私は、土地家屋調査士が(したがって調査士会が、そしてその連合会が)、専門資格者としての自らの社会的存在意義を発揮できる最大のものは、「土地境界問題」の領域だと思っています。したがって、今後の制度改革を、「境界問題の専門家」としての立場から推進していく、という姿勢をとることが重要なにるのだと思います。
土地家屋調査士は、制度発足以来土地の境界(筆界)を取り扱って分筆登記などを行ってきました。しかし、「筆界」についての考察を深め、「境界問題」への取り組みを本格化させたのは、この20年くらいのことだと言えるでしょう。20年ほど前から、その取り組みを開始し、一定の力を蓄えたところで司法制度改革、行政改革の動向との関係もあって、平成17年の不動産登記法・調査士法の改正での筆界特定制度、境界ADRへの関与がなされるようになった、という経過をたどったものと言えます。
それから7年余を経過して、特に筆界特定制度への関与は、実際の境界問題の解決へ向けた寄与という成果とともに、さまざまな教訓をも含めた大きな経験を私たちに与えてくれました。
この教訓と経験は、土地家屋調査士の世界全体から見るとまだまだ一部のものに限られているのが現実であるように思えますが、これを質的にも量的にも全体のものにしていくことが今後の課題なのだと私は思っています。
それは、分筆登記等の一般的な登記事件における「筆界認定」において、この間の「境界紛争解決への取り組み」の中で培ってきた力を全面的に展開していくこと、として課題にするべきことだと思います。
この課題は、内外の二つの課題として現にあります。一つは、調査士内部の問題です。すべての調査士が、境界紛争解決に取り組むときの質をもって一般登記事件における「筆界認定」を意識して行えているか、という問題です。私は、少なくとも現時点における調査士の一般的な水準は、これをなしきれるだけの力を持つものとしてある、と思っています。しかし、それが実際に十分になしえているのか、ということは問いなおさなければならないものとしてある、と言えるでしょう。旧来通りの業務スタイルのままの方が楽だから、というような姿勢でいたのでは、調査士の発展も、またこれから述べることとの関連で言えば「存続」さえも危ぶまれる、と言わなければなりません。
もう一つの課題は、外部的な認知における問題です。よく一般的に「表示に関する登記の95%は調査士が代理している」というようなことが言われます。どのような根拠をもつものか知りませんが、これは少なくとも「申請事件の」ということに限られる話なのだと思います。すなわち、「嘱託事件」については含まれていません。そして、その含まれないものの中で「筆界」が多く取り扱われています。そこでは、はたしてきちんとした「筆界認定」がなされているのだろうか?・・・はなはだ疑問のあるところです。
これは、不動産登記が土地の境界問題に対して有効に機能しうるのか、という極めて実質的な問題です。現在のような形を続けていたら、その機能は大きく損なわれてしまいます。それに対して、私たち土地家屋調査士が適正に関与(本当の「95%以上」)して、不動産登記制度の有効性を向上させることが必要です。このことは、必要だし、可能なことであるはずです。そのための土地家屋調査士のもう一段の努力と、現実を踏まえた柔軟な対応が必要なのだと考えるべきだと思います。
「登記事件数の減少」を前にして他へ飛び移ろうとするのではなく、また「非調査士排除」の形式論だけで押し通そうとするのではなく、社会的現実を見据えて自らの業務の充実を追求する中で展望を開いていくことが私たちに求められています。そして、そのために日調連における、先頭を切っての努力が必要なのです。