大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

「筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書」について⑥(とりあえず完)

2021-06-23 08:51:57 | 日記
これまで5回にわたって「筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書」特にその「資料」部分について批判的にみてきました。
長々と書いてきたのは、この「資料」部分に基づいて「筆界認定」を行うようにしたのではとんでもないことになってしまう、と思うからです。日調連から6月4日に出された「お知らせ」によれば、「登記実務における筆界確認情報の取扱いにつきましては、現段階では令和4年度からの運用を目途とすること」とされているそうです。
来年4月からどのように変わるのか?
「検討報告書(本文)」が示すように「筆界関係登記の申請に際して幅広く筆界確認情報の提供を求める登記実務上の取り扱いについては、現在の社会情勢を踏まえつつ合理的な範囲に絞り込む」「筆界に関する登記所保管資料や筆界に関する現況等に鑑みれば筆界は明確であると言いうる場合にまで、一律に筆界確認情報の提供を求めることには、少なくとも不動産登記の審査の観点からは合理的な理由に乏しいと言わざるを得ないと考えられるため、筆界確認情報の提供等を不要とするべき」という方針が実際に貫かれることを期待しています。
しかし他方、「資料」部分に示される「筆界が明確であると認められるための要件について」を見ると、「筆界は明確であると言いうる場合」と判断されるものは、現状よりも多くなるとはとても思えません。むしろ少なくなってしまうのではないか、後退してしまうのではないか、とさえ危惧されます。
そのようなことは、登記制度そのものが「現在の社会情勢」に適合しない、取り残されたものになってしまうことを意味すると思えます。また、「資料」の内容を見ると、「筆界認定の実務」についての基本的な理解の部分における誤解があるようにも思えます。そこで、実務家として指摘するべきことはしておかなければいけない、と思い、非常に基本的なことにまで立ち返っての長々しいものを書いてきたわけです。
さて、その上で。
では、どのように「筆界が明確であると認められるための要件について」考えるべきなのか、ということについて、私が起案するとしたら、どんな風に起案するのか、というものを書いて見ます。これについても未整理なものであることには変わりないのですが、このようなものをベースにして、さらに「筆界を明らかにする業務の専門」性を集めた集合知により具体的に詰めていければ、と思って提起するものです。


筆界認定というのは、過去において設定・認定された筆界について、当該筆界に関する土地にかかる登記手続を行うのにあたって、その位置を明らかにするものとして認定し、登記手続の中で公示する作用である。
現在では、筆界は「二以上の点及びこれらを結ぶ直線」(点・線)(不登法123条1号)として存在するものとされている。地租改正の過程で設定されたいわゆる原始筆界は、「点・線」の形ではなく幅を持つものであったと考えられるが、今日では原始筆界についても「点・線」として認定することとなる。この原始筆界の中でも、すでに境界確定訴訟の確定判決を得て「点・線」のかたちで確定しているものや登記制度の歴史の中で「点・線」のかたちで認定され公示されているものがある。また、分筆によって創設されたり、区画整理などによって再編成されたものも「点・線」のかたちで設定され公示されている。
このように、過去において「点・線」での設定、認定のされた筆界については、その設定、認定された結果を表示する資料が作成され、その多くは公開(公示)されている。したがって、その資料によって筆界の位置を特定することができるのであれば、それによって「筆界認定」をなしうるということになる。これが、「筆界認定」の基本である。
しかしながら、従来は、筆界の位置を「点・線」の形で特定するに足る資料は必ずしも多くなかった。このため、筆界について最もよく知る蓋然性の高い土地所有者から「筆界確認情報」を得て、それによって「筆界認定」を行ってきた、という歴史的経緯がある。
しかし、その「土地所有者が最も筆界について知るであろう」という期待は、社会情勢の変化の中で成り立たなくなってきている。所有者不明土地の増大はそれを示すものである。他方、筆界の位置を「点・線」の形で特定するに足る資料は増加しており、技術的な進化も相まって、必ずしも「筆界確認情報」に頼らなくても、本来の形で「筆界認定」をなしうる可能性が拡がってきている。
そのような状況を受けて、「筆界認定」の在り方を再検討する必要がある。

〔結論〕
筆界に関する登記手続を行うなかでの筆界認定は、下記のようにして行うべきものとしてある。
1.〈本則〉過去において筆界を設定・認定したことを表示した現地特定機能を有する資料(情報)に表示された筆界は、所要の検証を経て、筆界が明らかであるものとして認定することができる。
2.〈補助的措置〉過去において筆界を設定・認定したことを表示した現地特定機能を有する資料(情報)が十分に存在しない場合には、公図、現地の状況等踏まえて、相互に隣接する土地の所有者の筆界位置に関する認識の一致を示す情報(「筆界確認情報」)を得て、筆界の位置を認定することができる。

〔詳細〕
「1.」について
(1)資料(情報)について
1)過去において筆界を設定・認定したことを表示した資料(情報)とは何か
 筆界が明らかであると認められるのは、過去において筆界を設定・認定した事実があるからである。この過去における筆界設定・認定の際には、筆界の位置を表示する資料が作成されている。
 具体的には次のものがある
①境界確定訴訟の確定判決
②筆界特定書
③不登法14条1項地図
④地積測量図
 これらの資料は、その性格から正しい(筆界の正しい位置を表示している)ことの蓋然性が認められるものとしてある(信頼性ある資料)。
 したがって、これらの資料によって筆界の位置が「点・線」として特定しうる場合には、基本的にこれらの資料に表示された筆界は明らかなものと認めることができる。
2)現地特定機能を有する資料(情報)はどのようなものとしてあるか
 筆界が明らかであると認められるのは、当該資料に基づいて筆界の位置が「点・線」のかたちで特定することができる場合である。当該資料の現地特定機能が必要となる。
 資料の現地特定機能は、資料の形式により強弱があるものと言える。
①当該資料単独で筆界の位置を「点・線」として特定しうる資料=公共座標(世界測地系)の座標値によって表示されている資料(例示)
イ) 座標値の種別が「測量成果」である14条1項地図(不登規則14条1項、2項)
ロ) 2005年以降の地積測量図(不登規則77条1項7号本則)
②現地に測量の基点が現存していることによって筆界の位置を「点・線」として特定しうる資料=任意座標や位置関係を距離・角度によって表示している資料(例示)
イ) 1993年以降の地積測量図(不登規則77条1項7号括弧書き)
③資料の数値情報としては「点・線」として特定できず一定の幅をもたざるをえないが、図面情報や現地の境界標、工作物などの状況と合わせることによって「点・線」としての特定が可能となる資料(例示)
イ) 座標種別が「図解法」である14条1項地図。当該座標値の現地指示点に対して一定の範囲内に境界標や筆界を徴表する工作物が存在する場合(「一定の範囲」について、地域、当該資料の作成時期に応じて基準を設ける必要があるだろう。以下同。)
ロ) 三斜の地積測量図の表示する図(形)、地積、距離などの数値と一定の範囲内で合致する位置に境界標や筆界を徴表する工作物が存在する場合

(2)検証
資料に表示された筆界の位置については、所要の検証を行うべきものとしてある。
この検証は、資料の性格から、筆界の正しい位置を表示していることの蓋然性が認められる、ということの上で行うものである。正しい蓋然性が高いとはいえ、絶対に正しいと言えるわけではないので検証が必要になる、ということである。そのようなものであることから、この検証は資料に表示された筆界の位置が誤っていないことを確認する、という性格を持つものであり、正しさを積極的に証明しなければならない、というものではない。具体的には次のことがなされるべきである。
① 他の資料との対照
イ) 公図との対照
ロ) 当該一筆の土地と隣接する土地に関する資料との対照
相違のある場合、それが許容範囲内であるか否か。否である場合、どちらを採用すべきか。
② 現地復元-現地の状況との対照
イ) 境界標 資料の表示点(復元点)と現地の境界標とが一致すればその位置をもって筆界と判断できる。一致しない位置に境界標のある場合、許容しうる程度の相違か?資料の表示点と現地の境界標のどちらの位置が正しいのか?などを、筆界の性格(原始筆界、創設筆界)、資料の性格、境界標設置の経緯、現地の地域特性等を踏まえて判断する必要がある
Ex. 次のような諸ケースについて「筆界認定」のありかたを類型化・整理する必要がある
資料の表示と現地の境界標位置が相違する場合
 資料表示が先で現地境界標が後=資料表示が正が原則だが〈創設筆界・原始筆界〉〈市街地
地域・山林・原野地域〉〈資料作成時期、作成者等〉により判断する必要もあり
 現地境界標が先で資料表示は後=測量の誤りの可能性・・・etc.
ロ) 工作物 工作物自体は筆界の位置を表示することを主目的として設置されたものとは限らないが、当事者の筆界認識に基づいて工作物が築造・設置されている場合が多い。このような工作物は、筆界を徴表するものと言える。資料の表示点(復元点)と工作物の位置が合致する場合には、その位置をもって筆界と判断できる。一致しない場合の判断は、境界標の場合に準ずる判断。

「2」について
 筆界は、筆界特定手続に関する規定の中で「登記記録、地図又は地図に準ずる図面及び登記簿の附属書類の内容、対象土地及び関係土地の地形、地目、面積及び形状並びに工作物、囲障又は境界標の有無その他の状況及びこれらの設置の経緯その他の事情を総合的に考慮」してその位置を特定するものとされている(不登法143条1項)。しかし、「1」のような資料が存在しない場合、筆界の位置を一定の幅を持つものから「点・線」へと絞り込むことには、一般に多大な時間と経費を要する作業が必要となる。
土地の一般的な利用と取引という社会・経済的な要求にこたえる必要のある一般的な登記手続においては、より簡便な方法で筆界位置の特定をなしうるのであれば、それを採る必要がある。そのようなものとして、その土地の歴史的経緯を最もよく知りうる立場にあるとともに筆界の位置に最も大きな利害関係を有する者である、相隣接する土地所有者の筆界位置に関する認識の一致がある場合には、その認識(「筆界確認情報」)に依拠して筆界の位置を認定することができるものとすることが適当であり、現にこれまでそのように取り扱われてきた。
この場合、筆界の位置についてはあくまでも「相隣者間において境界を定めた事実があっても,これによって,その一筆の土地の境界自体は変動しない」(昭和31年12月28日当裁判所第二小法廷判決)ものであることを踏まえて、上記諸事項により一定の幅に絞り込んだうえで、その範囲内において土地所有者の認識の一致のあることが必要である。
なお、筆界特定制度13年余の知見によって、高精度の公図や現地地物の存在によって「1」の資料がない場合においても筆界の位置を「点・線」に絞り込める場合のあることも明らかになっていると思われるので、そのような場合には知見を活かした筆界認定をおこなうべきである。

・・・以上です。われながら出来のいいものとは言い難いのですが(もっと詰めるべきことを保留にしていたり、必要以上に説明的になっていたり…)「筆界認定の在り方」を考えるうえでとりあえず必要だと思うことを挙げてみたものです。

以上で6回にわたって書いてきた「『筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書』について」をとりあえず終わります。「とりあえず」と未練たらしいことを言うのは、「きんざい」から「『筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書』の解説」という冊子が発行されて、より詳しく考えることができるようになったからです。A6判の小さい活字の冊子で、老人には読むことだけでも苦しいものですが、ざっと目を通して見て「新しい発見」もありましたので、それについて書くことにしようか、とも思っているところです。

「筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書」について⑤

2021-06-18 11:11:29 | 日記
4)「エ」について
エ 筆界特定登記官による筆界特定がされている場合において、当該筆界特定に係る筆界特定書及び筆界特定図面に記録された特定点を当該図面等の情報に基づき復元した復元点


この「エ」の内容については異論がありません。他の「ア」「イ」「ウ」「オ」については内容的に疑問だらけであるのに対して、この「エ」については、ここで実質的に言われていることについて異論がないわけです。しかし、細かいことにこだわるように思われるかもしれませんが、このような表現がなされることには疑問があります。、その背景にある基本的な考え方が問題であると思う(ですのでけっして「細かいこと」ではない、と思う)からです。
なぜ「筆界」として認定すべきものを「筆界特定書及び筆界特定図面に記録された特定点」と単純に言わずに、「特定点を当該図面等の情報に基づき復元した復元点」というのだろうか?・・・という疑問です。
このような言い方をする背景には、「筆界というのは現地で認定するものだ」という考え方があるように思えます。しかしそう考えるべきなのでしょうか?私はそうではなく「情報として認定するものだ」と考えるべきだと思います。その「情報」を「現地」において確認するとしても、あくまでも確認すべきものは「情報」として考えるべきだ、と思うのです。
前回述べた「現地」と「情報」との関係の問題です。「現地」において設定されたり確認された筆界は、それを示す「情報」とされることによって「認定」され、その「情報」が公示されます。これにより「筆界が明らか」な状態が作られるわけです。この「情報」がいつでも「現地」に戻すことができるものである場合には、単に観念的な「情報」であるだけでなく、「現地」性をも持つものとして「情報=現地」ととらえられます。その意味で「筆界は情報として認定されるもの」だと考えていいのであり、「現地で認定する」ということにこだわる必要はない、ということです。
今述べた「情報を現地に戻すことのできる」ということについて、一般に「現地復元性」という言葉が使われます。「現地に戻す」ことのできる性格ですから「現地復元性」と呼ぶことに何の間違いもないのですが、それが「何のためのものなのか」ということを考えると「現地指示性」「現地特定性」というような用語の方がいいのかもしれないと思います。この点について、「現地復元性」ということが言われるようになった頃、たとえば次のようなことが言われています。
「ある一定の資料によって、ここが筆界点なんだと認識することができる場合に、その資料には現地復元性又は現地指示性があるといってます」(有馬厚彦「詳論不動産表示登記総論」866で引用されている枇杷田泰介「地図のはなし」)

「地図の機能が十分に発揮される限り、現地において、当該土地の形質が、たとえば開発行為等の人為的原因や水害等の自然的原因によってまったく変更されるに至ったような場合でも、地図によって、その土地の筆界は正しく復元されうるはずである、ということができる。地図に、このような能力までを期待した場合、それを一般に、現地復元能力と呼んでいる。逆に言えば、現地復元能力を有する地図であって、初めて、法の期待する現地特定機能を果たすことができるということになる。」(同書P865)


「何のためか」と言うと「ここが筆界点なんだと認識することができる」ようにすることだ、ということが示されています。期待されているものは「現地特定機能」であるわけです。
このことから、「現地特定機能」を持つ情報は(少なくとも「筆界」を管理する公的機関(登記官)や「筆界を明らかにする業務の専門家」たる土地家屋調査士においては)それ自体として「現地」と同一視してもいい、と考えるべきです。法的にもそのように設定されていると言えます。
たとえば、と言うかこの項のテーマであるわけですが、「筆界特定」については、前回述べたように「筆界の現地における位置を特定すること」であるという定義規定がなされているわけですが、にもかかわらず「筆界特定」の内容としては、現地に標識を設置することは含まれておらず、「筆界特定書を作成」すること(不登法143条)のみで終わっている、というのが不動産登記法での規定です。このことについて土地家屋調査士の間では、「境界標を設置すべきであり不十分ではないか?」という疑問や批判が広くありますが、私はそのようには考えません。もちろん、筆界特定手続によって現地に標識を設置した方が、申請人・関係人等にとってわかりやすいものになる、とは言えるでしょう。できるものなら設置しておいた方が「より良い」と言えます。しかし、それをしないからといって「筆界の現地における位置を特定」できないわけではないのです。「筆界特定書」「図面」(不登法143条2項、不登規則231条5項)において「基本三角点等に基づく測量の成果による筆界点の座標値」として筆界特定する、ということを明らかにしたことによって「現地特定機能」は十分にあるのであり「筆界の現地における位置を特定」したことになる、というように法的に設定されているわけです。
このことからすると「筆界が明らかであると認められる」のは、ストレートに「筆界特定点」と言えばいい、ということになります。これがごく単純な普通の理解だと思います。ところが、「検討報告書(資料)」ではそのようになっておらず、「筆界特定点を当該図面等の情報に基づき復元した復元点」というようにあくまでも「現地」に戻して、「現地」においてでなければ「筆界が明らかであると認」めることができない、と考えているわけで、ここがおかしいのです。

5)「カ」について
再掲します
カ 判決書図面に囲障、側溝等の工作物の描画があり、それら囲障等に沿って筆界点が存するなど図面上において筆界点の位置が図示されている場合において、当該図面の作成当時の工作物が現況と同一であると認められ、現地において図面に図示された筆界点の位置を確認することができるときにおける当該位置の点

これについては異論がありません。
その上で、この項は重要なことを示していると思いますので、そのことについて書きたいと思います。
この「カ」は、「判決書図面」に関する二つの要件のうちの一つです。」もう一つの「オ」では「判決書図面に復元基礎情報といい得る図面情報が記録されている場合」についてのことが言われていました。それに対して、この「カ」は、判決書図面に「復元基礎情報」は記録されていない場合のことが言われているわけですが、そのような場合であっても、図面に記載されている内容(①)と現地の状況(②)とを合わせることによって「筆界が明らかであると認められる」場合もある、ということが、ここでは言われているわけです(「合わせ技一本」)。
図面には「復元基礎情報」がないわけですから「囲障、側溝等の工作物の描画」があってもそれだけで「筆界復元」ができるわけではありません。しかしそれらに沿って「境界(筆界)」があるものと判示されており、現地に図示された工作物そのものが残っている場合には、その「工作物に沿った位置」をもって「筆界が明らかであると認められる」ということです。
これは、ごく当たり前のことだと思われるものですが、「現地復元」だとか「復元基礎情報」ということについて、もう一度考え直させられる問題だと言えるのではないでしょうか。
先に見たように(連載②冒頭)、「検討報告書(資料)」では「現地復元性について」ということで次のように言われていました。
1 現地復元性について
「以下の(1)から(3)までに掲げるいずれかの情報が図面に記録されている場合には、理論上図面に図示された筆界を現地に復元することが可能であると考えられる。ただし、(2)及び(3)に掲げる場合には、近傍の恒久的地物又は測量の基点となる点が現地に現存していることが条件となる。
(1)筆界を構成する各筆界点についての測量成果による世界測地系の座標値
(2)筆界を構成する各筆界点についての測量成果による任意座標系の座標値及び当該座標値を得るために行った測量の基点の情報又は2点以上の各筆界点に対する複数の近傍に存する恒久的な地物との位置関係の情報
(3)筆界を構成する各筆界点についての座標値の情報が記録されていない場合における、各筆界点に対する複数の近傍に存する恒久的な地物との位置関係の情報」

この「理論上図面に図示された筆界を現地に復元することが可能である」情報のことを「復元基礎情報」と言っているのです。しかし、今「カ」について見たように「復元基礎情報」がなくても「筆界が明らかであると認められる」場合があるわけです。それは「図面情報」と「現地情報」を合わせてみることによって可能になる、ということです。そういう観点から見てみると、この「復元基礎情報」についても、(2)及び(3)の場合は「近傍の恒久的地物又は測量の基点となる点が現地に現存していることが条件とな」っていたのでした。ここでも「現地情報」が条件として前提にされていたわけです。これは、「カ」のように「囲障、側溝等の工作物」という「現地情報」の存在を前提としていることとは、「程度の違い」があるだけで、本質的には違わないものだと言えます。
そして、このことは「判決書図面」だけに限られるものではありません。古い時期の三斜の地積測量図であってもブロック塀や側溝の描画があり、それに沿って分筆をしたことの示されているようなものは数多くあります。このような場合にも「筆界が明らかであると認められ」て然るべきなのではないか、と考えられます。
ですから、「現地復元」ということを、あまり狭く考えてはいけないのだと思います。「現地復元」と言うと、どうも先の有馬氏著書のように「当該土地の形質が、たとえば開発行為等の人為的原因や水害等の自然的原因によってまったく変更されるに至ったような場合でも」筆界は正しく復元されうる、ことを指すかのように捉えられがちなのですが、問題は筆界に関する図面情報によって筆界の現地における位置を指示・特定することができるかどうか、ということにこそある、ととらえるべきです。それが「ある一定の資料によって、ここが筆界点なんだと認識することができる」機能であり、「法の期待する現地特定機能」であるわけです。ですから、用語としては「現地復元性」という用語よりも「現地指示性」とか「現地特定性」という用語を使用した方がいいように思えます。
そして(繰り返しになりますが)、「現地指示性」「現地特定性」として考えるときには、この性格(この機能を持つ性格)というのは、どんな図面であっても多かれ少なかれ持っている、ということになります。問題はそれがどれだけ高いものかどうか、ということとしてあることになります。公共座標値であれば、理論的にはそれだけがあれば現地の位置を特定することができるので、「現地指示性」「現地特定性」は非常に高い、ということになります。三斜の地積測量図で底辺と高さの数値しか書いてないようなものは、それだけでは非常に低いものと言わざるを得ませんが、工作物が描画されていて、それらが現地に現存するものと一致しているのであれば、その工作物の位置が筆界だと判断しうるわけですから現地特定機能を果たしうる、ということになります。基準点や恒久的地物の存在如何によって左右される任意座標などは、その中間にあるもの、と言えるわけです。
このように、「カ」は、「復元基礎情報」がないけれど「筆界が明らかであると認められる」ケースもあるのだ、ということを示しているものとして、大きな意義を持つ項目だと言えます。その上で、「判決書図面」の場合には、それの作成された時点で存在した工作物が現存することが条件となるが、地積測量図の場合はどうなのか?地積測量図の中の原始筆界と創設筆界での要件の違いはどうなるのか?というようなことに、さらに広げて考える必要があるのだと思います。

以上、「検討報告書(資料)」において、「筆界が明確であると認められる要件」として挙げられているものについて批判的に考えてきました。
次回は、それを踏まえて「筆界が明確であると認められる要件」として私はどのようなものを考えるのか、ということを書いて終わるようにしたいと思っています。
(「筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書」について、「登記情報」誌715号所載の「概要」を素材に以上の検討を行っていますが、「解説」の書籍が6月22日に発売された、とのことです。明後日入手予定なので、その後もう少し正確な読取ができるかもしれません。)


「筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書」について④

2021-06-16 09:51:06 | 日記
3)「イ」について
「イ」について。再掲します。
「イ 登記所に座標値の種別が測量成果である14条1項地図の備付けがある場合において、上記アの指示点が現地に存しないときにあっては、申請土地の筆界点の座標値を基礎として、地図に記録されている各土地の位置関係及び現況を踏まえて画地調整した点」

これからこの条項に対する論評をしようとしているのですが、正直言って、私にはこの項の意味するところがさっぱり分かっていません。自分なりの読み方・理解はそれなりにあるのですが、その内容が合っているのかどうか確信を持てません。あまりにも不合理で、こんなことをまともに言うということがあるだろうか?と思ってしまうのです・・・が、そんなことはいくら言っても始まらないので前へ進みましょう。
上記文章の中で言われている「上記アの指示点」というのは、「(14条1項地図の)申請土地の筆界点の座標値に基づき測量により現地に表した点の位置に対して,公差(位置誤差)の範囲内」にある「境界標の指示点」のことです。すなわち、「筆界点の座標値に基づき測量により現地に表した点」の近くに「境界標」がある場合にはその境界標を「筆界」と認めるけれど、ない場合には「山林・原野地域」においてそうするようにその「現地に表した点」を「筆界」と認める、というのではなく、「申請土地の筆界点の座標値を基礎として、地図に記録されている各土地の位置関係及び現況を踏まえて画地調整した点」を筆界と認めるべき、としているわけです。
では、「申請土地の筆界点の座標値を基礎として、地図に記録されている各土地の位置関係及び現況を踏まえて画地調整した点」というのは何なのか?これが、さっぱりわからないのです。
わざわざ「座標値に基づき測量により現地に表した点」と区別して「画地調整した点」だと言っているということは、「画地調整点」というのは「筆界点の座標値に基づき測量により現地に表した点」とは異なる位置のものだ、ということなのでしょう。しかし、そのようなことは想定されることなのでしょうか?
そもそも「筆界が明確であると認められる」というのは、「現地復元性を備えた信頼性ある資料」によって、筆界の現地における位置が明確に指示・特定されていることを言います。その位置は、その資料の情報(数値情報=座標値)として、一度公的な認証を受けて広く社会に対して公示されているものです。ですから、それをそのまま「筆界」と見ることによって「筆界が明確であると認められる」ということになるべきはずのものです。
ところが、敢えてそれとは異なる位置の点を「筆界」として認めるようにしろ、ということをこの「イ」は言っているのです。これが私にとっては「まともに言われることなのか?」と疑問に思わざるを得ないことです。もしも、信頼性のある公示資料と異なる位置を「筆界」と認める、というのであれば(こういうことは、いかに「信頼性のある公示資料」とはいえ100%間違いがないという訳ではないので、ありうることではあるのですが)、このようなときにこそ「筆界特定手続」等の手続を踏むようにするとか、既存資料の問題点をきちんと説明したうえで「筆界確認情報」を得るようにする、という丁寧な措置が必要なのではないでしょうか。
ここでは、なにやら「画地調整」というもっともらしい作業をかませることによって高尚なことがなされているかのごとき雰囲気が醸し出されているのですが、とんでもない的外れなのだと私は思います。
ここで言われている「画地調整」というのは、「土地の位置の特定又は筆界点の復元を行う場合に、基礎測量を実施して、当該測量成果と各種資料との照合・点検を行った上で、土地の面積及び各辺の距離の調整計算を行う復元型」の「画地調整」のことだとされています。たしかに、このような「画地調整」を行うことは「筆界認定」にあたって重要なことです。しかし、「座標値の種別が測量成果である14条1項地図の備付けがある場合」というのは、当該地図作成の時点においてすでにこのような「画地調整」が行われている、ということなのであり、その上で「筆界認定」がなされている、ということであるはずです。そして、その「筆界認定」された位置が「筆界点の座標値等の数値情報(距離,角度等)」として記録・公示されているのです。ですから、その数値情報をそのまま現地に「表した(復元)」した位置と「画地調整した」位置とが相違する、ということを想定すること自体があってはならないことなのです(繰り返しますが、いくら「あってはならないこと」でもあることはあります。そのときは現にあったことを否定するべきなのではなく、より丁寧な手続きをとることが必要になるのです。)

なぜこういうことになってしまうのか?よくわからないながら推測に推測を重ねると、次のような問題があるのか、と思えてきます。
「筆界認定」ということ自体に関する考え方の問題です。
「筆界が明らかであると認められる」と判断することが「筆界認定」です。これは「筆界の現地における位置を特定すること」とも言えます。
この「筆界の現地における位置を特定すること」というのは「筆界特定」に関する不動産登記法の定義規定の中に出てくる言葉です(「123条 2号 筆界特定 1筆の土地及びこれに隣接する他の土地について、この章の定めるところにより筆界の現地における位置を特定すること(…)をいう。」)
すなわち、「不動産登記法第6章 筆界特定」の規定に基づいて「筆界の現地における位置を特定すること」が「筆界特定」であるわけで、表示に関する登記の中で「筆界の現地における位置を特定すること」が「筆界認定」だと言えるでしょう。
では、「筆界の現地における位置を特定」したもの、というのはどのような形で表現されるものなのでしょうか。二つの形がある、と言えます。一つは、現地に物理的な形で「筆界」を認識できるようにすることであり、具体的には「標識」を設置するという方法です。そしてもう一つは、筆界の現地における位置を「情報」として記録する、という方法です。「筆界認定」というのは、この「情報」として記録する、ということ、しかもそれを「公的」なものとして行い、誰でも知ることのできるよう公開(公示)する、というところまでを含んだものとして考えるべきものだと思います。
現地において「標識」を設置する方法というのは、誰の目にも明らかな方法として非常にわかりやすいものであり、その意味での利点を有しているということができます。しかし、弱点もあります。とりあえず二つを挙げますと、一つは、現地の「標識」自体は、それが「公的」なものなのか「私的」なものなのか判断できるものではない、ということです。もう一つは、現地の標識はいつ亡失してしまってもおかしくないものとしてある、ということです。そのような性格を持つものであるがゆえに、「永久標識」を設置するように努めることが強調されるのですが、現在ではどんなに大きなコンクリート杭を根巻きして設置したとしても重機などで簡単に除去されてしまいます。現地に真の意味での「永久標識」「永続性ある境界標」を設置することは無理なことなのです。
そこに、もう一つの方法、「情報」として記録する、という方法の重要性があります。今日では「基本三角点等に基づく測量の成果による筆界点の座標値」として記録することとなっていて、これにより「筆界の現地における位置」は、たとえ境界標がすべて失われるようなことがあっても現地に復元しうるものとして特定しうる(明らかだと認められる)ものとなっています。そしてこの「情報」についてはその性格から、それが私的なものなのか公的なものなのか明らかです。また、永久性・永続性も明らかです。弱点としては、現地で誰にでもすぐにわかるものではない、ということがありますが、これは副次的な問題だと言えるでしょう。
このように、認定された筆界を「情報」化するわけですが、近年になるまでその「情報」を現地に一義的に(ピンポイントで)復元する、ということはできませんでした。更正図の公図がいくら「精度のいいもの」だとしてもピンポイントで表示しているわけではありませんし、古い時期の国調地籍図(の14条1項地図)も「図解法」によるもので同様です。「現地→情報」という回路をとっても「情報→現地」の回路をとることができなかったのです。現地への「標識」の設置は、「情報」におけるこの弱点を補う意味があったのだと、今日ではとらえ返すことができます。これに対して「座標種別が測量成果である14条1項地図」は、ピンポイントでの現地復元が可能な情報としてあります。ここに至って、「標識」に必ずしも頼らなくとも「現地」と「情報」との相互通行が可能になったのです。それにより「現地→情報→現地」という一つの循環がなされるようになりました。このような「情報」化は「現地」に標識を設置するのと同様の効果を有するものだととらえるべきなのだと思います。
この意義、すなわち〈登記制度が蓄積している情報によって筆界は明確になっている〉ということこそ強調すべきことなのだと私は思います。ところが「検討報告書(資料)」では、登記制度の蓄積している情報によっては、必ずしも現地の位置を一義的に特定することはできない、としてしまっているかのようです。というのは、「筆界点の座標値等の数値情報(距離,角度等)等に基づき,測量機器を使用して単に現地に表」すのでは、「本来の筆界点の位置を現地に再現」すること」はできなくて、「筆界点の座標値等の数値情報(距離,角度等)を基礎としつつ,各種資料や現況等の分析及び検討を行」わなければ「本来の筆界点の位置を現地に再現」することはできないのだ、というようにいたずらに問題を混乱させてしまっているのです。これは、「筆界確認情報に依存しない筆界認定」にまったく逆行するものだと言わなければならない、と思います。

このようなことを言う「検討報告書(資料)」の意図は、おそらく「広範囲の図面情報」たる14条1項地図の場合には、「一筆地の図面情報」である地積測量図、判決書図面よりも信頼性が高い、ということを言いたくて、必ずしも境界標の設置状況を考慮する必要がなく、この「イ」の「画地調整」でも「筆界認定」できるのだ、と言いたかったのかと思われます。14条1項地図の場合には「一定の範囲の各土地の座標値と現地の状況との位置関係を全体として照合、分析を行い、現地における元々の筆界点の位置を画地調整して導き出すことにより、一定の範囲の整合性が確保される」から必ずしも境界標の設置状況を考慮する必要がないのだ、という考え方です。しかし、今括弧書きの中で言ったことというのは、先にも述べたように、その14条1項地図を作成する際の筆界認定に当たって行われた(はずの)ことなのであり、今更その成果品たる14条1項地図を前にして行われなければならないことではないのです。「現地→情報→現地」という循環で言えば、第一の「現地→情報」の段階で「画地調整」はなされるものであり、第二の「情報→現地」の段階で行われるべきものではないのです。しつこいようですが、あらためて言っておきたいと思います。

なお、さらに想像をたくましくすると、この「画地調整」というのは、「すべての筆界点についての座標値が一定方向に一定距離だけずれているような場合」が想定されているのかもしれません(古い国調で基準点そのものがずれている場合、ありえることです)。その場合、たしかに「筆界点の座標値等の数値情報(距離,角度等)等に基づき、測量機器を使用して単に現地に表した」のでは不合理な結果を生み出してしまうでしょう。この場合、「画地調整」をする必要があるし、「画地調整」をすれば十分だ、ということになるかもしれません。しかし、そのようなケースというのはどれくらいあるのでしょう?例外中の例外と言うべきものでしょう。そんな例外中の例外のことをわざわざ6つ(「ア」から「カ」)しかない「要件」の中に入れる必要があるとは思えません。そうではなく、基本はあくまでも「筆界点の座標値等の数値情報(距離,角度等)等に基づき、測量機器を使用して単に現地に表した」点を「現地復元性を備えた信頼性ある資料」を現地に復元したものとして「筆界」と認定できる(資料についての要件)という点に置いて、その上で無条件にではなく所要の検証を行う必要がある(検証についての要件)、としておくべきなのだと思います。

以上、本来なら改めて論ずる必要もない当たり前のことを長々と言っていて、私自身空しくなっているのですが、とても基本的な問題をもはらんでいる、ということなのだと思いますのでもう少し続けます。次回は、「エ」の筆界特定に関することとして、また今回と同じようなことを言うようにしなければいけないと思っています。

「筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書」について③

2021-06-07 16:12:22 | 日記
2)(1)-「ア」「ウ」(14条1項地図、地積測量図)
今述べた「オ」のほかにも、「ア」「ウ」において「境界標」の存在が、「筆界が明確であると認められる」条件にされています。再掲します。
「ア 登記所に座標値の種別が測量成果である14条1項地図の備付けがある場合において,申請土地の筆界点の座標値に基づき測量により現地に表した点の位置に対して,公差(位置誤差)の範囲内に境界標の指示点が現地に存するときの当該指示点」

「ウ 登記所に筆界の復元基礎情報といい得る図面情報が記録された地積測量図の備付けがある場合において,当該情報に基づき測量により現地に表した点の位置に対して,公差(位置誤差)の範囲内に境界標の指示点が現地に存するときの当該指示点」


「ア」は「14条1項地図」の場合、「ウ」は「地積測量図」の場合です。この二種の図面の場合、「市街地地域」において「筆界が明確であると認められる」ためには図面情報を現地復元した位置に対して、公差(位置誤差)の範囲内に境界標が現地に存することが必要条件だとされていて、しかも「座標値」ではなく「境界標」の方を「筆界」点として認めるべき、としています。(「14条1項地図」については、他に「イ」の要件もあるが、これについては後述。また、この「資料」編では「現地復元」ということに関して独特の用語解釈をしているのですが、問題が混乱するだけなのでこれについても後述することとして、ここでは通常の語句解釈の上で論じることにします。)
しかし、「14条1項地図」にしろ「地積測量図」にしろ、そこにおいて筆界点の座標値として表示されているものや、それらを結んだ線というものは、それらの図面が作成されたり、その地積測量図に基づく登記手続が履践された時点において一度「筆界」として「創設」されたり「認定」されたものです。そしてそれは図面が登記所に備え付けられて公開される、という形で「筆界」として公示されているものです。そのようなものを、後の時点で当該筆界に係る登記手続きをするときに既定の「筆界」として認定して爾後の手続を進める、というのはごくごく普通のことなのであり、これに、一体どんな問題があるのでしょうか?私にはわかりません。
もちろん、このような「認定」は無条件になされていいものではありません。それは「調査・認定」としてなされるべきものとしてあります。具体的には、当該資料を他の資料(公図、近傍土地の地積測量図等)と比較対照することや、現地復元して現地の状況(境界標、工作物、地形、占有状況)と照らし合わせて見たりします。その上で、当該資料に誤りのないことを確認する、ということを行うわけです。これは、現地復元の結果、近くに境界標があるかどうか、ということのみによって決めつけるべきことではありません。より広く検証すべきものとしてあります。しかし、その結果、誤りのないことを確認できるのであれば、今回もその「14条1項地図」、「地積測量図」の「座標値」が「筆界」を示すものだと「認定」して然るべきものです。

現実的に考えても、1993年(平成5年)以降の地積測量図には「近傍の恒久的地物との位置関係」が、2005年(平成17年)以降の地積測量図には座標値が記載されることになっているのであり、「筆界の復元基礎情報といい得る図面情報が記録された地積測量図」は既に30年近い歴史を持っており、多くの地積測量図が蓄積されてきています。また、「登記所備付地図作成作業」や地籍調査なども進められ、「座標値の種別が測量成果である14条1項地図」が数多く備え付けられるようになっています。
他方、この30年近い年月の間に「境界標」については亡失してしまったものも多くあるでしょう。もしもそのような亡失のあった場合には、地積測量図、14条1項地図があっても、「筆界が明確である」と言えない(「筆界」は不明であるとされる)、というようなことがあるとすれば、それははなはだ不相当だと言うべきでしょう。そうではなく、登記所に「復元性のある図面」等が備え付けられていてそれに基づいて筆界を復元することができるのであれば、たとえ「境界標」が亡失してしまっても「筆界が明確である」と取り扱われる、ということが必要なのだと思います。そうであってこそ、登記所、登記制度が地図・地積測量図等として「筆界情報」を蓄積していることに意義があるのであり、登記所、登記制度の存在意義が発揮されるのだと言うべきです。

なお、先に述べたように、「山林・原野地域」の場合には、「市街地地域」と違って、
「イ 登記所に筆界の復元基礎情報といい得る図面情報が記録された地積測量図の備付けがある場合における,当該情報に基づき測量により現地に表した点」

を「筆界」点と認定するべきものとしています。。
山林・原野地域の場合には、境界標のない場合でも地積測量図によって「筆界が明確である」とできるが、市街地域ではできない、ということです。
その理由については、「山林・原野地域」の側についての説明として「現代において、土地利用の需要という点では、他の地域種別の土地と比較すれば高いとは言えないことも多く、・・・表示点の評価を厳密なものとすると、かえって高コストとなり、土地利用の状況等から考えて現実的なものではなくなると考えられる」からだ、とされています。つまり、筆界を「境界標の指示点」だ、とするのは、「表示点の評価を厳密なもの」にすることなのだ、とされているわけです。しかし、もしも本当に「表示点の評価を厳密なもの」にする、と言うのであれば、文字通り「厳密な評価」をするべきです。測量図の表示する位置と境界標の指示する位置が異なる場合に、「正しい筆界」がどちらであるのか?あるいはまたどちらでもないのか?中間なのか?片方により寄った位置なのか?等々、まさに「厳密な評価」を行うべきなのです。それは、当該資料(地積測量図)の信用性、精度についての評価、境界標設置の経緯をふまえたその設置の正確性の評価等々として行われるべきです。しかし、「報告書(資料)」はそのようなことはせず、「公差(あるいは平均二乗誤差)の範囲内」であれば「境界標の指示点」の方を「正しい筆界」だと見るべき、としてしまっています。これは「新たな現況主義」とも言うべきものであり、「誤った筆界認定」を誘発してしまう考え方です。なんら「厳密」なものではありません。極端に言えば、地積測量図に示された筆界の境界標が亡失してしまっている土地について、それをあらかじめ「復元」して境界標を設置して登記申請をしようとする場合には「2cm(甲1地域の「筆界点の位置誤差」の平均二乗誤差)」ずれた位置に設置してしまっても、それが「筆界」だと判断される、ということになってしまうのです。
また「市街地地域」の側からの説明としては「市街地地域においては、他の地域種別の地域と比較して筆界に関する現況を考慮する必要性は高く、更に表示点と筆界に関する現況が示す位置との関係を十分に検証した上で筆界の調査・認定をする必要があると考えられる」という理由が考えられているようです。しかし、これは特に「市街地地域」特有のことではなく、どの地域でも変わらないことです。ただ、実際に境界標等の「筆界に関する現況(地物)」が存在する割合の違い、ということはあるでしょうから、それに応じた「検証」を「十分」に行えばいいのであり、あらかじめ「市街地地域では境界標、山林原野地域では境界標がなくてもOK」というような決め方をする必要は全くない、と言うべきでしょう。
また、「境界標」については、別の個所で言われているように、「境界標の設置者、設置経緯等の背景事情、筆界が創設された経緯、境界標以外の筆界に関する現況等を総合的に勘案したうえで判断する必要がある」ものなのであり、そのような「判断」をすっ飛ばして「境界標の指示点」の方を「筆界」と判断すべきだとするような「要件」の提示をするべきではありません。

このような混乱が生じてしまう理由として、「資料」編での「要件」の示し方が、「資料に関する要件」の中に「検討に関する要件」をもごっちゃに混ぜ込んでしまう形になっている、ということがあるように思えます。「資料に関する要件」と「検討に関する要件」とを区別して示すことを考えるべきなのだろうと思います。
そのようなものとしてこの項は、シンプルに「14条1項地図・既提出の地積測量図に基づいて復元が可能な場合」ということでいいのであり、それ以上の具体的なことはまさにその事案に応じて「総合的に勘案したうえで判断する」ということにするべきなのであり、そのような「総合的判断」の過程をしっかりと踏むこと(踏むようにしておくこと)を別に定める必要がある、ということなのだと思います。


以上、「市街地地域」においては、「14条1項地図」「地積測量図」や「判決書図面」さえも、その示す位置に「境界標」等がなければ「筆界」と認めることはできない、という「検討報告書・資料」の考え方(あるいは「ア」「ウ」のような表現の仕方)について見てきました。
しつこいくらいに縷縷述べてきたことを改めて繰り返しますが、どう考えてもこれはおかしいのです。〈倒錯の世界〉とも言うべきものです。
「筆界」というのは、「筆界は,国家が行政作用により定めた公法上のものであって,関係する土地の所有者がその合意によって処分することができないもの」(本文第2-1)です(なお、厳密に言うとこのように言い切れるものではない、と思うのですが、それを言い出すと話がよりややこしくなるので、ここでは「公的なもの」という意味でとっておきます。)。そして、その「行政作用により定め」る、もしくはそれに準ずる手続の結果として作成されたものとして「14条1項地図」「地積測量図」「筆界特定図面」「判決書図面」があります。
ですから、これらの図面が「復元基礎情報」としての機能を持つようなものとしてあるのであれば、それ等の図面(情報)が示すもの(位置)をそのまま「筆界」だと認めるべきものなのだと思います。これが本筋の「筆界認定」のあり方なのです。
ところが、「筆界の調査・認定は、現地復元性を備えた信頼性のある資料が存在する場合を除き、相当な困難性を伴う作業である。」(第2-2)と言われるように、「現地復元性を備えた信頼性のある資料」が必ずしも多くなかったので、「困難性」を抱えてきたのでした。そこで、この「困難性」を打開するために「筆界確認情報」を求めて、それによって「筆界認定」をしてきた、という構造なのだと思います。それが、これまで「実務上」行われてきたことであったわけで、「本道」を進めないから「脇道」を進んでいたのです。ところが、その「脇道」の方もどんどん道が狭くなり、草木も生い茂るようになってしまいましたし(所有者不明土地の多発、土地所有者の境界認識の希薄化)、振り返って「本道」の方を見てみたら道も広くなっているし進みやすくなっている(現地復元性のある信頼性のある資料の増加、技術的進歩)ので、「脇道」に固執することはなく「本道」を進むようにしよう、と考えるべきなのだと思います。

こんなに単純明快なことがどうしてすっきりと明らかにできないのだろう?というのが私の捨てがたい疑問です。たとえ話ついでにもう1つ。柔道に詳しいわけではないので、もしかしたらとんでもなく見当違いなのかもしれませんが・・・。
「現地復元性を備えた信頼性のある資料」にもとづく「筆界認定」というのは、柔道で言うと「投げ技」のようなものだと思います。「14条1項地図」は大外刈り、「地積測量図」は払い腰、「筆界特定図面」は一本背負い、「判決書図面」巴投げのような投げ技だ、というようなたとえです。投げが決まって相手の背中が畳にベタっと着けば、それだけで「一本」が決まって勝ちになる、のと同じように「現地復元性を備えた信頼性のある資料」があり、かつ所要の条件を備えた場合にはそれだけで「筆界認定」ができる、というものだろう、ということです。これらの技がきれいに決まれば、それだけで「一本」に成り、「勝ち」になるように、わけです。
柔道には、このような「投げ技」以外にも「寝技」というものがあります。このあたりから私の乏しい「柔道知識」だけではあやしくなるので、ネットで調べてみました。
「一般的には両者が互いに組み合って相手を綺麗に投げ、一本を取るのが柔道の王道ですが、柔道で勝利する方法はそれだけではありません。相手を倒し押さえ込みで勝つ方法や、さらに倒した相手を絞め技や関節技で倒す方法もあります。こうしたどちらか一方の相手が下になり攻防を行うことを寝技といい、この強さに特化した選手もいます。現在でも高専柔道と言う寝技に特化して発展した柔道スタイルもあり、 立ち技と同じぐらい重要視されています。」(https://sposhiru.com/34d2778f-0ccc-4d9b-a608-40ca88811693)
とのことです。
この言い方に倣うと、つぎのようになるでしょうか。
「現地復元性を備えた信頼性のある資料にもとづく筆界認定」というのが「筆界認定の王道」ですが、筆界認定の方法はそれだけではありません。土地所有者、隣地所有者の筆界認識を確認する「筆界確認情報」によって筆界認定する方法もあります。「現地復元性を備えた信頼性のある資料」の存在が少なかったという歴史的経緯もあり、「筆界確認情報」に特化した筆界認定の方法を「登記実務における通常スタイル」と考える向きもあり、「現地復元性を備えた信頼性のある資料にもとづく筆界認定」と同じくらい(さらに言えば、それ以上に)重要視されています。
このような現実があった中で、今、それを見直そうとしているわけです。あまりにも「寝技」重視、「筆界確認情報」重視が行き過ぎてしまったのでそれを見直そう、という「基本的な考え方」をとることにしました。では、具体的にどうなるのか?それが問題です。
私は、まず必要なことは「投げ技」がきれいに決まった場合には、それだけで「一本」であることを明確にする、ということなのだと思います。ごくあたりまえのことです。これまでは、投げが決まっても、なお寝技に持ち込まなければ「一本」と「認定」しなかった(この方が異常なことです)のを改めて、「柔道の王道」、基本・本筋に立ち返って、投げ技がきれいに決まったら「一本」だのだ、ということを明らかにし、実践するべきなのです。「現地復元性を備えた信頼性のある資料が存在する場合」には、それ(のみ)をもって「筆界認定」できる、ということを明らかにし、実践する、ということです。
これが「基本的な考え方」です。この「基本的考え方」をそのまま現実に摘要すればいいのだと思うのですが、「検討報告書(資料)」ではそのように行きません。「筆界特定図面」はそれだけで「筆界が明らかである」と言えるものだが、「14条1項地図」「地積測量図」「判決書図面」はそれだけではだめで「公差の範囲内に境界標の指示点」がなければだめだ、とするわけです。これは、一本背負いのときにはそれだけで「一本」とみとめるけれど、大外刈り、払い腰、巴投げのときには、投げが決まっただけでは「一本」にならず、投げた後で投げたことを会場にアピールしないと「一本」とは認めない、みたいなことです。
私には、これはおよそ考え難いものです。もちろん、本当に投げがきれいに決まっているのか?というのはきちんと判定しなければならないことです。「一本」というのは、「①『相手を制し』ながら相当な②『強さ』と③『速さ』をもって、④『背中が大きく畳につくように』投げたとき」に判定されるものだそうなので、この4基準に該当するのかどうか、ということはきちんと判定されなければなりません。しかし、それ以外のこと(「⑤投げたことの会場へのアピール」みたいな)を判定基準にするべきではないのです。「筆界認定」についても「現地復元性を備えた信頼性のある資料」が本当に筆界を正しく表示する「信頼性」のあるもので、それによって「現地復元」ができて誤りのないことを確証しうるものとしてあるのか、という点において判断がなされるべきなのであり、それ以外の「要件」を差し挟むべきものではありません。
「検討報告書・資料」で示されているものが、このような「一本の要件を満たしても一本勝ちと認めない」というような「問題以前の問題」のところで止まってしまっている、のはとても残念なことです。
また、「きれいに決まった投げ技を一本と認めよう」というだけでは、「寝技」中心の現状を改善するための今後の方向性を考えるにあたっては、あまり有効な方策であるとも思えません。さらに必要なのは、「一本」にはいたらない「技あり」や「有効」のようなものもきれいに拾って、「合わせ技一本」をも認定できるようにすること(単独の資料では「筆界認定」に至りえないが、いくつかの資料を合わせ読めば「筆界認定」しうるようなケースを類型的に明らかにすること)なのだと思う、・・・のですが、これについては後で考えるようにして、次回は「イ」について考えることにしたいと思います。

「筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書」について②

2021-06-03 09:29:08 | 日記
前回からの続きです

2.「資料」部分について
「筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書」は「本文」部分と「資料」部分に分かれています。その意味は、「基本的な考え方を整理した『本文』と、その考え方に基づいてより実務的に代表的なケースを類型的に整理した『資料』とに分かれている」ということだそうです(「登記情報」誌715(2021.6)号。法務省民事局民事第2課)。このような分け方は「総論」と「各論」と言っていいものなのだと思いますが、それが「資料」という名称でまとめられている、ということには、この部分については、まだまだ議論の余地があり、確定的なものではない、という意味が含まれているのかな、と思います。
これは、私のただの「希望的観測」かもしれません。なぜわたしがこのような「希望的観測」をするのか、と言うと、「資料」部分の内容は、あまりにも未整理で、内容的にも疑問の多くあるものだからです。この内容で確定させてしまうのではなく、その名の通り一つの「資料」として検討対象にして、内容の整理を行うべきだと思います。そのような意味を込めて、以下、私の考えるところを書くことにしたいと思います。(なお、「登記情報」誌715(2021.6)号の「概要」紹介では、「『資料』には、詳細な『補足説明』も付されているが、ここではその紹介を割愛する」とされていて、「割愛」された部分の多いものになっています。そこで、よく理解しにくいところもあるのですが、私の理解した範囲で考えるところを述べることにします)。

もう一度繰り返しますが、「本文」では
「筆界に登記所保管資料や筆界に関する現況等に鑑みれば筆界は明確であるといい得る場合にまで,一律に筆界確認情報の提供等を求めることには、少なくとも不動産登記の審査の観点からは合理的な理由に乏しいといわざるを得ないと考えられるため,筆界確認情報の提供等を不要とするべきであると考えられる。」(第2-3)

ということが言われていました。「筆界は明確であるといい得る場合に」は「筆界確認情報の提供等を不要とするべき」だ、ということです。
そうすると、どのような場合が「筆界は明確であるといい得る場合」なのか?ということが問題になります。「本文」では、次のように言われてもいました。
「筆界の調査・認定は、現地復元性を備えた信頼性のある資料が存在する場合を除き、相当な困難性を伴う作業である。」(第2-2)

たしかにその通りです。この「困難性」があるがゆえに「筆界確認情報」がないと筆界の認定をなしえない、とするケースもあった、ということであるわけです。しかし、ちょっと待ってください。ここで言われていることを裏返してみてみると「筆界の調査・認定」は「現地復元性を備えた信頼性のある資料が存在する場合」には、それほどの困難性があるわけではない、ということになります。なにしろその「資料」は「信頼性のある」ものであり「現地復元性を備え」ているわけですから、その資料に基づいて「筆界が明確であると認め」ることができるようになるわけです。
では、どのような資料があればいいのか?どのような資料をもって「現地復元性を備えた信頼性のある資料」とすることができるのか?ということが問題になります。それが「資料」において言われている、ということになります。

1)「現地復元性について」
「資料」の「1」として「現地復元性について」と題して次のことが言われています。
要約すると、①各筆界点についての測量成果による世界測地系の座標値、②各筆界点についての測量成果による任意座標系の座標値及び当該座標値を得るために行った測量の基点等(現存するもの)の情報、③各筆界点に対する複数の近傍に存する恒久的な地物(現存するもの)との位置関係の情報、(なお、「検討報告」では、これらの情報を「復元基礎情報」と言っています)が「図面に記録されている場合には、理論上図面に図示された筆界を現地に復元することが可能であると考えられる」とされています。(本項末尾に全文引用しておきます。)
このような情報が図面に記録されている場合に、それを「現地復元性を備えた」資料だと言える、ということになる、ということです。
この点について、私にも異論はない、・・・と言いたいところなのですが、実は「現地復元性」ということをどのように捉えるべきか、という点において疑問があります。ただ、それをここで言いだすと話がややこしくなるだけなので、ここでは一つだけ言っておきたいと思います。
それは、上記②③の場合には「近傍の恒久的地物又は測量の基点となる点が現地に現存していることが条件となる」というように外的な「条件」がついている、ということです。つまり、その図面情報単体で、その図面情報の示す筆界位置を現地で明らかにできるわけではない、のです。この「図面情報」と「現地情報」という二つの要素によって「現地復元性」の程度に違いが出る、ということが重要なところです。たとえば、昭和40年代の三角形の底辺・高さの数値しか書いていないような三斜の地積測量図は、一般に「現地復元性のないもの」だととらえられるわけですが、そのようなものでも、現地に境界標があったり、ブロック塀があって、それらと図面の形状・寸法が合致するときには、その地積測量図には「筆界の現地復元(と言うか「指示」「特定」)性」がある、と言えることになります。問題は、技術的な現地復元性(だけ)の問題ではなく、あくまでも「筆界位置の現地復元性」なのだ、ということに注意をしておく必要があります。

[検討報告書・資料]原文
1 現地復元性について
「以下の(1)から(3)までに掲げるいずれかの情報が図面に記録されている場合には、理論上図面に図示された筆界を現地に復元することが可能であると考えられる。ただし、(2)及び(3)に掲げる場合には、近傍の恒久的地物又は測量の基点となる点が現地に現存していることが条件となる。
(1)筆界を構成する各筆界点についての測量成果による世界測地系の座標値
(2)筆界を構成する各筆界点についての測量成果による任意座標系の座標値及び当該座標値を得るために行った測量の基点の情報又は2点以上の各筆界点に対する複数の近傍に存する恒久的な地物との位置関係の情報
(3)筆界を構成する各筆界点についての座標値の情報が記録されていない場合における、各筆界点に対する複数の近傍に存する恒久的な地物との位置関係の情報」


2)「筆界が明確であると認められる要件について」
これについても全文引用は本項末尾に置くものとして、私なりに要約しますと次のようになります。
まず、図面として挙げられているものは次のものです。
①「座標値の種別が測量成果である14条1項地図」、
②「筆界の復元基礎情報といい得る図面情報が記録された地積測量図」、
③「筆界特定書及び筆界特定図面」、
④「判決書図面」(「復元基礎情報といい得る図面情報が記録されている」もの、もしくは「囲障、側溝等の工作物の描画があり、それら囲障等に沿って筆界点が存するなど図面上において筆界点の位置が図示されている」もの)、
の4つの種類の図面が挙げられています。
これらの図面は、みな「筆界」を表示することを目的とするものと言え、いずれも信頼性のある機関が、相応の手続きを踏んで作成したり備え付けているものであるので、一般的に「信頼性のある」ものだと言える蓋然性が高いものとして挙げられている、ということなのだろうと思います。
私としては、ここで挙げられた4種の図面があれば、あれやこれやの条件を付けることなく、その図面情報の指示する位置を筆界であると認定しても差し支えないものなのだと思います。(もちろんその際に所要の検証を行うことが必要になるわけですが、それは別問題です。)そのように考えることが「本文」に言う「現在の社会情勢を踏まえつつ合理的な範囲に絞り込むこと」に結びつくのだと思うのですが、「検討報告書・資料」は、そのように単純には考えません。あれやこれやの条件を付けなくてはならない、としているのです。

まず、「地域区分」がなされます。「市街地地域」「山林・原野地域」「農耕地域」の三種の地域の別によって判断が異なることになるものとしています(もっとも「農耕地域」については、他の二つの「いずれかの要件を当てはめるべき」としていますので実質的には二区分ですが)。
上記4種の図面について、「筆界特定図面」だけは、「市街地域」でも「山林・原野地域」でも同じようにその示す位置を「筆界」と認めうるとするのに対して、「14条1項地図」「地積測量図」「判決書図面」については、「山林・原野地域」の場合には「当該情報に基づく表示点」を「筆界」と認めるべき、とされているのに対して、「市街地地域」の場合には、「公差の範囲内に境界標の指示点が現地に存する」ことを条件とし、なおかつ「当該指示点」を「筆界」と認めるべき、しています。
これは、おかしい。詳しく考えることにします。

[検討報告書・資料]原文
「(1)市街地地域について
次のアからカに掲げるいずれかの点で構成される筆界は明確であると認めることができる。
ア 登記所に座標値の種別が測量成果である14条1項地図の備付けがある場合において、申請土地の筆界点の座標値に基づき測量により現地に表した点の位置に対して、公差の範囲内に境界標の指示点が現地に存するときの当該指示点
イ 登記所に座標値の種別が測量成果である14条1項地図の備付けがある場合において、上記アの指示点が現地に存しないときにあっては、申請土地の筆界点の座標値を基礎として、地図に記録されている各土地の位置関係及び現況を踏まえて画地調整して導き出した復元点
ウ 登記所に筆界の復元基礎情報といい得る図面情報が記録された地積測量図の備付けがある場合において、当該情報に基づく表示点の位置に対して、公差の範囲内に境界標の指示点が現地に存するときの当該指示点
エ 筆界特定登記官による筆界特定がされている場合において、当該筆界特定に係る筆界特定書及び筆界特定図面に記録された特定点を当該図面等の情報に基づき復元した復元点
オ 判決書図面に復元基礎情報といい得る図面情報が記録されている場合において、当該情報に基づく表示点の位置に対して、公差の範囲内に境界標の指示点が現地に存するときの当該指示点
カ 判決書図面に囲障、側溝等の工作物の描画があり、それら囲障等に沿って筆界点が存するなど図面上において筆界点の位置が図示されている場合において、当該図面の作成当時の工作物が現況と同一であると認められ、現地において図面に図示された筆界点の位置を確認することができるときにおける当該位置の点
(2)山林・原野地域について
以下のアからカに掲げるいずれかの点で構成される筆界は明確であると認めることができる。ただし、土地の利用状況、開発計画の有無等に鑑み山林・原野地域とすることが相当でないと認められる事情があるときは、市街地地域の要件を当てはめるべきである。
ア 登記所に座標値の種別が測量成果である14条1項地図の備付けがある場合における、申請土地の筆界点の座標値に基づく表示点(ただし、カに該当するときは、この限りでない。)
イ 登記所に筆界の復元基礎情報といい得る図面情報が記録された地積測量図の備付けがある場合における、当該情報に基づく表示点(ただし、カに該当するときは、この限りでない。)
ウ 筆界特定登記官による筆界特定がされている場合において、当該筆界特定に係る筆界特定書及び筆界特定図面に記録された特定点を当該図面等の情報に基づき復元した復元点
エ 判決書図面に復元基礎情報といい得る図面情報が記録されている場合における、当該情報に基づき復元した復元点(ただし、カに該当するときは、この限りでない。)
オ 判決書図面に囲障、側溝等の工作物の描画があり、それら囲障等に沿って筆界点が存するなど図面上において筆界点の位置が図示されている場合において、当該図面の作成当時の工作物が現況と同一であると認められ、現地において図面に図示された筆界点の位置を確認することができるときにおける当該位置の点
カ ア、イ及びエの場合において、筆界の復元基礎情報といい得る図面情報に基づく表示点の位置に対して、公差の範囲内に境界標の指示点が現地に存するときの当該指示点」
(3)村落・農耕地域について
周辺の土地等の利用状況等の事情に応じて、市街地地域又は山林・原野地域のいずれかの要件を当てはめるべきである。

まず、問題点が端的に現れているものとして(1)-「オ」についてみることにします。
①(1)-「オ」・・・「判決書図面」の場合
再掲します。
「オ 判決書図面に復元基礎情報といい得る図面情報が記録されている場合において,当該情報に基づき測量により現地に表した点の位置に対して,公差(位置誤差)の範囲内に境界標の指示点が現地に存するときの当該指示点」

これは、筆界確定訴訟の判決図面に基づいて筆界を認定する場合のことについて言っているものです。
筆界確定訴訟の確定判決という資料の法的性格としては、筆界を確定する法的効果を持つものです。その判決には形成力があり、対世効を持つものとされています。また、筆界特定との関係では「筆界特定がされた場合において、当該筆界特定に係る筆界について民事訴訟の手続により筆界の確定を求める訴えに係る判決が確定したときは、当該筆界特定は、当該判決と抵触する範囲において、その効力を失う。」(不動産登記法148条)とされており、筆界特定の効果をも失わせるような言わば「最強」の法的性格を持つものです。
ですから、筆界確定訴訟の確定判決があり、しかもそれが「オ」の場合のように「復元基礎情報といい得る図面情報が記録されている」のであれば、その図面情報の示すものが「筆界」である、ということになります。これには、何の留保も条件も必要ない、ことであり、その意味では登記官が「認定」しようとしなかろうとそう判断される、という性格のものです。
ところが、「報告案・資料」では、「筆界が明確であると認められる」のは、「判決書図面に復元基礎情報といい得る図面情報が記録されている場合において,当該情報に基づき測量により現地に表した点の位置に対して,公差(位置誤差)の範囲内に境界標の指示点が現地に存するときの当該指示点」だとしています。
「復元基礎情報」を備える確定判決がある場合でも、その判決(情報)だけでは「筆界が明確である」とすることはできず、「境界標」がなければならないとしている、ということです。これは誤りです。「境界標」があろうとなかろうと、判決(情報)の示す位置が筆界なのであり、それ以上に何の留保も条件も要りません。もちろん、それにもとづいて現地に復元してみることはするでしょうが、その復元点に境界標があろうとなかろうと、工作物があろうとなかろうと、関係のないことです(もっとも、判決書(図面)がその境界標の存在をもって「境界」だとの判断をしたのであれば、判決書(図面)にその旨が記載されるでしょうから、「数値(情報)」に関わらずその境界標の位置を「筆界」と認定することが正しい、と言えるでしょう。この場合数値との違いがあるのだとすれば、「測量誤差」の問題だということになります。また、これはあまり考え難いことですが、復元の結果があまりにも明確に誤り(たとえば「旧日本測地系」の座標値であるにもかかわらず「世界測地系」と記載さされていて位置が数百メートル違う位置になってしまうような、極端な、通常はありえないような誤り)であるような場合には、そのまま「筆界」だとすることはできない、というようなこともあるでしょうが、あくまでもそれは例外的なことで、ありえないようなことを考えても仕方ありません。
それを、このように「境界標」がないといけない、としてしまうのでは、筆界確定訴訟の判決があっても「境界標」がなければ「筆界認定」できない、としてしまうことになるのであり、どう考えても妥当だとは思えません。
しかも、「公差の範囲内」であれ判決(情報)の示す位置と、現地に「境界標」があってその間に相違のある場合には、「境界標の指示点」の方を「筆界」だと認定する、ということとされています(「当該指示点」というのはそういう意味でしょう)。
これは誤りです。この「判決(情報)の示す位置の近くに「境界標」が既に存在してい」て、それらが食い違うということ自体がそもそもあまり考えられないことなのですが、もしもそういうケースがあるとすれば、それは次のようなケースです。最もありうるのは、判決の事後に、その判決(情報)に基づいて境界標が設置された、という場合です。この場合には、境界標の設置にあたって一定の「誤差」が生じることがありうるので、その誤差を抱え持つ境界標の位置の方を「正しい」と見てしまうのは誤りであると言えます。また逆に、判決の以前に「境界標」が存在していた、という場合もあるかもしれません。この場合、判決書が当該「境界標」をもって「境界」だと判断することが示されていないのであれば、判決は「境界標」の存在を前提にしながら、敢えてそれとは異なる位置として(「公差の範囲内」だとしても)「筆界」の判断をした、ということになるわけですから、「筆界」は「境界標」の位置ではなく、判決(情報)の示す位置である、というように判断するべきです。ところが「検討報告書・資料」では「公差の範囲内にある境界標」の方をと判断するべき、としているのですから、これは「誤った筆界認定をしてしまう」ものにあたると思えるのです。(なお、この場合には「判決図面」にもそれなりの記載はあるでしょうし、もしそれがなくても判決書を見ればそこにも示されているはずです。「ウ」では、「筆界特定書及び筆界特定図面」を考慮対象としているのに、「オ」では「判決書」を対象としておらず、「判決」の趣旨をよみとろうとしていないことに問題がある、ということでしょうか。)
この「筆界確定訴訟の判決があり、そこに復元基礎情報がある場合でも、現地に境界標がないと筆界が明確であると判断できない」という考えは、わたしにはとても衝撃的なものです。そんな考え方がありうるのだろうか?何かの間違いなのではないか?と今でも思っているところがあるのですが・・・どうなのでしょう?

以上「判決書図面」について、あまりにも衝撃的だったので、つい初めに書いてしまいましたが、これは実際にはあまり問題になることではないでしょう。次に「本題」とも言うべき、実務的に比較にならないほど多く問題になるであろう「14条1項地図」「地積測量図」(「ア」「ウ」)に関することを、次回に書くようにします。