元中国大使、元伊藤忠商事社長の丹羽宇一郎氏による「中国問題」に関する全般的な解説書です。
帯に、「丹羽前大使を『親中派』と決めつけてはいけない。氏の中国論はきわめて誠実でまっとうである。」という橋爪大三郎氏のコメントが載せられていて、確かにその通りなのですが、この言い方も少し腰が引けたものです。
そもそも、最終的な立場が「親中」的になるのか、「反中」的になるのか、というのは情勢のとらえ方やら戦略的な判断から分かれていかざるをえないものなのでしょうけれども、その前の段階で「誠実でまっとうな」事実の把握と分析が必要である、というのは当たり前の前提です。それ抜きに、「嫌中」という感情的なものだけに依拠してどうにかなると思ってしまう、という今の日本に蔓延している風潮はとても危険なことだと言うべきでしょう。
まずは、中国の現状をどのようにとらえるのか、ということが問題になります。経済的な発展が著しい中国ですが、その現状は「中国経済は日本に40年ほど遅れて発展している」状態だと著者は言います。その上で、だからと言って恐れるに足らないと言うのではなく、たとえば「教育」に大きな予算を傾注するなど、より速く強い発展の可能性があることを、その危険性をも含めてしっかり認識しておく必要がある、ということになります。
そしてまた、これは、国際的な環境が変化する中でのこととしてとらえる必要があります。 BRICS と言われる新興の大国の中の一国としての中国は、より後進の国に対する影響力の大きさも含めて、隣の日本から見ていただけではわからない力を持っている、ということです。
そのような中国の姿を、まずは冷静にしっかりと見た上で、どのよう付き合っていくべきなのか、ということが考えられなければなりません。
本書は、「〇〇〇という大問題」と題された7つの章から成っています。「14億人」「経済」「地方」「少数民族」「日中関係」「安全保障」「日本」の7章です。
前の6つは中国の問題ですが、最終章は「日本という大問題」と言うより「日本の大問題」と言う方が相応しい内容です。日本の中だけの問題として見ていると見えないことが、「中国」という鏡に照らすと見えてくる、という感じで、最終的には日本のあり方を問い直さなければならない、ということになるのでしょう。