消防士 兼 旅人の日記

消防署での出来事、ダラダラした日常生活を綴ります。

ガイドライン2010

2012-05-19 23:03:47 | 消防・救急
前回の当番は5件。いつもより件数は多かったです。(いつもは2件ぐらい)

日中も出場したのですが、夜中も出場。これが長時間に及び、仮眠も合計で2時間弱ぐらいしか寝れませんでした。

しかも非番で午後から研修が予定されており、一度家に戻りましたが眠らずに少しだけ休み、それから研修へ向かいました。寝ちゃうと絶対寝坊しそうなぐらいでしたので…

研修で講義を受けている時もやっぱり眠たくなり。寝やしませんでしたが、あまり頭にも入りませんでした


さて先日の記事でも少し触れましたが、心肺蘇生法の方法がここで少し変わります。

これから初めて心肺蘇生法を勉強すると言う方は真っ白な状態からの勉強ですので習ったことをそのまま実践すれば良いだけの話ですが、過去に受講歴がある方にとっては少々混乱を招くことが予想されるかもしれません。

なので、ここで今までのやり方(ガイドライン2005、以下、G2005とします)と新しいやり方(ガイドライン2010、以下、G2010とします)の何が変わったのかを簡単にお話します。


G2005にもあった『救命の連鎖』に

1.119通報
2.心肺蘇生法(AED含む)
3.救急処置(救急隊員による)
4.救命処置(医師による)

と言うのがありました。なお、それぞれの項目の頭には『早い』がつきます。それがG2010になり、

1.心停止の予防
2.早期認識と通報
3.一次救命処置(市民による)
4.二次救命処置と心拍再開後の集中治療(救急隊、医師による)

と言うことになりました。G2010の項目2~4番目はG2005の救命の連鎖と何ら変わりはないですね。ですがここで『心停止の予防』と言うのが新たに加わりました。

心停止の予防と言うのは、突然死の可能性を未然に防ぐこと。万が一心肺停止状態に陥ってしまった時の救命処置も当然大切ではありますが、未然に防ぐと言うことが何よりも大事なこと。

成人の場合、急に心肺停止に陥る主因は心筋梗塞や脳卒中。生活習慣病とも呼ばれ、日本人の死因の中で上位に入ってくる病気です。生活習慣の改善によりそのリスクを軽減することも可能ですが、ここで言う心停止の予防とは、心筋梗塞や脳卒中の症状にいち早く気づき、早く救急車を要請することを言います。

心筋梗塞であれば急に胸が締め付けられるような痛みがする。顔色が悪くなり冷や汗が出るなどの症状が出ますし、脳卒中(脳血管障害)であれば、突然の頭痛や喋れなくなる、身体に麻痺が出るなどの症状が出ます。これらの症状に気がつき、倒れる前に救急車を呼び適切な処置を受けられれば、社会復帰の可能性が上がる…と言うわけです。


子どもの死因の1位は不慮の事故によるもの。事故や溺水、窒息などが挙げられます。

身近にいる大人が注意を払い、これらのリスクを取り除くことが心停止の予防に繋がってきます。具体的な方法としてはやっぱり目を離さないこと。(これが難しいのですが…)

自動車に乗っていればチャイルドシートに乗せる。自転車であればヘルメットをかぶせる。窒息予防のためには子どもの手の届く範囲に飲み込めそうな大きさの物は置かないことですね。(目安はトイレットペーパーの芯を通過してしまう大きさの物)


そして、心肺蘇生法の一連の流れにも変更点があります。今までのG2005では、

1.傷病者の意識の確認→助けを呼ぶ(119番通報、AEDの手配)
2.呼吸の確認→気道確保→人工呼吸2回
3.胸骨圧迫(心臓マッサージ)30回、その後人工呼吸2回の繰り返し
4.AED到着後、適応であれば電気ショック。救急隊到着まで胸骨圧迫、人工呼吸、AEDの繰り返し


これがG2010になり、

1.傷病者の意識の確認→助けを呼ぶ(119番通報、AEDの手配)
2.呼吸の確認→※変更あり
3.胸骨圧迫→人工呼吸
4.AED到着後、適応であれば電気ショック。以下G2005と同じ。


基本的に大きく変わってはいません。変わったとすれば、今までは人工呼吸をしてから胸骨圧迫だったのが、胸骨圧迫から先にやるようになったこと。

呼吸を確認し、呼吸が無ければ(普段通りでなければ…がポイント)胸骨圧迫を直ちに開始するようになりました。その後に人工呼吸を行います。

人工呼吸の回数(2回)及び胸骨圧迫(30回)の回数は変更ありません。

そして、呼吸の確認方法にも変更点が。G2005では顎を上に向かせるように頭を持ち上げ、目で見て、耳で聞いて、頬で感じてと言うように呼吸の確認をしていましたが、G2010ではそのままの状態(頭を持ち上げずに)呼吸の確認をします。胸やお腹の上がり具合をだいたい10秒以内で確認して、普段どおりでなければ胸骨圧迫を開始します。


そして一番の大きな変更点は、乳児にもAEDが使えるようになったことでしょうか。

1歳未満を乳児として扱い、G2005では乳児に対してはAEDが使えませんでした。それがG2010では使用可能になりました。

手順は成人と同じ。AEDに小児用モードがあればそれに切り替えたり、小児用のエネルギー減衰機能のついたパッドがあればそれを用います。(もし無ければ成人用で代替可)


基本的な心肺蘇生法の流れの変更点はこんな感じ。細かいこと言えばまだ出てくるのはあるんですが、ポイントはこんなところです。

後は講習の種別が増えたこと。小児や乳児の方法を重点的にやる講習もできましたし、分割講習、救命入門コース(90分)、eラーニングを使用した事前学習もあります。


私の所属する消防においても4月からGOサインが出たため、今後行われる救命講習はこの方法で実施します。

ここでお願いしたいのは、興味を持ち時間を作ってぜひ受講してみて下さい。今まで数多くの心肺停止事案に出場しましたが、バイスタンダーによる応急手当があったのと無かったのとでは予後が大きく違っていると言うことが証明できています。

救急隊が到着前に手当てが施されていれば心拍再開したり、完全社会復帰した症例もありました。反対に、何もやって無ければ予後は不良。突然に倒れてしまった人が、助けてと手を出しているかもしれない。そこに、ぜひ救いの手を差し伸べてあげて下さい。

過去に受講したことがある方でも、ぜひやり方が変わったことをきっかけに今一度復習の意味も兼ねて受講してみてください。お近くの消防署にお尋ね頂ければ、きっと回答は得られると思いますので



明日は仕事です。