大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

「筆界認定の在り方に関する検討会」について―連載④

2020-09-28 14:42:45 | 日記
「筆界が明確であると判断できる」のはどのようなときか?
まず、「連載2」で引用した大分(九州)の「土地建物実地調査要領」における「筆界の認定」に関する規定をもう一度見ます(注記的記述を一部省略しています)。
(2)法第14条第1項地図が整備されている地域に所在する土地の筆界であって、当該地図の現地復元により指示される地点に地図作成当時に設置された筆界点と認められる境界標及び地図作成当時に測量の基礎となった基本三角点等が現存しており、これら複数の境界標及び基本三角点等により当該筆界を現地において復元することができる場合
(3)現地復元性のある地積測量図が提出されており、当該地積測量図の現地復元により指示される地点に地積測量図作成当時に設置された筆界点と認められる境界標、地積測量図作成の測量の基礎となった基本三角点等又は別表第4に掲げる恒久的地物が現存しており、これら複数の境界標及び基本三角点等又は複数の境界標及び恒久的地物により筆界を現地において復元することができる場合
上記の場合には筆界認定ができる(従って筆界確認情報の作成・提供を求める必要はない)ものとしています。
これは、ごく当然の当たり前のことを言っている規定です。このような取り扱いは当然に全国的になされて然るべきものであり、もしこれが全国的なものではない、という現状があるのだとすれば、これを全国的に共通なものとして確認するようにする、ということだけでも「筆界認定に関する検討会」の最低限の意義だと言いうるでしょう。もちろん、その上で、これに該当しない場合でも「筆界認定ができる(従って筆界確認情報の作成・提供を求めない)」場合がある、ということまで検討を進めていく必要があるわけですが。
この規定を非常に荒っぽく要約すると、「現地復元性のある筆界資料があれば、それだけで筆界認定しうる」ということになります。ここで「現地復元性のある資料」というのは、「法14条1項地図」であり、「現地復元性のある地積測量図」であるわけですが、それは要するに「各筆界点の座標値」をその情報内容とする資料、ということになります。
つまり、「地図を作成するための測量」は、「「基本三角点等を基礎として」行うこととなっています(不登規則10条3項)し、「電磁的記録に記録する地図にあっては…各筆界点の座標値を記録するものとする」(同13条2項)となっていますので、少なくとも平成17年の不登規則改正以降の法第14条第1項地図地域においては「各筆界点の座標値」が明らかになるものとなっていて、したがって「現地復元性のあるもの」と言えます。また、地積測量図についても、「基本三角点等に基づく測量の成果による筆界点の座標値」(不登規則77条1項8号)ないし「近傍の恒久的な地物に基づく測量の成果による筆界点の座標値」(不登規則77条2項)が記載されることになっていますので、これもまた少なくとも平成17年の不登規則改正以降のものについては、「現地復元性のあるもの」と言えるわけです。
この場合には、すでに「定められた筆界」が存在し、それを現地においてピンポイントで復元できる資料があるわけですから、それだけで「筆界認定」できる、ということになります。それは、当該筆界について、境界標等の現地地物が存在する場合にはもちろん、それが存在しない場合においてもできることです。単独の資料で「筆界が明確である」と判断できるわけです。
この「単独で」ということの意味をもう一度考えておく必要があります。
そもそも「筆界」という概念は、いつかの時点でそれを「筆界」であると「定める」、ということがあったことを前提にする概念です。分筆登記によって新たに筆界が創設される、区画整理によって筆界が再編成されることによって新たに創設される、というように「創設筆界」については、筆界を「画定する」という形で「定める」ことがなされています。明治の地租改正の過程で定められた一筆の土地の外縁である「原始筆界」については、このような筆界のピンポイントでの具体的画定行為はないわけですが、過去において「筆界確認情報」等を基にして「筆界認定」を行うという形で筆界を「定める」ことがなされています。
この「筆界を定めた」ものについて、その時々に「どのように定めたのか」を記録した資料が作成されてきたわけですが、それが上記のように「座標値」の形で示されるようになったのはそう古いことではなく、全面的になされるようになったのは上記平成17(2005)年、かなり多くのケースでなされるようになったのでも平成5(1993)年からのことです。
このことから、「現地復元性のある資料は極めてまれである」と考えられがちなのですが、この15~30年ほどの間にかなり多くの「現地復元性のある資料」が蓄積されてきている、ということであり、この資料によって(単独で)筆界を認定しうる、ということを改めて確認しておく必要があります。そのように認定しうるものとして「筆界」があること(いちいち所有者同士で「確認」をしなければ前に進めないというわけではないこと)にこそ「筆界」概念の意義があるわけです。
このようなことから、「筆界認定へ向けてのフローチャート」を作るとすると、まず初めの選択肢として、「当該筆界についての現地復元性のある資料があるか?ないか?」という項目が立てられることになり、「ある」であればすぐに「筆界認定できる」に進むことになり、「ない」である場合にさらに次の問いに進むということになる、という形になります。この、その先の選択肢というのは、単独ではなく複数の要素の組み合わせによってさまざまに変わることになり、柔道の「合わせ技一本」のような形での筆界認定になります。
この「合わせ技一本」のための「個々の技」と「その合わせ方」について、以下考えていくようにします。

「筆界認定に関する検討会」について・・・連載3

2020-09-16 20:33:53 | 日記
2.課題の設定
「筆界認定に関する検討」を行う、という場合、ごくごく原則的に言えば設定すべき課題は、「正しい筆界認定はどのようにあるべきか?」ということになります。
しかし、これではあまりにも漠然としすぎていますし、初めに書いたように「筆界確認情報を求める実務上の取り扱いが取引の円滑への支障となっている」ということが問題意識としてあるということですので、問題が「筆界確認情報を求める必要性の有無」に絞られるのは仕方ないことかもしれません。
そのようなところから、本検討会における主要な課題設定は、「土地の区画が明確である場合には、筆界確認情報の作成及び登記所への提供を不要とすることが考えられないか」ということとして立てられているそうです。
私は、この課題設定自体について、もう少し考えてみるところがあるように思います。
まず第1に、「筆界確認情報」に焦点を当てること自体については、上記の事情から仕方ないとも思うのですが、その場合にも「筆界確認情報」というものを「筆界認定」の全体像の中におけるものとして、少し突き放して見る必要があるのだと思います。具体的に言うと、「筆界認定」をできる場合というのは二つの場合があるのであり、「蓄積された資料によって筆界を認定できる場合」と、それができなくて「筆界確認情報の作成・提供を求める必要のある場合」とがある、と考えるべきなのだと思います。「筆界確認情報の作成・提供を求める」というのは、原則としてはあくまでも第二順位のものなのであり、これに頼りすぎてしまっている現状をどうにかしなければいけない、ということが問題意識の出発点にあるべきなのだと思います。
第2に、どうするか?ということを考える場面設定を「土地の区画が明確である場合」としていることです。私は、場面設定は「土地の区画が明確である場合」ではなく「当該筆界が明確である場合」として立てるべきなのだと思います。それは「土地の区画」という言葉の曖昧さです。この言葉は、たとえば不動産登記法14条1項が「地図」について「各土地の区画を明確に」するものとして規定しているように、四囲の筆界をもって構成される一筆の土地の全体を問題にしている言葉なのだと思います。図で言うと、8番の「土地の区画」というのは、K1-K2-K3-K4-K5-K1で構成されるものです。それに対して「筆界」というのは、「1筆の土地とこれに隣接する他の土地との間」(不登法123条1号)における個別の1対1対応のものです。図で言うと、8番と9番との筆界はK1-K2であり、8番と道路との筆界はK2-K3であり、8番と7番2との筆界はK3-K4であり・・・・、というものです。この場合、8番と7番2との筆界を認定するのにあたっては、K3-K4の筆界が明確であると判断されれば筆界認定できるのであり、他のK4-K5やK5-K6等々は直接の関係はないのです。このように「土地の区画が明確である場合」という言葉の使い方は、問題を拡大・拡散させてしまうおそれがあるので、あくまでも「筆界」の問題として「当該筆界が明確である場合」のことを考える必要があるのだと思います。
第3に、「土地の区画が明確である場合には、筆界確認情報の作成及び登記所への提供を不要とすることが考えられないか」という控えめな課題設定のあり方が問題なのだと思います。「検討会」なのだから、あらかじめ答えを出してしまうのではなく、控えめな問題設定をするのは当たり前じゃないか、と思われるかもしれませんが、そうでしょうか?もしも「土地の区画が明確である」のであれば、そのような土地の場合でさえ「筆界確認情報の作成・提供を求める」という必要性がある、と考える余地がそもそもあるのでしょうか?私にはありえないことだと思いますし、それは「あたりまえのこと」としか思えません。
ここでも「土地の区画」という言葉が問題をわかりにくくしているように思います。もしもこれを「筆界が明確である場合は」とすれば、「筆界が明確である場合は筆界認定できる」「筆界が明確である場合は筆界確認情報の作成・提供を求める必要はない」という結論がすぐ出てきます。それは、同じ意味のことを繰り返し言っているに過ぎない(同義反復)もので、問題にするまでも明らかなことだからです。そうなることを避けてか、問題を「土地の区画が明確な場合は」と立てたので、当たり前のことがあたかも当たり前ではないようになって、問題がややこしくなってしまっているのだと思えます。

さて、それでは課題はどのように立てるべきなのか?「筆界確認情報」をめぐる問題として立てるのであれば、「「筆界が明確であると判断しうるときには、筆界確認情報の作成及び登記所への提供を不要である」ということを命題として立てたうえで、「どのようなときに筆界が明確であると判断できるのか?」ということを考えるべき、なのだと思います。
・・・ということで、「筆界確認情報」というものについて言いたいことはまだあるのですが、それは後回しにして、「本来の課題」であるべき「どのようなときに筆界が明確であると判断できるのか?」という問題について、次回から具体的に考えていくようにしたいと思います。


「筆界認定の在り方に関する検討会」について・・・連載2

2020-09-14 08:34:33 | 日記
(2)「筆界確認情報」提供要求の現状に関する現実認識
この事実認識をめぐる問題は、より基本的な事柄についてもあります。
そもそも、「筆界確認情報」は、どの程度求められているのか、どのような場合にどこまでの範囲で求められているのか、ということに関する事実認識です。
「法務局によっては、一定の場合に確認情報を求めないこともあり、統一がされていない」と言われる全国的な実態については、次のようになっていると言われます。
「筆界確認情報」の提供を求めるという規定あるのかどうか、ということに関する全国各局の実情は、「提供を求める」24局、「可能な限り求める」10局、「提供を求める規定なし」16局であり、印鑑証明書の添付については「提供を求める」9局、「可能な限り求める」11局、「提供を求める規定なし」30局となっている、とのことですが、この分類では実態を見切れない部分があるように私には思えます。
その点を見るために、私の知る大分(九州)の状況について見てみます。
大分(九州)の法務局には、「土地建物実地調査要領」(平成23年11月15日改訂)というものがあり、その第35条で「筆界の認定」に関することが規定されており、それは次のものです。
「第35条 登記官は、地積の更正又は分筆の登記等において,土地の筆界の認定を行う揚合は、申請人又は申請代理人、隣接する土地の所有者等の立会いを求めて行うものとする。ただし、以下のいずれかに該当する揚合については、立会いを省略することができる。
(1)附録第12号様式による立会証明書又はこれに準ずる証明書が印鑑証明書を添付して提出されている揚合であって、申請情報、添付情報及び登記官が登記所内外で収集した資料と現地とが整合しており、筆界が明確である揚合。ただし、印鑑証明書を添付することができない揚合は、証明者本人が署名したことを申請人又は申請代理人が当該証明書に添え書きし、これについて申請人又は申請代理人が署名・押印したものを添付することで差し支えないものとする。
(2)法第14条第1項地図が整備されている地域に所在する土地の筆界であって、当該地図の現地復元により指示される地点に地図作成当時に設置された筆界点と認められる規則第77条第1項第9号に規定され別表第4に掲げる境界標及び地図作成当時に測量の基礎となった規則第10条第3項に規定され別表第4に掲げる基本三角点等が現存しており、これら複数の境界標及び基本三角点等により当該筆界を現地において復元することができる場合
(3)現地復元性のある地積測量図が提出されており、当該地積測量図の現地復元により指示される地点に地積測量図作成当時に設置された筆界点と認められる境界標、地積測量図作成の測量の基礎となった基本三角点等又は別表第4に掲げる恒久的地物が現存しており、これら複数の境界標及び基本三角点等又は複数の境界標及び恒久的地物により筆界を現地において復元することができる場合
(4)当該筆界について、筆界特定がされている揚合」
筆界認定を行うに当たっては、登記官が実地調査で土地所有者の立会を得て行うことを本則とする、という建前(これ自身現実に即さないものでいかがかと思いますが)の上で、その適用除外として(1)~(4)が挙げられています。そのなかの(1)が「筆界確認情報」の作成・提供を求める規定であり、(2)は14条地図、(3)は既提出地積地積測量図によって復元可能な場合、(4)は筆界特定のなされた土地、というものです。
このような大分(九州)の規定を、私は合理的なものだと思いますが、これは上記の全国の実情に関する分類でいうと、どれにあたるのでしょうか?たしかに「筆界確認情報」の作成・提供に関する規定はありますし、印鑑証明書についての規定もあります。しかしそれは、例外規定のうちの一つとしてなのであり、「提供を求める」というのとは違いますし、「可能な限り求める」というのとも違うように思えます。
ここでは、問題は「筆界確認情報」を軸にして立てられているわけではないのです。それはあくまでも、「必要があるときは求める」ものに過ぎないのであり、「必要でないときは求めるまでもない」ということになるわけであり、「筆界確認情報」をどうするか?ということが主要議題として立てられているわけではないのです。
これは、きわめて当たり前のことで理論的な考え方として正しいものと思えますし、実務上の感覚、現実に登記審査の中で行われていると思われることと合致するものです。
そしてこの「必要な時に求める」ということであれば、次の問題は「どのような時に必要とするのか?」、逆に言うと「どのような時には不要なのか?」ということが問題になります。問題は、あくまでもここに立てるべきなのであり、「筆界確認情報を求める」取り扱いが広く行われている、ということを前提にしてしまったうえで、「確認情報を得ることが困難な場合」にはどうしようか(不要又は軽減できるか)、というようなところで立てるのは、「筆界確認情報」に引きずられすぎた問題の立て方なのであり、正しくないように思えます。

参考 
なお、改定前の平成19年制定の大分(九州)の法務局「調査実施要領」では、次のような規定になっていました。
(立会証明書等の添付)
第24条 地積の更正の登記の申請情報には、できる限り,当該±地に隣接する土地の所有者又は代理入において作成した「土地の筆界について異議なく確認されたものである。」旨の、附録第9号様式による立会証明書又はこれに準ずる情報の添付を求めるものとする。
2 前項の添付情報には、できる限り、関係人の印鑑証明書の添付を求めるものとする。
この改定前の規定であれば、「筆界確認情報の提供」「印鑑証明書の提供」のいずれについても「可能な限り求める」に分類するので妥当なのだと思われますが、それでも、分筆の場合には「添付された地積測量図が既提出の地積測量図と符合する場合には、添付を省略することができる」(4)、「立会証明書は、登記官において、添付された実地調査書の記載等によって、筆界が確認されたことの信ぴょう性が得られた時は、その実地調査書をもってこれに代えることができる」(5)とされていたのであり、何が何でも提出を求めるというものではなく、「必要に応じて」という面を持つものであった、と言えます。
それにしても、この平成19年要領では、「立会証明書」という「筆界確認情報」の提供ということで本則が立てられ、その適用除外をも考える、という形で構成されていたわけですが、平成23年改訂版は、そもそもそのような構成をとっていません。この違い(進化)を、10年後の今、改めて考えるべきだと思います。

「筆界認定の在り方に関する検討会」について・・・連載①

2020-09-11 12:42:06 | 日記
ずいぶんと長い間、ブログの更新をせずに来ました。特に事情があった、ということではないのですが、自分が書かなければいけないと思うようなことがなく、ズルズルと月日が過ぎました。
その状態に大きな変化はないのですが、そろそろ「最後」に向けて言うべきことは言っておきたいとも思い、最近の重大トピックだと私の思う「筆界認定の在り方検討会」について、何回かに分けて書いていきたいと思います。             


「筆界認定の在り方に関する検討会」が開催されている、ということです。この検討会は、一般社団法人金融財政事情研究会が主催して法務省、財務省、国土交通省等の関係省庁、弁護士、土地家屋調査士、司法書士、法務局の実務家、有識者などが参加して「筆界認定の在り方」等に関して検討を行うもの、だといいます。
具体的には、土地の表示に関する登記(表題登記、地積更正登記、分筆の登記)の審査、登記所備付地図作成作業における筆界を調査・確認する際に、筆界を接する各土地の所有者の当該各筆界に係る認識が合致していることを証するものとして、各土地の所有者の全員が立ち会い当該筆界を確認したことを証する情報(「筆界確認情報」)の提供を求め、登記官が筆界を認定する際の有力な証拠として取り扱っている、という現状があるわけですが、これが不動産取引の阻害要因となっているとの指摘がなされている(確認情報を得るための労力が過大となるケースや、隣地所有者が不明であるケースでは確認情報を得ることに実際困難を伴い、そうすると分筆等が進まない)とのことで、そのようなことを受けて
「本検討会は、一部の場合に、確認情報の作成・提供を不要又は軽減することを検討するものである。」(登記情報702号2020.5伊藤栄寿上智大学法学部教授)

とのことです。
私は、以前より登記実務における「筆界認定」のあり方、特に「筆界確認情報」をあまりにも偏重し、過度に頼り切っているあり方には大いに問題があると思っていました。特に最近の社会情勢の変化から、人びとの土地に対する意識や境界に対する認識が大きく変わってきている中にあって、このような状態を続けていくことは、社会経済活動への支障となっていくのではないか、特に国際化の進む中で一つの非関税障壁として国際問題にもなってしまうのではないか、と危惧していました。
ですので、この「筆界の在り方検討会」は、まことに時宜にかなったものであり、意義は非常に大きいと思います。特に私たち土地家屋調査士にとっては、最重要のものと言えるのだと思います。
「登記情報」誌の報告(706号)によると、検討会はすでに「1月29日の第1回会議及び同年6月19日の第2回会議に引き続いて、同年7月29日に第3回会議が開催された。」とのことであり、次回では「取りまとめ」がなされるそうです。どのような形で取りまとめられるのか期待するものですが、その期待感から、いくつか思うところを述べることとします。

1.前提としての「筆界確認情報」をめぐる現状認識
(1)共有者全員の筆界確認情報?
率直に言って不安を覚えるのは、この「筆界確認情報」をめぐる検討がどれほど「現実(実態)」に即して行われているのか?ということです。
たとえば端的な例として、第3回検討会について、「登記情報」誌(706号)が次のように報告している事柄があります。
「第3回会議では、・・・『筆界確認情報の作成主体が複数であり得る場合において、そのうちの一部の者の作成した筆界確認情報で足りるとすることが考えられないか』という問題設定の下、以下のとおり、検討・議論が行われた。」
「第一に、「隣接土地に共有者又は未登記相続人の一部の者が占有しているケースではその者の筆界確認情報で足りるとすること」について検討された。
「第二に、「隣接土地に占有者が存せず合理的な探索をしてもなお共有者又は未登記相続人の一部の所在等が知れないケースでは所在等を把握することができた共有者又は未登記相続人の筆界確認情報で足りるとすること」(以下省略)
この問題設定では、「ある土地が複数の相続人によって共有されている場合には、原則として、共有者全員(相続人全員)の筆界確認情報の作成・提供が必要とされていることが多い」という現状認識がベースにあるようです。だから、「そのうちの一部の者の作成した筆界確認情報で足りるとすることが考えられないか」という問題設定がなされるわけです。
しかし、私はこの現状認識自体に疑問を持っています。私の知る「現実」は、このような場合には「そのうちの一部の者の作成した筆界確認情報で足りるとすること」が実際になされています。所有権界についての確定協議であれば全員でするものでなければならない、ということになるのでしょうが、「筆界確認」はそれとは異なり「客観的に固有」な筆界に関するものであり、筆界認定の一資料にすぎない、という建て付けの下で求められているものですから、「共有者又は未登記相続人(の共有)」の場合、その中の誰かが占有している(上記第一)とか、その中に所在不明の者がある(上記第二)場合にはもちろんのこと、たとえそのような事情がないとしても、一部の者の「筆界確認情報」をもって足りるとする取り扱いが現実にはなされているものと思います。
これは、私の知る範囲内のことであり、「法務局によっては、一定の場合に確認情報を求めないこともあり、統一がされていない」(前掲伊藤教授)ということですので、全国的な「現実」については確言できませんが、理論的に考えてもこのような取扱いが一般的であるべきだと思いますし、そうでないという話は聞いたことがありません。またもしも、このような場合に「共有者全員の筆界確認情報が必要」というような運用が実際になされているとすると、それこそ筆界認定がなしえないとして分筆登記等ができない事案が続出してしまい、不動産取引の大きな阻害要因になっていることでしょう。事態はそこまでは行っていないのだと思います
そして、そうだとすると、検討会の第三回会議において検討した議論というのは、ドン・キホーテが風車を巨人だと思って突撃したように虚構に対してなされたものであり、そこから新しい方向性が見えてくるわけではないように思えてしまいます。
もちろん、このような検討を行い、「一部の者の筆界確認情報で足りる」という現状に即した結論を出すとかか、さらに進んで「そのような場合には筆界確認情報を求めること自体を不要とする」というような結論を出す(ために議論する)ということには意義がある、と言えるでしょう。しかしそのためには、しっかりとした事実に関する確認とその事実認識の共有が必要なのであり、それがきっちりとなされているのか?ということについて疑問と不安を抱かざるを得ないのです。
・・・・以下、かなり長い「連載」として、3日おきくらいに書いていきたいと思います。