【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

音読み訓読み

2011-11-19 17:56:03 | Weblog

 「昼間」はふつう「ひるま」と読みます。中には「ちゅうかん」と読む人がいるかもしれません。
 「夜間」はふつう「やかん」と読みます。これを「よるま」と読む人は……たぶんいないでしょう。

【ただいま読書中】『ユーリーとソーニャ ──ロシア革命の嵐の中で』アンリ・トロワイヤ 著、 山脇百合子 訳、 太田大八 絵、福音館書店、2007年、1900円(税別)

 モスクワから100kmくらい離れたトヴェーリ県クフシーノブドにあるサモーイロフ家は穏やかで豊かな生活をしていました。11歳のユーリーは、大きくなったら技師になってお父さんの工場を継ぐつもりです。妹のように一緒に育てられているソーニャは、サモーイロフ家の小間使いの娘で、同い年。しかしユーリーには気になることがありました。遠くで行なわれている戦争と、身近でおきつつある社会主義運動。
 それでもクリスマスは楽しい行事です。その直前の「精進(肉を食べない、魚と野菜だけ)」の週間。宗教的なクリスマスの行事の数々。そう、革命前のロシアは、ロシア正教が正統とされる国だったんですね。そして、1917年が始まります。
 臨時政府ができ、ニコライ二世は拘禁されます。工場では労働争議が起き、サモーイロフ家は放火されます。ユーリーの周囲で「世界」ががらがらと“壊れて”いきます。「委員会」の命令で労働者たちが「反革命」の証拠を探しに家宅捜査をします。さらにはユーリーの父親を逮捕。一家に待っているのは過酷な運命であることは明らかです。一家は脱出を決意します。コネと賄賂を使い、なんとか書類と切符を揃えます。まずは一等車でモスクワへ。そこからこんどはウクライナのハリコフへ……家畜運搬車に詰め込まれて。
 当時のウクライナは複雑な情勢でした。赤軍と白軍の内戦に加えて、ウクライナ分離派同士の対立があり、そこにドイツ軍が絡んできます。さらにはスペイン風邪も。その中を列車はのろのろと数週間かけて進むます。その行き先は……ドイツ軍の収容所。
 大人たちは、変われない人と、情勢に合わせて素早い変わり身を見せる人に分けられます。しかし子供たちは「成長」します。ユーリーは「変化」を自身の内部に取り込んで根こそぎ変容していくのです。さらに“味付け”として、幼い性の目覚めもあります。
 やっとのことでたどり着いたハリコフも安住の地ではありませんでした。一家は次にオデッサを目指し、さらにフランスへの亡命を決めます。祖国ロシアとの別離です。しかし船が出港する直前、ユーリーには別の残酷な別れが待っていました。
 著者自身が白系ロシア人として祖国から難民としてフランスに渡った過去を持っています。つまり「ユーリー」は著者自身の姿、と言っても良いでしょう。ですから「ユーリー」が革命下のロシアでの人々の動きを批判的に見るのは当然でしょう。ただ、あからさまな嫌悪とか非難はありません。ユーリーがその「革命」自体をも自分の内部に取り込んでしまったからか、と私は想像します。
 出だしのクリスマスのシーンとその後の一家の運命の対比があまりに強烈です。それを味わいつつ、私は『若草物語』がやはりクリスマスで始まったことも思い出していました。ピューリタンとロシア正教、アメリカとロシア、と道具立ては違いますが、クリスマスの喜びはキリスト教徒にとっては特別なものでしょう。一般日本人にはそのへんのニュアンスの深さや差異がしっかり味わえないのが、残念です。