2007年5月のブログ記事一覧(3ページ目)-ミューズの日記
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<あれも聴きたい、これも聴きたい> アンヘル・ロメロがやって来た その4

 大阪国際フェスティバルは、ギターのコンサートとしてはかつてないほどの大歓声が渦巻く中無事終了しましたが、その瞬間、舞台裏の私達もほっと胸を撫で下ろしました。何故って無事スピーカーから二人のギターの音が出たことを何回確認したつもりでいても、ひょっとしたらアンヘルが興奮のあまりマイクを蹴飛ばしたりしねえか、曲の最後、左手を思いっきり上に振り上げマイクに触れて、あさって向けてしまいやしねえか、立ち上がって客席に向かって挨拶するときマイクにぶち当たって倒しゃあしねえかなど、モニターを見ていると何だかとっても心配になっちまって、とても平静でいられるような状態じゃなかったからです。しかしどうやらそんな恐ろしいことにはならずに済んで、最後のマドリガル協奏曲を終了してお二人が舞台下手に帰ってきた途端、アンヘルさんとアンヘルさんの奥様が大興奮。特にアンヘルさんはむちゃんこでっかい声で、我々のセットしたPAシステムのことを「どえりゃぁええがや!どえりゃぁ!」と、名古屋弁で言うわけはないが、しかしそんな感じで騒ぎまくるじゃないですか。演奏が終わって楽屋に飛び込んで来たとってもおしとやかな奥様も「アンヘルのこんな素晴しい音は初めてよ!なんて素敵な音がするスピーカーなの!」とこれまた大興奮。本人のアンヘルさんは「おらぁこのスピーカー買うだでよ!なんぼするだぁ、ええ?どこさいっだら買えるだよ!おらがこの装置持って世界中廻るだで、おめえら、えれえ宣伝になるだあよ」と今度はとうほぐべんよろしく終始騒ぎっぱなし。(そんなわきゃあないか)とにかくその声のうるせえのうるさくねえのったら・・・・。

 そしてセッティングをお手伝いいただいた小料理屋の若女将は、うちのかみさんと一緒に客席で聴いておったんだが、そちらももういつまでたってもうっとりと夢見心地。またまた村治佳織さんのファン度がグンとアップしちまったようだ。聞くとなんでも村治佳織さんには観音様の光背みてぇなオーラがあるそうで、おんなし人間、おんなし女性とはとても思えんかったそうな。演奏するときの姿、ステージ上での立ち振る舞いを、はじめから終わりまでただうっとりと眺めておったそうな。そして不思議なことに佳織さんがギターを弾いているという感じが少しもしなくて、音楽の化身みたいに見えたと、なんだかタカラジェンヌを見つめるタカラヅカファンみたいなことを申しておりました。実は前日のオケとの音合わせの後、その小料理屋さんへ一緒に行ったんだけど、あまりの興奮で写真を撮らせてもらうことも、サインをもらうことさえも頭に浮かんでこなかったそうな。彼女はそれくらいの熱烈な佳織ファンなんで、さもあらんさもあらん。そんな若女将を含めた我ら5人でPAシステムのお片づけをしましたが、みんないつまでたっても興奮が冷めません。とにかくみんなで「えがった、えがった!」の連続、連続。その夜はお父さんである村治昇先生のお気遣いで我々を招待してくださって、夜中の12時近くまでワインで乾杯したりお食事をしたりと、とっても楽しいひと時を過ごすことができました。とにかくギター史の記念すべき1ページに残るコンサートに、少しだけど裏方として関与できただけでも、とっても幸せな気分に浸れた一日でしたなあ。それにしてもアンヘルの野郎、なんであんなに声がバカでっかいんだぁ?(でもやっぱりかっこよかったわぁ)
続く・・・。
内生蔵 幹(うちうぞう みき)


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夜の更けるのも忘れて、口オケでコンチェルトの練習をやり続けるアンヘル・ロメロにつき合わされた佳織さんほか我々も、その後やっとの思いで夕食にありつくことになり、そこそこのお年をめしたおいちゃんとしては、不健康極まりない夕食を摂る事になった。そして翌日、とうとう本番が来ちまった。

会場は大阪中之島にあるフェスティバルホール。おいちゃんも以前ブリームなんかの演奏を聴きに来たことはあるけども、ステージに上がったのは初めて。なんとまあでっけえステージだこと。訊いてみたらステージの横幅がなんと30メートルもあるんだと。下手から上手を見ると遥か向こうじゃねえか。マイクやスピーカーのケーブルがものすごく必要になってくる。ここにオーケストらの人たちも入るわけだから、そこをうまく迂回しなけりゃあいけない。さらに長いケーブルが必要になるってもんだ。今回は機材セッティングの助っ人にとても心強い味方が登場してくれました。イクリプススピーカーを開発した富士通テン㈱の音響技術部の「小脇宏さん」と、我らがミューズ音楽館の浣腸、いや失礼、館長「山下高博さん」そして私のかみさんと小料理屋の女将。「え?小料理屋の女将?」とお思いでしょう?それがまたほれ、とっても若くて美人で、かっこよくて、しかも昔からの村治佳織さんとおいちゃんの大・大・大ファンときたもんだ。(おいちゃんが女将のファンなんだけどね)その4人で機材のセッティングを始めて、それから佳織さんの楽器を借りておいちゃんが佳織さんとアンヘルの代わりに音出しをし、それに対し山下さんと佳織さんのお父さんである村治昇先生とが音チェックをします。なんと我らがミューズ音楽館の館長、山下高博さんは、村治先生ともども、超ビッグな大阪国際フェスティバルの音響総監督を勤められたのですぞ。「皆の者、頭が高―い!」
 
オケ(大阪センチュリー交響楽団)の皆さんが入場してきます。皆さん昨日からイクリプスの卵のスピーカーには興味津々。また出てくる自然なギターの音にも驚いている様子。ゲネプロが始まりました。まず佳織さんのソロで武満徹作曲の「夢の縁へ」からです。昨日気が付いたんだけども、このときのオケの人数の多いこと多いこと。数えたわけではないけれどもおおよそ60人や70人はいそうな感じ。まるっきりベートーベンの交響曲でも始まりそうな雰囲気だ。これだけの大人数のオケをバックに、我らが村治佳織!一歩も譲らず堂々たるもんだ。「かっこいい!」の声もどっかから聞えてきそうだ。しかも先にも言ったように、彼女は全て暗譜で演奏します。あの難しい武満徹の曲を、みなさん暗譜でっせ。ほんとにもお、こちらとしちゃあ心底頭が下がりっぱなし。

前日彼女に尋ねてみたら、楽譜は印刷した紙のページ状ではなく五線が横にずっと繋がっているような感覚で頭に浮かんでくるそうだ。そういえば亡くなったイエペスもそんなことを言っておった。頭の中で楽譜のページをめくっているようではだめだ。五線の音符が横一列に左から右へ流れていくように頭に浮かんでくるようにならなければ・・・と。さすがだねえ。やっぱり我らが佳織さんはそんなことを簡単にやっておった。「すごい!」おめえらも少しは見習わなあかんぜ。

この武満徹の曲はCDではジョン・ウィリアムスがエサペッカ・サロネンとやったものと、ブリームが祭文、いやサイモン・ラトルとやったものと2種類出ていて、ここ最近は自宅で何度も何度も繰り返し聴いていたので、随分馴染んできていたが、それでもおめえ、あの曲を暗譜で弾いちまうたあなんちゅう度胸と気風の良さ!ちょっと若いけど、これから佳織姉御と呼ばせておくんなさい。(肩から背中にかけて緋牡丹の刺青が入っていたりして)
 
さあ、いよいよアンヘルの登場。アランフェスだ。これを聴きたかったのよん。まあレコードとおんなじよ。最初から爽快に弾きまくりますなあ。そのかっこええこと、かっこええこと。そしてその音のバカ(失礼)でかいことでかいこと。ありゃあマイクなんかいらんがな。2楽章も歌いまくるし終楽章も快速快速、通勤快速。さっそうと弾き飛ばしまする。本人も楽しくて仕方が無い風で乗りまくり。
 
そして、ついに我らが佳織姉御とアンヘルの二人で弾くロドリーゴの「マドリガル協奏曲」の始まりはじまりい。音楽としちゃあアランフェスとは比ぶべきもないけども、冒頭からかっこよく始まります。「やっとこやっとこくりだしたー」のおもちゃのマーチのテンポ。まあそれが二人が生で、しかも目の前で弾いてくれると、そのかっこいいことかっこいいこと。からだがうきうきしてまいりますなあ。
 つつがなくゲネプロが終わってしばし後、本番が始まりました。裏方のおいちゃん達はドキドキ・ハラハラ。「何かにぶちあたってマイクがあさって向いてねえべが」「ひょっとしたらアンプのスイッチ入れ忘れていないかしらん」「オケの誰かが途中でスピーカーケーブルを踏んづけて切れちゃいねえべが」とか、しょーもないことばっかり考えて、楽屋裏をあっちへうろうろ、こっちへうろうろ。動物園の白熊かウォンバットみたいにほっつき歩いてまわっておりました。そしてついに大阪国際フェスティバルの最終日、アンヘルロメロ&村治佳織、指揮山下一史によるコンサートはあちこちから上がる大きなおおきな歓声に包まれて終了しました。やっぱり我らが村治佳織は最後まで前に置いた譜面を1ページもめくることなく、むしろ隣のアンヘルの出す音やちょっとした動きを見逃すまいと堂々と余裕をもって弾き通しておりました。「偉い!」そして「えがった、えがった」

ところで残念ながらいろんなことで振り回されておって、当日の写真が一枚も撮れていないことに気が付いた。申し訳ねえ。

その4に続く・・・
内生蔵 幹(うちうぞう みき)


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 その日、村治佳織さんや佳織さん所属の事務所の社長土屋さん、そして私達みーんなのお腹の虫が合唱を始めている時、当のアンヘルさんはそんなことにはおかまいなしにマエストロ(指揮者 山下一史さん)の指揮に合わせての大音響の口オケが延々と続き、夜も深々と老けて、いや更けていきましたが、とにかくアンヘルさんは上機嫌です。アランフェスの時なんぞは、ひょっとしたらこの人、クライマックスのところへきたら、フラメンコよろしく踊り出しちまうんではないかと、少なからずドキドキ・ワクワクしておりました。

本番のマイクセッティングの都合があるので、デュオのコンチェルトの時、佳織さんにお願いしてアンヘルさんに「コンサートの本番は楽譜を見ながらお弾きどすか?」と訊ねてもらいました。(もちろん佳織さんは京都弁ではあらしまへんが)そうしたらアンヘルさんの答えは「楽譜?オレがマドリガルを弾くのに楽譜なんか見て弾くわけねーだろが!オレを誰だと思ってるんでい!天下のアンヘル・ロメロだぜい!第一この曲はオレと兄貴が初演したんだ。音符のひとつひとつ、楽譜の隅から隅まで、ぜーんぶオレ様の頭に刻み込まれちゃってるのさ!」だと。(本当のところは大きな声で「NO!」と言っただけだけどね。でもその「NO!」には今言ったようなニュアンスが充分込められていたように私には感じられた)

 では何故佳織さんにそんなことを訊いてもらったのかというと、私が担当するマイクのセッティングの時、楽譜のスタンドがあるとセットするマイクの位置に随分制約を受けてしまうので、そこのところを懸念して訊いてもらったというわけ。そもそも最初から今回は二人とも楽譜を見ないで弾くので、全てマイク位置最優先でやってくださいとのことだったし、しかもアンヘルさんの答えは今言ったように自信をもって「NO!」だったので、ひとまず安心したのですが・・・・。
ところがところが、一筋縄ではいかないのが彼のアンヘル・ロメロさん。翌朝、コンサートの当日、「あのね、あのね、アンヘルがね、急にね、楽譜をね、見てね、弾くってね、言ってね、聞かないらしいんです」との電話が入った。「ええ?!なんちゅうこっちゃ。昨日考えていたマイクセッティングを考え直さんとあかんがな」第一アンヘルがどこに譜面台を置きたいっていうか分かったもんじゃない。変に「おらぁ譜面台をこっちに置くから、おめぇマイクはこっちへ置いてケロ」とかなんとか言われた日にゃあ、奏者の斜め後に置くはずのPA用に使用するイクリプススピーカーとマイクが正面から向き合っちまって、すぐにハウリングを起しかねない。さあ大変!「あのやろう、昨日偉そうなこと言いやがって、結局のところは楽譜見るんじゃねえか。なんてこった」と、こちらとしてもぶつぶつ文句を言いながら会場である大阪フェスティバルホールに向かった。
 
 それにしても前にも言ったように、佳織さんに「アンヘル、あんさん本番では譜面を見ながらお弾きになるおつもりどすか?」と訊ねてもらったんだけども、佳織さんはなんと、あの長大なコンチェルトの第2ギターパートを全てアンプで、いや暗譜でお弾きになるんどすよ。(なんか変だな)というのも、佳織さんはちょっと前にアンヘルの自宅で合わせの練習をした時に、やっぱりアンヘルは暗譜で弾くというので、「こりゃあなんとか自分も暗譜しないと」と思って、超短時間で覚えちまったらしく、ご本人は「最初はこんなところほんまに覚わるんどっしゃろか思いましたんどすが、やってみたらなんとかなるもんどすなあ」と言っておりました。(佳織さんが京都弁でしゃべるわけはないんどすが)確かにオケとの音合わせの時も、全て楽譜を見ないでオケと合わせておりましたなあ。言っておきますが、佳織さんの弾いているパートは2nd.でっせ。だからその場に居合わせた人達も、その曲を知らない人達にとってはいったいどんな旋律の曲なのか、ちっともわかんない曲を聞かされたことになるんどすなあ。なにせ、主旋律を弾くはずの金髪怪獣「アンヘル・ロメロ」なしで音合わせをやったんどすから。
 
 そう考えたら佳織さんは偉い人だねえ。10楽章もある長大なコンチェルトの、しかも第2パートを顔色ひとつ変えずに、終始暗譜で弾いちまうんだから。アンヘル・ロメロはロスアンジェルスの金髪怪獣だったけども、村治佳織も日本の超・可愛いモンスターどしたなあ。本番でも佳織さんは、アンヘルさんに合わせて一応譜面台を立てておりましたが、置いた楽譜を見ることも無く、そしてついに1ページもめくることもあらしまへんどした。(やっぱりなんか変だなあ)

その3に続く・・・
内生蔵 幹(うちうぞう みき)


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<あれも聴きたい、これも聴きたい> さあ!アンヘル・ロメロがやってきた。

 ついにおいちゃんの目の前に、いつもものすごくかっこいい演奏で誰彼かまわずメロメロにしてしまう、あの、あの・・・、あのアンヘル・ロメロがやってきました。時は2007年5月13日、日曜日、午後8時。ところは大阪府豊中市の服部緑地公園の中にある大阪センチュリー交響楽団の練習場。大阪国際フェスティバルの最終日を明日にひかえたその日。自分の弾くアランフェスと村治佳織さんと一緒に弾く「マドリガル協奏曲」のオーケストラとの音合わせのためにやってきました。
しかもオーケストラの人たちが全員帰ったあと、メガホンをつけて怒鳴っているのかと思うくらいのでっかい声をたてながら「ガオー!ギャオー!」と言いながら(言葉がわからないこちらにとっては怪獣の雄たけびとしか思えないような叫び声を上げながら)会場へ入ってきました。そもそも最初から夜の7時ギリギリに到着する予定だったのが、乗るはずの飛行機に乗り遅れておったらしく、村治さんがしかたなく自分の弾く武満徹の「夢の縁へ」と二つのギターのための協奏曲であるべき「マドリガル協奏曲」の第2パートだけでオケとの音合わせをすべて終えたあとに、さきほどいったような怪獣の雄たけびをあげながら会場に入ってきたのです。しかもそのいでたちたるや、ついさっきまで海岸で海水浴をやっていたような、ランニングシャツに短パン、足にはハワイで流行中という真みどり色のゴム草履を履いて。そして露出した肩から脚はなんと金髪の毛むくじゃら。まさにロスアンジェルスの金髪怪獣。その金髪怪獣がオーケストラの練習場へ例の雄たけびを上げながら乗り込んできたのです。
しかしその怪獣が入ってくるやいなや、その場は瞬間にパッと明るくなり、まるで雲の切れ間からお日様が顔を出した時のように、そこらじゅうがいっぺんに真昼間になったよう。まさに天性の「ノー天気」。遅れてしまって、オケの人たちが帰ってしまったのもなんのその。「気にしない気にしない。だいじゃぶ、だいじゃぶ」となんだか反対のような気がするなあ。残っていた佳織さんや指揮者の人にひとしきり挨拶を交わした後、「さあやんべか」だと。オケ無しでどうすんのよ。「いやあ、だいじゃぶ、だいじゃぶ。佳織とマエストロさえいればだいじゃぶよん」てなもんで、マドリガル協奏曲が始まりました。オケパートはどうしたかっちゅうと、指揮者とロメロの口三味線ならぬ口オケ。ロメロさんソロのアランフェスもおんなじ。オケの代わりにロメロさんが大声で歌います。ロメロさんの口オケにマエストロ(指揮者のこと)が大真面目に指揮棒を振りますなあ。まあそのおっかしいことおかしいこと。そしてロメロさん、最後にパーフェクト!!」と、またまた金髪怪獣の雄たけびを上げますなあ。まあそのノー天気なことといったら・・・。でもアンヘルさんの弾くギターはものすごい太くて、丸くて、素晴しくよく通る音で、その上むちゃんこかっこ良くて、その場に居合わせたおいちゃんたちは、やっぱしもうロメロメロ。そしてぞくぞくするほどスリリング。皆さん共々「やっぱしこんなギタリストはそうざらにはおらんわなあ」と感心することしきり。会長、いや快調に指揮者の棒に合わせた口オケと共に夜もしんしんと更けていくのでした。そしておいちゃんや佳織さんのお腹の虫が合唱を始めても、果てしなく口オケは続いていくのです。「もお!ええかげんにせえよ!」
続く・・・。
内生蔵 幹(うちうぞう みき)


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<あれも聴きたい、これも聴きたい> またまた×2 アンヘル・ロメロ

 アンヘル・ロメロさんが来日したので、そのアンヘルさんのちょっと前のレコードを紹介いたしまする。録音が1985年というから既に20年以上昔だけども、協奏曲が2曲。B面はご存知ヴィラ=ローボスの「ギターと小オーケストラのための協奏曲」だが、A面はというと「ラロ・シフリン」というあまり聞いたことのない作曲家のギター協奏曲が収められておりまする。(ところでこの「A面、B面」という呼び方、懐かしいなあ。最近の若いあんちゃんや娘っこは知らねぇだろうが、昔のレコードっちゅうもんには表と裏があったんよ)「ラロ」とはいってもこっちのラロ・シフリンさんは、あのヴァイオリン協奏曲「スペイン交響曲」で有名なフランス生まれの作曲家「ラロ」ではなく、映画ファンの方だったらひょっとしたらご存知かも知れないが、ハリウッドでバリバリの映画音楽の作曲家なんだねえ。(ちなみにヴァイオリンで有名な方の「ラロ」の正式名を知っとりますか?「ヴィクトール・アントワーヌ・エドゥアール・ラロ」ちゅうえりゃあ長い名前なんよ)彼の作品の中で最も有名なものといえば、彼のブルース・リーが主演したカンフー映画「燃えよドラゴン」やクリント・イーストウッド主演の「ダーティ・ハリー」、はたまたテレビ映画では「団塊の世代」のおいちゃん達だったらひところ誰でも夢中になって見た覚えのある「スパイ大作戦」のテーマ音楽があるっていえば覚えがござんしょう。

彼は1932年、アルゼンチンのブエノス・アイレスに生まれ、作曲・編曲家としてやっておったところディジー・ガレスピーに「おめぇ、こんなDo田舎でシコシコやっとらんと、こっちさこ!」とか言われてニューヨークへ連れて行かれ、それからはそのディジー・ガレスピーのジャズバンドでピアニスト兼編曲家として「おまんま」を食べ出し、その後は映画音楽の(TVも含む)作曲家としてあっちこっちから引っ張りだこの「超売れっ子」になり、そのうちそっち方面の映画には欠かせない存在になっちまったってぇわけだ。
そんなラロ・シフリンさんがどうしてクラシックのギター協奏曲なんぞを書く気になったのかは全然わかりませぬが、なにしろソリストが最近ここに頻繁に取り上げているアンヘル・ロメロさんで、指揮者が結構有名なヘスス・ロペス・コボス。その上オーケストラがロンドン交響楽団というなんとも贅沢な組み合わせ。

話は逸れるが最近のギター協奏曲もオケがすごいね。ナクソスレーベルのCDを除くとほとんどが世界一流のオケが目白押し。一頃じゃあ考げぇられねえくれぇだ。ジョン・ウィリアムスはオーマンディ指揮のフィラデルフィア管弦楽団やルイ・フレモーのフィルハーモニア管弦楽団、そしてイギリス室内管弦楽団、バレンボイム指揮ではベルリン・フィルハーモニーとも共演しておるし、ペペ・ロメロはネヴィル・マリナーのアカデミー室内管弦楽団とよく共演していることは皆さんよくご存知の通り。指揮者はいないがイェラン・セルシェルなんぞはオルフェウス室内管弦楽団やカメラータ・ベルン。ジュリアン・ブリームにいたってはジョン・エリオット・ガーディナーの指揮するモンテヴェルディ管弦楽団や、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのサイモン・ラトルの指揮したバーミンガム市交響楽団とも共演しておる。それぞれが一般のオーケストラ作品の方でおなじみのオケばっかりで、ギターも出世したもんだと嬉しい限りやんか。もっとも、むかーし昔、アンドレス・セゴヴィアが共演した「シンフォニー・オブ・ジ・エア」もあのA.トスカニーニの為に編成されたNBC交響楽団が、トスカニーニ引退後名乗っていた名称だったってことを考えりゃあやっぱりセゴヴィアさんは偉かったっちゅうことになるかなあ。

ともかく今回取り上げたアンヘル・ロメロがソロを務めるラロ・シフリンのギター協奏曲。なんとまあ珍しい曲だけども、さすが映画音楽の作曲家の手になる作品だけに、あちこちにきれいなきれいな、まさに映画の一場面を彷彿とさせるようなオケの美しい旋律がちりばめられておるんじゃが、残念ながらソロギターの担当する部分が一向に面白くもなんともないのがなんとも悲しい。かろうじて3楽章にギターのソロとしての見るべきものが見られるような気がしないでもないけども、あとは「何でギターなん?」というところばっかりで、ギター協奏曲である必要性があまり感じられない。まことに曲全体を通して「統一感」に欠けるっちゅうかなん中華・・・・。(あくまでも私の個人的な乾燥、いや、感想なんでご勘弁を)こうしてみるとあのロドリーゴのアランフェス協奏曲やテデスコの協奏曲第一番ニ長調なんかに感じる全曲に渡っての統一感っちゅうのはすごいね。オーケストラとギターとの間に密接な関係があって音楽の流れに必然性があるもんなあ。こりゃあやっぱしギター協奏曲では一流だわ。
それに比べりゃ悪いけどこのシフリンさんのコンチェルト、「器用な人がちょこちょこっと書いてみたけど・・・・」っちゅう印象がどうしても漂ってくる。それでもきれいな旋律がいっぱい出てくるので、「B級コンチェルト」としちゃあまあまあかな。

 それにしても例によって我が「アンヘル・ロメロさん」のピクニックじゃなくてテクニックはここでも冴え渡っており、写真にあるように40歳になる前くらいの若々しいさっそうとした演奏で、「胸のすくような爽快感」が存分に味わえることは間違いない。ではB面のヴィラ=ローボスはどうかっちゅうとそうやねえ、ヴィラ=ローボスさんもきっと「こんな演奏は考えてもみなかった」んじゃねえべがっちゅうような演奏っちゅうたらええか、とにかくまあ「バリバリバリバリ弾きまくり過ぎ」っちゅう感じっちゅうの?スケールもアルペジオもマシンガンのように撃ちまくるアンヘル節が炸裂だわ。カデンツァなんぞやりまくり放題。こちらとしちゃあ「あんちゃん、ちーとは情緒つうもんがあんべな?」と言いたくなるくれぇだ。やっぱしヴィラ=ローボスなんかは前にも紹介した「ローリンド・アルメイダ」のちょっと不器用さを感じさせる「ぼそぼそ」した弾き方くらいが丁度ええような気がするなあ。それにしてもこのアンヘル・ロメロさんみてぇにこんだけ弾けりゃあ何だってできるだに、なんでこう毎回毎回おんなじマシンガン撃ちまくるだかねえ?強盗が老人ホームへ押し込むのにも戦車に乗って行くみてぇな感じがするわ。もう少しかっこ良く紳士的に押し込む時だってあってもええだに。

 このレコード(LP)はある時偶然中古レコード店で見つけたもので、輸入盤なんだけども、国内盤として発売されたことがあるんかどうか記憶にない。とにかく大好きなアンヘル・ロメロさんのレコードとしちゃあ、ものすごぉ上手いけど・・・、とにかく上手いことは分かるんやけども、あんまし皆さんにお勧めできるしろものではないような気がするようなしないような・・・・。「じゃあなんでそんなもんここで紹介するんや」というお声が聞えてくるような気がするが、そこはほれ、なんじゃそのぉ、早い話が、なんだがね・・・。えーと、エート・・・・。
内生蔵 幹(うちうぞう みき)

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