「論理的に考え、書く力」は、すべての人に求められる「力」ですが、私の現在の立場からすると「土地家屋調査士に特に求められる力」ということになります。
実際の問題としても、私が研修会の講師として呼ばれる時には、「鑑定書、意見書の書き方」というようなテーマを与えられることが多く、土地家屋調査士の世界でこの「力」が求められていることがわかります。
この「書く力」については、すでに多くの本が出版されています。しかし、それらを読んで「書く力がついた」という話はあまり聞きません。このことについて即効性を求めるのは、そもそも無理がある、ということなのでしょう。・・・そうわかってはいるのですが、このての本が出されると、ついつい買ってしまいます。読んでから後悔することはわかっているのに・・・。
本書についても結果はいつも通りでした。・・・が、それは著者が悪い、とか、内容が悪い、ということではありません。多分、編集者が「悪い」のでしょう。
それは、本書の内容と書名(タイトル)が一致していないからです。本書のタイトルは「論理的に考え、読む力」とすべきものではなく、「現代日本数学(算数)教育論」とでもすべきもののように思えました。その上で、サブタイトルとして「論理的に考え、書く力を育てるために」と付くのであれば私も納得できるのですが、いきなり「論理的に考え、書く力」とされてしまうと「看板に偽りあり」という感じがしてしまいます。
さて、その上で本書の内容について言うと、まずは本書のメインテーマである「教育論」について、知らないことが多くあり、勉強になりました。また、教育者として、自分の専門領域に関する事柄について責任を持とうとする著者の姿勢から学ぶべきものが多くありました。最初からそういうつもりで読めば、満足度の高いものであった、ということができるでしょう。
その上で、私の期待した内容(タイトルの示す内容)についても、分量は少ないながら役立つ点もありましたので、以下、少し紹介をします。
第4章で、「論理的に考え、書く力を磨くために意識したいこと」が述べられています。
そこでは、「結論だけ述べてもダメ」、「他者にきちんと説明できる能力」が必要。用語の「定義」を書くこと(明らかにすること)が大事。「論理的に飛躍がないかを疑いながら書く」ことと「時間を置いて読み返す」ことが勧められています。
また、「前提」を明らかにすることの重要性が言われており(これの曖昧なままでの議論というのはしばしば見られるもので、時間ばかりかかってまったく生産的なものになりません)、その具体的な展開としての「場合分け」の重要性が言われています。これは、私たちが書くべき文章の構成を考える上で参考になるものでしょう。
この本を読んであらためて思いましたが、「文章を書く」にあたっての「コツ」というのは、極めてありきたりのことしかないようです。「書く力」は、「読む」ことによって培われるものではなく、あくまでも「書く」ことによってしか得られないのだろう、ということです。