大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

読んだ本ー「絶望の裁判所」(瀬木比呂志著;講談社現代新書)

2014-03-26 17:34:31 | 本と雑誌

大きな帯に、「最高裁中枢の暗部を知る元エリート裁判官衝撃の告発!」とあります。たしかに「衝撃」の内容です。

著者の瀬木氏は、同じく帯に記載されている略歴によると、「1979年以降裁判官として東京地裁、最高裁等に勤務、アメリカ留学。並行して研究、執筆や学会報告を行う。2012年明治大学法科大学院専任教授に転身」という経歴を持つ方です。
そのような人が、「司法荒廃、崩壊」の実相を厳しく告発しているので、非常に衝撃的であるわけです。

瀬木氏によると、日本の裁判所の世界というのは、最高裁事務総局を頂点とする司法官僚の「上命下服、上意下達」の体制にあり、精神構造的に閉鎖的で「収容所群島」(旧ソ連の思想統制を告発したソルジェニーツィンによる表現)というべきものとしてある、とのことで、そのことが、さまざまな「事実」を示しながら明らかにされています。この「告発本」というのが、本書の一つの特徴です。

しかし、著者は「裁判官であったことのある学者」であり、本書は単なる「告発本」の範疇を超えた問題提起を行っています。

日本では「キャリアシステム」=「司法試験に合格した若者が司法修習を経てそのまま裁判官になる官僚裁判官システム」をとっているが、そうではなく、「法曹一元制度」=「相当の期間弁護士等の法律家経験を積んだ者から裁判官が選任される」制度への転換が必要、というものです。これは、一般的によく言われることですが、上記のような経歴を経てきた著者が言うことによって説得力が増しているように思えます。

多くの論点があるのですが、とりあえず二つだけ、私にとって説得的だったことを紹介します。。

一つは、本書の大きなテーマである、「裁判とは何なのか?」ということをめぐる問題です。著者は、

「裁判の目的とはいったい何だろうか?私は一言でいえば、『大きな正義』と『ささやかな正義』の双方を実現することではないか、と考えている。」

と言います。そして、「日本の裁判所では『ささやかな正義』はしばしば踏みにじられている」と言います。

民事裁判で言えば、「和解」によって事件を「落とす」件数だけに関心が向けられる姿です。「当事者の名前も顔も個性も、その願いも思いも悲しみも」念頭になく、ただひたすら「事件処理の数とスピード」にしか関心が向けられない実情がる、と言います。刑事裁判においては、もっと極端に、実質的に裁くのは検察であり、裁判はその追認に過ぎなくなっている、とされます。

そして、このような「ささやかな正義」が踏みにじられることの延長上において「大きな正義」についても、「きわめて不十分にしか実現されていない」状態になってしまっている、とされています。

もう一つは、あまり主要なテーマではないのでしょうが、「法理論というものは、純理にとどまらない結論正当化のための理屈という性格を必ず幾分は含んでいる」という限界についての認識を持つべき、ということです。そのうえで、「悪い法理論は、最初に結論を決めてただそれを正当化するために構築されていることが多い。・・・法理論については、難解な用語を用い、かつ、巧妙に組み立てられていることから意外にも、法律の素人である一般市民をあざむくためには結構効果的なのだ。そのような法理論の欠陥を見抜くには、それを正確かつ簡潔に要約するとともに、日常的な言葉に翻訳してみることが大切である」としています。興味深く読みました。

(なお、「説得力」ということで言うと、初めの方の「告発」ということに関しては、残念ながらあまり「説得力」を感じることはできませんでした。おそらく、「事実を事実として伝える」という能力と、「論理的に説き明かす」という能力とは別物で、著者は後者にとても優れた能力があるのに、前者にはそこまでのものがない、ということによるのでしょう。「本当にひどい実態」を身をもって感じた人間が、その経験を有しない他者に伝えることのむずかしさ、=書いている人がいきり立てばたつほど伝わりにくくなってしまう、ということを・・・私自身にはよく伝わったものの・・・感じました。、おそらく一般的には「一歩的にむちゃくちゃ言ってるな」と思われてしまうのではないか、と感じさせられてしまいました。むずかしいところです。)


今週の予定

2014-03-24 19:31:18 | 調査士会

3.25(火)日調連で来年度(今年12月ごろ)に開催予定の「境界実務講座」(まだ仮称ですが)についての各部横断的な打ち合わせを行います。

この「講座」は、「境界の専門家としての土地家屋調査士の確立」へ向けた日調連としての取り組みの強化を目指すものです。その作業の中で、各部の分掌事項等についても考えていければ、と思っています。

3.27(木) 日調連の研究所では、前期(平成23・24年度)に研究をおこなった成果についてホームページ(会員専用ページ)上での公開を行っています。これは、研究成果の会員全体での共有化を図るものですが、さらに具体的に成果を活用していくための方策を考えていく必要があるでしょう。そのようなものとして、さらに整理しての発表の機会を調査士会の内外で行っていくようにしたいと思います。その打ち合わせを行います。

3.28(金) 大分会の来年度予算について、正副で最後の検討を行います。

3.29(土) 大分支部の研修会です。昨年度の「支部改革」が具体的な成果を示してきたものとして「支部研修会の実施・活発化」があります。・・・が、私自身は、連合会会務と重なったりしてなかなか出席できずにいました。今週は、ちょうど出席できそうで、楽しみにしています。


読んだ本ー「癒しのランニング」(金哲彦著;講談社新書)

2014-03-21 08:49:14 | マラソン

「生きることは走ること」として、ランニングの普及に努めている「ランニング伝道師」金哲彦さんによる伝道書です。

この本では、特にランニングの「癒し」効果が説かれています。

「競技」として速く走ろうと思うのではなく、「自分自身が楽になる」ということを考えて走る、ということを勧めていて、とても共感するものです。

私自身、最近は「走りたい」と思うことが多くなりました。特に感じるのは、元来「飲みたい」という志向性の極めて強い人間なのですが、「走りたい」と「飲みたい」を比べて「走りたい」の方が勝つ、ということがしばしば(でもないか?)あることです。

本格的に走り始めて3年になるのですが(もちろん、今の状態を「本格的」と言えるのであれば、という条件付きですが)、初めのうちは、走りに行く、ということを億劫に感じていました。自らに鞭打って走りに出る、という感じです。

ある程度走っていると、後半に(5㎞くらい走ったところで)体の中から「気持いい」というのを感じるようになります。それでも、その頃は、初めの500m~1㎞くらいのところがきつく感じて、その初めの部分を考えると億劫さがなくなったわけではありません。

もう少したつと、初めのきつい部分を超スローペースで走って体に負担をかけない、というようなテクニック的な部分を含めて出だしでの億劫さもなくなってきます。ただ体があったまってきてからの「気持よさ」だけが頭に浮かぶようになりました。

「走ること」を「競技」「競争(走)」的にとらえるではなく、ただひたすら「気持ちいい」ものとして(「癒し」の面から)とらえるーということが、本書ではもうちょっと格調高く、実証的、科学的に説かれています。読んで見て、走り始めていただけると嬉しく思いますし、読まなくてもとにかく走ってみよう、と思っていただければ(かなりレベルの低い「ランニング伝道師」として)嬉しく思います。


「防衛施設周辺区域における土地調査法案」

2014-03-18 20:06:47 | インポート

先日、ある会合で高市自民党政調会長のお話を聞く機会があり、その中で「防衛施設周辺区域における土地調査に関する法案」について知りました。その法案については、産経新聞で次のように報じられています。

防衛施設周辺地を監視 外資買収歯止めへ自民法案骨子
2014.3.8 08:16
 自民党がまとめた自衛隊など防衛施設周辺の土地調査に関する法案の骨子が7日、判明した。外国資本などが防衛施設周辺の土地や建物を取得することは安全保障上の懸念があるため、政府が防衛施設周辺の土地取得や利用実態を確実に把握し、監視できるようにする。与野党に呼びかけ、今国会に議員立法で提出、成立を目指す。自民党は土地取引の規制を可能にする法案の検討も進める方針だ。
自民党特命委員会がまとめた「防衛施設周辺区域における土地調査法案」の骨子によると、まず政府が閣議決定した基本方針に基づき、有識者による調査審議会を新設する。防衛相が審議会や地元自治体の意見を参考に自衛隊、米軍施設の周辺に一定の調査対象区域を指定。所有者らに必要な報告と資料の提供を求めることや、立ち入り調査の実施も可能にする。
また、防衛相は3年ごとに土地や建物の利用状況などを調査し、台帳を整理。調査への協力拒否や虚偽回答に対する罰則も設ける。
防衛省は長崎県対馬市の海上自衛隊基地周辺で韓国資本による土地取得があったことを問題視し、各地の防衛施設周辺の実態を調査してきた。ただ、登記簿閲覧などに人手や時間がかかる上、政府の調査権限を明文化したものがないため、根拠法が必要と判断した。
日本維新の会も昨年11月に「国家安全保障土地取引規制法案」を衆院に提出している。防衛施設周辺に加え、原子力関連施設の周辺や国境の離島など安全保障上重要な区域を首相が指定し、土地の売買や権利移転などを規制する内容で、継続審議となっている。
自民党も土地利用の規制を目指しているが、外国資本であることを理由とした制限を認めない世界貿易機関(WTO)のルールも踏まえ、まずは実態調査を迅速・正確に行える環境を整える方針だ。

この法案についてこれ以上知ることがないので、なんともわからないところが多いのですが、「自由主義経済」の基本原則の一つを「国家」の側から崩す性格を持つものとは言えるのでしょう。そして、そのようなことが「外国資本」とか、「防衛施設」という一般の国民生活とは、あたかも関係のない方角から忍び寄る形でなされたものーというように後世では評価されるものなのか、という気がしないでもありません。

が、それはともかくとして、もしもこのような「調査」がなされ、それがやがては「規制」につながるのだとすれば、厳格に行われなければならないでしょう。いい加減な「調査」で権利が侵害されるようなことは、行ってはなりません。

上記記事で、「登記簿閲覧などに人手や時間がかかる」と言われている問題点がどこまで実態を反映しているものなのかよくわかりませんが、「厳格な調査」にあたっては、単に「登記簿を読む」だけでは足りないことは明らかです。ある土地(ある地番の土地)についての規制を行うのだとすれば、その土地がどこにあって、どこまである土地なのか、ということを明確に特定しなければならないはずです。

そう考えると、このような「調査」を行うのにあたって私たち土地家屋調査士というのは、格好の技能者であるように思えます。土地を、取引の単位である地番ごとにとらえて、しかもそれを権利関係の中でとらえ返すことができる存在だからです。

いろいろと難しい判断を迫られる時代になっていますが、その中で「私たちにできること」は何なのかを真剣に考え実践していくことが重要であることを思いました。


今週の予定

2014-03-17 06:33:16 | 調査士会

3月も中旬になりました。年度末を迎えて、会務も「日常的な会務日程」はあまり入らなくなっています。こういう時期にこそ、将来的な方向を見据えての議論を行っていかなければならないのだと思っています。

3.18(火) 大分会理事会・支部長会

3.19(水) 日調連正副会長会議

3.20(木) 26年度実施予定の日調連「境界実務講座」準備。日調連業務部電子会議