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大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

「土地家屋調査士業務取扱要領」案

2020-11-12 10:28:46 | 日記
日調連から全国各会に「土地家屋調査士業務取扱要領」案への意見募集が求められた、ということです。「土地家屋調査士業務取扱要領」案を見て、思ったことを書きます。

まず初めに「前置き」的なことを言っておくと、私は、この「土地家屋調査士業務取扱要領」案というものについて、そもそも賛成しがたいものだと思っています。
それは、この「業務取扱要領」というものが、これまでのように、日調連で作成した「調査測量実施要領」について、全国各会が検討を加えたうえで「会の定める要領」としてきたことを止めにして「全国統一」のものとして作成することにした経緯そのものがおかしい、と思うからです。
それは、土地家屋調査士法の改正がなされて、土地家屋調査士に対する懲戒権者が、それまでの(地方)法務局長から法務大臣に変わったことを受けて、調査士が守るべきものとされている「要領」も全国統一にする必要がある、という形で説明されているものです。
なぜそうなるのか?何の必然性もない話です。
調査士が業務を行うにあたって拠らなければならないものとされているのは、まず「法令」であり、これは全国共通のものです。その上で「本会の制定する要領」に拠るものとして「調査測量実施要領」を定めていた(り、いなかったり)わけで、何もこれが全国共通でないと進められない、というわけではありません。現に、法務大臣の懲戒に関する事務は、各(地方)法務局に委任されて行われることになっているわけで、これまでどおりの形態で不都合が生じるというものではないはずです。
むしろ、「各会が検討して制定する」という自主的な姿をなくしてしまう方が弊害が多い、と言うべきでしょう。(こういうところから今回の意見照会も、108条207頁もあるものに対してわずか1週間の期限、というアリバイ的なものになっています。「検討」するべきものではなく「与えられるもの」になってしまっているのです。)
そしてそれは、具体的な内容へも影響を与えます。
「業務取扱要領」というものが、「懲戒」への対応を主要動機として考えられているので、それは「懲戒に引っかからないように作っておこう」という方向で考えられるようになります。ここから、従来の「義務規定」を「努力規定」に変えちゃおう、というようないじましいことがなされたりもするわけです。情けないことです。

・・・というわけで言いたいことはいっぱいあるのですが、一つだけ、看過しがたいと思うことに絞って本題に入ります。
この「業務取扱要領」は「調査士法改正を受けて」なされているそうですから、「懲戒」に関することだけではなく、第一条の「筆界を明らかにする業務の専門家」として位置づけられたことを受けて、その「筆界を明らかにする業務」の「取扱要領」を明らかにする方向で検討・策定を行うべきものとしてあるのか、と私は思っていました。「第1条 使命」が規定されたわけですから、それを具体化する「業務取扱要領」を作って行こう、と考えるのは、当然の思考回路なのかと思ったからです。しかし、そのような問題意識はおよそ持たれていないようです。不思議なことです。前を向いて考えればいい(「調査士の使命」を果たすこと)のに、後ろ(「懲戒」に引っかからないように!)ばっかり見ているようで、情けないことです。
その「筆界を明らかにする業務」に関係すると思われるのは、次の条項です。

(筆界位置の判断)
第33条 調査士は、本要領第31条及び第32条の調査結果等と併せて、原則として次に掲げる各号によって筆界位置の判断をするものとする。なお、土地の形状及び面積が地図等又は登記記録の地積と相違しているときは、依頼者に対し地図訂正又は地積更正等の必要性があることを助言するものとする。
(1) 現地において境界標又はこれに代わる構築物等(以下「境界標等」という。)により土地の区画が明らかな場合において、地図、地積測量図又はその他の数値資料が存し、位置及び形状がそれぞれの資料の持つ精度に応じた誤差の限度内である場合は、これをもって筆界と判断することができる。ただし、必要に応じて関係者に土地の筆界の認識を確認するものとする。
(2) 現地において境界標等により土地の区画が明らかな場合において、地図、地積測量図又はその他の数値資料が存せず、地図に準ずる図面、関係者の証言等により対象地の位置、形状、周辺地との関係が矛盾なく確認された場合は、これをもって筆界と判断することができる。
(3) 現地において境界標等が存せず土地の区画が明らかでない場合において、地図、地積測量図又はその他の数値資料、地図に準ずる図面、関係者の証言等により復元した位置が対象地の位置、形状、周辺地との関係が矛盾なく確認された場合は、これをもって筆界と判断することができる。この場合、調査士は、本要領第31条及び第32条による調査結果等に基づく見解を関係者に示し、恣意的に筆界が確認されることのないようにしなければならない。

正直言って全体として何を言っているのかよく理解できないのですが(その意味で「要領」としての役割を果たしているとは言えないと思いますが)、理解しえた範囲で思ったことを書きます。
この「筆界位置の判断」に関する内容には、「筆界を明らかにする業務の専門家」として考える、という姿勢がまったく感じられません。
それを端的に示しているのは、(1)(2)(3)の各項が立てられているわけですが、それがどのようなことで区別されているものとして別項にしているのか、ということが考えられていないことです。
すなわち、それぞれが「どのような場合」のことを考えているのか?ということが問題になるわけですが、(1)も(2)も「現地において境界標等により土地の区画が明らかな場合」のことを言っているようになっています。
このように、同じ「場合」を考えるのであれば、項を分けずに同じ項にまとめる、というのが論理的な考え方だと言えるでしょう。
さらに、この「場合」の上で、(1)は、「地図、地積測量図又はその他の数値資料が存」する「場合」のことを、(2)は「地図、地積測量図又はその他の数値資料が存」しない「場合」のことを考える、という構造になっています。
この初めに来る「場合」と次に来る「場合」とは逆転しても問題がないようです。すなわち、(1)では、「地図、地積測量図又はその他の数値資料が存する場合」において「現地において境界標等により土地の区画が明らかな場合」にはどうか?というように考えるのでもいいようです。むしろ、このように考えた方が(2)「数値資料が存しない場合」との区別がはっきりとついて、わかりやすくなる、と言えるでしょう。そのようなものとして、従来の「調測要領」では、「既存の地積の測量図、登記所備付けの地図及びその他の数値資料が存する場合・・・」(39条(1))、「前項の資料が存しない場合・・・」(同(2))とされて、異なる「場合」に応じて項が立てられていたのでした。(従来の「調測要領」39条の全文は末尾に掲載)
それをわざわざひっくり返しているわけですが、これは「改正」ではなくて「改悪」だと言うべきです。なぜなら、このように規定することは、「筆界の位置の判断」をするときに、まず考えるべきこと(初めの「場合))を「現地において境界標等により土地の区画が明らか」かどうか?ということに置くことにしていることになるからです。これは間違いです。「筆界の公的性格」ということから、公的な資料から「筆界が明らかである」と認められるかどうか、ということをまず第一に考えるべきです。それが、「筆界を明らかにする業務の専門家」としての見方であり、「土地の区画が明らか」かどうか?という現況を考えてしまう、というのは「現況主義」的な「素人の見方」への後退になってしまいます。「筆界を明らかにする業務の専門家」としての「業務取扱要領」を考えるべき時に行うべきことではありません。(もっとも、従来の調測要領では「当事者間でそれらの境界標等を土地の境界として認めているときは」という限定規定を置いていたのを除いていますので、その面では「改正」と言ってもいいのかと思いますが。)
初めの「場合」と次の「場合」をひっくり返した方がいい、というのは(2)でも明らかです。
すなわち、「地図、地積測量図又はその他の数値資料が存」しない場合でも、「現地において境界標等により土地の区画が明らかな場合」にはどうなのか?というように問題は立てられるべきでしょう。その方が論理的につながるからです。
そのようにせずに、最初に「現地において境界標等により土地の区画が明らかな場合」を置いたので、その次は「地図、地積測量図又はその他の数値資料が存せず、地図に準ずる図面、関係者の証言等により対象地の位置、形状、周辺地との関係が矛盾なく確認された場合」というように、否定的な「場合」(数値資料が存在しない)と肯定的な「場合」(矛盾なく確認できた)を並列的に置く、というアクロバチックな形になってしまい、それは一体どういう「場合」なのか?ということがわからなくなってしまっています。
こうしてみてみると、この「案」を作って人たちがどこまで考えてこのようにしたのかはわかりませんが、この条項が示しているのは、「筆界位置の判断」に当たって最も重要なことは「現地において境界標等により土地の区画が明らか」なのかどうなのか?ということなのだ、ということであり、「現地において境界標等により土地の区画が明らか」な場合には、(何を意味するのかよくわからない条件を付けながら結局のところ)「筆界と判断することができる」という結論に結びつく、としている、ということです。これは、「筆界と普段関係しない一般の人々」に理解しやすいことなのかもしれませんが、それは「専門家」が専門分野をわかりやすく説明する、ということではなく、「素人」のレベルにまで落ちて行ってしまう、ということに過ぎません。本当に「専門家」なの?と疑問に思われてしまうところです。
(なお、(3)については、本当に意味不明で、言うべきことがありません。いろいろと推測をめぐらしたのですが、本当にわからん!)

さて、以上「文句ばっかり言ってる!」と思われるかもしれないので、原文の雰囲気を残したままで作り変えるとしたらどうなるだろう?と考えたものを書いておくことにします。あまり出来のいいものではありませんが、この辺のところにしておけば、その後の具体的な展開を期待できるのではないか、と思います。

(1)地図、地積測量図又はその他の数値資料が存する場合には、その指示する点を現地に復元し、地図に準ずる図面等の他の関係資料及び境界標・工作物等の現地の状況との間に、数値資料の正確性を疑わせるような矛盾のないときは、これをもって筆界と判断することができる。
(2)地図、地積測量図又はその他の数値資料が存しない場合には、現地において境界標又はこれに代わる構築物等が存在し、地図に準ずる図面、関係者の証言等により対象地の位置、形状、周辺地との関係が矛盾なく確認されるときは、これをもって筆界と判断することができる。ただし、必要に応じて関係者に土地の筆界の認識を確認するものとする。
(3) 前号、前々号によって筆界の判断をすることのできない場合には、関係者の筆界に関する認識を調査し、関係者間の認識が一致して確認できる場合には、これをもって筆界と判断することができる。この場合、調査士は、本要領第31条及び第32条による調査結果等に基づく見解を関係者に示し、恣意的に筆界が確認されることのないようにしなければならない。


従来の「調測要領」の規定は次のようなものでした。この規定も、少なくとも今日においてはとても適切なものとは言えないと思いますが、それにしてもまだ論理的な筋は通っていますので、参考までに載せておきます。今回の「業務取扱要領」案は、、この20年近く前のものよりも後退してしまっているように思えます。
(筆界の確認)
第39条 筆界の確認は基礎測量又はこれに類する測量の成果を基礎として、次の各号により行うものとする。
(1) 既存の地積の測量図、登記所備付けの地図及びその他の数値資料が存する場合において、現地における境界標又はこれに代わるべき構築物等により土地の区画が明確であって、位置及び形状がそれぞれの資料のもつ精度に応じた誤差の限度内であり、かつ、当事者間でそれらの境界標等を土地の境界として認めているときは、これをもって筆界と判断して差し支えない
(2) 前号の資料が存しない場合において、現地の状況が境界標又はこれに代わるべき構築物等により土地の区画が明確であり、既存資料、現地精通者の証言等により対象地の位置、形状、周辺地との関係が矛盾なく確認され、かつ、当事者間に異議がないときは、その区画をもって筆界と判断して差し支えない
  なお、土地の形状及び面積が登記所備付けの地図等又は登記簿上の地積と相違しているときは、委託者に対し地図訂正又は地積更正等の必要性があることを助言するものとする。
(3) 第38条・第40条又は第50条に基づき確認されたものは、筆界として差し支えない
2 前項により筆界が確認されたときは、後日の紛争防止と登記申請書に添付するため別紙11又は12の様式を参考とした確認書を作成する。
(筆界確認の協議)
第40条 土地の筆界が明らかでない場合には、当事者に対して筆界及び所有権の及ぶ範囲の確認を求め、協議をさせるものとする。この場合において、第39条による調査結果及び第50条による復元資料を示し、調査士の見解を利害関係者に示し、恣意的に筆界が定められることのないようにしなければならない。
  2 前項の規定により当事者が筆界を確認したとき、又は不調の場合においても、その立会状況、立会者名及び経過を調査記録書等に明記するものとする。
  3 前条第2項の規定は、第1項の規定により筆界が確認された場合に準用する。


「筆界認定の在り方に関する検討会」について・・・おしまい

2020-10-16 10:51:52 | 日記
「筆界認定」をめぐる問題について、これまで見てきたのですが、最後に、この問題について土地家屋調査士の世界の中ではどのようにとらえられているのか、どう考えるべきなのか、ということについて見ていきたいと思います。
折しも改正土地家屋調査士法が改正されて、土地家屋調査士が「筆界を明らかにする業務の専門家」として位置づけられたところです。「筆界を明らかにする業務の専門家」としての土地家屋調査士は、どのようにして「筆界を明らかにする」のか?・・・まさにその「専門性」が何なのか?を問われるときです。
この問いに対して、もしも、「土地所有者に聞いて明らかにします」というのが「答え」だとしたら、あまりにも情けない、ということになります。・・・

今、土地家屋調査士は、「筆界認定」「筆界位置の判断」について、どのように考えているのか?とりあえずその「公式表現」についてみることにしたいと思います。調査士法の改正を受けて「業務要領」の改定がなされようとしている、ということですので、その「業務要領」改定案で、「筆界位置の判断」についてどのように言われているのか、その問題点は何か、ということを見ていきたいと思います。「業務要領」改定案では、「筆界位置の判断」について、次のように期待するべきものとされているそうです。

第33条 調査士は,本要領第31条及び第32条の調査結果等と併せて,原則として次に掲げる各号によって筆界位置の判断をするものとする。なお,土地の形状及び面積が地図等又は登記記録の地積と相違しているときは,依頼者に対し地図訂正又は地積更正等の必要性があることを助言するものとする。
(1) 現地において境界標又はこれに代わる構築物等(以下「境界標等」という。)によ り土地の区画が明らかな場合において,地積測量図,地図又はその他の数値資料(以下「数値資料」という。)が存し,位置及び形状がそれぞれの資料のもつ精度に応じた誤差の限度内であり,かつ,関係者が境界標等を土地の境界として認めている場合は,これをもって筆界と判断する。
(2) 現地において境界標等により土地の区画が明らかな場合において,数値資料が存せ ず,地図に準ずる図面,関係者の証言等により対象地の位置,形状,周辺地との関係が矛盾なく確認され,かつ,関係者が境界標等を土地の境界として認めている場合は,これをもって筆界と判断する。
(3) 現地において境界標等が存せず土地の区画が明らかでない場合において,関係者に 対して筆界及び所有権の及ぶ範囲の確認を求め,書証・物証・人証によって現地の境界が明確になり,特別の矛盾や反証のない場合は,これをもって筆界と判断する。この場合,調査士は,本要領第31条及び第32条による調査結果等に基づく見解を関係者に示し,恣意的に筆界が確認されることのないようにしなければならない。


この条項について、本稿の問題にしていることとの関係では、どの場合にも(「数値資料」のある場合でさえ!)「関係者が境界標等を土地の境界として認めている」こと(「筆界確認情報」)を必要だ、としている、というところにあるわけですが、根本的な問題は、そのことを含めておよそ「筆界認定の在り方」という「筆界を明らかにする業務の専門家」にとっての中心的課題に対する問題意識そのものが感じられないところにあります。外形的なことで言えば、この条項は、少なくとも昭和(!)63年(1988年)12月に出された「調測要領第3版」の22条「筆界の確認」、23条「境界確認の協議」とほぼ同じ内容です。社会が大きく変化する中で32年経っても同じ姿勢のままでいる、というのは、まず、驚くべきことです。参考までに1988年のものを以下に示します。

(筆界の確認)
第33条 筆界の確認は、前条の基礎測量又はこれに類する測量の成果を基礎として、次の各号により行うものとする。
(1) 現地において境界標又はこれに代わる構築物により土地の区画が明確であって、地 積の測量図又は地図に記載された位置及び形状がそれぞれの精度に応じた誤差の限度内で一致し、かつ,当事者間でそれらの境界標等を土地の境界として承認しているときは,これをもって筆界として差し支えない。
(2) 現地の状況が構築物等によって判然と区画されている場合で,既存資料又は現地精 通者の証言等により目的地の位置,形状,周辺地との関係が矛盾なく確認され,かつ,当事者間に異議のないときは,これをもって筆界として差し支えない。この場合において、土地の形状及び面積が地図等又は公簿と相違しているときは,委託者に対し地図訂正の必要性があることを助言するものとする。(以下略)
(境界確認の協議)
第33条 土地の筆界点が明らかでない場合には、 当事者に対して境界及び所有権の及ぶ範囲の確認を求め,協議をさせるものとする。この場合において必要があると認めるときは,調査結果及び資料を関係者に示し,恣意的に境界が定められることのないよう配慮するものとする

この二つを見ると明らかなように、ほとんど変わっていません。32年の時を経て、客観的な情勢も主体的な能力も大きく変わっているのに、これほど相も変らぬ規定を墨守していていいのでしょうか?これまでの「筆界確認情報」に頼った「筆界認定」のあり方では、取引の円滑に対する阻害要因になってしまう、という批判を受けて検討に取り組まざるをえなくなってきている、ということは考えの中に無いようです。時代と関係なくやっていけると考えている(あるいは何も考えていない)様子は「のんき」と言ってすまされるものではないように思えます。
・・・が、もちろん、何も変わっていないわけではありません。(1)を比較してみると、「2020年版」の方では「数値資料」というものが登場していることが分かります(これは、1997年(平成9年)の「第4版」から登場しているものです。その頃から「数値測量」が一般的になっていった、ということが分かります)。しかしその上で問題なのは、「数値資料」が登場したにもかかわらず、他の要件は何も変わっていない、ということです。「数値資料」があっても「境界標等で現地の区画が明確」「当事者間でその境界標等を境界として認めている」という要件が必要だとされていること、裏返せばこれらの要件がなければ「筆界と判断する」ことはできない、とされている、ということです。これはおかしい。
「数値資料」というのは、筆界の位置をピンポイントで指し示すことのできる資料、ということです。すなわち、創設筆界については、筆界を画定した時の一次資料・直接証拠としての意味を持つ資料です。したがって当事者たちがどのような認識を持とうと、これ以外に「筆界」があるとは考えようのないものです。「筆界位置の判断」のためにこれ以外の資料を求めるのは間違っています。原始筆界であっても、過去において「筆界確認情報」などを基礎として「筆界認定」したものを数値で表示してピンポイントで復元しうるようにしているものです。過去に一度「筆界認定」されているのであれば、それを尊重すること、そのような「筆界認定」とそれに係る資料の蓄積によって、より多くの筆界の位置が明らかになり、土地境界関係が安定に向かっていく、ということが、およそ「筆界認定」に携わる者には考えられなければなりません。ですから、「数値資料」(公的に認証された数値資料)が存在する場合には、それだけをもって「筆界と判断する」ことができるものとするべきものとしてあります。
(なお、誤解を招くといけないので言っておきますが、私は、数値資料があれば現地も見ずに自動的に「筆界の位置」を判断していい、と言っているわけではありません。「数値資料」の示す位置を現地に「復元」したうえで判断する、という作業が必ず必要です。その上で、近く(ではあるが異なる位置)に境界標等が存在するときには、どちらの位置を「筆界」と判断するのか、という、まさに「判断」が求められます。これは、場合によっては「数値と若干違う現地の境界標等の位置」になることもあるでしょうし、逆に「現地の境界標と若干違う数値通りの位置」になることもあるでしょう。必ずどうなる、と決まっているわけではなく、「判断」がもとめられるのであり、こうした「判断」をできるからこそ「専門家」と言えるのであり、決まりきったことを決まりきったように処理する機械的な作業にしてしまうべきではありません。その意味でさらに言うと、2020年改訂版の条文の文章は、最後の部分を「これをもって筆界と判断する」という断定口調で締めくくっています(これが従来のものと変わったところです)が、そうではなく、それまでの「調測要領」の「これをもって筆界として差し支えない」という判断の余地を残した言い方の方がふさわしいと言えます。)

この「数値資料」の登場、というのは、実は画期的なこととしてあります。
それまでは、
「現地で筆界を一義的に指し示すことのできる地図や一筆図、地積測量図はむしろ極めてまれであろう。」(寶金敏明「新訂版 里道・水路・海浜」P.251-2)
と言われるように、ピンポイントで筆界を指示する資料というのは、ほとんどありませんでした。そして、そのことを理由として、両土地所有者の「立会」によって筆界を確認するということ(「筆界確認情報の作成・提供」)が必要なのだ、とされてきていたわけです。ところが、その「きわめてまれ」であった資料が、数値測量の普及によって「数値資料」というかたちで数多く輩出されるようになってきました。ですから、少なくとも「数値資料」のある筆界に関しての「筆界認定」に関する考え方は、この状況の変化に応じて変わらなければならなかったわけです。
ところが、「数値資料」の登場、という変化は知りながら、それを「筆界認定」の考え方に適切に適用していく、ということができずに来ている、というのが、土地家屋調査士界の現状だと言わなければならないわけです。情けないことです。

私は先に「32年間ほとんど変わっていない」と言いました。これはやや不正確な言い方です。基本的なところではあまり変わっていないにしても、32年の間にはその時々の変化をしながら、今、かえって悪い方向に変化しようとしている、とさえ言えてしまう、というのが実態に近い感じです。
それを見るために、1997年(平成9年)の「調測要領第4版」での、上記(1)に対応する条文(21条)を見てみて、比較してみましょう。
「(1)既存の地積の測量図,法第17条地図及びその他の数値資料が存する場合において,現地における境界標又はこれに代わる構築物等により土地の区画が明確であって、位置及び形状がそれぞれの資料のもつ精度に応じた誤差の限度内であり,かつ,当事者間でそれらの境界標等を土地の境界として認めているときは,これをもって筆界として差し支えない。」

まず初めに考える「場合」が違います。1997年には、「既存の地積の測量図,法第17条地図及びその他の数値資料が存する場合」のことを考えました。「数値資料」というピンポイントで筆界の位置を指し示す資料が登場してくる中で、その意義を受け止めて、まず「数値資料がある場合にどうするか?」ということを考えた、ということなのでしょう。その上で、おそらくは当時の「数値資料」の精度のバラつきというようなこともあって、それだけで筆界の位置を判断するわけにはいかない、ということや、それまで「境界標等の存在」「当事者の承認」(筆界確認情報)によって筆界位置を判断してきた業務慣行の流れの中あるということの中で、「境界標等の存在」「当事者の承認」という要件をも残してしまったところに限界があるのだと思いますが、それにしても「数値資料が存在する場合」にどうするのか?ということをまず考えた、というところは優れた着眼であった、と言えるでしょう。
ところが、それから23年の経った2020年には、再び、
「(1) 現地において境界標又はこれに代わる構築物等(以下「境界標等」という。)によ り土地の区画が明らかな場合において,地積測量図,地図又はその他の数値資料(以下「数値資料」という。)が存し,位置及び形状がそれぞれの資料のもつ精度に応じた誤差の限度内であり,かつ,関係者が境界標等を土地の境界として認めている場合は,これをもって筆界と判断する。」
というように、まず考えるのは「境界標等のある場合」になってしまっているのです。そして、その境界標等に位置を「筆界と判断する」ことを画一的に求めています。これは、「筆界」を判断するときに、「筆界について記載された図書資料」と「現地地物」のどちらを重視するのか?という問いに対して「現地地物」と答えて、それを規準にするべき、としているものです。それでいいのでしょうか?とても疑問です。

・・・以上、「筆界確認情報」以外の「余談」めいた話が長くなってしまいました。「筆界認定」、特に「筆界確認情報」のところに話を戻しましょう。
「改定案」の条文を見ると、「数値情報」のある場合も、それがなくて「境界標等」がある場合も、いずれも「関係者が境界標等を土地の境界として認めている場合」でなければ「筆界と判断する」ことはできないものとされています。これは逆に言って「関係者が境界標等を土地の境界として認めている場合」には、そのことをもって「筆界と判断する」ことができる、ということになります。(1)(2)(3)を通してみると、そうだということが明らかです。「筆界確認情報」の偏重です。この偏重は、土地家屋調査士の世界にこそある、という姿になっているわけです。
しかし、これまで縷縷述べてきたように、「筆界確認情報」がなくても「筆界認定」できる場合というのは、さまざまな形である、ということを明らかにすべきです。その課題に取り組まず、十年一日どころか三十年一日に「筆界確認情報」頼りを続けることを「業務要領」にする、ということが、「筆界を明らかにする業務の専門家」として正しい態度だとはとても思えません。
「関係者が境界標等を土地の境界として認めている場合」としている「改定案」は、少なくとも(本当に少なくとも)、従来の「調測要領」にあった「当事者間に異議がないときは」というような表現に(そのような内容に)変えるべきなのだと思います。
そして、「数値資料のある場合」「数値資料はないが一定の復元性のある資料のある場合」「現地地物の存在とその経緯」等に関する整理を行っていく必要があるのだと思います。しつこいほど繰り返しますが、それが「筆界を明らかにする業務の専門家」として必要なことなのだと思うのです。
最後に。
もう十数年前でしょうか、他県の土地家屋調査士(優秀な方です)と話をしたときに、「隣接者にペコペコ頭を下げて筆界への同意をもらうのが仕事だという現状を克服したい」ということを言われて驚いたことがあった、ということを思い出しました。そのような業務のあり方が一般的な状態として今も続いているのだとしたら、情けないことです。「筆界を明らかにする業務の専門家」だとして表面的におだて上げられながら、その実法務局の下請作業員として、隣接者にペコペコ頭を下げながら、「確認できた」といううわべを取り繕うことを繰り返し、そのことをもって「業務独占」を保っていく、という姿では、あまりにも情けないと思います。
「筆界認定の在り方」を、本当に考えなければいけない、ということを最後に繰り返して、冗長になった本稿を閉じることにします。



「筆界認定に関する検討会」についてー⑤

2020-10-07 14:01:27 | 日記
前回、「筆界認定へ向けてのフローチャート」の最初に「当該筆界についての現地復元性のある資料があるか?ないか?」を置き、「ある」場合にはそのまま「筆界認定」へ、「ない」場合に検討を続ける必要がある、ということを書きました。
フローチャート的に言うと、次に「筆界確認情報があるか?ないか?」が来ます。「筆界確認情報」というものの位置づけはあくまでもこの「2番目」の位置である、ということを確認しておく必要があります。また、この「筆界確認情報」というものは、単に「両土地所有者が合意した」ということだけをもって成立するものなのではなく、あくまでも公図等他の資料との整合性をも確認したうえでの「確認情報」でなければならない、ということも確認しておく必要があります。その確認の上で、これもまた同じように「ある」場合にはそのまま「筆界認定」へ、「ない」場合に検討を続ける必要がある、ということになります。
ここまでが、単一技での「一本」になるもので、これ以外に様々な形での「合わせ技一本」がありえます。
筆界特定制度においては、この「合わせ技」のありかたを次のように規定しています。
「登記記録、地図又は地図に準ずる図面及び登記簿の附属書類の内容、対象土地及び関係土地の地形、地目、面積及び形状並びに工作物、囲障又は境界標の有無その他の状況及びこれらの設置の経緯その他の事情を総合的に考慮して」
というものです。
筆界特定手続の場合は、基本的に紛争性のある場合が想定されているので、このように列挙された多くの要素のすべてを検討して、複数の要素の多様な組み合わせによって「筆界の現地における位置」を特定することになっています。そのために筆界特定に至るまでに「6か月」ほどの期間やいくつかの「手続保障」を必要とする、やや重い手続になっているわけです。
それに対して、通常の表示に関する登記にかかる「筆界認定」については、そこまで複雑なものがあるわけではないものとして考えてもいいでしょう。その整理の仕方について考えてみたいと思います。
上記の不登法143条1項で列挙されているものは、私なりに整理すると、次のようになります。
第一は、当該筆界の性格を判断するための項目です。「登記記録」が示す筆界創設の経緯、「原始筆界」「創設筆界」の別、所有権の変遷等は、言わば「背景情報」として具体的な資料を読み解くありようを示します。
第二は、「地図」「地積測量図」等の図書資料です。これについては、先に述べたように過去において「筆界を定めた」内容が直接的に表示されています。その表示形式がピンポイントで現地に復元しうるものについては今回の時点においてもそのまま「筆界認定」すればいいわけですが、そこまでの現地復元性のないもの、たとえば図解法の14条1項地図、三斜法の地積測量図、更正図由来の公図については、「合わせ技」の一要素としての意味を持つことになります。
第三は、境界標、工作物等の現地地物としての現地資料です。

次の例で考えてみます。



8番の土地を分筆しようとして筆界認定が必要、という想定です。
14条1項地図地域ですが、図解法の復元性の低い地図だとします。
境界標のある場合
K3、K4に境界標があるとします。この場合、その境界標の位置が地図の示す位置と許容誤差範囲内で合致するのであれば、K3-K4を筆界として認定しうるものと考えられます。したがって、この場合「筆界確認情報」は必ずしも必要なく筆界認定をしうる、ということになります。
囲障・工作物のある場合
K5の位置は、ブロック塀の角であり、この位置も地図の示す位置と許容誤差範囲内で合致するのだとすれば、これもまた(K4-K5を)筆界として認定しうる、ということになるでしょう。また、K2-K3は道路との境界であり、道路側溝の敷設があるとすれば、K2の東西方向の位置についてはともかくK2-K3の線としての位置(南北方向の位置)が地図と許容誤差範囲内で一致するのであれば、それとして認定することができるでしょう。
そうすると、8番の土地についての筆界認定としてはK5-K4-K3(-K2)については筆界認定をなしうる、ということになります。残りは、K2-K1(-K5)ということになります。
以上は、「原始筆界」「創設筆界」の違いに関わらずに言えることです。
さらに、このK1、K2には、何の現地地物も存在しないとすると、どのようなことになるのでしょうか?
「原始筆界」「創設筆界」の別が、ここで出てくるのだと思います。
「原始筆界」(古い時代の国調由来の14条1項地図)の場合であれば、ただちにK1、K2の位置を特定するのは困難だということにせざるを得ないのでしょう。K6~K8の境界標の存在や、それにもとづく面積算定とその比較等によってK1、K2の位置を絞り込むことはできる場合があるとしても、やはり一般的にはそれをもってK1、K2の位置をピンポイントで特定する、というのは難しいと言うべきでしょう。
これに対して、たとえばこれが古い時代のものであれ区画整理による「創設筆界」なのであれば、事情は違ってきます。
8番の土地の地積というのは、区画整理の換地処分の際に確定されているものなので、K5-K4-K3(-K2)を前提としたうえで、その面積を確保しうる位置をもってK1、K2の位置を特定することができます(他の検証ももちろん必要ですが)。

以上、非常に単純化したものですが、「筆界確認情報を待つまでもなく筆界認定できる」場合というものを具体的に考える必要がある、というものとして書きました。14条1項地図区域以外(公図地域)でも、三斜の地積測量図の備付のある場合、比較的正確性の高い更正図の備付のある場合で筆界認定できる条件の揃う場合というのも考えることができます。そのような検討を具体的に行い、一定の指針を出していく、ということが、今、求められているのだろうと思います。

「筆界認定の在り方に関する検討会」について―連載④

2020-09-28 14:42:45 | 日記
「筆界が明確であると判断できる」のはどのようなときか?
まず、「連載2」で引用した大分(九州)の「土地建物実地調査要領」における「筆界の認定」に関する規定をもう一度見ます(注記的記述を一部省略しています)。
(2)法第14条第1項地図が整備されている地域に所在する土地の筆界であって、当該地図の現地復元により指示される地点に地図作成当時に設置された筆界点と認められる境界標及び地図作成当時に測量の基礎となった基本三角点等が現存しており、これら複数の境界標及び基本三角点等により当該筆界を現地において復元することができる場合
(3)現地復元性のある地積測量図が提出されており、当該地積測量図の現地復元により指示される地点に地積測量図作成当時に設置された筆界点と認められる境界標、地積測量図作成の測量の基礎となった基本三角点等又は別表第4に掲げる恒久的地物が現存しており、これら複数の境界標及び基本三角点等又は複数の境界標及び恒久的地物により筆界を現地において復元することができる場合
上記の場合には筆界認定ができる(従って筆界確認情報の作成・提供を求める必要はない)ものとしています。
これは、ごく当然の当たり前のことを言っている規定です。このような取り扱いは当然に全国的になされて然るべきものであり、もしこれが全国的なものではない、という現状があるのだとすれば、これを全国的に共通なものとして確認するようにする、ということだけでも「筆界認定に関する検討会」の最低限の意義だと言いうるでしょう。もちろん、その上で、これに該当しない場合でも「筆界認定ができる(従って筆界確認情報の作成・提供を求めない)」場合がある、ということまで検討を進めていく必要があるわけですが。
この規定を非常に荒っぽく要約すると、「現地復元性のある筆界資料があれば、それだけで筆界認定しうる」ということになります。ここで「現地復元性のある資料」というのは、「法14条1項地図」であり、「現地復元性のある地積測量図」であるわけですが、それは要するに「各筆界点の座標値」をその情報内容とする資料、ということになります。
つまり、「地図を作成するための測量」は、「「基本三角点等を基礎として」行うこととなっています(不登規則10条3項)し、「電磁的記録に記録する地図にあっては…各筆界点の座標値を記録するものとする」(同13条2項)となっていますので、少なくとも平成17年の不登規則改正以降の法第14条第1項地図地域においては「各筆界点の座標値」が明らかになるものとなっていて、したがって「現地復元性のあるもの」と言えます。また、地積測量図についても、「基本三角点等に基づく測量の成果による筆界点の座標値」(不登規則77条1項8号)ないし「近傍の恒久的な地物に基づく測量の成果による筆界点の座標値」(不登規則77条2項)が記載されることになっていますので、これもまた少なくとも平成17年の不登規則改正以降のものについては、「現地復元性のあるもの」と言えるわけです。
この場合には、すでに「定められた筆界」が存在し、それを現地においてピンポイントで復元できる資料があるわけですから、それだけで「筆界認定」できる、ということになります。それは、当該筆界について、境界標等の現地地物が存在する場合にはもちろん、それが存在しない場合においてもできることです。単独の資料で「筆界が明確である」と判断できるわけです。
この「単独で」ということの意味をもう一度考えておく必要があります。
そもそも「筆界」という概念は、いつかの時点でそれを「筆界」であると「定める」、ということがあったことを前提にする概念です。分筆登記によって新たに筆界が創設される、区画整理によって筆界が再編成されることによって新たに創設される、というように「創設筆界」については、筆界を「画定する」という形で「定める」ことがなされています。明治の地租改正の過程で定められた一筆の土地の外縁である「原始筆界」については、このような筆界のピンポイントでの具体的画定行為はないわけですが、過去において「筆界確認情報」等を基にして「筆界認定」を行うという形で筆界を「定める」ことがなされています。
この「筆界を定めた」ものについて、その時々に「どのように定めたのか」を記録した資料が作成されてきたわけですが、それが上記のように「座標値」の形で示されるようになったのはそう古いことではなく、全面的になされるようになったのは上記平成17(2005)年、かなり多くのケースでなされるようになったのでも平成5(1993)年からのことです。
このことから、「現地復元性のある資料は極めてまれである」と考えられがちなのですが、この15~30年ほどの間にかなり多くの「現地復元性のある資料」が蓄積されてきている、ということであり、この資料によって(単独で)筆界を認定しうる、ということを改めて確認しておく必要があります。そのように認定しうるものとして「筆界」があること(いちいち所有者同士で「確認」をしなければ前に進めないというわけではないこと)にこそ「筆界」概念の意義があるわけです。
このようなことから、「筆界認定へ向けてのフローチャート」を作るとすると、まず初めの選択肢として、「当該筆界についての現地復元性のある資料があるか?ないか?」という項目が立てられることになり、「ある」であればすぐに「筆界認定できる」に進むことになり、「ない」である場合にさらに次の問いに進むということになる、という形になります。この、その先の選択肢というのは、単独ではなく複数の要素の組み合わせによってさまざまに変わることになり、柔道の「合わせ技一本」のような形での筆界認定になります。
この「合わせ技一本」のための「個々の技」と「その合わせ方」について、以下考えていくようにします。

「筆界認定に関する検討会」について・・・連載3

2020-09-16 20:33:53 | 日記
2.課題の設定
「筆界認定に関する検討」を行う、という場合、ごくごく原則的に言えば設定すべき課題は、「正しい筆界認定はどのようにあるべきか?」ということになります。
しかし、これではあまりにも漠然としすぎていますし、初めに書いたように「筆界確認情報を求める実務上の取り扱いが取引の円滑への支障となっている」ということが問題意識としてあるということですので、問題が「筆界確認情報を求める必要性の有無」に絞られるのは仕方ないことかもしれません。
そのようなところから、本検討会における主要な課題設定は、「土地の区画が明確である場合には、筆界確認情報の作成及び登記所への提供を不要とすることが考えられないか」ということとして立てられているそうです。
私は、この課題設定自体について、もう少し考えてみるところがあるように思います。
まず第1に、「筆界確認情報」に焦点を当てること自体については、上記の事情から仕方ないとも思うのですが、その場合にも「筆界確認情報」というものを「筆界認定」の全体像の中におけるものとして、少し突き放して見る必要があるのだと思います。具体的に言うと、「筆界認定」をできる場合というのは二つの場合があるのであり、「蓄積された資料によって筆界を認定できる場合」と、それができなくて「筆界確認情報の作成・提供を求める必要のある場合」とがある、と考えるべきなのだと思います。「筆界確認情報の作成・提供を求める」というのは、原則としてはあくまでも第二順位のものなのであり、これに頼りすぎてしまっている現状をどうにかしなければいけない、ということが問題意識の出発点にあるべきなのだと思います。
第2に、どうするか?ということを考える場面設定を「土地の区画が明確である場合」としていることです。私は、場面設定は「土地の区画が明確である場合」ではなく「当該筆界が明確である場合」として立てるべきなのだと思います。それは「土地の区画」という言葉の曖昧さです。この言葉は、たとえば不動産登記法14条1項が「地図」について「各土地の区画を明確に」するものとして規定しているように、四囲の筆界をもって構成される一筆の土地の全体を問題にしている言葉なのだと思います。図で言うと、8番の「土地の区画」というのは、K1-K2-K3-K4-K5-K1で構成されるものです。それに対して「筆界」というのは、「1筆の土地とこれに隣接する他の土地との間」(不登法123条1号)における個別の1対1対応のものです。図で言うと、8番と9番との筆界はK1-K2であり、8番と道路との筆界はK2-K3であり、8番と7番2との筆界はK3-K4であり・・・・、というものです。この場合、8番と7番2との筆界を認定するのにあたっては、K3-K4の筆界が明確であると判断されれば筆界認定できるのであり、他のK4-K5やK5-K6等々は直接の関係はないのです。このように「土地の区画が明確である場合」という言葉の使い方は、問題を拡大・拡散させてしまうおそれがあるので、あくまでも「筆界」の問題として「当該筆界が明確である場合」のことを考える必要があるのだと思います。
第3に、「土地の区画が明確である場合には、筆界確認情報の作成及び登記所への提供を不要とすることが考えられないか」という控えめな課題設定のあり方が問題なのだと思います。「検討会」なのだから、あらかじめ答えを出してしまうのではなく、控えめな問題設定をするのは当たり前じゃないか、と思われるかもしれませんが、そうでしょうか?もしも「土地の区画が明確である」のであれば、そのような土地の場合でさえ「筆界確認情報の作成・提供を求める」という必要性がある、と考える余地がそもそもあるのでしょうか?私にはありえないことだと思いますし、それは「あたりまえのこと」としか思えません。
ここでも「土地の区画」という言葉が問題をわかりにくくしているように思います。もしもこれを「筆界が明確である場合は」とすれば、「筆界が明確である場合は筆界認定できる」「筆界が明確である場合は筆界確認情報の作成・提供を求める必要はない」という結論がすぐ出てきます。それは、同じ意味のことを繰り返し言っているに過ぎない(同義反復)もので、問題にするまでも明らかなことだからです。そうなることを避けてか、問題を「土地の区画が明確な場合は」と立てたので、当たり前のことがあたかも当たり前ではないようになって、問題がややこしくなってしまっているのだと思えます。

さて、それでは課題はどのように立てるべきなのか?「筆界確認情報」をめぐる問題として立てるのであれば、「「筆界が明確であると判断しうるときには、筆界確認情報の作成及び登記所への提供を不要である」ということを命題として立てたうえで、「どのようなときに筆界が明確であると判断できるのか?」ということを考えるべき、なのだと思います。
・・・ということで、「筆界確認情報」というものについて言いたいことはまだあるのですが、それは後回しにして、「本来の課題」であるべき「どのようなときに筆界が明確であると判断できるのか?」という問題について、次回から具体的に考えていくようにしたいと思います。