【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

首を賭ける

2011-11-10 17:56:09 | Weblog

 「自分は辞めるから、その前にこれこれの法案を通してくれ」という“取り引き”が、日本だけではなくてギリシアやイタリアなど各国で“流行”しているようです。しかし、自分の「ことば」ではなくて「自分の首」で政策を実行しようとするのは、政治家としてはどうなんでしょう。今回のTPPでも野田首相は「情勢が悪くなったら自分が辞めればいい」くらいに思っているのかもしれませんが、これだと「まつりごと」ではなくて、ただの「人柱」では?

【ただいま読書中】『宇宙においでよ!』野口聡一 著、 講談社、2008年、1400円(税別)

 宇宙飛行士の著者が子供向けに語りかけた本です。
 旅は人の視野を広げてくれます。外国旅行をすれば日本のことがよくわかります。では、宇宙旅行は?
 まずは「宇宙」の定義から……というか、どこまでが「地球」? 一応宇宙空間は「地上100kmより上(外)」と定められているそうです。ということは、成層圏の上、中間圏までは間違いなく「地球」なんですね。その外側が宇宙空間。
 著者が宇宙に旅立ったのは、2005年7月26日、乗ったのはスペースシャトルのディスカバリー号でした。打ち上げから8分28秒で著者は「宇宙」にいました。そして3日目に国際宇宙ステーションにドッキング。出迎えてくれたのは、ロシアとアメリカの宇宙飛行士。そこでは出迎えの「儀式」があります。アメリカ海軍の「誰かが乗船する時にベルを鳴らす習慣」、そしてロシアは「パンと塩」。このロシア人宇宙飛行士セルゲイ・クリカリョフは、この時が6回目の宇宙飛行(4回目の長期滞在、国際宇宙ステーションでは2回目)のベテランで、この飛行が終わると合計宇宙滞在803日という世界記録を作ることになるのです。ロシアの「ミール」にいたときには、宇宙にいるうちに母国がソ連からロシアに変ってしまった、という経験も持っています。しかしこれだけ滞在していたら、被曝量はどのくらいなんでしょうねえ……って、調べたらわかりますね。1日で1ミリシーベルトだそうです。
 著者が感銘を受けたのは「広さ」です。スペースシャトルでの生活空間はミッドデッキの6畳間くらいの部屋で、そこで7人が生活します。ところが宇宙ステーションでは、人の居住空間は大型バス二台分くらい。「とっても広い」そうです。
 NASAが用意している宇宙食は約200種類。ロシアは100種類くらいの宇宙食があります。そして次々“新製品”が開発されています。著者が宇宙に始めて持ち込んだのは「ラーメン」。日清食品の特注品です。カップヌードルのオリジナル味に加えて、みそ味・カレー味・とんこつ味も開発されたそうです。カレーライスもあります。これは毛利衛さんが始めて持ち込みました。著者もカレーを持って行きましたが、それは「SMAP×SMAP」のビストロスマップで著者のオーダーに合わせて作られたインド風カレー。食べてみたいなあ。もちろん、宇宙で。
 なお、宇宙ステーションでは食事の時には皆でテーブルを囲むそうです。
 トイレの構造や使い方も具体的に書かれています。ただ、トイレは一つしかないので、無神経な人が宇宙に出たらとても迷惑かも。
 遊びの話もあります。歴代の宇宙飛行士たちもいろいろな遊びをして見せましたが、著者がやったのは、あやとりと電子ピアノの演奏。ところがこれがけっこう難しい。あやとりでは手を近づけるとヒモがふわふわと逃げ出すし、ピアノは鍵盤を押すと体が浮き上がる。無重力(微少重力)というのは、なかなか大変な環境です。
 そして、船外活動。窓から見る宇宙空間や地球は感動的です。でもそれらはあくまで、窓枠の中の「景色」。ところ船外活動では、著者と地球は「宇宙という同じ空間に浮かぶもの同士」になるのです。
 著者の“履歴”も面白いものです。「宇宙への憧れ」はベースにずっと持ち続けていますが、「その時自分ができること」「その時自分がやりたいこと」も大切にして、浪人・東大(原動機コース)・石川播磨重工業の航空エンジン部門に就職、と「自分の人生」を生きています。そして社会人2年目の1992年、JALのエンジニアの若田光一さんが日本で4人目の宇宙飛行士に、というニュース。著者の血が騒ぎます。95年に宇宙飛行士の募集。過去最高の572人の応募の中には本当に優秀な人がごろごろしていました。著者は肩の力を抜いて「将来の宇宙飛行士と友達になれるかも」といった感覚で受験をします。そして……
 著者は宇宙飛行士に必要な条件は3つ、と言います。「冷静」「全体像を掴む能力」「細かいことにくよくよしない」。あとは、(現時点では)英語の能力も重要ですね。
 試験や訓練の具体的な内容は興味深いことが列挙されています。著者が宇宙に旅立つ一つ前のシャトル、コロンビア号の事故では著者たちの心は激しく揺さぶられます。そしてそれは、読者の心にも“共振”を与えます。宇宙飛行は、科学ミッションですが、同時に、心をもつ生身の人間の営みでもあるのです。私が宇宙飛行士にこれからなれる可能性は限りなくゼロに近いはずで、宇宙への観光旅行ができる可能性もゼロに近いでしょうが、それでも私の視線は宇宙へも向けておきたい、と思います。たとえ想像の目にしても、宇宙から地球を眺めていたいですもの。