2006年1月10日のブログ記事一覧-ミューズの日記
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<あれも聴きたい、これも聴きたい>掘り出し物CD編 第5話

まずこのCDジャケットを見て下さい。
なんともはやグロテスクというかやけくそというか。
デザインする気があったのかなかったのか、わけが分からないいいかげんなジャケットですね。
ところがところがそこに録音されている音楽のなんとまあ素敵なことか。
ブラジル生まれのエルネスト・ナザレー(1863-1934)の「ブラジルのタンゴとワルツ」と題されたこのCDには、11曲のタンゴと2曲のワルツ、あとはマズルカとポルカがそれぞれ一曲づつ入っています。

演奏は1940年リオ・デ・ジャネイロ生まれのアルトゥール・モレイラ・リマというピアニストで、1965年のワルシャワで行われた第7回ショパンコンクールにおいて、かの有名なマルタ・アルゲリッチに次いで第2位を獲得しており、その後1970年のチャイコフスキー国際コンクールにも出場し、入賞を果たしているなかなかの優れ者なのです。

このCDが録音されたのは1982年ですから、彼が42歳のころですね。
最初に彼のレコード(そのころはCDではなく30センチのLPしかありませんでした)を私が入手したのは1977年録音の「ヴィラ・ローボス ピアノ作品集」というもので、有名な「野生の詩」や「あかちゃんの一族 第1集」が収められているアルバムでしたが、その演奏ははっきり言ってしまえば「しまりの無いと言うか、覇気がないというか、やる気があるのか無いのか、なんだかよく判らんええかげんな演奏やなあ」というのが私の感想で、その少し前に手に入れたほとんど同じ曲の入ったネルソン・フレイレ(当時はフレーアと表記していた)の才気あふれる名演を知っていましたので、そのモレイラ・リマというピアニストは、私の中では「しょーもないピアニスト」という評価しかできませんでした。

しかし今回取り上げたナザレーの曲ばかり集めたこの演奏のなんと切なく、あまく、そして郷愁をそそることか。
ナザレーという作曲家はその当時名前は知っていましたが、まだ一度もその音楽に接したことはありませんでした。
しかしこのモレイラ・リマの演奏を聴いて一遍に大好きな作曲家になってしまいました。タンゴといっても最近流行のピアソラのような知れ味するどい、シャープな、かっこいいというものではなく、なんだかなつかしい、ずーと以前から聞いたことのあるような、ほんのりとした魅力のある曲ばかりです。

特にCDの最後に収められているタンゴ「カリオカ」は素敵で、皆さんもきっと大好きになっていただける曲だという気がします。
ずっと昔、ギタリストのローリンド・アルメイダがブラジリアン・ソウルというアルバムの中でチャーリー・バードと二重奏で録音していたレコードがあり、その当時何回も何回も聴いたものでした。
聴いていただけば分かると思いますが、どの曲もギター向きというか、ギターに置き換えたらもっと魅力を発揮しそうな曲ばかりです。
楽譜も最近はオリジナルのピアノ譜が国内版で出版されていますので、誰かギターに編曲して聴かせていただけないものでしょうか。(以前から若干の編曲はあるようですが)

最後にこのCDの解説をされている浜田滋郎さんの最後の部分をご紹介します。「ナザレーの晩年は不遇だった。耳が聞こえなくなり、精神状態もあやしくなった彼は精神病院に収容されたが、ある日そこを抜け出し、発見された時は近くを流れる急流に顔をつけて死んでいた。このCDをお聴きになればお分かりの通り、“ブラジルのショパン”とも“ブラジルのスコット・ジョプリン”とも言える独特な味わいに溢れた彼の音楽は、ブラジル人の感受性を永遠に香らせながら、今日も流れている。」
皆さんも一度聴いて見て下さい。このCDはミューズに置いてあります。
                    内生蔵 幹


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