【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

近い救急車

2010-11-08 18:45:53 | Weblog
救急車がやって来たな、と思ったら、ごくごく近い近所でサイレンの音が止まりました。おやおや、本当に近所だぞ、と窓から覗くと、奥さんが泣いている子どもを抱いて乗り込んでいます。事故で怪我でもしたのかな(転けて頭を打ったとか)、と思いますが、こんなご時世ですから、虐待のことも頭をよぎります。虐待を見逃すのはよろしくないことですが、虐待をしていない人のことも一応こうやって全員を疑わなければならないのもあまりよろしいことには思えません。お手軽な判別法があれば良いんですけどねえ。

【ただいま読書中】『アル・カポネによろしく』ジェニファ・チョールデンコウ 著、 こだまともこ 訳、 あすなろ書房、2006年、1500円(税別)

1935年、「ぼく」(あだ名はムース、7年生、身長は6フィート以上)は監獄のアルカトラズ島に移ります。電気技師の父親が、看守兼任でそこの職員になったものだから一家で引っ越したのです。ムースの姉ナタリーは自閉症。それが一家に複雑な影を投げかけています(なにしろ1935年のことですし)。ムースはムースで大変ですが、両親ももう(経済的にも精神的にも)限界に近い生活をしていました。
当時アルカトラズに収監されている大物と言えば、アル・カポネ、マシンガン・ケリー、ロイ・ガードナー…… ムースが通う対岸の学校では、アルカトラズのことはビッグな話題です。しかし、同級生のパイパー(アルカトラズ所長の娘、外見はとっても魅力的)の性悪な企みにムースも巻き込まれてしまいます。
受刑者のすぐそばで暮らすことは、ムースにとっては、受刑者が洗ってくれる服を着ること、でした。職員の服は(下着以外は)受刑者が洗濯をする決まりで、アル・カポネも洗濯をしているのだそうです。
ムースは野球が大好きです。才能もある様子です。ところが相手を見つけるのに一苦労。その野球(とナタリーとパイパー)がまた新しいトラブルを引き寄せます。ムースが野球のボールを探している間に、ナタリーが模範囚の一人と接触をしてしまったのです。それは所長に厳禁されていたことなのに。そもそもどんな犯罪を犯した人間かさえもわからないのに。だけどムースは二人の姿を見て思います。「すごくおっかない。すごくいい。」
障害者を抱えてバラバラになりそうな一家。しかも住むのは「悪魔の島」。悲惨にしようと思ったらいくらでも悲惨なストーリーが組み立てられる状況ですが(で、実際にけっこう悲惨な事件も起きるのですが)、なんとも個性的な登場人物たちがわいわいと走り回ってある意味真っ当な青春ものを演じ(なにせ子供が20人以上この島には住んでいて、それぞれキャラが立ってます)、ユーモアがぷんぷんと匂い立ち、そしてこちらの心はほんわかと暖まってきます。愛と友情と成長の物語、ときれいにまとめても良いのですが、特筆すべきは、成長するのが子供だけではないことでしょう。
アルカトラズ島に看守たちが家族と一緒に住んでいて、島で子どもたちがわいわいやっていたことは史実だそうです。そして、アル・カポネが洗濯をしていたことも。そうそう、「自閉症」がアメリカで独立した障害であるとされたのは、この物語から8年後、1943年のことです。



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