それでも僕はテレビを見る

社会‐人間‐テレビ‐間主観的構造

アレックスのお母さん、急襲。

2012-06-17 19:56:49 | イギリス生活事件簿
朝、ドアを叩いている人がいた。

アレックスが急いで駆け降りると、一生懸命鍵を開けようとしたが、何か焦っていてなかなか開けられない。

こんなにアレックスが慌てるなんて珍しいなあと思いながら開けてあげると、そこには大変ふくよかな女性と、白髪の大柄な男性が立っていた。

女性は「アレックスの母です」と名乗った。



黒い豊かな髪をひっつめにして眼鏡をかけた女性、つまりアレックスのお母さんは、なかなか眼光が鋭く、フレンドリ-な感じではなかった。

僕の予想を裏切るアレックスのお母さん。

他方、男性は優しげで、こちらは「私の友人よ」と紹介された。アレックスのご両親は離婚している。

お母さんは現在ロンドンで暮らしており、アレックスは度々そちらに顔を出している。



アレックスにとっても今回の訪問は急だったということで、とても慌てていた。

奇しくも、バレンティーナがイタリアに帰った直後であった。

実は、アレックスはバレと一緒に暮らしていることをお母さんに内緒にしている。

バレはこう言っていた。「アレックスのお母さんに、私、とても嫌われているの。」

アレックスはお母さんのいないところを狙って、僕らフラットメイトに「かん口令」を敷いたのだった。



なぜ、バレはアレックスのお母さんに嫌われてしまったのか?

僕が下の記事に書いたようなバレの考え方や行動を詳細に読み取り、その結果、嫌ったのだろうか?

アレックスのお母さんは実は薬学博士の資格か何かを持っていて病院に勤務している。つまり、どエリートなのだ。

お母さんはアレックスに博士課程への進学をすすめており、ことによるとアレックスにも同じような理系の研究者になってもらいたいのかもしれない(どういうわけか、研究者の親は子供を研究者にさせたいケースが結構頻繁にある)。

少なくとも、アレックスはかわいい息子であるに違いないし、おそらくは出来の良い息子としてある程度認識されているのではないかと思う。

そういう人が息子のパートナーに求める人物像はいかなるものであろうか?

エリートで、しっかりした女性?ことによると研究者とかの?

お母さんがバレンティーナと会って驚愕したであろうこと、そして落胆したであろうことは、容易に想像できるのだった。

(ちなみに、どうしてこんなに良く出来た男であるアレックスがバレンティーナを選んだのか、全く僕にも理解はできないのだが、おそらく何かがとても魅力的なのだろう。確かにバレは楽しい人ではある)。



僕は午後からラケルと図書館に行き、それぞれ研究に励んだ。

帰ってくると、アレックスおよびお母さんとそのお友達の姿はなく、僕らは音楽をかけながら早目の夕食をとった。

「ワイン、飲む?」とラケルが僕にたずねる。

「あとでいいよ。」

「あら、今日は日曜よ!」と、いたずらな笑顔でグラスを2つ持ってくるラケル。

僕らはワインを飲む。

ラケルは言った。「彼ら、あとで帰ってきて、バーベキューするわね。」

そう、アレックスは大量の肉を解凍して出て行ったのだ。

けれど、フラットメイトの僕らが誘われることはないだろう。アレックスのお母さんはそういう感じでは全くなかった。



お母さんがどういう目的でこのフラットにやって来たのかは分からない。

ただ、ひとつだけ明らかなのは、アレックスが借りてきた子猫のように大人しくなってしまったことと、お母さんとの会話が異常に緊張感のあるものであるということ。

そして、あの部屋にバレンティーナがいないとしても、そこに全く女の影を感じ取らない母親はいないであろうし、ましてあのお母さんであるならば、なおさらだということ。



僕らの夏は、あと一か月と少しで終わる。