㎜の雨に対して飽和雨量は112㎜、300㎜の豪雨に対して飽和雨量は134㎜にまで増大するのです。その理由は、先にも述べたように、降雨規模と強度が大きくなるほど、土壌は、微細な孔隙にまで雨水を最大限に貯めこもうとし、貯留する雨水が増大していくからです。」とある。
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/ac5b909691531589c4a5a95f2913d1a3

(結論)
 貯留関数法で飽和雨量を降雨の強さに関係なく一定として計算すると、降雨が強く、大きくなるにつれて、山地の保水力を適正に見込んでいないので、過大に計算されることになる。言い換えると、辰巳ダム計画において、貯留関数法の飽和雨量を100mmとして固定して対象降雨量314mmを入れて基本高水ピーク流量を算定した結果、過大な流量となっている。


2012.10.8,naka
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