ジャニンが風邪をひき、彼氏のダンが看病していたことは前に書いた。
その時、ジャニンは相当熱が出てフラフラで、心配したダンは病院に彼女を連れて行ってあげた。
ジャニンはその後、二、三日の間安静にしていた。僕も気を使って音楽をイヤホンで聴くなど、配慮していた。
その直後、ジャニンの部屋から男性の声がするようになった。言葉はドイツ語であった。
ダンはイギリス人でドイツ語は話せない。ということは、ダンは密かにドイツ語を勉強しており、どうしてもジャニンの母語で話したかったのだ。そして遂にそれを成し遂げたのである・・・というわけはない。
ドイツ語らしき言葉でしゃべる男性。笑い声がする。彼はよく笑う人だ。ラテン系のノリだ。
僕は当初、ダンも忙しいし心細くなって、ドイツ人の男友達を呼んだのだと思った。
ところが一向に帰らないこのドイツ人。
あれ・・・?
このドイツ人男性が同性愛の方でなければ・・・、まさか。
話は変わり、今日はクリスと買い物に行った。
夜ふたりで外に出ても、もう風が暖かい。なんてことだ、つい先日まであんなに寒かったのに。
「部屋より外の方があったかいよね」なんてクリスも笑うほどだ。
僕は会話のついでにジャニンのことを話題にした。
「誰か来てるよね、ジャニンの部屋に。」
「そうだね。」クリスももちろん知っている。
「あれ、彼氏かな。」単刀直入に聞く。
「彼はドイツ人らしい。今はアメリカに住んでいるんだって。」クリスよ。どこで得たんだ、その情報。直接話したんだな、彼と。
僕は隣の部屋なのだが、全く彼の姿を見ることが出来てない。声しか聞こえない。笑い声しか聞こえない。
ジャニンが最初に話していたところでは、元々遠距離の彼氏はアメリカで博士課程だそうで、ドイツ人とスペイン人のハーフらしい。そして、当初の予定では、彼は一月くらいにイギリスに遊びに来る予定だったとか・・・。
この情報から考えられることを総合しよう。
遠距離の彼氏は、ラテン系で、ドイツ語を話せて、アメリカに住んでいる。そして一月くらいにイギリスに来る。
そして、ジャニンの部屋に今現在いる男性もこの情報と完全に一致する。
そこでクリスの推理。
「いつもいる男性の方が彼氏じゃないのかも・・・。」
つまり、ダンが彼氏ではなくお友達だというのだね、クリス君。
あんなに部屋に泊って一緒にいるお友達ということは、ダンとジャニンは大親友だということだね、クリス君。
クリス君・・・、僕はその推理をにわかに信じられないよ。確かに男女の友人というパターンはよくある。僕も女性の友人の方が多いと思う。心から信頼している友人たちが。
しかしね、ちょっと泊まり過ぎだと思う。いや、確かに隣の部屋にいる僕が、なんだ、その・・・いやらしい騒音を聞いたことが一度もないというのは不可思議かもしれない。
そういう意味では、君の推理は一理ある。
でも工夫の仕様があるわけだから、それを巧妙に隠しているだけかもしれんよ。
では、僕が君に説明せず黙っていた推理をここに書くよ。
(以下、勝手な僕の推理)
ダンはジャニンに彼氏がいることを知っていた。しかし、彼女のことを魅力的だと思った。
ジャニンはジャニンで、イギリスという初めての土地でとても寂しい思いをしていた。
ふたりの出会いは偶然だった。
彼女がランニングしていたところ、同じようにランニングしている人を見つけた。実はその人が近所に住んでいる同じ大学の博士課程の人だという(これはかつてジャニンから聞いた話)。
共通の趣味を持った話の合うふたり。
ジャニンは当初、ダンと付き合うつもりはなかったが、話せば話すほど二人の間柄は急速に縮まっていった。
彼氏がいるとはいえ、結婚しているわけではない。ふたりは何かのきっかけで一線を越えてしまい、先のことは考えず一緒にいることにした。
最初は軽い気持ちだったふたりも、付き合いが長くなっていくにつれて、どんどん深みはまっていくのが分かった。
クリスマス休暇でしばらく会えなかったふたり。
お互いのことを考えていたら、なんだかまた寂しくなってしまった。でも、もうすぐ会える。
休暇が終わり、存分にふたりで一緒に過ごしていたある日。
ジャニンが風邪をこじらせてしまう。ダンは知っていた。もうすぐアメリカから彼氏が来る。
しかし、こんなフラフラのままじゃ彼氏ともゆっくり出来ないだろうし、何より彼女が心配だ。
一生懸命看病したダン。
治ったところで、彼氏が到着。
ダンは思った。彼女にとってオレは一体・・・。彼女はどう思っているのだろう。これからもオレと一緒にいてくれるだろうか。いや、彼氏が帰ったあと、オレは全く同じように彼女を愛せるだろうか。分からない。でも・・・。
クリス君、僕の推理はどうかな?
え?妄想癖がひどい?いやいや、こう見えても僕はイギリス二年目ですよ。同じようなケースをね、去年見てますから。
いや、ドイツ人じゃなくて日本人ね。
は?僕?違わ!ボケがッ!僕の友人二人の話でね・・・。それがやっぱり女性による二股でね。
見ていて辛かった。
とはいえ、僕も彼氏がいる女性と恋に落ちたことくらいはね・・・・・・、いや何でもないよ、クリス君。
ただ、これだけは言える。彼氏がいるからこそ、この恋は燃えるのだよ。
何だね、クリス君・・・、逆に二股されたことはあるかって?まあ、それも・・・、いや何でもないよ、クリス君。
結局、最後に女性が戻ってきてくれた場合、彼氏は彼氏で強く愛を感じるものだよ。
まあ、無駄話もそれくらいにしよう。
(以上が僕の勝手な小芝居を含めた推理でした)
クリスとふたりで車の中で聴いた最後の曲は、コールド・プレイの「Lover in Japan」。日本にる恋人、という曲だった。
優しく切ない曲調。
僕は日本にいる彼女ことを思い出した。
おしまい
その時、ジャニンは相当熱が出てフラフラで、心配したダンは病院に彼女を連れて行ってあげた。
ジャニンはその後、二、三日の間安静にしていた。僕も気を使って音楽をイヤホンで聴くなど、配慮していた。
その直後、ジャニンの部屋から男性の声がするようになった。言葉はドイツ語であった。
ダンはイギリス人でドイツ語は話せない。ということは、ダンは密かにドイツ語を勉強しており、どうしてもジャニンの母語で話したかったのだ。そして遂にそれを成し遂げたのである・・・というわけはない。
ドイツ語らしき言葉でしゃべる男性。笑い声がする。彼はよく笑う人だ。ラテン系のノリだ。
僕は当初、ダンも忙しいし心細くなって、ドイツ人の男友達を呼んだのだと思った。
ところが一向に帰らないこのドイツ人。
あれ・・・?
このドイツ人男性が同性愛の方でなければ・・・、まさか。
話は変わり、今日はクリスと買い物に行った。
夜ふたりで外に出ても、もう風が暖かい。なんてことだ、つい先日まであんなに寒かったのに。
「部屋より外の方があったかいよね」なんてクリスも笑うほどだ。
僕は会話のついでにジャニンのことを話題にした。
「誰か来てるよね、ジャニンの部屋に。」
「そうだね。」クリスももちろん知っている。
「あれ、彼氏かな。」単刀直入に聞く。
「彼はドイツ人らしい。今はアメリカに住んでいるんだって。」クリスよ。どこで得たんだ、その情報。直接話したんだな、彼と。
僕は隣の部屋なのだが、全く彼の姿を見ることが出来てない。声しか聞こえない。笑い声しか聞こえない。
ジャニンが最初に話していたところでは、元々遠距離の彼氏はアメリカで博士課程だそうで、ドイツ人とスペイン人のハーフらしい。そして、当初の予定では、彼は一月くらいにイギリスに遊びに来る予定だったとか・・・。
この情報から考えられることを総合しよう。
遠距離の彼氏は、ラテン系で、ドイツ語を話せて、アメリカに住んでいる。そして一月くらいにイギリスに来る。
そして、ジャニンの部屋に今現在いる男性もこの情報と完全に一致する。
そこでクリスの推理。
「いつもいる男性の方が彼氏じゃないのかも・・・。」
つまり、ダンが彼氏ではなくお友達だというのだね、クリス君。
あんなに部屋に泊って一緒にいるお友達ということは、ダンとジャニンは大親友だということだね、クリス君。
クリス君・・・、僕はその推理をにわかに信じられないよ。確かに男女の友人というパターンはよくある。僕も女性の友人の方が多いと思う。心から信頼している友人たちが。
しかしね、ちょっと泊まり過ぎだと思う。いや、確かに隣の部屋にいる僕が、なんだ、その・・・いやらしい騒音を聞いたことが一度もないというのは不可思議かもしれない。
そういう意味では、君の推理は一理ある。
でも工夫の仕様があるわけだから、それを巧妙に隠しているだけかもしれんよ。
では、僕が君に説明せず黙っていた推理をここに書くよ。
(以下、勝手な僕の推理)
ダンはジャニンに彼氏がいることを知っていた。しかし、彼女のことを魅力的だと思った。
ジャニンはジャニンで、イギリスという初めての土地でとても寂しい思いをしていた。
ふたりの出会いは偶然だった。
彼女がランニングしていたところ、同じようにランニングしている人を見つけた。実はその人が近所に住んでいる同じ大学の博士課程の人だという(これはかつてジャニンから聞いた話)。
共通の趣味を持った話の合うふたり。
ジャニンは当初、ダンと付き合うつもりはなかったが、話せば話すほど二人の間柄は急速に縮まっていった。
彼氏がいるとはいえ、結婚しているわけではない。ふたりは何かのきっかけで一線を越えてしまい、先のことは考えず一緒にいることにした。
最初は軽い気持ちだったふたりも、付き合いが長くなっていくにつれて、どんどん深みはまっていくのが分かった。
クリスマス休暇でしばらく会えなかったふたり。
お互いのことを考えていたら、なんだかまた寂しくなってしまった。でも、もうすぐ会える。
休暇が終わり、存分にふたりで一緒に過ごしていたある日。
ジャニンが風邪をこじらせてしまう。ダンは知っていた。もうすぐアメリカから彼氏が来る。
しかし、こんなフラフラのままじゃ彼氏ともゆっくり出来ないだろうし、何より彼女が心配だ。
一生懸命看病したダン。
治ったところで、彼氏が到着。
ダンは思った。彼女にとってオレは一体・・・。彼女はどう思っているのだろう。これからもオレと一緒にいてくれるだろうか。いや、彼氏が帰ったあと、オレは全く同じように彼女を愛せるだろうか。分からない。でも・・・。
クリス君、僕の推理はどうかな?
え?妄想癖がひどい?いやいや、こう見えても僕はイギリス二年目ですよ。同じようなケースをね、去年見てますから。
いや、ドイツ人じゃなくて日本人ね。
は?僕?違わ!ボケがッ!僕の友人二人の話でね・・・。それがやっぱり女性による二股でね。
見ていて辛かった。
とはいえ、僕も彼氏がいる女性と恋に落ちたことくらいはね・・・・・・、いや何でもないよ、クリス君。
ただ、これだけは言える。彼氏がいるからこそ、この恋は燃えるのだよ。
何だね、クリス君・・・、逆に二股されたことはあるかって?まあ、それも・・・、いや何でもないよ、クリス君。
結局、最後に女性が戻ってきてくれた場合、彼氏は彼氏で強く愛を感じるものだよ。
まあ、無駄話もそれくらいにしよう。
(以上が僕の勝手な小芝居を含めた推理でした)
クリスとふたりで車の中で聴いた最後の曲は、コールド・プレイの「Lover in Japan」。日本にる恋人、という曲だった。
優しく切ない曲調。
僕は日本にいる彼女ことを思い出した。
おしまい
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