【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

文化の日

2011-11-03 18:08:20 | Weblog

 昭和生まれの私にとって今日は「日本国憲法が公布された日」ですが、戦前派には「天長節」「明治節」(明治天皇の誕生日)です。
 そのうち日本が独裁国家になったら、その独裁者の誕生日も祝日になるのかな?

【ただいま読書中】『食べ物から広がる耐性菌』日本子孫基金 編、小若順一・寺澤政彦・宮島英紀 著、 三五館、2003年、1500円(税別)

 耐性菌が発生するメカニズムは、一言で言えば「淘汰」です。抗生物質で死ぬ菌は死にます。しかし、たまたま抗生物質に耐える菌は生き残ります。生き残った菌にとってそこはパラダイスです。だって競争相手が全滅しているのですから、熾烈な生存競争をする必要がありません。かくして人が抗生物質を使えば使うほど「パラダイス」は広まり耐性菌は増えることになります。
 「耐性菌」といえば「院内感染」と言うのが、日本ではふつうです。実際に、マスコミも政府も医療に注目しています。しかし、意外な(それも巨大な)抜け穴があったのです。農・水産業です。本書で明らかにされた日本での抗生物質使用量は、ざっくり言って、「病院内で100トン」「外来で400トン」「家畜に900トン」「魚の養殖に200トン」「野菜・果物・稲に100トン」。つまり、「耐性菌対策」を病院でいくら頑張っても、大きな尻抜けなのです。
 ではどうしてここまで病院“外”で抗生物質が使われるのでしょう。
 牛は本来草食動物です。胃が四つあるのは、消化しにくい草を微生物の力も借りて脂肪酸にまで分解するためで、胃では消化が不十分な場合には口に吐き戻してかみ直します(反芻)。吐き戻す時に口からはよだれ(と餌)があたりに飛び散ります。それを予防する(吐き出される餌を節約する)ために抗生物質が使われます。また、成長の効率を高めるために穀物が餌として用いられます。ところが4つの胃は穀物用ではありません。発酵が異常になり、牛は不健康になります。そこで登場するのがまた抗生物質です。穀物からも脂肪酸が多く出るように発酵を調整するのだそうです。胃の中の微生物のバランスを調整するためにも抗生物質が用いられます。その抗生物質の一つがアボパルシンといって、バンコマイシンによく似た構造を持っています。
 消費者としてはちょっと考えさせられる記述もありました。消費者は「安い牛乳」を求めます。当然、その生産には経済効率が最優先されます。日本の消費者は同時に「乳脂肪分が高い牛乳」を好みます。すると、もともと乳脂肪の高いジャージー種以外の乳牛では、「餌」の工夫が必要になります。それも、牛を“メタボ”にする方向での工夫が。でも、「健康な牛から得られた牛乳を、少々高くても飲む」と言えば、生産者は当然そちらの方向に“工夫”をする……かもしれません。さて、どうしたもんでしょう?
 面白いのはマクドナルドの動きです。2003年に牛の飼料から抗生物質を追放することを発表しているのです。
 牛の所で登場したアボパルシン(バンコマイシンによく似た構造の抗生物質)は、養鶏でも愛用されています。バンコマイシンはMRSAに対する“最後の切り札”ですが、アボパルシンで“鍛えられ”た耐性菌はバンコマイシンにも耐性を持ちその結果VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)が出現しました。
 多くの市販飼料には低濃度の抗生物質が「成長促進剤」として混ぜられています。低濃度ですから菌はあまり死なず、中には耐性を獲得してしまうものもいます。“鍛えられ”てしまうわけ。ところが「成長促進作用」については、実はそのメカニズム以前に、成長促進効果の有無の点でも専門家で意見が割れているのだそうです。比較試験をしたら簡単に結果が出そうに思うのですが、ぎりぎりの所で操業している業者にそれを望むのは、無理なことでしょうねえ。ところで農水省のお仕事には、こういった「効果の有無の研究」はないのでしょうか?
 水産業でも抗生物質は積極的に使われています。養殖の歴史は病気との戦いの歴史で、抗生物質はそこで有力な“武器(の一つ)”です。ところがここで問題が。動物の場合は注射や水に溶かして与えることができますが、魚の場合に抗生物質は餌に混ぜて与えられます。健康な魚はそれをぱくぱく食べます。しかし、病気の魚はもうほとんど餌を食べません。……あれ?
 もちろん、畜産や水産で「抗生物質を使う理由」はあります。ただ、その主張を読んでいて私が連想したのは「喫煙者が禁煙できない理由を列挙する態度」でした。もちろんそこには消費者の態度も強い影響を与えているのですが。
 「対策」としては「家畜や魚の健康」が根本となるでしょう。健康だったら抗生物質は使わずにすむのですから。ただ、それを業者に一方的に要求するだけは、何の解決も生まないでしょう。消費者が買わないものは生産されないのですから。でも、生産されないものは消費できません。さてさて、どこから手をつけるべき?